54話 オリアーナお姉さんのギルド講座
ギルドと言うのはお約束『冒険者ギルド』と言うやつであろうか…。
それならばもちろんしたいに決まっている。
異世界転生もしくは転移したならば、冒険者を目指すのは最早テンプレなのだから、目指さない道理がない。金策手段としても、異世界初心者ならば入門するに丁度良いはずだ。
だが、その為にも情報は必要。
「ギルド…ですか? その……それって何でしょう?」
どうか自分が思い描いている『ギルド』であってくれと、エリィは切に祈った。
「あぁ、そうだな…私も説明が下手なのでな、長くわかりにくいかもしれないが、いいか?」
「はい、説明して頂けるだけでも助かります」
説明が長くなりそうだと思ったのか、タルマは空になった皿やスプーンを持って厨房へと下がった。
「元々は各国をめぐる行商人の為の組合だったんだ。関所で一々入国税の徴収や身元照会なんかをしていたら、大きな町なんかだと進まなくなって困るようになったんだよ。
国としても商人の行き来が滞るのは避けたい所って事で、商人達と国側の思惑が一致したんだ。それでそういう情報や税金なんかの管理を一括して請け負う組織が求められるようになった。それが『旅人組合』、ギルドの前身組織。
そのうち行き交う商人達の警護も必要になって傭兵も組合に登録するようになった。
後はそうだな…開拓のために国にしろ領主にしろ、先んじて調査をするのは当然なんだが、その調査組織を国や領主が囲うのは資金的に厳しいんだ。例えば錬金術師とかの職人。普段も雇っているにしても、人数は必要のない職種だろ? だけど調査となるとそうはいかない。沢山の人数が必要になるから、臨時で雇うって事になるけど、調査が終われば解雇だ。そうなると職人の方としてはたまったもんじゃない。生活の保障もなにもないわけだからね。
で、そういう職人なんかも組合に登録して、普段の仕事と調整しながら、臨時の仕事にも問題なく参加できるようにしていったって訳」
身振り手振りを加えながら説明するオリアーナの言葉に、頷き等で相槌をうちながらエリィはしっかりと耳を傾けている。
「そんな感じで今はいろんな職業人を抱える一大組織になったんだ。」
「……私のような見た目子供でも問題なく所属できるんですか?」
「あぁ、問題ない。それこそ種族によっては…ったやつだからな」
「ふむ…登録するには何が必要となりますか? 登録料とか取られます?」
エリィからの質問に、オリアーナは笑顔で答える。
「登録料なんかは取られたりしない、ギルド証の発行も初回だけは無料だ。ただ、そうだな…行商人として登録するなら、販売予定商品の鑑定、職人なら製作品の鑑定、傭兵なら戦闘力、方法の確認なんかはされるはずだ。あぁ、あと人物そのものの鑑定もされる」
「人物の鑑定ですか?」
「あぁ、証札の場合、裏側に呼び名と誕生日、あと犯罪歴が記載されて、札そのものに人物の情報が投影されるんだが、この人物情報は本人でさえ見ることが出来ない。魔具が見てるだけだな。まぁ何の情報が投影されてるのか知りようがなくて、不思議ではあるがな。魔力パターンなり何なりを投影してるんだろう。
これがギルド証になると、少し異なる。
ギルド証には人物鑑定の結果も記載されるんだ」
そう言ってオリアーナは自分の首元を探ると、鎖でつながれた一枚のプレートを取り出す。見た目が金色の金属で、前世のドッグタグくらいの大きさ且つ小判型をしている。
オリアーナはそれを首から外し、カウンターに裏返して見せた。
「ぁの…見ても良いんですか?」
情報が記載されているというなら、自分のような赤の他人が見てよいと思えず、エリィは顔をそむけたまま訊ねた。
「あぁ、記載されていると言っても、自分と魔具以外には見えないんだよ。力を込めて願うと、どういった原理か知らないが、自分の情報が見れるって感じだな」
「なるほど」
差し出されたソレを受け取ると、金属の重さを質感が手先に伝わる。
「記載されるのは証札と同じく、呼び名と誕生日、犯罪歴はある者には裏面の中央に黒い線が引かれるかな」
「犯罪者でもギルドに所属できるんですか?」
「どうしても巻き込まれる場合があるからな。例えば荷馬車が襲われて返り討ちにして殺したとかだと、襲った側が悪いとはいえ、事象としては殺人になるわけだ。それで黒線が引かれるんだが、そういう場合は4か月ほどで消えるな。
