87「荒くれ者は一旗揚げることを望む」
あぶあぶあぶな!不意に触れたバックスペースですべてが飛んでしまうところだった。。。サンキュー!バックアップ機能!!!
アイニーは山中を駆けていた。
彼は斥候部隊の一人だ。
現在は迂闊にもターゲットに発見されてしまった為、作戦を変更してターゲットを本隊へと誘導中である。
飛ぶように駆けるアイニーだったが、後方から発せられた魔法力の流れを感じて咄嗟に左へ飛ぶ。
ブワッ
先ほどまでアイニーが居た場所を真空の刃が通過する。
アイニーを横目に通り過ぎた真空の刃はあっさりと大木を切り倒してしまう。
ちらりと後ろを確認するとアイニーと同じく高速移動で追いかけてきている四つ腕の熊が確認できる。
追ってきている熊は4m以上あるギガベアという巨大なクマ型モンスターである。それが2頭。
アイニーは自分の失態にうんざりしながら森の中を駆ける。
しばらくして、本隊近くまでくると仲間からの合図があった。
『攻撃態勢完了。誘導に従え』
ボスの所へ連れて行って良いとの許可だ。
一安心と息を吐くとアイニーはさらに加速しギガベアと距離を開ける。するとそれを合図に、前方から同僚のキャシーが現れた。キャシーはギガベアへ一撃花討つとアイニーと並走する。
「がう(すまぬ!)」
「ぐる(謝るならボスにあやまりな!)」
さすが我らアルブの群一の美貌と呼ばれるキャシー。
惚れ惚れするほどの女っぷりだ。
「うおおおおおおおおおおん!」
遠目に待ち伏せ部隊が確認できたのでアイニーは合図を送る。
そしてアイニーとキャシーは森を抜け、広場に出る。直後2匹は即座に左右に別れ、仲間たちの《射線》を空ける。
「熊隊! はなてぇ!!!!!!」
ボスの言葉と共に仲間の熊たちが風魔法を飛ばす。
先行していたギガベアは無数の風の刃に切り刻まれ、痛みのあまり広場の入り口でのたうち回る。
後続のギガベアは先行していたギガベアの突然の停止に対応できず、先行していたギガベアのカマを掘る形で広場の入り口で衝突し倒れ伏す。
その止まった一瞬を狙いボスが叫ぶ。
「逃がすな! ネコ隊!!」
その声に応じて水弾がギガベアたちを襲う。
水の衝撃にたたら踏むギガベアたちそこに……。
「焼き尽くせ! 犬隊!!」
炎弾が容赦なく降り注ぐ。
「「ぐるるるるぁぁあぁぁあっぁぁぁあぁぁ」」
皮膚表面を斬られ押され焼かれたギガベア達は怒りに燃えた瞳で起き上がる。
「ぐる(残念。もう遅い)」
アイニー達一団が全幅の信頼を置くボスがすでに動き出していた。
何の心配をすることもない。
「ちぇすとおおおおおお!」
雄たけびと共に視野が狭くなったギガベアのうち1匹の首が飛ぶ。
アイニー達は会心の一撃から一瞬残心の体勢を挟み、流れるように次の行動へ移行するボスを見た。
「つぁあぁぁぁぁああぁぁl!!!」
ボスは返す剣でもう一匹のギガベアの首も斬りあげるように切断する。
「がる(お見事)」
「ぐる(さすがボス人間にしておくのがもったいない。アルブだったら即つがいになるのに)」
「にゃー(わかる。だが我らトラなのだが……いつまでネコ扱いなのだろうか)」
「わん(それを言えば我らこそ狼なのだがな……)」
「にゃー(種族が近しいからいいではないか、我ら相当大くくりだぞ?)」
「がう(まぁまぁ、皆の衆落ち着いて)」
「わん(貴様らは種族名そのままでうらやましいのである)」
「にゃー(全くだ、うらやましい)」
「おーい、いつもの雑談してると肝食べ損なうぞー」
先ほど魔法を打ち込んでいたネコ隊(全長50cmが最大の虎)、犬隊(全長50cmが最大の狼)、熊隊(全長50cmが最大の熊)たちに群のボスこと人間クレイマンが声をかける。
すでにつるされたギガベアが2頭準備万全だ。
