73.5「裏切り者の記録2」
「この御恩、決して忘れません」
フード付きのマントを身にまとい、教会本部の裏から出た少女は振り返ると私たち一派から手渡されたリュックを涙を流しなら強く抱きしめる。
彼女の名前はロカール、まだ17歳の女の子だ。
彼女はこれから地元の教会に戻される。
地元の教会では孤児院を運営している。民思いの良いところだとか主張している。
「神父には注意するのですよ」
彼女は思い詰めた顔で首を振ると。
「神父様は大丈夫です」
そう笑顔で返してくれた。
「なんといっても、救世主様と同じことを言ってくれましたから……」
私が彼らに常々言っている言葉があります。
『信仰に生きてはだめ、生きるために信仰を利用しなさい』と。
……当然なのです。
そもそも宗教とは『人が人らしく生きるための』お助けアイテムなのです。
宗教が、教えの内容が主人公ではないのです。
それを信じる人、自身が主人公なのです。
……彼女、ロカールは醜女衆という派閥の女性でした。
この派閥の女性はとある理由からベールで顔を隠しながら過ごしています。……皆若い女性なのにです。
そして時期を見計らったかのように、一人一人時期をずらして地元に戻されてゆきます。
……そう、この宗教上層部は屑ばかりなのです。
ある女性は顔を殴られすぎて形が変わり。
ある女性は『反応が面白い』と理由だけで顔を火で焼かれ……。腕を切り落とされ……。足を折られ歩行困難になり……。髪をむしられ頭髪を失う……。そして彼女たちはこういわれるのです。
『悪魔祓いの結果だ。生きていたのが幸運だ。種は汝に生を与えた』……と。
ちなみに醜女衆には男性も同数以上存在します。
こちらは上記に加えて睾丸をつぶされたりとより陰湿です。宗教上層部は男が大多数の為見目麗しい若い男は嫉妬から執拗に課外されるようです……。
彼女・彼らの状況を知り、さすがの私も切れました。
この拘束の腕輪と足かせがなければ宗教上層部1人1人を後悔しながらあちらに送ってあげるところでした……。
ですが腕輪と足かせもカギ穴を埋められており簡単には外せそうにありません……。この腕輪と足かせのせいで『こちらの世界の魔法』使用、特に外部干渉をする魔法、攻撃・防御魔法に制限があります。……まぁ、首輪があったころは回復魔法のような体内に直接作用する魔法も制限されていたのでまだましな状況です。
ちなみに『地球産の魔術』は制限がありません。
『地球産の魔術』のお陰で助かったのですが……グルンドを襲った宗教幹部から盗み取った技術なだけに複雑な思いです。……技術には罪はないと言いますが……。
私は先日宗教幹部たちから宝物を盗み取った翌日から、目を付けていた誠実な人間であるが故に閑職へ追いやられていた反体制の皆さんを巻き込み行動を起こしていました。
まず彼女たち、醜女衆と別れる際に4つの事をお願いしてあります。
1.ここからの持ち出しは秘密。すべて私の加護という事で誤魔化す
2.村に戻ったら。芋や南瓜を育てる事
3.信仰に従順な人とは距離を取ること
4.旅の途中、過去醜女衆にさせられた人がいたら、渡した札を右わき腹に張ってあげる事
「最後にこのまーちゃん棒をあげるのです」
彼女たちに渡している物が複数あります。
1つ目は異世界魔術と回復魔術で作られた『体組織活性札』です。
失礼ながら彼女たちで実験しました。本当に衛君の実験……いえ、手術で培った技術が活躍しています。
この札は未使用の魔法力器官に干渉し、張られた人の魔法体に再生特化型の術式を記載し術式起動を本人がしなくても部位再生まで可能なことを確認しました。効果は3年前の状態までです。それ以前は体が正常な状態と認識していないため無理なのです……。ただこの札を使う事で回復魔法を習得できます。当初は効果が薄いですが研鑽を積めば使える魔法となります。
