第36話 さま〇うよろいとダースベ〇ダー
俺は近くの背が低めのビルの上に陣取り、周囲を見回す。
少し離れた所に、緑色の髪の人影――アルマの姿が浮いているのが確認できた。
ハイエルフ様は俺と違って多芸なので、魔法で空を飛ぶこともできるのだ。
俺は超威力の一撃特化スタイルで、潰しは効かないからな。
ただ、神性魔法すなわち事象加重や上級事象加重は、別に対象は自分だけではない。
アルマの使う魔法を増幅する事も出来る。
だから、多芸なアルマがいてくれると助かるのだ。
(アルマ、右だ! 今目印を上げる!)
俺は真上に向かってファイアボールを打ち上げる。
普通に使えばせいぜい一抱え程だが――
「事象加重!」
事象加重を掛けたため、直径十メートルを超える紅蓮の大火球と化して空に昇って行く。いい目印になるだろう。
(……派手だな)
「目立つのは嫌なのではなかったか?」
念話から直接の肉声に切り替わる。
アルマが気が付いて俺の元にやって来たのだ。
「まぁ緊急事態だし、俺はこの通りだから中の人はバレねえ――と思いたい」
「思いたい?」
「ああ、既に大守さんにはバレたからなあ……けど変装しないよりはマシだろ?」
「ふむ――」
「っていうかお前もそのままじゃマズいよな」
どこでどんなカメラが撮影しているか分からない。
監視カメラやらお天気カメラやら、世の中には色々あるだろう。
ここら一帯は異変が起きているとは言え、まだ生きているカメラがあるかも知れない。
霧で姿を隠す事は出来るのだが――俺達も周りが見えなくなる。
これからやろうとする事には、それではちょっと困るのだ。
「……おお! そういやいいものがある!」
アイテムボックスの動作確認と引っ越しの下準備も兼ねて、俺の部屋にあった大事なもののいくつかを、中に収納していたのだ。
主にフィギュアとかのオタグッズ関連なんだが――
その中にこれがある! 俺はおもむろにダースベ〇ダーのマスクを取り出した。
持っててよかったダースベ〇ダー! ありがとうダースベ〇ダー!
「さぁこれを被れ!」
「えぇ!? 何故そんな趣味の悪いものを――」
アルマは嫌そうな顔をする。
「仕方ないだろ、お前はただでさえ目立つんだ! 正体が分からないようにするためには必要だ!」
「あっ! こら勝手に――!」
俺は有無を言わさずアルマにダースベ〇ダーのマスクをがぽっと被せる。
これは中々――うーん、頭だけダースベ〇ダーは怪しいぜ。
「ううぅ……何だかとんでもない辱めに遭っている気がするが――」
「気のせいだ気のせい! ほら行くぞ! あの一番デカいビルの上に飛んでくれ!」
俺はアルマを促し、飛行用の魔術で飛んで都庁ビルの頂上へ戻った。
手を繋いで空を飛ぶさま〇うよろいと頭だけダースベ〇ダーは、きっと恐ろしく怪しい絵面だろう。
その足元では再びアンデッド共がぽこぽこと生まれ始めており、トータルな情景として一体何の悪夢だこれはと言わざるを得ない。
まあそれも――すぐに終わるが。
「見ろアルマ。かなり広範囲に魔の森が広がってる。このままじゃマズいから、一気に浄化しちまおうぜ」
「ああ。お前が上級事象加重してくれれば可能だろう」
ベイダー化したアルマが喋ると若干しゅこーという感じになり、それがシュールだ。
「だが一個注文がある」
「うん?」
「ただ全部浄化するだけじゃなくて――一部だけそのままで残して欲しいんだよ」
「いいのか? そこからアンデッド共が溢れるぞ?」
「そこは結界で覆って封鎖してくれ。できるだろ?」
浄化の魔術も結界の魔術も、ハイエルフ様にはお手の物だ。
「一部だけ結界で隔離し、残りを浄化するんだな? 何故そんな面倒な事をする?」
「牛丼食いながら言っただろ、俺はもう滅私奉公も慈善事業もゴメンだってな」
「ああ、言っていたな。だがこれは完全に人助けだがな?」
「まあな。こんな騒ぎに手を貸すのは吝かじゃねえ……デカい災害に近いからな。けど俺は勇者は辞めたんだ。だから――タダ働きはしねえ、それなりの見返りは貰うぜ。そのために一部をそのまま残すんだよ」
「ふむ……何か考えあっての事か」
「ああ、金はあればある程いいからな! 持って来たのは10億くらいだが、それだけだとそこまでの無茶は出来ねえ――この機会にもっと増やすぞ! 合法的にな!」
そしてあのクソみてえなブラック企業もな――! 痛い目見せてやるぜ!
腹案があるってやつなのですよ!
俺は鎧の仮面の下で、キラーンと瞳を輝かせた。
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