リーダーたちの間で《いつもの》会話が繰り広げられている、その後ろにそれぞれの配下、虎(20)狼(30)熊(10)それぞれがお座りして行儀よく会話の終わりを待っていた。
「「「「「「「「「「わん・にゃー・がう(ボス! そこの奴はいいんで早く肝プリーズ!)」」」」」」」」」」
いや、あまり待っていなかったようだ。
「「「わん・にゃー・がう(お前ら―ー――!)」」」
「ははは、仲いいなお前ら。じゃいくぞー」
クレイマンはそう言うとギガベアたちを捌いて行く切り開かれた内臓たちは均等に各群れへ運ばれてゆく。しかし運ばれてはいくが誰も口をつけない。リーダーの一言をまっているのだ。
「おお、みんなで食える体制ばっちしだな! さぁ! 食え食え!」
「「「「「「「「「「わん・にゃー・がう(うめーーーー!!!)」」」」」」」」」」
そこのに3匹のウサギが現れる。
「プゥ(お、美味そうなん喰うとるやんけ)」
「にゅー(うさ吉兄さんこっちこっち)」
「わん(ウーサーさんはこっち!)」
「がう(ウサ美さんはこっちにどうぞ!)」
突然現れた茶色のウサギたちに小型だが魔法の扱える肉食獣たちが場を開けた。
そもそも草食獣? と思われるウサギだったが……このウサギの種族は……ハンターたちも恐れる山の支配者クラスのモンスターだった。
付いた名前はハンターウサギ。
これは大きな魔物を遠くから風魔法で切り刻んでいる光景を発見した人間たちが畏怖の想いからつけられた名前だ。
ちなみにこのハンターウサギ、繁殖期以外は単体行動するという非常に不思議な生態系の謎な生物である。
「プゥ(すまんのう、そや、わしらが仕留めたのもあるけん。アルブのみんな悪いけど引っ張て来てくれへんか)」
「クゥ(いつもすまないね)」
「がる(気にしないでください姉さん!)」
「ぐる(あたしらは血抜きした肉の方が好きだからね。あと草!)」
「プー(せやったら、近場にええ草生え取ったで)」
「がる(まじっすか!!)」
「ぐる(いそぐよ! ボスも!)」
「ほいほーい、そいや岩塩あった?」
ギガベアをつるし終わったボスことクレイマンは保存食である干し肉をつまみながらウサギたちに尋ねる。
「プー(バッチリや、それも獲物の近くやさかいアルブが草喰ってるうちに掘るとええ)」
「お、さんきゅー! 仕事早くて助かるよ」
そういってクレイマンは……驚いたことにうさ吉と呼ばれたハンターウサギの頭をなでた。そしてすぐにアルブたちと共に走り出した。
「プゥ(な、ずるやん!)」
「クゥ(ボス! まっていちばんかわいいあたしはなんでなでてくれないのーーー!)」
ある地域ではハンター達から『孤高の戦士』と尊敬を集めるハンターウサギの姿はそこにはなかった。
すでにそこには帰ってきたらモフられたい系うさぎしか居なかった。
――――――
夜。肉食獣たちにとって本来の狩の時間だがクレイマン率いる群にとってはお休みの時間だ。
クレイマンを中心にして総勢112匹の群は数匹の見張りを立てたまま眠りに落ちている。
「……どちら様かな?」
動物たちが捉えられなかったわずかな違和感を捉えたクレイマンが闇夜に問う。
「あれ? ばれちゃった?」
現れたのはエルフの少女だった。
「おじさんは悪い人かな?」
少女はとても武器には見えない『リボンが巻いてあるステッキ』をクレイマンに向ける。
「ごめんね。おじさん悪い人の定義がわからないよ」
クレイマンが上半身を起こすと群れの殆どの動物たちが身を起していた。
「うーん。『神罰から逃げている』か『神罰から逃がしている』人だったら悪い人かな~」
いわれてクレイマンは噴き出してしまう。
「ふふふ、野生化したおじさんがそんな風に見えるのかい?」
「見えない」