どうしようもない犯罪者の場合は黒線がどんどん追加されてって、そのうち剥奪されるという感じだが、今の所それで物申す輩には出くわしたことがない」
「ふむ…自分にしか見えない部分には、どんな事が記載されてるんですか? って、ごめんなさい、もしかして秘匿事項にあたりますか?」
「いや、自分で持つようになれば普通にわかることだから、秘匿でも何でもない。
見えない部分には名と真名に生年月日、種族、代表称号、レベル、代表使用魔法に代表使用スキルだな。『代表』と付いている称号、魔法、スキルは使用頻度の高いモノが3つまで記載される。ぁ、それと連絡先も記載されるな」
「連絡先…あの、ステータスは記載されないんですか?」
「すてー、たす? それは何だ?」
「ぁ~いえ、何でもないです。連絡先について聞きたいんですが、それって?」
やはり各能力を数値化されることはないようだ。エリィが一部とはいえ数値化して見られるのは、前世の影響なのかもしれない。
「連絡先は定住してたり、家族や友達が居たりなんかの場合だな。要は死んだら連絡して欲しい相手を記載しておくってだけの事で、任意だから気にするようなものでもないよ」
「なるほどです。後は…ぁ、職業を決めて登録しないといけませんか? えっと…どう言えば伝わるでしょうか…」
「あぁ、大丈夫、わかったから。行商人しながら空き時間で傭兵する奴もいるし、登録に際して職業の限定は必要ない。登録時に商品を鑑定されたりするのは、詐欺なんかの回避の為だから」
「詐欺?」
「以前あったんだとさ。行商人で登録して、各国の入国税他の減免をうけながら、別の商人を襲って荷を奪い、それを売却するなんて事やらかしたとかね」
「犯罪対策って事ですね」
「そういう事。エリィならそうだな…薬師…錬金術師って事で登録用の制作品を用意すればいいだろう。魔物を大事そうに連れてるから、てっきりテイマーかと思ったが、従魔がスライムだけじゃ戦闘確認が辛そうだ」
エリィが唇に指の背を押し当て、暫し考え込んだ後、オリアーナを見上げる。
「従魔について聞いてもいいですか?」
「私でわかることなら、もちろんだ」
「従魔が狙われたりする事ありますか?」
「ん? どういう意味だ?」
「例えば色違いとか…」
「あぁ、珍しいやつが盗まれたりするか?ってことだな」
「はい」
【エリィ! 何でそないな事聞いてんのや】
【何かある度に、セラに身を隠してもらうとか、何か嫌なのよね】
【それは…確かにせやな…】
【俺? 済まない、何の話だろうか?】
【ちゃんとわかってから話すから、少し待ってて】
【承知した】
アレクは足元に丸くなったままなので、ムゥをぎゅっと抱きしめて、オリアーナの言葉を待つ。
「従魔として登録しておけば、そういう事は難しくなる」
「難しく?」
「そう、何者かの手によって主人から引き離された場合、従魔にまず自動的に結界が発動した上で、ギルドへの自動通報もされる。普通はそれで諦めると思うがな」
「諦めなかった場合は?」
「ん~、それで諦めなかった場合か…すまない、私にはわからない」
「いえ、十分です。あ、もう一つ良いですか? 自動でって事は、従魔自身の意識が奪われてても発動するって事で良いんですよね?」
「多分な」
「ありがとうございます。私戦闘鑑定受ける事にします」
エリィが極上の笑みを口角に乗せて言い切った途端、厨房の方からガランガランと何かを落としたらしい音と共にタルマが飛び出してきた。
「ちょ…エリィちゃん本気かい!?」
無言で目を丸くしていると、口をあんぐりと開けているタルマに向かって、再び良い笑顔を向けながら頷いた。
「はい! 本気です」
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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修正加筆等はちょこちょこと、気づき次第随時行っております。お話の運びに変更は無いよう、注意はしていますが、至らな過ぎて泣けてきます><(そろそろ設定が手の平くる~しそうで、ガクブルの紫であります;;)




