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第29話 勇者と爆弾発言

 家業を継ぐ――とか言ってもすぐ嘘だとバレる。

 こいつらは俺が既に天涯孤独であることを知っている。家業などないのだ。

 じゃあ――宝くじが当たったから働かずに生きる! かな。

 うん、宝くじが当たったのと異世界から持って帰って来たのと、入手ルートは違えど金を手にしたことには変わりはない。

 これから俺は都会的スローライフに入るので、もう会社なんぞに俺の時間を食われたくはないのだ。

 そし、そうしよう。宝くじが当たったという方向で。

 俺が和樹と葵に説明をしようとすると――


 リィィィィン! リィィィィン!


 アンティークな電話の呼び出し音。俺のスマホに着信が来たのだ。

 画面を見ると――アルマからだった。

 おおあいつめ、ちゃんと使えているな。


「わりぃ。ちょっと電話だ」


 俺はそう断って、個室の隅に寄って通話を開始する。


「アルマか? どうかしたか?」

『おお繋がった繋がった。凄いものだな、このでんわというのは。念話が届かない距離でもこうして会話できるとは……』

「ああ。で、何かあったのか? まさか何も用はないけど、俺の声が聞きたかったとか言わねえよな?」

『言うか! 一応知らせておこうと思ってな。さっきケイサツのやつが来たぞ』

「!? マジかよ……!」


 俺は声を潜める。

 警察が家にやって来る心当たりなど――結構あるな!

 昨日一昨日だけで、大分さま〇うよろいで暴れたし、アルマもライオン殴り倒したし。

 何かがバレたか? 別に罪は犯していないと思うが、日本に住み辛くなるのは嫌だな。


「で、何て言ってた……?」

『その後お身体は大丈夫ですか、と聞いて来たぞ。ナオなら元気だと答えておいた。ミヤコとかいう奴だ、確か私も車に乗っていた時に顔を見た』

「ああ首都高の時な――」


 元はと言えば、彼女にはこっちに戻った瞬間にパトカーで轢かれたのだ。

 その時に連絡先を教えていたから、その後大丈夫か様子を見に来たと――

 それだけなら、他の件についてはバレてないって事か……?


「分かった。知らせてくれてありがとよ、引き続き家で大人しくしててくれ」

『ああ。てれびとやらを見ている。こちらの世界の事が色々分かって面白い』

「結構結構。じゃあまた後でな」

『分かった。ではな――』


 というわけで通話終了。

 まだバレてない――か? しかしそれでも不安だが。


「悪い待たせた」


 と俺は席に戻る。


「おい直。お前大丈夫か? 悪いけどちょっと聞こえちまったぞ、警察とか――何か困ってるんじゃないのか?」

「あ、いや大丈夫だ。つい一昨日、パトカーの方からぶつけられてな。その話だ」

「ふぅん……? 本当だな? マジで困ったことがあれば言えよ?」

「ああ、ありがとうな」


 と、葵がすっと立ち上がった。

 そして和樹に近寄り――


「和樹君――」

「うん?」

「ごめんなさいっ!」


 ビシッ! 首筋に手刀を落とし――


「あふん」


 それで和樹がこてんと気絶した!


「な……!? 何してんだ葵……!?」


 何でこんな力があるんだ! これは常人じゃないぞ……!

 アルマと同じくらいの力がありそうに見えるが――


「ごめんなさい。和樹君には聞かれたくない話なので――」

「あ、ああ……」


 俺が応じると、葵は俺の側ににじり寄って来る。

 一歩間違ったらキスしてしまいそうなくらい顔が近い――

 葵が今まで見せた事がないくらい、真剣な瞳が俺を射抜いてくる。


「済みません、わたしも少し電話の話が聞こえちゃいました……アルマって名前を呼んでましたよね? それってその――ハイエルフ様の事ですよね?」


 アルマイコールハイエルフ。確かにその通りだが――

 何で葵がそんな事を知っている!?

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