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第35話 勇者と都庁ジャンプ

「……とりあえず下に降ろすからな! 降りたらすぐ動けよ!」

「はい! 了解しました!」

「じゃあ行くぞ! とうっ!」


 俺は大守さんを抱え上げると、都庁ビルのてっぺんから空中にダイブした。

 駆け降りるのは面倒。飛び降りた方が早い。


「んきゃああああああぁぁぁぁぁっ!?」


 さすがにビビった彼女が、俺にきつく抱き着きながら悲鳴を上げていた。

 その悲鳴を聞きつつ猛スピードで落下した俺は、特に問題なくビルの脇に着地した。


 ずだああああぁぁぁぁんっ!


 着地の際に轟音が響き渡る。

 流石に加速度が付くので着地の衝撃が半端無く、舗装された路面が破壊され捲れ上がってしまった。

 だが、大守さんには怪我をさせなかったので許してもらおう。今は急ぐのだ。


「うーん。ちょっと足が痺れたな……」


 まあすぐに治るが。


「あ、足が痺れるくらいで済むんですか……!? 普通なら体がバラバラになっても可笑しくないかと――」

「ま、これでも鍛えてるんでね。このくらい何て事ないぞ」


 自信満々にビルからダイブして、怪我とかしたら恥ずかしいからな。

 ちゃんと大丈夫な所からしか飛び降りないぞ、俺は。


「す、すごいです……! 本当に私、あなたに憧れます……! ぜひ私にも――!」

「あーはいはいそれはいいから、とにかく早く行ってエリア内の奴等を避難させてくれ。俺の力だって無限じゃねえんだ、急いでくれ!」


 まあ実際のところかなり余裕はあるのだが――

 ちょっとやばそうな気配を出さないと、俺から離れてくれなさそうだしな、この娘。

 完全に仮面ラ〇ダーとかプリ〇ュアに憧れる子供の目で俺を見てくるのだ。


「は、はい! 了解しました!」


 大守さんは停めてあるパトカーに乗り込み、周囲にスピーカーで呼びかけを始める。

 とにかく、周囲に樹の生えていない遠くまで逃げるように、と。

 異変は円形に広がっているので、最短距離はとにかく真っすぐ逃げる事。

 道が真っすぐに続いている大通りに出て、それに沿って進むのがいいとも付け加える。


 うん、いいんじゃないかと。

 ちゃんとビルの上で見た全体像の事も織り込まれている。特に文句はない。

 しっかりしてるのはしっかりしてるんだよな、この娘は。


 大守さんは呼び掛けを続けながらパトカーを走らせて行き、その場には俺が残る事になる。

 さてまた都庁ビルの上に行き、バニッシュリングを撃つ準備をしておくか――

 そしてそれと共に、やっておくべき事がある。


 俺のバニッシュリングでは、湧いて出て来たアンデッド共を一掃はできるものの、奴等が湧いて出て来ないようには出来ない。

 つまり、あくまで場当たり的な応急処置であって根本対応ではない。

 根本対応するには、この土地を浄化し呪怨樹を駆逐する必要がある。


 そういう高等魔法を扱えるのは――俺は銀騎士の鎧に呼び掛ける。


「銀騎士の鎧よ――」


 俺から離れてくれと命令するつもりだった。

 俺のスマホがポケットに入っているので、鎧を脱いで電話するのだ。

 あいつに――アルマに。

 アルマなら、呪怨樹を枯らしてしまうような浄化の魔法が使えるからだ。

 だが俺が鎧を脱ぐ前に――


(ナオ――! ナオ――! 聞こえるか!?)


 アルマの念話による呼びかけが飛んで来た。


(お、アルマか! ちょうどいい、近くにいるんだな!?)


 念話はそれなりに近い位置にいないと通じないのだ。

 有効射程は1~2キロ程度である。


(ああ。お前にでんわをしたが繋がらなかったので探しに来た)

(あー……すまん。暫くスマホ見てる余裕なかったからな。お前もすぐ分かったと思うけど、結構えらい事になっててな)

(そうだな――これは私達の世界にあった魔の森だろう? 何故こんな事になっているのか、不可思議だな)

(俺達を送り帰した大魔法の影響で、あっちじゃ世界のあちこちが消えちまったらしい。魔の森もそうだ。それがこっちに飛んで来て現れたんだよ、多分な)

(何? 何故お前がそんな事を知っている? 魔法技術には疎かっただろう、お前は)

(ああ、レナが教えてくれてな。レナもこっちに飛ばされて来たんだと)

(何だと……!? レナがだと――? 何故そんな事に……!)

(まあ取り合えず、今はこの魔の森を何とかしないとだろ。お前の力がいるから合流してくれ)

(分かった。お前は今どこにいる?)

(上を見て、一番背の高い建物があるだろ? 上が二股になってるやつな! その近くに来てくれ! こっちからも探す!)

(分かった。急ごう)


 俺達は、合流するべく動き出す。

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