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【書籍化・コミカライズ】【Web版】おっさん(3歳)の冒険。  作者: ぐう鱈
5章:レベル神 神宮寺、ちょっと校舎裏まで
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88「謎の魔宝技師、酒場のオーナーになる」

出先に来て思うこと。「ノートパソコン忘れた!」ネットカフェよりこんにちは!!

 パブ文化という言葉をご存じだろうか?

 英国を語るうえで欠かせない文化なのだがその地方で情報共有する場所、交流の場という意味合いが強いと言う。ゆえにパブリック ハウス、略称パブなのだ。

 とはいえ、基本お酒の入る場であるお子様と女性は敬遠するべき場なのだが……。

 ここに勘違いした元日本人(案山子)が一人、大望を抱き熱心に語っていた。


(パブといえばスポーツ観戦だ!)

 勝さん一号の頭の中にはとあるパブで「お~お! ○○!」とコールしながら多くの【女の子】とお酒を飲んだ独身時代の思い出が色濃くあった。

 勝さん一号の異世界で現状行っている活動、放送事業は好評だ。

 サナエルの販売戦略上大きなブランドと認められた節がある。

 だがその成功は所詮王都の中心地のみの話だ。ボリュームを取りに行かなければ。王都が広いとはいえたかが知れており、天井はすぐに来てしまう。だから王都全土に広めなければならない。

 広まれば流行に聡い貴族、一般人の上流階級がステータスとして高額の受信装置を争うように購入するだろう。マイルズと勝さん1号の計画では2年以内の王国内主要都市への普及が目標である。現状目標は近いところにある。


「王国民のためにも、集まれる場所を提供したく思っています。そのためにもぜひ!」

 王国に根付いた商売で4代目。みんなに愛されて続くナバス商会の会頭アルトン・ナバスは困惑していた。というのも、この灰色の肌の青年、年のころなら15歳といったところか、マサルと名乗った彼は今交渉のテーブルに想定外の金貨を載せている。

 アルトンがまず思ったのは『マサルなどという貴族……いや商人の子弟がいたか?』だ。もちろん勝は一部界隈以外では無名である。その無名の少年がどこから持ってきたのか大金を積んでいる……。この事実からアルトンは軽率にも『異国から来たボンボンの道楽』とみなしたのだ。

 置かれた金額は、買収を提示された店舗を従業員ごと売り渡すには十分な金額………いや、この提案された3店舗すべてが赤字店舗のため十二分に多い金額だった。アルトンは思った『これが計算の上、色を付けているのであれば……この男何者……』と。

 アルトンは人として良い意味で、商人として悪い意味で、深く考える人間だった。それは良く言えば『人情深い』、悪く言えば『決断力のない』と言える。


(赤字店舗を店員ごと買収……後ろ暗いことに私と従業員を巻き込むつもりか? ……それも一度とはいえ私のもとにいた従業員たちを使って……。これで都合が悪くなったら異国に消えられでもしたらすべての罪は……)

 残念ながら対面している男の頭の中では女の子と肩を組んでスポーツ応援している絵しかない。また、赤字店舗を狙い撃ちしたのは既存の方法ではないので十二分に勝算ありと踏んでいるからである。

 しかしアルトンの価値観では『飯まず王都』で住宅街の近くに店舗などニーズもなければ勝算もない。『寂れてください』と言っているよう店舗である。まぁ、そんな店舗を維持し続けているのには色々事情がありアルトンの頭痛の種だった類するのだが。


「……少々考えさせてくれないだろうか」

「承知しました」

「では、少々席を外させていただきます」

 そして別室に移るとそこには息子のダッガと娘のジェイミー、そして妻のエミリーがいた。

 娘は満面の笑みである。対してほかの2人は渋面だ。

 何せその赤字店舗の出店から運営まで買って出たのが妻と息子だったからだ。


「親父何を考えている断れよ。あんなぽっと出の亜人などに従業員ごと店を売るなど、今後うちの商会は金ほしさに人を売る人身売買商会と揶揄されるぞ!」

 声を抑えながらも怒りの様子の息子と、息子の言うことに大きくうなずいている妻。


「お父様。我が家の恥部をあのマサル様が補てんしてくれるというのです! 売りましょう! そしてわたしをマサル様の婚約者にしてしまうのです♪ きゃっ♪ 私ったらなんてことを♪」

 アルトンは思わず閉口する。

 22歳にもなって未だ母親の助力なしには何もできない。できたとしてもたいがい失敗する息子。

 15歳となり魔法研究院に進んでまで新商品開発にいそしむ、どこか人とは違う娘。


(俺が急死したらこの商会も終わりだな。4代続いたのになぁ……)

「……ダッガ、神王国の伝手ができた。お前、神王国に留学して来い。あ、戻ってこなくていいからな」

 アルトンはとりあえず息子の処遇を決めた。商会は弟の筋に譲ることを決断をしたのだ。

 なんだったら娘も一緒につけよう、と。

「な、親父!この商会どうする気だ」

「お前には関係のない話だ。店の金持ち逃げするなよ? そんなことしたら明日お堀に浮いてることになるぞ?」

 息子を黙らせる妻の視線を痛く感じながらも『あ? 文句あるなら実家帰れ』と睨み返すアルトン。


「お父様! 商会なんかどうでもいいので、マサル様に私を紹介してください!!」

 『うまいこと言った!』と猛烈に娘をほめて上げたいアルトンだが、ぐっと我慢。

「ジェイミー、マサル殿のことを知っていたのか?」

 アルトンの発言に目を丸くするジェイミー。

「まさか! お父様までお兄様レベル?!」

 頭を撫でた後で拳骨を食らわせたくなったアルトン。

「あのマサル様です! 『魔宝技師』『賢者の弟子』『ルースの同盟者』『料理界の麒麟児』『ウガルス伯爵を救いし神』『まーちゃんの影武者』『ズアル王子の飼い主』『羊羹大臣』。たった一月の期間で彼が発明した画期的な魔法道具は片手ではたらないという天才ですよ? 本気で知らないのでしたら、お父様は引退なされたほうがよいのでは?」