2つ目はこの『まーちゃん棒』です。
『まーちゃん棒』、シンプルな30cmほどの木の棒、その先端に魔石が付いておます。こちらを地中に突き刺すと土壌活性効果が発生します。
いわゆる大気中の魔法力をエネルギーへ変換した。肥料生成装置なのです。
あと今にも飢えて耐えそうな村々もあると聞きます。無理な作物作成で痩せたこの大地であります。
無茶な活用方法ですがれば『まーちゃん棒』は初めの数週間限定の効果ですが、作物の成長促進に影響を与える効果も生みます。
……勝さん1号が旅の途中で盗賊を狩りまくっていた際にダンジョンと言われる施設で即席栽培可能な作物を見つけております。この杖は1大限りですが、ダンジョンの作物のような効果を生み即席栽培が可能な種に変換されるようにしております。はっきり言って邪道です……ですが命をつなぐのであれば必要でしょう。
「この『まーちゃん棒』。1回目の収穫を望むときは畑の真ん中に刺してください。きっと農業神様が皆さんに施しをくれます。2回目の収穫を望む際は肥料となる効果を発揮しますのでそのように望む土地に刺してください」
私がそう笑顔で言うと感極まったのか彼女はベールを脱いで、その『きれいに整った顔』で私に抱きつきます。
あえて言いましょう、至福のひと時です。
「救世主様……マイルズ様……」
「まーちゃんで結構です」
「はい、まーちゃん様。ロカール、行ってまいります!」
奇麗な笑顔ときれいな涙です。
願わくば彼女がこの施設で味わった苦痛が、地元で少しでも癒えてくれることを願います。
「いってらっしゃ……。あ、レシピ忘れてました! 美味しいもの食べてくださいね♪ 美味しい料理思いついたら教えてくださいね~」
レシピを渡し去ってゆく彼女を見送ります。
彼女の後を腰に剣を差した教会騎士2名が追います。
彼らも私に敬礼し彼女と合流します。
泣いて抱き合っているのが遠目にわかります。
……先に放逐された男の醜女衆の人達です。
ロカールさんの護衛騎士としてついていってくれるようです。
「幸せに生きてほしいですね…………」
私がポツリとつぶやいた言葉に残った皆さんの涙を誘ってしまいました。
偽善と呼ばれるかもしれません。
ですが現在進行形で被害者は増え続けています。
私は被害者とも加害者とも同じところで生きています。
教会本部に残された醜女衆は10人の女性です。男性も合わせると30人。……ちょっと男が多くない?
中世は男色が多いBL天国って聞いてたけど……。
いやな想像してしまったのです……。
現在意識を私の泥人形へ向けると、泥人形を相手にしてご満悦の司教がいました。
これなら変態王子の方が紳士な分ましなのです!
「救世主様……」
私の参謀マドロンさん(34)が声をかけてきます。
いま彼女たちを通じて商会を買収してもらい、国外との取引を活性化させています。
そのおかげで協会本部のお宝はほぼ贋作となっています。
いってもいいですか?
ざまーみろ!
国外との商売は主に食べ物と農作物の種。あと屑魔石と呼ばれる魔法道具にならない魔石です。
見ての通り食べ物は持ち出させています。
魔石についてはそれらを利用して先ほどの『まーちゃん棒』を量産しています。魔石コピーって楽でいいですね。
金と食べ物があれば後は簡単、資金をもっていわゆる『救世主派』を結成しました。
はじめに派手なことはしてません。
このままこっそりと『今の弾圧おかしくね?』という事とと『教主様含め幹部たち、実は悪魔で女性を食べている。だからあんなにシスターの入れ替わりが激しい』という情報をまいています。
教主と協会幹部の皆さん。メッキをはがしてあげますよ。うふふふふふ。
「まーちゃん様……」
「何でしょうか?」
「ちょっとこの呼び方は……」
「ダメですか……」
喰らえ必殺! うるうるアイズ! & 上目遣い!!!
……あ、鼻を抑えた。私の勝ちなのです!
