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73.6「裏切り者の記録3」

教国西部山中――――――――――――――――――――

「貴様ら! 我らが何者か知っての狼藉か!!」

 白い鎧を身に纏った初老の騎士が馬上から叫ぶ。


「知ってるさ。背教者!」

「神の言葉をゆがめる悪魔の使い!」

「お母さんを返せ悪魔!」

「おらの娘を! よくも! よくも!!」

 森から出てきて騎士たちの行く手をふさいだ5人の男性。彼らは口々に教会軍を罵倒する。それをしばらく黙って聞いていた教会軍。教会にとって搾取奴隷と認識している有象無象の民衆であっても、問答無用で殺すわけにもいかない。後処理が大変だからだ。

 やがて教会軍が彼らの排除を決定した所で、男たちのリーダーらしき男が騎士たちの前に出てゆっくりと手を上げる。騎士達はそれを降伏、そして謝罪の合図になると思っていた。


「射かけろ!」

 騎士たちへ向け男たちのリーダーが挙げられた手を勢いをつけ振り下ろされる。

 するとそれに呼応して反対の茂みから無数の弓矢が教会騎士団を襲う。

 不意を突かれ数人がうめき声をあげるも大多数は盾や鎧をもって矢を防ぐ。


「散開!」

 その言葉を合図に男たちは反転し、散り散りとなって山を駆ける。


「馬を降りろ! 槍を掲げ進め! 反逆者狩りだ!!」

 馬上から変わらず指揮をする初老の騎士こと教会所属騎士団の騎士団長。彼の表情は怒りに歪んでいた。


「おお!」

 声を上げて山に駆け出す重装歩兵部隊。……そう騎士団は『全身鎧』に包まれた屈強な戦士だった。

 平地で会えば絶望の戦士だろう。平地で会えば。しかし、ここは山。騎士達は追えば追うほど急になる斜面に足をとられ、途中張り巡らされたツタで転がる。そして体力と判断力がなくなったところで落とし穴にはまる。さらには這い出たところで落石に追われた。

 やがて息も絶え絶え進む騎士たちは木々の陰に一人ひとり吸い込まれてゆく、そしてくもぐもった声を漏らし屍をさらす。……そう、疲弊したところ次々と消されていくのだ……。

 そうやって1時間もしないで200名いた騎士団のうち追撃に出た騎士たちは全滅の憂き目にあった。相対した民兵は100名に満たないのみ……。そして『たかが民兵』と相手を侮り、兜を脱いで吉報を待って居た騎士団長は……狩人の弓矢に眉間を射抜かれた。

 荷物を護衛していた教会騎士たちは、追撃に向かい返り討ちに会った同僚騎士達から装備を奪い、完全武装した100名の民兵に囲まれ投降した。しかし騎士たちは投降し命乞いをした。だがその場で処刑された。この世界では捕虜に関する条約などない。積もり積もった恨みと言うものは教養や道徳では晴らせない。

 騎士たちを殺した民兵たちは騎士団が護送していた20の馬車を一つづつ開け放ってゆく。馬車の中からは彼らが愛した女性たちが……明日を生きていくために必要な食料が出てくる。……大切なものを取り戻せたことに彼らは涙した。

 物資を奪還し勝利を確信した民兵たちから歓声が湧き上がる。

 その場の中心でリーダは一枚の書面取り出し視線を書面に落とす。

 教都にさらわれていったシスターが、戻ってきた際にに渡してくれた書面だ。

 そこにはただ一文こう書かれていた。

『教えに生きる事なかれ、生きるために教えを使え』

 2枚目以降には具体的な対騎士団への山中のゲリラ戦法が書かれていた。

 だが1枚目がリーダには嬉しかった。

 この国全体でそうだが、教会関係者がすべてだ。

 教えが人々の上に、権力としてそびえ立っている。もし万が一破門されれば生きることを否定される。夜、指定の時間聖書を読んでいないだけで、神罰と称されて何をされるかわからない。彼らは教えの、聖書の、教会権力者の奴隷だった。

