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111 都市奪還作戦

 爆発が広がる中、フォンシエは目を凝らしていた。

 探知のスキルにより状況を探り、「野生の勘」で魔物を探す。


 爆風で飛ばされている魔物も多く、動いているからといって生きているとは限らない。それゆえに、どれほどの敵を倒したのかはわからなかった。


 赤々とした炎が消えてなお、土煙が魔物も都市も覆い隠してしまっている。

 フォンシエは意識を都市に向ける。威力は調整したからそちらまで消し飛ぶことはなかったはずだ。


 探知のスキルによれば、都市を覆っている土のドームは崩れていないが、衝撃でボロボロと崩れつつある。もはや防備のためには使えないだろう。とはいえ、「高等魔術:土」を解除してしまうと、それらは都市に落下して家々を押し潰してしまう。


 気を抜けばそうなってしまうのだから、慎重にドームを開くように土の壁を都市から剥がしていく。


 そちらにばかり気を取られていると、眼前を通り過ぎる光の矢があって、彼ははっとする。


「フォンくん! デーモンロードが来てる!」


 フィーリティアは彼の前に着地する。

 そして土煙の中へと光の矢を立て続けに撃ち込むと、そこから漆黒の悪魔が姿を現した。手には槍。目には殺意。


 あの爆風の中、勇者二人とフィーリティアを追っていて都市から離れていたから、ほとんど無傷のままだ。


 だが、一体だけなら――


 そう思ったとき、さらに土煙の中から出てくる魔物がいる。デーモンロードが数体、フォンシエへと飛びかかっていた。


「させない!」


 フィーリティアはさっと飛び込み、一体の槍を剣で受け止める。そして回り込もうとした別の個体を光の盾で遮った。


 さらに光の矢で牽制する彼女であったが、敵の数のほうが勝っている。

 彼女の横を通り過ぎて、フォンシエへと二体のデーモンロードが迫っていた。


「俺だって、やられるものか!」


 フォンシエは光の矢を撃ち込むも、デーモンロードは回避してしまう。

 このまま切り結ぶことができないわけではない。けれど、「高等魔術:土」へと「光の証」を用いているため、そちらの制御にどうしても気が取られてしまうのだ。


 都市とこちらでは距離があるため、二つの場所を意識し続けるのはなかなかに難しかった。


 そして勇者のスキルもそれで一つ潰された状態であり、二つの高等魔術を用いたことで魔力も大きく減っている。


(いったん距離を取って……)


 フォンシエはその考えに傾くも、四体ものデーモンロードに囲まれたフィーリティアを見て踏みとどまった。


 彼がいなくなれば、標的はすぐに彼女に向くだろう。


(守られてなんていられるものか。俺はここになにをしに来たんだ)


 戦う力がないわけじゃない。剣は握れるし、闘志だって砕けていない。

 もうなにも守れない無力なときとは違うのだ。あとはほんの一握りの勇敢さと慎重さ、そして集中力があればいい。


 フォンシエは息を吸うと、デーモンロードを見据える。

 魔王ほど強い個体ではない。奇襲されたから、泡を食っただけだ。


 デーモンロードが槍を構えると、フォンシエはスキル「見切り」に「光の証」を用いて強化する。


 鋭い切っ先が近づいてくるのをギリギリまで引きつけ、狂戦士のスキル「鬼神化」を使用する。


 光の証を切り替えて強化されたそのスキルにより、体は力強く動き地を蹴った。


 槍を回避するなり、一瞬でデーモンロードへと距離を詰めると、側面に回り込んで蹴りを放つ。胴体に命中した一撃により、相手は勢いよく飛ばされていった。


 その先にはもう一体のデーモンロードがいて、二体まとめて転がっていく。


(よし!)


 魔力がなくとも、それをカバーするスキルがあるのだ。

 このままでもいける。


 フォンシエがそう実感した途端、地響きが鳴った。

 都市を取り囲んでいた魔物どもが起き上がり、動き始めたのである。


「くそ、生きてたのか!」


 ゴブリンたち雑魚は爆風だけで再起不能になっていたが、強力な魔物はそうではなかったのだ。中心から離れたところや、都市を挟んだ爆発の反対側にいたところの魔物は戦う力を持ち続けている。そして怒りに目をギラギラさせていた。


