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第27話 勇者と同期の仲間達

 結局、会社に着くなり始まったオッサンの説教は一時間に及んだ。

 仕事させるために呼んだんじゃないのかよ――仕事をさせんかい。


 そして、ようやく解放されて自分の席に座る――

 おお、これも懐かしい……俺の会社の席だ。

 特に平日など、俺のワンルームの部屋にいるよりここにいる方が長いのだ。

 会社には罪があると思うが、このデスクに罪はないのだ。


「よー。直、お前があのオッサンにやられるのは珍しいな? 隙は見せないようにしてたのにさ」


 隣の席にいるやつが俺に話し掛けてくる。

 橘和樹(たちばなかずき)。もう大部分が辞めて数少なくなった、俺の同期だ。

 イケメンで性格も明るく、機転も利くやつなのだが、何故かこんな所にいる。

 聞くところによると、実家は結構デカいデパートとか百貨店の経営者の一族らしい。

 ここにいると社会の闇とか将来のための反面教師が見られるので、貴重な体験とか言っていた。ある意味で、見物気分でここにいるのだろう。


 ともあれ、別に悪い奴ではない。俺はこの和樹と前から仲が良かった。

 だから顔を見ると懐かしい――十年ぶりだ。


「おぉ――和樹か、久しぶりだなぁ……」

「うん? たかだか二、三日ぶりだろうが。何涙ぐんでんだよ、キモイぞ直。お前もとうとうメンタルやられたのか?」

「ああいや悪りぃ。大丈夫大丈夫」

「そうか? んでさあ、あのS社の案件の画面デザインだけどさ――」

「……」


 いや――流石に十年前にやってた仕事の内容は覚えていない!


「……えーと、何の話だったっけ?」

「え? マジ? 何言ってんだよお前、忘れたのか? 散々モメてようやく仕様が纏まったってのに――」

「悪い忘れた。教えてくれ……」

「仕方ねえなあ。ええとだな、これが――」


 と教えてくれるのだから、和樹も面倒見がいい。

 俺は暫く和樹にレクチャーを受けて、やっていた仕事の内容を朧気ながら思い出し、小一時間が過ぎた。

 そして重要な事を思い出した――

 どうせ辞めるつもりで来たのに、何を真面目に仕事の話をしているのかと!

 意味ないぞこれ! そうだよ俺は辞めるために来たんだ!


「あ、思い出した! 悪い聞く必要なかったわ!」

「? 何だよ」

「いや、実は会社辞めようと思ってさ。今日はそれ言いに来ようかと」

「えー? マジかよ!? まあ、ちゃんと言いに来るあたり変に真面目だな、お前。ウチじゃあある日突然来なくなるのが普通なのに」


 ブラック企業にありがちな事。

 社員が辞める時の一番多いパターンは、ちゃんと退社手続するのではなくいきなり飛んで来なくなるケースです。

 もう何人も俺も見たぞ――

 ホントGWとか夏休み冬休みとかを経ると、誰かの心が折れて来なくなるんだよな。

 まあそんなもんだと思うしかない。

 それを社会人として責任感がどうとか、うちの会社は言えた義理じゃないしな。

 会社の側も社員に対する責任を果たしてないんだからな。


 キーンコーンカーンコーン。


 と、ここで昼休憩の合図のチャイムが流れた。


「お。昼飯か。まぁ話は飯食いながら聞くぜ。行こうぜ直」

「ああ――途中でちょっとコンビニか文房具屋寄らせてくれ」


 退職届をまだ用意していなかったので、一応書こうかと思う。

 家を出る前にアルマの飯を買いに行った時に、買い忘れていたのだ。

 しかし、他の社員達に混ざって出て行こうとする俺達は、犬養課長に呼び止められた。


「どこへ行こうと言うのかね!? 来たばかりで昼休憩などまだ早いのだよ! 席に戻りたまえ!」

「……」

「あのー俺は最初からいるんですけど――?」


 と、和樹が申し出た。


「連帯責任だ。同期なら付き合ってやりたまえ!」

「へぇへぇ……」


 うーん。うざい……

 と、そこに声をかけてくる女の子がいた。


「おーい。直君、和樹君~」


 やや間延びした口調に、ほんわかしたゆるふわ系の笑顔。

 うちの会社の女子社員でも一番可愛いと評判で、実際可愛いしスタイルも抜群。

 更に、天然っぽい喋り方の割に頭も良くて仕事もできる。

 何でこんな社会の底辺のブラック企業にいるのか分からない位、才色兼備の逸材。

 それが俺達の同期の最後の一人、葵玲奈(あおいれな)である。

 もう俺達の同期は、俺と和樹と葵だけだった。

 流石離職率30%越えのブラック企業である。


「お昼ごはん行きましょ~?」


 葵はゆるふわな笑顔を浮かべ、ぱたぱたと手を振って来た。

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