「……ああ、そんなことではないのです。ご指示の通り商会を通して国境付近の信仰の薄い街から順次施しを行っております」
「はい、その時のうたい文句は間違ってませんね」
「はい『我が神からの嘆願による農業神様からの施し』と伝えふるまっております。また、この活動に賛同者も多数確保いたしました」
「知るといいのです。テロとゲリラの恐怖を……くくく。なのです」
「はぁはぁはぁ、悪ぶってる幼児可愛い」
「ん? 何か言いましたか?」
「いえ、なにも(きっぱり)」
「で、あれの効果はどうでしょうか?」
あれとは救世主と認定されたときに渡された救世主専用の印のことです。
これはこの国で布教するときに、とある男が『自分は救世主だ』とのたまって布教活動していた時の印らしく一旦私に授ける宗教儀式後すぐに回収されましたが盗み出してあげました。
で、私たちの活動にはすべてこれを押印して差し上げます。
いや~便利。
この印のおかげで地方で暴虐する神父が、教会騎士が、この印を押された指令書で静かになるのですよ。
もう一度言いたいです。
ざまーみろ!
この国はあと数週で激動の時代を迎えます。
それまで頑張って私の形をした土人形のお尻でも文字通り『掘って』いればいいのです。……本当に気持ち悪い。
魔王の視点――――――――――――――――――――
ここ数日で北の教国がきな臭くなっている。
「アルバデデ」
「はっ、ここに」
「魔王国ではどいつもこいつも闇から出てくるわね? 流行りなの?」
リィ、うるさい。俺が一回宴会芸でやったら流行っちゃったんだよ! ほっとけ!
「教国への援助と工作活動を増員・増額せよ」
「はっ」
「確か、3歳になる救世主が降臨して色々やりたい放題しているのだったな」
「はっ、あのこざかしい国を黙らせる好機かと」
「おお、なんか王様と配下のセリフぽい! 見直した!! 魔王ちゃん」
…………まじめに仕事しよう。
「ん? まだ何かあるのか?」
いうとアルバデデ言葉を選びつつ慎重に報告を行う。
「申し上げるべきか迷ったのですが……」
アルバデデは一瞬リィに視線を送り、私の言葉を待つ。
「……良い、申せ」
「はっ、かの救世主、実は……」
醜女衆とか、うわー自国の民によくそんなことができる。
これだから人間と言うのは野蛮だ……。ていうか男の方が多いってどういうことだよ!
「その救世主が持たせているというのが……魔法力を使った超小型の魔法道具でして……その名を『まーちゃん棒』と……」
そこまで言うとリィから非常識な魔法力が漏れ始める。
「……続けなさい」
あれ? そいつ俺の部下……なんていってもしょうがないよな。続けろアルデババ! 早急に!
「その『まーちゃん棒』とやらですが、土を豊かにする魔道具でして……まるで農業魔法……あと教都で救世主に魔導具を賜った者たちに配られ『肌身離さぬように』と言われたアクセササリーですが……こちらも小型の結界魔道具でして……」
「は? 小型結界魔道具? してその効果は」
「草は専門家ではないので分かりかねると……」
「……魔王。確定ね」
リィが賢者の杖を肩に担ぎ立ち上がる。
「まてまてまて、リィよ。貴様何をしようとしている」
「決まっているわ。マイルズ救出と教会を地上から消滅させる。愚か者たちは塵一つ残せると思うな……」
怖い。この子チョー怖い。
「いやいやいや。戦争は不味い。あと教会といっても、そのマイルズと言う子供を守ろうとしている派閥もある。まとめて潰すとその子にも嫌われるぞ。あと、そんなことしたら我が国に大量の難民が来る! 勘弁だ! 割とマジで!!」
「……魔王ちゃん。私に待てと?」
「少なくともタウが目覚めて事実が確定するまで待てと言っている!」
「ほう、それが国王としての魔王の言動だな」
「ああ、アルデババ。余力ある者すべて連れて行け! 南部より教国の切り崩しにかかれ!」
「はっ!」
アルデババは解放されたようなほっとした顔で闇に消える。
「……で。魔王ちゃんマイルズに何かあった場合どう責任とってくれるの?」
「……俺の命でどうだ」
「あ? 死んで逃げる気か?」
「よかろう。俺にできる事なら何でもしよう……」
「言質は取った。魔王ちゃんの手腕に期待♪」
リーリア! 早くこの危険物回収に来て!! もうお願い!





