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第22話 ハイエルフとマナ濃度

「魔法が使えない――? どういう事だ?」

「どうもこうも――」


 と、アルマは何かを探るように耳をピクピクと動かしている。


「うむ……やはりそうか。ここはマナが薄いな……薄いというかほぼ無い。だから魔法は発動しないんだ、魔法はマナを使うからな」

「そうなのか? さっきは使えたじゃねえか」


 マナに対する感性は、俺よりアルマの方が鋭い。アルマが言うならそうなのだろう。

 俺にはマナがあるかないかを感じ取る事は少し難しい。相当集中しないと。

 魔法を使って発動したならあるし、発動しないのならないとしか判断できないな。


「あの辺りにはマナがあったという事だ」


 最後に俺達が魔法を使ったのは――あそこだ、煽り運転野郎に絡まれた首都高。

 あれは新宿ICから首都高に乗って少しってとこだったな。

 ここからは結構距離がある。

 それに昨日は俺の魔法もアルマの魔法も使えた。

 つまり新宿周辺にはマナがある――と?


「転移した所ですぐ魔法が使えたから、こちらの世界にもマナがあるものだと思っていたが――そういうわけではないらしいな。ここが特殊なのか、お前の家のあたりが特殊なのかは知らんが」

「転移魔法で大量のマナごと巻き込んで飛んで来たとかか……? よく分からんが」

「その可能性はあり得るな。あれは大規模な魔法だったからな」

「どっちにしろ、色んな所に行ってみないと分からねえわけだ」

「そうなるな」

「じゃあ考えるのは止めだ。取り合えずあのライオンをどうにかしねえとな」

「あんな少々大きな猫、殴って気絶させればいいだろう? お前なら朝飯前のはずだ」

「そんな事したら目立つだろ。野次馬共に動画でも撮られたら、厄介な事になりかねん」


 あいつら、既に駐車場をうろうろするライオンを撮ってるからな。

 数十メートルは距離が開いているものの、結構危険だ。

 いきなりヤツが本気で突っ込んできたらどうするのか。


 危険を冒してまで動画を撮りたがるようなテンションの奴等なので、その前でライオンを素手で殴り倒したら絶対動画が拡散する羽目になる。

 ある意味ライオンよりこっちの方が危険だ。


「どうが?」


 アルマがきょとんとしていた。


「あー。だからこの目の前の事を映して記録に残せるんだ。その記録が動画な。後で見返せるんだ」

「ほう……? それは凄いカラクリだな」

「俺が持ってるスマホでも撮れる。スマホや携帯はこの世界じゃほぼ皆持ってるからな。誰でも動画がすぐ撮れて、皆が見れるように拡散させることができる」

「おお……! そんな事が誰にでもできるとは――この世界は本当に凄いなぁ! 私もすまほとやらが欲しいぞ」

「ああ、後でな。とにかく、魔法で目隠しは出来ねえし、ここはまたフルアーマーで誤魔化すか――お前は下がってろよ」

「しかし、マナがなければ銀騎士の鎧の自動着脱も発動しないかも知れんぞ? あれも一種の魔法だろう?」


 あり得るな。だが、既に付与(エンチャント)された効果はそのまま有効かも知れない。


「とにかく試してくる!」

「ああ分かった。私はここであれを警戒しているぞ」

「おう!」


 幸い野次馬達はライオンに夢中だ。物陰で着替えれば、今なら目立たない――

 俺は少し離れた建物の陰に隠れる。


「アイテムボックス! 銀騎士の鎧!」


 俺のコールで、アイテムボックスが銀騎士の鎧を通常空間に吐き出す。

 アイテムボックスは普通に機能するんだよな。

 これは魔法というより、アルマの念話のような特殊能力だからだ。


 あちらの世界でも割とレアな能力で、しかも個人によって積載容量は異なる。

 何かと便利なので、冒険をするならばパーティの誰か一人はアイテムボックス持ちが欲しいとされている。

 俺のアイテムボックスは最大級の積載容量であり、これも勇者に覚醒した恩恵の一つだ。


「鎧よ――装着だ!」


 呼びかける。しかし――


 シーン。


 まずいな、アルマが懸念した通り自動着脱が発動しない――!

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