第42話 ハイエルフと確定ボタン
さて、レストランで俺達が待っていると、和樹のスマホに着信が来た。
査定が終わったという連絡だった。俺達はさっそく元の会議室に戻り――
「皆ご苦労さん。で、結果いくらになった?」
「ああ坊ちゃん、お帰りなさい。査定額はこれになります――」
と、年長のバイヤーさんが数字が書かれた紙を差し出してくる。
俺達はそれを確認。
その金額は――12億と1227万円!
「おおー! すげえ金額!」
俺は思わず声を上げていた。
これだけでも一生暮らせる額でもある。
サラリーマンの生涯年収を大分上回ってるもんな!
確か2億と3億の間くらいだったか。
ブラック企業にいたらそんなに貰えないけどな――
しかし何はともあれ、これだけあればうちの会社の株を大人買いするだけの軍資金には十分か。私の銭闘力は12億です!
「坊ちゃんの紹介という事で、査定額は一割アップさせて頂いてこの金額です。よろしければ全て引き取らせて頂きますが?」
「よろしくお願いします!」
十分満足行く金額だ。これ以上は難しいだろう。
ここで全部引き取ってもらうぞ!
「ではすぐに手続きを――お金は銀行口座に振り込ませてもらいます」
で、少し待って振り込みをして貰った。
スマホで銀行口座の残高を見てみると、本気で12億増えていた。
これはすげぇ――見た事のない桁数になっている。
普通に生きてたら個人の口座でこんな額はお目にかかれないだろう。
いや、ホントに持つべきものはボンボンの親友だな、一括換金できて情報も伏せられて買い取り額も多めとか最高だった!
これで後は時が来るのを待つだけ――
何の時かって、勿論決まっている。
うちの会社の株価が、12億で目標の数だけ買えるまでに落ちる時だ。
流石に12億でいきなり目的達成できるほどにウチの会社の株も安くないからな。
一応は株式を公開してるような企業でもあるし――
ちなみに、買いたい目標の数値は、発行済み株式全体の21%の数だ。
浮動株比率、という数値がある。
ざっくり言うと、株式全体のどれだけの割合が市場に出回っているかというステータスなわけだが、ウチの会社はこれが40%なのだ。
ざっくりと過半数の51%の株を握れば会社を掌握できるとしても、市場に出回っている株を全部買ったとしても届かないのだ。
残り60%がどうなっているのかというと――30%が社長の個人所有になる。
そしてもう30%が他の企業が所有している。
株式の持ち合いと言って、会社同士が互いに株を持ち合う事によって、乗っ取りすなわち敵対的買収から身を守るという仕組みだ。
最近では株式の持ち合いは古い慣習として解消が進んでいるらしいが、そこは時代遅れの奴隷労働を強制するウチの会社である。株の取り扱いについてもやり方が古いのだ。
社長の個人の株30%と持ち合いの30%、これを合わせると60%となるので、市場に出回っているものを全て買っても51%にはならない。
なので、俺達は21%の株を買った上で、持ち合い株の30%を切り崩しにかかり、51%を達成する事を目指すのだ。
この辺りの会社の財務状況は、そっち担当のレナの情報によるものだ。
レナなら持ち合い株30%を持っている会社の社長のアポも取れるそうな。
流石レナは有能だな!
そして更に四日が経ったその日――とうとう時は来た!
狭い俺のワンルームの部屋にレナと和樹がやって来て、俺の部屋がかなりの人口密度になっていた。
そうして皆で、その瞬間を待っていた。
「おおお……緊張するぜ、手が震えて来た――」
俺の手元のスマホには、株の買い注文の決済画面が表示されている。
異世界からの金銀財宝を売って得た12億のうち、10億を使って会社の株を21%買い付けるためのオーダーが、確定ボタンの一押しで完全終了するという状況である。
「何をしている、ナオ。さっきから固まって。さっさとやればいいだろう」
「いやお前そう言うけど、この額はとんでもねえ額なんだよ! 俺が会社で一生働いて稼げる額の5、6倍だぞ!」
「どうせ損はしないと言っていただろうに」
「そうだけどな、いざとなりゃあ緊張するんだよ!」
「まあ気持ちはわかりますけどねえ。流石に額が額ですから」
「まま、パパッとやっちゃえよ直」
レナは俺と同じような反応だが、和樹は平気そうだ。
こいつも家が金持ちだから、でかい額には耐性があるんだな。ボンボンめ。
「お、おう……いくぜ――」
しかしやはり手が震える。
やべえ、この額はやべえよ――
「アルマちゃん、直ビビってるし押してやったら?」
「うむ。そうしよう」
ぽち。
横から手を出したアルマが、確定ボタンをぽちっと押した!
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