少女は笑顔全開で言う。
「ちなみにこれでもたぶん26歳なんだけど……そんなに歳に見えるかな? ……少しショック……」
ぼさぼさの髪の毛と伸びたままのヒゲでは年齢不明と言われても致し方ない。
「なんだ年下じゃん」
「……いや、エルフに比べて年上の人間て……少ないと思うよ?」
「そう? 最近結構年上にあってたからなぁ?」
「超越者様達と一般人を一緒にしたら不敬だよ?」
動物たちと意思の疎通が正確にできる人間を『普通』と言うのかは置いて、クレイマンは至って普通の人間だ。
「おねーちゃんって呼んでいいよ」
「……お嬢ちゃん、おじさんをからかっちゃだめだよ? あと女に飢えてるから襲っちゃうよ?」
クレイマンの眼に鋭さが宿る。
「ちぇ、そんなに拒否しなくてもいいじゃん。あと、やるならどんとこいだ! ちゃんと体奇麗にしてきてね! それに、こう見えても高性能リッチなの♪ やったら死体姦になるけど、おけ~?」
少女は女の子座りすると手を伸ばしてコイコイと招いている。
「ごめん。おじさんアンデットとの経験ないから無理かな」
「ちっ、ヘタレめ」
クレイマンはその言葉に笑い声をあげる。
動物たちはその間も油断なく構えているが本能的に『逃げる以外生き残れない』とも知覚していた。
ボスたるクレイマンが会話をしているのは『今のうちに逃げろ』という意味か、それとも交渉で何とかなんるのか……。正直動物たちは測りかねていた。そこで……。
「グル(ボス、やりますか)」
キャシーがボスの横に並んでそういう。
「キャシー、大丈夫だよ。この子きっと無害だから」
そういってクレイマンは殺気立っているキャシーをなでまわす。
撫でられたキャシーは目を細めてその場に伏せる。
他の動物たちからは羨望のまなざしが送られる。
「キャシー?」
「この子の名前だよ」
「動物と話せるの?」
「ああ、この群のボスもやってる。それ《も》あって人間社会に帰りづらくてね……」
そっと頭を寄せてきた虎のボス、寅吉もキャシーをなでている逆の手でなでる。
その瞬間、『うまくやりやがって!』という嫉妬の感情が渦巻く。
「それだけじゃないよね?」
「……お嬢ちゃん。人の過去を暴いてもいいことないんだよ?」
「逃げたっていいことないよ。元教会騎士のクレイマンさん」
沈黙が2人の間を支配する。
「ダミアンは神罰で死んだよ」
「……」
クレイマンの眉間にしわが寄る。
「フランソワーズさんは貴方を探してるよ?」
「……」
クレイマンの眉間のしわが濃くなる。
「あなたは人間なのだからここにいて良い事はないよ? 動物たちにとっても……」
「……」
クレイマンはこぶしを力強く握る。
「お前に何がわかる! 俺はあの女に騙され! あのくそったれな人間社会から逃げ出したんだ! そしてここで家族を得たんだ! 信頼できる奴は人間じゃなかったんだよ!! ……お前にわかるか? 全てをかけて信じたものに裏切られたみじめな男の気持ちが!!!」
クレイマンは前途有望な騎士。
武器を扱う技も、部隊を運用する能力も、部下たちの信頼も、ほかに並ぶものが《ほぼ》いなかった。唯一双璧となしたのはとある女性騎士が1人だけだった。
クレイマンは騎士だったときから、この国がおかしいのは知っていた……。
だが、だからこそ、守る者が必要だと思っていた。クレイマンはその為の騎士だ! そう認識していた……。
そしてクレイマンが組織の中から、自分だからこそなせることが多分にあると信じてもいた。
だが同時にクレイマンの中には『その道を信じきれない自分』がいた。虐げられている人々を『立場を投げ捨て短絡的に救いへ赴きたい自分』もいたのだ。
