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75「夜間行軍」

 ロバが引く荷馬車の上でだらしなく手足を伸ばす。……疲れたのです。

 現在のんびり荷車に揺られて進んでいます。

 ロバが2頭残っていたのでクローとエドメ、ポールとオーギュスタンと私で2台に分乗して次の村へと、教会軍から逃げるように南へ進んでいます。ついでに道中、以前変態王子には通じなかった地雷魔法を敷設しまくっています。

 ロバには無理をさせない速度で進めています。これでも人間が走り続けるより早いので助かります。現状ロバが頼みの綱だけに、私はロバの疲労や負傷に細心の注意を払いながら、途中回復魔法をかけつつ進ませております。……どこかで荷馬車を捨て、ロバだけで駆けてもらわなければなりませんしね……。

 さて、夜になりまだ後方から爆発音が聞こえないので野営を取ることとしました。

 魔法や魔術など無理やりは可能ですが、休めるときに休むのは人生の基本です。

 その休む時でもやることをやらねばなりません。

 私だけでトラップを設置するのは早いですが、見ての通り魔封じの手かせ・足かせのせいで使用できる魔法力が制限されています。

 不用意に使うと2~3時間眠ってしまい行動不能です。

 その為同行者である4名、その魔法属性を確認しました。特に足止めに必要な土属性魔法と草属性魔法の適性を視ました。

 やり方は簡単。彼ら4名に、それぞれの魔法回路へ『土を掘る』と『草を成長させる』の簡単な2魔法をインストールします。そして実行させてその規模を図りました。

 4人全員外れの場合、大変厳しい状況だったのですが……。

「よっし! 俺は土だ」

 リーダ格の金髪青年クロード君16歳は、初級魔法で40cmほどの穴を掘れました。他の方が5㎝前後だったので適性ありとみていいでしょう。

「あ。僕は草属性だ!」

 大人しい銀髪少年ポール君14歳は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねています。彼がかけた魔法で雑草が1m四方の範囲でに急成長しました。

 他の方は差がありますがクロード君は1本の雑草が2㎝成長。エドメ君とオーギュスタンさんは30cm四方でした……彼らにも魔法をインストールしましょう。

 私は祖父に伝授された農業魔法の中からクロード君には『掘削魔法』を。

 ポール君エドメ君オーギュスタンさんには『植物操作魔法』をインストールしました。

 これで何をさせるかわかりますか?

 そう、落とし穴とそれを隠す草。草はあとロープ状にして足を掛けるブービートラップです。

 落とし穴は簡単。

 クロード君が穴を掘り、その後ポール君かエドメ君とオーギュスタンさんが即座に草を成長させてカモフラージュする。草担当で手が空いた方はトラップ近辺に足掛けトラップとなる草を設置する。

 夜寝る前に簡易のお手本を作ると私は残った魔法力で次の村までの街道を雑草で覆わせました。もうむり。寝ますzzz


 次の日起きると何やら誇らしい顔のエドメ君とオーギュスタンさんが、笑顔で硬いパンを差し出してくれます。

 昨日と違って並走する馬車にはクロード君とポール君の落とし穴コンビが、あーだこーだ言いながら楽しそうに落とし穴を作っています。進歩の速さのお陰でエドメ君とオーギュスタンさんは完全に足掛けトラップになっております。

 ……私はと言うと、そっとその落とし穴の中や罠のない大地に地雷魔法を仕込みます。

 ……ゆっくりと流れる車窓の風景。追われていなければ一見平和な風景です。

 お昼になると魔法力切れでぐったりしたクロード君とポール君の魔法力器官に限界寸前まで外部魔法力を流し込みます。


「まーちゃんさま、ちょっと心がまえ……OH--------------------------!」

「あ、僕は大丈夫! ほらへっちゃら……AH--------------------------!」

 エドメ君とオーギュスタンさんも魔法力切れで青色吐息だったので外部の魔法力を……なぜ逃げるのですか?


「救世主様、他に方法は……」

 ないです。自然と一体化するのです。ちょっと気持ちいいだけなのです。自然に感謝をなのです。


「ひゃん、あ、あーーーーーーーーーー」

 エドメ君、女の子みたいな反応はやめてください。

 オーギュスタンさん、股間を抑えて何してるんですか?

 エドメ君は男の子ですよ?


