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第45話 勇者と死体蹴り

 俺達とキノシタ広告さんとの交渉は、大成功で終了した。

 俺達が経営権を握ったら、株式の持ち合いを解消してキノシタ広告の株を返却するという約束で、あちらが保有しているうちの会社の株式30%分の議決権を俺達に委任するとの委任状を用意してもらう事になったのだ。


「さ、待たせたなこれが委任状だ」


 キノシタ広告の応接室でコーヒーを頂きながら待っていると、茜社長が自ら委任状を持って来てくれた。


「ありがとうございます。必ず約束は守りますので」

「ああ。期待しているよ。私よりも若い君達がそんな大それた事をやろうとするなんて、見ていて痛快だ。頑張ってくれ」


 ぽん、と肩に手を置かれる。


「ええ、安心して待っていて下さい」

「首尾よく行ったら一杯やろう。その時は奢らせてもらうから」


 と、俺に向けてくる笑顔がちょっと色っぽい。

 俺も見た目は二十前半で止まってるが、向こうでは十年過ごしたからなあ。

 実年齢ではこの人より上かも知れない。

 だから今の俺的には、この人は全然守備範囲内だなぁ――美人だし。

 異世界に行く前なら年上過ぎかなって思っていただろうが。


「分かりました。楽しみにしています」


 これで俺達に51%分の、過半数の会社の権利が与えられることになる。

 これで、社長と言えども解任を拒否できない。

 こちらの狙い通りバッチリの結果である。

 勝った――! さぁこれから死体を蹴りに行くぜ!


 レナに社長のアポを取って貰うと、夕方には時間がありそうだった。

 引導を渡すのは速けりゃ早い方がいいだろうという事で、日を跨がず即日会いに行くことにした。

 会社は魔の森と結界の中なので、新宿のホテルの会議室を抑えてそこで話をすることにした。


「葵君、どうしたんだねこんな所に呼び出して――それにその髪の色は……!?」


 レナを見た社長は画面喰らっていた。

 年齢的には50くらいで、世の中の社長の中では若い方だろう。

 もう何年も前にウチの会社を立ち上げているので、その時はもっと若かったわけだ。

 それこそ、創業時はキノシタ広告の茜社長くらいだっただろう。

 その時はいい社長――だったのかも知れないが、今は単なるブラック企業の主に成り下がってしまったな。

 社会人三年目の俺が就職した時には、既にクソみてえなブラック企業化していたうちの会社だ。その社長もすべからくクソみてえな経営者なわけで、許すまじ!


 流石にこう、若い愛人を囲ってマンションに住まわせるようなスケベ親父なだけあって50過ぎてる割にはエネルギッシュで、無駄に生命力がありそうな感じだ。

 レナを見る目からして舐めるようなって表現がぴったりくる感じで、キモイしなあ。


「あらあ? この髪の色で何か問題ありますかねえ?」


 と、レナは自分の銀色の髪にくるくると指を絡める。

 すっとぼけたぶりっ子演技は可愛らしくはあるのだが――

 何と言うか、レナの静かな怒りを感じなくもないな。

 このオッサンに口説かれたことあるらしいしな。

 その恨みは忘れていないのだろう。


「まあ、多少の色なら問題は無いが、さすがにそこまで派手だと社内の風紀や取引先への影響も――」

「でもぉ~あのですねえ、そういう指示を出す権限が元社長にあるんですかねえ?」

「何? 元社長だって、何を言ってるんだ君は?」

「ええ? でもお、会社の株式を過半数持っている方がそう言われたら、そうなっちゃいますよねえ?」


 と、レナが俺を見る。

 俺はにやり、と社長に笑顔を向ける。


「よく来て下さいました、元社長――現状はレナが今言った通りです」

「な、何を馬鹿な事を……! 何者だ君は――」


 あ、顔覚えられてね~。

 まあ開発のヒラ社員なんて社長様にとっては他人のようなものだろう。

 顔や名前を覚える価値など無い。

 それが社員数が50人未満の中小企業であっても――だ。

 やれやれ、これは容赦無く死体蹴りしてくださいって意思表示という事でいいよな?

 人の尊厳を踏みにじるヤツは、踏みにじられても文句は言えない。

 そういう事だ、許さんぞこのオッサンめ。

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