そんな自分を押し殺し、少しでも良くなる方向に組織を導こうと悪戦苦闘していた彼は将来を約束したフランソワーズから『あなたの正義は尊い。でも今組織の枠組みにとらわれていてはあなたの正義が腐ってしまう……。安定した収入など私は望みません。私の喜びはあなたが信じた正義を貫き通してくれること。大丈夫一緒に進みましょう。一緒に守りましょう』そういわれ……彼は深く考えるのをやめた。
教会幹部から引き止められながらも騎士を辞し、クレイマンは数日で万全の準備を整え村々を救うため西門にたった。そして旅立ちの日もフランソワーズを信じて待っていた。
しかしフランソワーズが来た時、クレイマンの心は粉々に砕け散った。
フランソワーズの隣にクレイマンに何かと突っかかって来ていた顔だけの男、ダミアンがいたのだ。その口からはこう放たれた。
『見送りに来たぞ正義の騎士君。俺の女がどうしても最後にお前を見たいと言ってな。仕方なく同行したんだけどね』
陰りを見せるクレイマンの表情に、言葉一つづつに絶望してゆくクレイマン。それを眺めながらダミアンは楽しそうにフランソワーズの胸をわしづかみにする。
フランソワーズの方もまんざらではない表情で『も~う、帰ってからね♪』などとやっている。
そして『クレイマン。私は愛する人がいるので行けないけど正義の旅頑張ってね』と。
クレイマンは人目もはばからずいちゃつく2人をいや、ダミアンの利き腕の肘から先を斬り飛ばし、瞬足の剣戟で次に視力を奪った。
そしてクレイマンは『それ以上はせず』静かに西門から教都を出ていった。
フランソワーズが何か叫んでいたがもうクレイマンの耳には届かない。
服を掴まれた気もするが殴り飛ばしたような記憶もある。
絶望してクレイマンは西門を通り抜けた。
クレイマンは気付かなかったが西門の門兵たちはクレイマンが見えなくなるまでずっと敬礼をしていた。
この事件は一時期教都での話題をさらった。
ダミアンは辛うじて視力を取り戻し腕をつないだ。だが、彼が取り戻したのは薄く見える世界と、つながっただけで反応の悪い腕だった……。
必然だがクレイマンが明けた席にダミアンが就くことはなかった。
騎士就任を期待して現れたダミアンに教会幹部からの叱責が飛んだのだ。
教会幹部からしてみれば『まだ手を付けていない最高の男』を下種な面白みのない小物にしてやられたのだ。怒り心頭だ。そしてダミアンは罪人の焼き印を焼き付けられ人の嫌がる仕事に付かされた。
当時の教都で教会幹部に逆らうことは不可能だった。
いやでもやらされる汚れ仕事にイラついたダミアンはフランソワーズに執着した。
クレイマンへの行いが露見して『下種』として街で嘲笑の対象となり、居場所がないフランソワーズ。女から侮蔑と嘲笑。男からはお手軽娼婦と揶揄される。
彼女の実家は大変裕福な家庭だった。それ故に両親は家の恥としてフランソワーズを半ば敷地内に幽閉した。
そこにどこからかダミアンが現れる。
正門から、庭から、フランソワーズは両親からほぼ勘当状態。離れの納屋に住むフランソワーズにダミアンは近づき、色々なことをささやき暴行に至る。
幸いクレイマンに負わされた傷のせいでダミアンはフランソワーズに難なく追い返された。
だが『怯えるフランソワーズの表情』は落ちぶれたダミアンの唯一の癒しとなっていた。
その嫌がらせは半年後、フランソワーズの両親が北へ拠点を移すまで続いた。
そしてクレイマンの失踪から1年。国が崩壊した。
だから『ダミアンが死んだ』と聞いてクレイマンはそれまで生きていたのかと不快になった。
しかし『フランソワーズが探してる』と聞かされて、あの女はまだ自分から何を奪うつもりなのだと悲観した。
国を想うなら。
昔のように正義を想うなら。
変動する国を支えるために戻らなければならない。