「まーちゃん様、ご勘弁……いただけないですよね……」

 うん。自然と一体になり次からは自発的に取り込むのです。少量づつだと変な感覚はないのです。


「まーちゃん様、それ昨日教えて……うほっ!」

 ……聞かなかったことにしてあげます。オーギュスタンさん。

 お昼休憩が終わり私たちは意気揚々と進んでゆきます。

 トラップを設置しながら。いざというときの為にロバを休ませながら。

 夕方ごろの事です。


「これを皆さんに………」

 救世主の印をかたどったペンダントを皆さんに配ります。

 もちろんただのペンダントではありません。矢や初級レベルの剣技であればはじき返す簡易結界です。

 維持コストは外部魔力です。外部魔力は使い方を間違えると大惨事ですが非常に便利な動力なのです。

 使っても自分の魔法力は減らない!

 起こった現象から自然魔法力が生成されているので、エコな魔法力なのです。

 元の世界で言うと原発みたいなものです……廃棄物ですか?

 内緒の話なのです。まーちゃん、その辺見ない主義の人なのです。

 でも言っておきましょう。後世に期待! と。


 平和な旅路は……その夜、休息時間に突然終わりを告げました。

 遠くから爆発音が聞こえてきたのです……。



教都防衛軍第三軍団長テレーズの視点―――――――――――――――

 先頭を行く部隊が爆発に巻き込まれて宙を舞う。

 救世主のトラップだ。つくづく爆発がお好きなようだ。

 封印されてこれだ。確かにこれを使い魔にできれば反乱軍など……。

 魔王軍すら蹴散らすことも可能だ。

 『内乱鎮圧の為』とかのたまって介入準備をしている隣国共を逆に属国にしてやれる。


「軍団長! いかがいたしましょうか?」

 私の可愛いおもちゃ、ヤンが真面目な顔で私に問う。


「決まっている。貴様はバカなのか?」

「……教主様の情婦風情が偉そうに……」

 私は腰からムチを抜くと愚かな発言をした騎士レオを鞭で打つ。

 無様に馬上から落ちる騎士レオ。

 私はそれを馬上から見下ろし言い放つ。


「騎士レオ。貴様と平民兵どもに先陣の栄誉を与えよう」

「は? 馬鹿なのか? あんなトラップがあるのに進めと言うのか!」

「安心せよ。貴様らの信心が本物であれば神のご加護により爆発は起こらないのだろう。うれしかろう神の試練だ」

「何を狂ったのかこのくそアマ! 信仰を盾にしやがって!」

「吠えるな負け犬が、私に連日偽りの愛を囀っていた軟弱者が正義を、信仰を、何を語るというのだ?」

 そう騎士レオは私の昔の男だ。

 初心だった私はこのような愚か者の愛に騙されていた。

 今は神の、教主様より頂ける愛に満たされている。あの頃を想うと泣きたくなる。


「くそが! なんでそんなになっちまった……」

「ヤン」

「はっ! 騎馬隊、槍部隊、後列へ! 歩兵部隊前へ! ……レオ、あきらめろ。貴様は女一人守れなかったのだ……。その罰と思って進め」

「負け犬よ。私たちは貴様らに槍を向ける仕事で忙しい。その救世主の罠とやらは貴様らが神より賜りしご加護が何とかしてくれるだろう。進め。一刻の猶予もないぞ」

 くくく。救世主よこの程度の罠で我らが止まると思わない事だ。



魔王の視点―――――――――――――――

 マリブが目を覚ました翌日。リィがまだお家にいます。

 天馬でとびだすかとおもったが意外と冷静で情報が集まるここで数日待つようだ。

 教国まで天馬でも4日の距離だしな。

 無駄に動いて間に合わないより正確な情報を得たほうが良いだろう。


「魔王。貴方の所のタウが目を覚ましたわよ」

「そうか」

「どうする? 転移で飛ぶか?」

「いえ、今移送中よ」

 ん? なんでそんな時間のかかることを。


「そろそろ到着するようよ」

 そういってリィは空を見上げる。

 は? え? どういうこと? 転送じゃないよね?

 てかリィなんで空? 最速の天馬でもグルンドから1週間……。


「陛下! 龍が! 白龍が!!」

 冷静なヒューゴがうろたえている。

 いや俺もビビってもらしそう。

 だって伝説級の災害がやってきたんだぜ?

 普通に対応?

 無理無理無理無理無理!