 アルトンは思考を停止させる。

(えー、全部聞いたことある二つ名だ……あー、まじかー。えーなんでうちの嫁と息子が始めたあの失敗店舗なんか……)

「とにかく! 商会はつぶしてもいいのでマサル様にご紹介を!」

「ジェイミー、それたぶん無理だ。今日一緒に来てた保証人の方、神王国の侯爵令嬢だったんだが……」

 高名な神王国の高位貴族が、何の関係もない人間の保証人などしない。

 つまり、個人的に深い関係にあると踏んでよいだろう。

 勝さん1号もカミラもそんな気は『たぶん』ないのだが、一般的にはそう見えてしまうのは致し方ないことである。

「信じられません! いいです。あの店舗を売る代わりにそのあたり聞き出しましょう!」

 暴走する娘を止めるためにアルトンは一案提示する。

 娘の了承が取れたので、もはや風景と化していた息子と妻は放って勝のいる部屋に戻る。

「いいでしょう。アルトン殿は従業員思いの良い方だ」

 アルトンの提案は快諾された。店の改修費用も後になって請求しない代わりに、来月黒字だった場合提示額での販売。


「ジェイミー様なぜ貴女がいるのですか?」

 神王国風にアレンジする内装工事の監督に来たデザイナーことカミラが女主人然として工事を見ているジェイミーに問う。

「私、この店舗の店長になりましたの♪ オーナーの勝様とはあれやこれやと交流を図りたく思います。そして深夜の店舗で収支報告する私にマサル様が……きゃ♪」

ピキッ

 カミラの額に青筋が立つ。

 2人の間に険悪な空気が流れる。現場の大工たちにははた迷惑な話だった。

 そしてオープンの日を迎える。


「うん、なかなかの客入りじゃないか」

 勝ったな、がははは。と笑いたい勝さん1号だが店舗の奥がそんな空気ではない。何故か『店長とデザイナーが修羅場』の空気を醸し出している。

「マサル様、私このピザと軟骨のから揚げと冷えたビールで世界が取れる気がします」

 そういって勝の腕に絡みつき胸を押し付けるジェイミー。

「はしたない! 貴女! それが淑女のすること!」

「私は平民なの! 好きな方にはとことん尽くすのが平民スタイルよ! お貴族様は窓からはかなげに外でも眺めててください!」

 赤字店舗は勝の予測ではこのままいけば黒字。

 店舗改修費用も取り戻せる勢いだ。

 勝が打った手は簡単だ。

 まずは料理の改善。

 これは技術の下地があった料理人達をグルンドのルースの店に5日送り込んだら想像以上の改善を見た。

 連れてきた時と帰る時とのギャップがすごかった。


―――修行初日

『転移、オーナ長距離転移できるの! すごいっすね!! てか、この店の厨房、殺気半端ないです……。最低レベル10ですか? はぁ、皆さん人間やめてますね……。ええ、オーナ帰りましょう……あー、おいて行かれた!!! 帰してぇぇぇぇぇぇ!!!!』


―――修行最終日

『うっす、ギガベア〆てきました。仕込みして良いですか? うっす、自分らまだ未熟者です見学させていただきます! あ、オーナどうしたんですか? ん? かえる? 嫌です。……転移ですか? 高速移動で範囲外に逃げてやる!!!! やだ! 帰りたくない!!!!!!!』

 魔法準備中に逃げ回られたのでこっそりと『ルースも知らない(嘘)の料理教えてやるから』と言って言葉巧みに連れ戻した勝さん。

 レベルの上がった料理とこの世界ではなじみのない居酒屋料理、さらに日本酒。飲み口をよくするために熱燗を出汁割の上だすと、こちらの日本酒に残っていた臭みや苦みが消え、初心者向けの飲み物に仕上がった。

 そして、これまで『ビールはぬるい』が常識だったところにビール冷却専用の魔法道具を各店舗に配置。話題をさらう。

 更に放送受信装置を設置し昼の営業時間中は昨日グルンドで放送された『ザンバ飯』を放映する。もちろん放送オーナ特権で知りえた料理内容を事前に料理人たちに伝えておき『放送の逸品』を割高で販売っするのも忘れない。

 完璧である。完璧なおっさん・おばさんホイホイである。


(女子がいない。なぜだ! なぜおっさん・おばさんばかり!! 若い女がこなければなんで俺はこの店を!!!!)

 昼にイケメン剣士達による模擬試合の放送を行うのは2か月後のことになる。

(なぜだ! なぜ男も一緒に応援する空気にならない! 混ざりずらい!!!!)

 勝さん! 後ろ! 後ろ!

「勝様にはお仕置きが必要ですわね」

「ええ、こんな美女2人を置いてその他大勢などにうつつを抜かして……」

「……私たち仲良くなれそうね……」

「……ええ、正妻は譲りませんが、仲良く同時に嫁げるかもです♪」

 ……。

 最後にマイルズより一言。

「リア充、爆発してください。お願いします。……。自爆装置つけるかな……(ぼそ」



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