しかし、あの時のフランソワーズの顔が、表情が、クレイマンの足をこの地に縫い付ける。
『彼女に思う所があったのかもしれない』
『そもそもダミアンに脅されていたのかもしれないし、取引があったのかもしれない』
可能性の話だ。
そうやって1年間クレイマンは自分を説得し続けた。
だが……無理だった……。憎しみは、愛情がひっくり返った想いはその程度の説得に耳を貸してくれない。
救う力があるのに救わない。
自分は駄々をこねる子供。
それが今のクレイマン。
『それの何が悪い』そう心の中で結論付けてしまっていた。
一方、エルフの少女こと変身魔法リッチ☆マリブはフランソワーズから事の詳細を聞いていた。
まず1年前とは言え上級騎士の中でも高位の騎士だったクレイマンを逃がすことは至難の業だった。
教会幹部は強制的なクレイマン復帰をあきらめていない。このままでは教都を抜け出す前にとらえられてしまう……。
フランソワーズはクレイマンを逃がすに、事務方に顔が利くダミアンを頼らなければならなかった。……そう、ダミアンの取り巻きに情報を入れられてしまい信じてしまった。
ダミアンに言われた『彼1人なら逃がしてあげられる、だけど君は無理だ。ついて行っても追っ手につかまる要因になってしまう……。だから俺と裏切ったように演技をして彼を送り出そう。辛い思いをさせるが彼の信念を汚さないようにしてあげないとね……』という一部だけ正論を含んだ言葉、そんな言葉を信じてしまった。
クレイマンに殴られてダミアンに騙されていたと気づいたフランソワーズだった。
ダミアンはあの後すぐに教会幹部の怒りを買い去勢された。
そのおかげでフランソワーズとダミアンの肉体関係はない。
『全部私のいいわけです』寂しそうに微笑むフランソワーズは殴られた所を大事そうに撫でていた。
『好きだったら……』とマリブが言うと『信念を正義を貫くあの人が好きだったからいいんです』『でも、可能なら一言謝りたい……』そういって静かに泣くフランソワーズをマリブは見てきた。
マリブがフランソワーズをその少し前。
マリブは人材不足を解決するため、過去追放された有力者を探していた。クレイマンを探し始めたのはその人材リストの中でも初めてだった。
切欠はザザ将軍が『クレイマンがいたらな……』と書類の山の中で愚痴っているのを聞いてからだ。
すぐにザザの下で保護されていたフランソワーズに話を聞き。当りをつけて探したマリブはクレイマンの元にいる。
だからこの男の、クレイマンのみみっちい後悔や誇りなど興味なかった。
できるのにしない? 何様?
その思いだけだ。だからマリブはつい口に出してしまう。
「じゃあ、家族ごと戻ってくればいいじゃん。ていうか女1人に捨てられただけでそれ? ちっさ。そんなでよく正義だなんだって言えたね? 今だって家族を守るとか思ってるでしょ? ちがうよ? それ。あんたが家族に守られてるんだよ? 甘えて、縋って、慰められて……そして家族たちの本来の生活を崩してるんだよ? なっさけな!」
言い切ったマリブはリボンのついた可愛らしいステッキをふるう。
「変身」
彼女を中心に光が渦巻き光が収まるとより軽装になったマリブがいた。
マリブの衣装は上から、黒のベレー帽、白のブラウス、つつましい胸元には大きな金色のリボン、茶色のコルセット、ベージュのスカート、これは膝上とこの時代のロング一択の基準ではふしだらなスカートだ。そしてに黒のニーソックスと茶のブーツ。
一見軽薄な装備だが魔法力、異世界魔力、気、それぞれのエネルギーの効率運用を試作された魔法少女プロトタイプ3号は、その存在だけで周りを圧倒する。
「いやなら引きずってゆく、働けニート」
『働けニート』についてマリブは意味を理解していない。
マイルズの入れ知恵だ。