 だからリーダにとって救世主からもたらされた一文が心にしみた。

 彼らは生きてていいのだ。自分達にも価値があるのだ。好きなものは好きと言っていいのだ。……と。

 なにも救ってくれない教会があがめる神の、宗教の、教会幹部たちの奴隷ではないのだ! と。


『救世主ことまーちゃんよりみんなへ』

 署名なのかよくわからないが救世主様はお茶目な方らしい。

 著名の後ろに押された印はまごう事なき救世主の印。

 彼らにとって、彼らが正しいと証明してくれる旗印。

 彼らは笑顔で故郷に凱旋する。愛するものを取り戻し、誇りを勝ちとった英雄として。


「旗を掲げろ!」

 次々と騎士団の旗を投げ捨て、彼らは掲げる。

 救世主の印をかたどった旗を。救世主の印の下には『全てはまーちゃん様の為に』と書かれているがそれはお茶目だ。

 無論彼らが単体で動いているわけではない。

 少なくとも西部の村々は同じ動きをしている。

 北部などは都市単位での抵抗が始められている。

 もちろんリーダもその情報を知っている。

 だから行動を起こした。


 シスターが持ち帰った救世主様より賜りし神器が彼女たちの間で通信できたからこそ知りえた情報だ。

 それはもちろん切欠に過ぎなかったのだろう。彼らは単体でも行ったかもしれない。だが、彼らにとって大きな心の支えになったことは確かだ。

 醜女衆として虐げられ続けたあの日々を共にした彼女、彼らの連携はマイルズの思惑以上に強固に組織を作り上げる下地となった。その基盤を持って民が立ち上がる。

 彼らは声を上げる。これが解放の第一歩になると信じて。

 これは国が、この時代に巻き起こった聖戦と言う名の変革の一部であり各地に散らばった聖女たちの献身の成果でもある。

 後世にも語り継がれる『まーちゃん革命』その一歩目だった。




教主の視点――――――――――――――――――――

「猊下! 北部3都市連名による猊下への破門状が届きました!」

「……」

「なにを……ぐあ」

 教主は書簡を受け取り中身にを一瞥すると怒りに任せて伝令を斬る。

 たかだか地方領主が、たかだか一司祭が調子に乗りおって。


「しかし、どうされますか東西南北の村々は我らを背教者として反乱を起こしておりますぞ? さらに南方は魔王国の物的支援、人的支援もあり第一騎士団が全滅の憂き目に……。残った兵も時間の問題……」

「大司教。情報は正確にしよう。まだこちらには救世主様がいる。あれを落とし、兵器とすれば万の軍勢すらおそるるに足らん!」

 いつからだ……。

 いつから歯車が狂った……。

 【希望】にそそのかされてあのマイルズとかいう餓鬼をさらってからか……。確かにあのガキの魔法力は化け物だ。魔法適性も頭抜けている。これを人形にできれば大陸に覇を唱えられる。神の教えを世界に広められる。

 これは元の世界で歴代の聖人たちにも勝る偉業だ。

 だというのに……あの餓鬼なぜ屈しない。痛めつけても平然とし、薬により自我を失わなわない……。魔法も効いていない。呪術は無効化される。一部幹部たちがうろたえ始めた。……我ら本当に神の御子を相手にしているとでもいうのか……。

 いや! 否だ。断じて否だ!!

 その力、なんとしてでもわが手に収めてやる……。……生きていなくとも……よい……。

「ヂリウス! 兵を集めろ」

「はっ」

「大司教、将軍、私に続け。救世主様へ……最後の説法へ向かう」

「……はぁ、それしかありませんか」

「やるのは私が承りましょう」

 ああ、救世主様。素直にならないあなたが悪いのですよ。……ふふふ。




魔王の視点――――――――――――――――――――

「ああ、ルースの料理はうまいな……」

 ごめん正直味がわからない。

 そして正面に座るルースは現役時代の武装を着込んだままでいる。

 ……何かしゃべろうよ……。

「この柔らかいパンなど逸品だな」

「ああ、マイルズの発案だ」

 ……はっ!

 ここは地雷原だ!!

 タウ……マリブ……。

 マジで速くどっちか目を覚まして。じゃないと俺の胃が……。

「陛下! お食事中失礼します!」

「何か!」

 よく来た! ゆっくりすると良い!

「マリブがリッチとして覚醒いたしました」

 やったー! 毎日コツコツ魔法力つぎ込んでてよかった! 助かった!

 ああ、これでサヨナラ♪ ストレスの毎日デイズ

「うむ、では」

「まて」

 立ち上がろうとした俺をルースが止める。

「飯は残さず喰え……」

 えーーーーーーー。この人息子の行方について一番に知りたくないの?

「リッチとして目が覚めたばかりなら1時間は現世情報との適合まで時間がかかるだろう」

「はい、つい先ほど目を開きましたので今向かっても話はできませぬ」

 いやーーーー、うらぎりものーーーーー。

「食せ。これも貴様の愛する民の血税でできている」

 ぐは、正論!!

「はい…………」

「味わって喰え」

 (ヾノ・∀・`)ムリムリ!

 本当に贅沢でおいしい料理なのよ? この空気がなければね!

 そういえば最近妃を見ない…………え? 別室で応援してくれてる? 隣で! 隣で支えて!

 まっ、夜は支えてくれるからいいか!



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