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第38話 勇者と一括換金

 さて、新宿に魔の森が現れた騒ぎから三日後――

 俺達は都内某所にやって来ていた。

 俺達というのは、俺にアルマにレナに和樹である。

 今日はこれから、和樹のコネで俺が異世界から持ち帰った金品を一括換金して貰おうという素晴らしいイベントが行われるのだ。


 和樹の実家は、いくつものデパートとか百貨店の経営を行っている橘グループである。

 密かに凄いお坊ちゃんなのだ、奴は。

 あのクソみてえなブラック企業にいたのは、はっきり言って社会の底辺を覗くための面白半分であり、だからこそ精神に余裕があったのだと言える。

 三年目にして俺とレナと和樹しか同期は残ってないからな――

 レナは俺が異世界に行って帰ってくる日を待つために、どんな酷い環境でも俺の側から離れるつもりはなかったようなので、純粋なブラック企業耐性は俺と和樹の二強ってわけだな。


 ――和樹みたいな余裕のある理由も無く残ってた俺は何なの? 馬鹿なの? って感じだが、マジで馬鹿だったのだろう。

 犬養課長とかのパワハラ&モラハラから、周りの哀れな後輩や同期たちを庇ってやらないとと思っているうちに、辞め時を逃していたのだ。

 しかし、そんな馬鹿にもこれからいい事があるはず――!

 今日の儀式はその第一歩になるのだ。

 

 さてさて和樹の橘グループの店舗では、無論金銀宝石類の小売りもやっているし、系列店では買取もやっている。

 そこでグループのバイヤーの人に来て貰って、一気に全部買い取ってもらうのだ。

 一人でちまちまいろんなところに売りに行っても、時間もかかるし変に足がつくかもしれない。

 和樹との友情ルートなら情報は伏せて貰えるし、一発で換金できる。

 さらにまあ、コネって事で多少買い取り額に色を付けてもらえれば――ってトコだな。


「おーい直。もうバイヤーの皆さんを呼んで来ていいか?」


 そう和樹が声をかけてくる。

 俺達がやって来ている都内某所とは、有楽町にある橘百貨店だった。

 そのバックヤードにある会議用の一室をお借りしていたのだ。


「あ、ちょっと待ってくれ。先に売り物を全部出しとくから」


 バイヤーさん方の目の前でアイテムボックスから金品を取り出すわけにもいかない。

 あれは端から見ると何もない所から出したように見えるので、何事かと思われるからな。

 俺は部屋の中央の空きスペースに行き、アイテムボックスを呼び出す。


「アイテムボックス! 中身を全部出してくれ!」


 ドドドドドド!


 雪崩を打つように、アイテムボックスの収納物が虚空から姿を現す。

 その様子は俺やアルマやレナには当たり前の事だが、和樹には驚きである。


「おおすっげーな! まるで四次元ポケットじゃん! 直お前、マジで覚醒したなあ!」

「ああ。これはマジ便利だ。重さも感じないからな」


 和樹には俺が異世界に行って来て勇者に覚醒してきたとは伝えてある。

 普通なら正気を疑われるところだったが、あんなことが起こった後だし、俺達が代わる代わる和樹に魔法を使って見せてやったので完全に信じてくれている。

 俺も使えるようにならねえかな、と大守さんと似たような事を言っていた。


 こっちの人間を異世界人のように強くする事はできるのか、ちょっと試してみたい気はするが。

 まあこちら出身の俺が勇者になれるのだから可能とは思うが、単にモンスターを倒させて経験値を与えればレベルが上がって強くなるのか、どうなのか――

 そのあたりはちょっと謎である。いずれ調べて見ようとは思うが、まずは優先的にやるべき戦いがあるのだ。


「うわあ~~お兄ちゃん、随分財宝を貯め込んでたんですねえ」


 渦高く積まれた金銀財宝を前に、レナが感心していた。

 レナはカラコンも外し、髪の色も元に戻し、イリュアナ族の特徴である銀髪紅眼の素のままに戻っていた。

 それにスーツを着ているが、これはこれで似合う。

 本人曰くもう何も偽る必要はないから、なのだが――

 葵玲奈の知り合いから見ると、玲奈がど派手なファッションに目覚めたと思うだろう。

 何かあったのかと心配されるのは間違いない。


「財宝以外も出ているようだが――さっさとしまえ」


 と、アルマが忌々し気にダースベ〇ダーのマスクを投げて寄越した。

 どうやらあれ以来、アルマはダースベ〇ダーが苦手になったらしい。


「おう、そうだな。売らないものは収納収納――銀騎士の鎧もだな」


 先に全部出していらないものを片付ける方が早いから、そうしたのだ。

 銀騎士の鎧は変装に便利なので、売らずに使う事にするつもりだ。

 これからも何かあったらぶさま〇うよろいで乗り切ろう!

 それから出てきたフィギュア類も再収納して――と。

 他の三人も手伝って俺に財宝以外のものを手渡してくれる。


「――うわ! お前またこれを……! 私の目に着くところに置くなと言っただろう!」


 アルマが俺の青春の友こと、秘蔵のエロ本を取り上げて顔を真っ赤にしていた。


「お……!? す、すまんすまん入れっぱなしだったな――」


 エロ本について咎められると何か恥ずかしいぞ。

 と、レナがアルマの手から青春の友をひょいと取り上げる。


「まあまあアルマ様、こちらの世界は性に対して大らかですし、その表現も豊かですからねえ。このくらい男の子ならみんな持っているものですよ?」


 と、レナはパラパラとページを捲り始めた。

 怒られるのも恥ずかしいけど、冷静に中身を見られるのはもっと恥ずかしいな――!

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