『働かない人への決め言葉なのです!』マリブとしては語呂がよかったので使っているだけだ。
「俺は! ……」
「当たって砕ける……。当たらなければ砕けることはない。今の君は砕けたままだ。もう一度当たってみなよ……生きているんだ、何度でもあたれるんだ。怖がって引きこもったら砕けた……自分で自分を裏切ったままだよ」
マリブが微笑みかけるとクレイマンは涙を流す。
色々な思いで一杯だったが、クレイマンは今なら自分を許せるような気がした。
「お前達……」
周りにいた家族たちがいない。
クレイマンが振り返ると横並びになった彼の家族たちがいた。
「がる(ボス。好きにしていいよ)」
「ぐる(ボス。楽しかったよ。ボスに惚れていたのはいい思い出だよ)」
「にゃー(ボス。俺たち虎だからさ大丈夫。もう会ったときみたいに傷付いて泣いてないさ、傷つけられたら戦うさ!)」
「わん(ボス。俺たち狼ね。これ重要ね。ボスとは離れたくないけどボスも雄だし雌を迎えに行かないとね! かっこつかないよ!)」
「がう(ボス。泣かないで。ようやく笑ってくれるようになったんだ。泣いちゃうのは違うよ)」
「プゥ(ボス。なんやったらわてらだけでも一緒するで)」
うさ吉(最後)の発言に騒然とする。
「がる(うさ吉兄さん。ずるい! じゃ俺たちも行く)」
「ぐる(いく! 一緒に行く!)」
「にゃー(行くのは俺たちだ!)」
「わん(いや誠実な俺たちこそ適任だ)」
「がう(旅には癒し系が必要なんだな)」
「プゥ(なんなら全員で行くか!)」
「「「「「(うさ吉兄さん。あんた天才か!!!)」」」」」
そんなやり取りにクレイマンは噴き出してしまう。
笑う。
笑いが止まらない。
そして涙も止まらない。
家族だ。
連れていきたい。
だが、それは彼らの幸せにつながるだろうか……。そう悩んでいた。
だからここを動きたくなかった。
でも……答えは簡単だった。クレイマンと同じように彼らも一緒に居たいと言ってくれた。
ここで折れたら男じゃない!
『当たって砕けろ!』……静かにクレイマンは首を振り考えを替える『当たってぶち破る! それが俺の信条だ!』。
「いくよ」
「うん」
「皆で」
「うん。ちょうど近くに国主まーちゃんがいるから何とかしてもらおう! 何とかできなかったら一筆書いてもらって近くの領主を脅そう!」
めちゃくちゃだ。
だが今のクレイマンにはめちゃくちゃ位が気持ちいい。
そうだ、進む。
その気持ちから俺は逃げていたのだ。進もう。それだけだ。
それ以上考えはいらない。クレイマンは歩を進める。家族と一緒に……。
これはクレイマン遊撃部隊と呼ばれる、普段は動物園。有事になると整然として出撃する動物たちと人間の隊長、その始まりのエピソード。
で、突撃されたマイルズは。
「……マリブさんよくやったのです! いい被検体ゲット~」
マイルズは気付かなかった後ろでマモルンが『ねぇねぇ、あれ頭丸かじりされた巨乳先輩魔法少女だよね? あれ? おれより露出少なくね?』とかブツブツ言いながら変身していたことに!
逃げろマイルズ! マモルンホールドの餌食になるぞ!
「まーちゃん様、何とかなんない?」
「全員実験にお付き合いいただけるなら何でもしましょう!」
実に楽しそうである。
「あれ? 実験って何?」
クレイマンの受難はこれからだ!
「丸雪的に元ネタはマリブさんの方が近い気がするのですが創造主様!」
丸雪(盗撮班)の声は誰にも聞こえなかった。
「とりあえずマリブさんの衣装画像をお姉さま(香澄)に送らないと♪」
数日後転移で現れた香澄が新装備をマモルンに贈るのでした。
「あれ? 俺と動物たちのいい話はどこに? 感動はどこに? あれ????」
以上、次の話に続く!