 都市へと向かう集団を見て、フォンシエはそちらに向かおうとする。けれど、足は止まってしまう。デーモンロードが立ちはだかっていたから。


「邪魔をするな!」


 剣を握る手に力がこもる。

 けれど、多勢に無勢、二体を相手に一瞬で切り抜ける方法なんて思いつかなかった。


 膠着したかと思われた瞬間、敵の頭上から光の矢が降り注ぐ。


「俺たちを忘れてもらっては困る!」


 勇者二人が勢いよく飛び込んでくると、フォンシエを囲んでいた二体のデーモンロードは咄嗟に回避の姿勢を取る。


 けれど、無意識のうちに体勢は傾いでいた。そしてフォンシエもその隙を見逃すこともない。


 光の翼で急加速して飛び込むと、その横を一瞬で通り過ぎる。あとには漆黒の軌跡が残るばかり。


 幻影剣術を用いた一撃により、デーモンロードの胴体は真っ二つに断たれていた。

 勇者のスキルでなくとも、魔王ならざるものであれば、打ち倒すことができるのだ。これで魔力はさらに減ったが、都市を覆う土のドームは晴れており、「高等魔術:土」はもうそろそろ、使用しなくても済みそうなところまで来ている。


 一対三になって形成が逆転したデーモンロードは、思わず彼らから距離を取る。

 フォンシエはそれを見つつ、呟く。


「それにしても、まさか俺の方に増援が来るとは思いませんでした」

「向こうの勇者は、格が違うからな」


 四体の敵に囲まれているフィーリティアは、たった一人でそれらを圧倒していた。

 彼女を包み込む光は力強く輝いている。勇者のスキル「光の海」だ。


 魔力を消費し、勇者のスキルを底上げするもので、勇者の真骨頂とも言える。そして「勇者の適性」を持つ彼女は、その効果すらもさらに引き上げてしまうのだ。


 彼女が剣を振るうと、一体の首が飛んだ。

 敵の陣形が崩れるや否や光の矢が漆黒の胴体を貫き、もはや飛び交う光の軌跡を追うこともできなくなる。


 一瞬で敵を仕留めるのを見ると、頼もしくもあり、空恐ろしくもある。

 けれど、フォンシエは自分がすべきことに意識を向ける。


 ちょうど「高等魔術:土」の使用が切れたところなのだ。魔力はもはや残っていない。けれど、彼には戦う力がある。


 フォンシエは光の翼を用いて、たった一体、残ったデーモンロードへと飛びかかる。

 その敵が槍を繰り出してくると、光の盾で遮って懐へ。そして光の剣を振るった。


 まばゆい光が敵を討つ。

 倒れた敵に一瞥をくれると、フォンシエはすぐに都市に視線を向けた。最初よりは減ったとはいえ、まだ膨大な数の魔物に取り囲まれているそちらへ。


「行こう。助けなきゃ」

「フォンくん。無茶はしないでね?」

「善処するよ」


 フォンシエとフィーリティアはもはや言葉を交わすまでもなく、意思疎通ができていた。けれど、勇者二人は言わんとしているところがよくわからず、尋ねてしまう。


「……なにか先ほどのような策があるのですか?」

「ありませんよ。そんなもの。魔力はもう尽きてしまいましたから」

「ではいったい……」


 大規模な攻撃は仕掛けられない。

 けれど、フォンシエは負ける気はしなかった。


「俺には決してくじけない意思があります。勇者のスキルはその限り、力をくれるでしょう」


 ほかのスキルと違って、勇者のスキルは魔力を消費せずに使用することができる。

 だからそれこそが、勇者が勇者たるゆえんなのだろう。戦う意思一つあれば、いつまでも剣を振るい続けることができるのだと。


 無論、現実には疲労がある。それでも、体はまだ動いてくれるだろう。


 勇者二人は膨大な魔物を見て、一体ずつ切っていく姿を想像して口をあんぐりと開けそうになったが、すぐに首を横に振った。すでにフォンシエとフィーリティアが飛び込んでいって、オーガの首を切り飛ばしていたから。


「ええい、ままよ!」


 覚悟を決めると、敵中へと飛び込む。

 先陣を切る勇者と村人の姿を見ていれば、さほど難しいことでもないようにすら感じられたから。それに、人質を取られていたときとは違って、ただ剣を振るうだけで救える命があるのだ。容易いことではないか。


 ラスティン将軍の下で、不屈の覚悟で戦っていた彼らもまた、フォンシエとフィーリティアの姿に感化されて、気勢を上げるのだった。


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