「あ、飼い主が下りてくるわね」

「飼い主? 何言ってるんだ? あれ、伝説の災害そのものだぞ! 何者かに従うなどあろうはずがない! 居ったとしても神だ! 神であれば可能だが、神はこちらでは実体を持ってない。この世で神に最も近い大魔王様や神王だって龍を手なずけるなど無理だというのに……」

 興奮していた私だが白龍から飛び降りた1人の陰にくぎ付けとなった。

 その影はきれいな弧を描いてここに降りてくる。減速せずに。

 飛行魔法操る俺だってやばいとわかる速度で落ちてきたそれは……直前で静かに減速して優雅に降り立つ。

 あ、こいつ神王の所の新しい息子じゃないか! 確か名前は……。


「カクノシン・ムサシ・デネルバイル……」

 顔の上半分におかしな仮面をつけてはいるがこの魔法力、間違いない。 


「陛下、ご無沙汰しております。大魔王陛下に謁見した際にお会いしましたね」

 無駄にキラキラした笑顔でそういうカクノシン・ムサシ・デネルバイル。ちらりとリィを見ると「ありね、この子」とつぶやいている。ちっ。


「今はお恥ずかしい事に王家より追放されておりましてな、気軽に『カクノシン』とお呼びください」

 俺、ちょっとドキドキした。男色? ありなのかな?


「どうどう魔王ちゃん、それ以上進むとお妃さまに三行半突き付けられるよ?」

 リィ、ありがとう! 今初めてお前がいて良かったと思った!!


「すまぬリィ? 状況を説明してくれるか?」

「ん? これが白龍の飼い主よ」

 リィがカクノシンを賢者の杖でつつく。こら! それは人をつつく道具じゃありません!

 って、待て待て待て。白龍の主がカクノシン王子?

 ……いや、もう王家の席がないのか?

 ていうかなんでこんな超重要人物を国外に?

 追放ってなんだ?

 追放したら逆恨みした龍で滅亡するぞ?

 ていうかなんで神王は止めなかった?

 ……いや神王がいるから放逐しても問題ないと?

 神王の世界戦略? ……何だ? ……この裏に何がある?


「魔王ちゃん、時間もったいないから戻っておいで~そんな深い意味ないよ? きっと、外で遊びたいお年頃なんだよ?」

「リィ! そんなバカの事があるか! 龍だぞ? 龍が東に生息していたからこそ、大魔王様が抑えてくださっていたが、大魔王様がいなければこの西だって……」

「はいはい。カクノシン、早く渡しちゃって」

「うむ、魔王陛下のお茶目な一面を愛でていたいが、私も早くいとし子の元へ向かいたいからな」

「………何? いとし子って。あれこの流れって………」

「うむ、困ったことに誘拐されてしまったのだよ。私が終生見続けようと思っていたいとし子。マイルズ殿がな」

 ……。


「あー、フリーズした。しょうがないか……」

「ふむ、そんなにおかしい事なのか?」

「幼児をいとし子なんて言ったら誤解されるよ? 幼児愛者とかに」

「ふむ、愛しているから問題ない」

「まーちゃん大人になったらどうするの?」

「変わることはない」

「まーちゃん結婚したらどうするの?」

「変わることはない、何だったら私の性別を変えてやろう。はっはっはっはっは」

 ……いかんいかん! 変態トークで目が覚めた。早くこのショタコンを矯正しなければ!


「だめだ、これポンコツになってるわ……カクノシン。強制的に押し付けて」

「了解。魔王陛下、これがタウ殿の事情聴取結果と賢者殿からの苦情の山だ。きっと外交上必要になるはずだお受け取りを」

 手渡されたので思わず書類の束を受け取る…………束?


『主人よ、ここに降ろすがよいか?』

「ああ、ご苦労さん。後で大福をつくってあげるよ」

『うむ! 主人の甘味は絶品だ!』

「いとし子と開発した魚料理もいけるぞ! 熱燗と言うやつで行くとたまらんぞ」

『ふむ。さっさと助けに参りましょう!』

 白龍はゆっくりと医者とタウが乗ったベットを積んだ巨大な籠を中庭に置くと、思わず吹き飛ばされそうな鼻息でカクノシンとリィを手に乗せ再び上昇を開始する…………。


『魔王、碌に挨拶できなくてすまんな。また会おうではないか!』

 いやです。

 いやです。

 いやです。

 勘弁してください。

 現実逃避しているとあっという間に白龍は見えなくなった……あーこれ直に戻ってくるパターンの奴だ。きっと今日中かな……。

 だが、俺はこの時知らなかった。事態がすでに終局に向かっていたことを……それも最悪の方向に……。



―――

夜間行軍@教会軍!

夜間行軍!@教会軍

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