第33話 勇者とプライバシー
「よし、あれだな!」
俺は東京都庁のビルを目がけてダッシュする。
あそこに登れば、この現象の全容が把握できるはずだ。
途中目についたアンデッド共は、行きがけの駄賃として沈めて行く。
ピロン。
あなたは10の経験値を得ました。
ピロン。
あなたは10の経験値を得ました。
ピロン。
あなたは10の経験値を得ました。
ピロン。
あなたは10の経験値を得ました。
パンチ、キック、チョップ、ショルダーチャージ。
いずれも一撃。俺の行く手を阻む事のできる奴などいない。
仮にも魔王を倒した勇者であるこの俺を止めたいのなら、ノーライフキングなどの最高級のアンデッドを呼んでもらわないとな!
そういうレベルのものが生まれてくるまでは、まだまだ長い時間を掛けて土壌に呪怨樹の障気が浸透しなければならないが。
俺はあっさりと都庁近くまで到達。
するとそこに――
「さぁ早く逃げてください! 武器になりそうなものがあれば携帯して、それで身を守って!」
都庁ビルの前で、必死に避難誘導に務める美人の婦警さん――大守さんの姿が!
だが彼女も凛として頑張ってはいるが、その表情に不安は隠せない。
当然だ。こんな事態など想像したこともないだろう。
新宿のど真ん中にいきなりスケルトンやゴースト、グールなどのアンデッドが大量出現しているのだ。
例えるなら、いきなりバイ○ハザードが始まったようなもの。
どこに人々を逃がせばいいのか、何をするのが正解なのか。
本当は何も分かっていないだろう。
その中でこうして動けているだけでも立派だと言える。
そんな状態の彼女だから――
彼方から爆走してくるさま○うよろいを見つけると、ぱあっと表情を輝かせていた。
そして――
「あ、有沢さん! 有沢直さんですよね!?」
「俺の名を呼ぶなぁぁぁぁぁ!」
プライバシーの侵害だろ!
ってか何故ばれている!?
このまま名前を連呼されては敵わない。
なので俺は彼女の元にダッシュすると、そのまま身体を抱き上げて――
更に、都庁ビルの外壁に突進。
勢いそのまま壁を駆け上がっていく!
「えええぇぇぇぇ!? す、すごおぉぉぉい! 何これ――!?」
大守さんは度肝を抜かれているようだ。
俺ぐらいになると、全身フルアーマのまま人を抱えて200メートル級のビルを駆け上がる事など余裕である。
駆け上がりつつ、俺は彼女に言う。
「いいか! 鎧の中の人の事は他言無用だ! そうすれば事態の鎮圧に協力してやる!」
こうなったら交換条件で俺のプライバシーを守る他はあるまい。
どちらにせよ、やる事が変わるわけでもない。
「わ、分かりましたお約束します! やはり有沢さんなんですね!?」
「……何で分かったんだ?」
「先程あなたの御自宅を訪ねさせて頂きましたら、アルマちゃんが出てくれました。あの子はライオンを素手で殴って取り押さえたという目撃証言の女の子に特徴が似ていましたし、首都高であなたに遭遇したとき、助手席にいたように見えたんです。ですから、あの子と暮らしているあなたが――と」
「なるほど――ほんとに内緒で頼むぞ! 下手に騒がれたくないんだ。俺はのんびり暮らしたいんだよ」
「もちろん、お約束したことは守ります!」
もう一度言質を取っている間に、都庁ビルのてっぺんに到達。
内密の話をしたかったのと、彼女にも魔の森の転移現象の全体像を見せておいた方がいいと思ったので、ここまで運んできた。
どこに逃げればいいかも判断できるだろう。
そして、都庁ビルの上から周辺を見渡したところ――
「ふーむ……かなり魔の森が広がってやがるな」
「魔の森……ですか?」
「ああ。アンデッド共を生む障気を撒き散らす呪怨樹っていう樹の森だ。突然そこらに樹が生えてきたろ? あれがそうだ。なんで、あれがないところまで逃げられれば、ひとまず安全圏だな」
「で、ですが有沢さん、相当広い範囲まであの樹が生えていますよ! 池袋や渋谷のあたりにまで……!」
彼女の言う通り、新宿を中心に池袋や渋谷にまでかかる円形に魔の森が広がっていた。
直径数キロレベルって感じか。
「ならとりあえず今沸いてるアンデッド共を一掃して、避難の時間を作りますかねえ」
「ええぇっ!? そんなこと――」
「出来る。まぁ見ててくれ」
俺はあっさりそう言い切った。
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