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72「逃亡はプライスレス…失敗ってこと?」

拷問について語ります。『』周辺は要注意でお願いします。

勘違していただきたくない内容ですが。

『世界は野蛮で日本は凄い』と言いたい記述ではありません。

逆に『世界は進んでいて日本は甘い』と言いたいわけでもありません。

平和な現代ですがつい1世紀前までは…という事実があったのですよー。主人公がいる世界は一見優しいですが、そんな世界ですよー。という記述です。誤解無きようお願いいたします。(3章で誤解を煽ったのは内緒です♪)


マイルズ拉致大作戦!

挿絵(By みてみん)

「御勤めご苦労様でした」

 私をゴミのように部屋へ投げ捨てると教主【信仰】のリエルは去って行きました。

 色々されました……。まずは指を全部折られまして……。次に爪をはがされ……、はいだ爪に針を刺され、薬を飲まされました。

 効果がないとみると回復掛けてもう一回りです。

 中世ヨーロッパ出身の人とは言え、虐待が過ぎます。

 来る前に衛君をいじって【痛覚操作】の魔法を体得していなければ泣き叫んでいましたよ。

 ちなみに【毒物耐性】も同様の経緯で得ております。

 他人を改造するならばまず第一被験者は自分なのです。当然なのです。

 ていうか可愛い盛りの幼児にこれらの拷問を実行できるなんてどんだけ非道なんですかね……。


 異世界回復魔術で体を回復させながら、私は昔拷問歴史マニアの友人の話を思い出します。

『日本の拷問なんて優しすぎて撫でてるみたいなもんだ。歴史が違うんだよ歴史が』

 曰く、日本の戦国時代を見た宣教師が『平和』と記録していたとか。

 世界の平常時が日本人の感覚からかけ離れているという事らしいです。

 確かに、史上最も残虐視される信長ですら、主教やくざとして猛威を振るっていた石山本願寺を討伐する際も『比叡山焼き討ち前に住民への避難告知を行っていた』とされています。実際の地質調査で遺骨が少なすぎる面からそう言われているとか……。


『男たる者の最大の快楽は敵を撃滅し、これをまっしぐらに駆逐し、その所有する財物を奪い、その親しい人々が嘆き悲しむのを眺め、 その馬に跨り、その敵の妻と娘を犯すことにある』

 世界最大帝国の礎を築いた英雄の言葉です。

 世界史とは『略奪と強姦の歴史』と言って良いでのしょう。

 日本のように責任者が腹切りすればその家族すら助けるような寛容などないのです。

 そんなことすれば後の世で子孫が奪われ殺されてしまうのです。


 その人が言うには

『日本から見れば欧州の何と残虐な事と思い。

 欧州から見るとバルカン半島は何と残虐なのかと思う

 バルカン半島から見ると中華圏のなんと残虐な事かと目を覆う』

 だそうです。 


『なんで戦時国際法ができたか知っているか?』

 ええ、知りたくないです。


『「やっべ、民族ごと絶滅とかやりすぎちゃった♪」とかほんの少しの反省か……』

 もう、思い出したくありません。


『おいおい、昔の話とか耳をふさぐなよ、現在進行形で百万人の強制収容所……』

 あー、あー。なのです。元の世界は怖いのです。

 つまり彼らはこの拷問が普通なのでしょう。

 体の弱い幼児。しかも、洗脳して利用しようとしている大事な体にこれなのです。

 彼らが本気を出すとどうなるのでしょうか……。

 教主がいなくなってから少しして扉が静かに開かれます。

 そこに現れたのは確か回復術師の…………確か、オーギュスタンさんでしたね。

 歳の頃なら16歳ぐらい、やせ型の金髪さんです。


「……救世主様、どうか我らをお許しください……」

 つたない回復魔法をかけ、すまなそうにつぶやくとオーギュスタンさんはそっと包みを置いて静かに出てゆきました。

 今使われた回復魔法は魔法力を伴う回復魔法、つまりこちらの世界の回復魔法です。

 ……この国の人間たちですが病的までに異世界魔術にこだわっておりました。この国ではきっと、この世界の魔法は禁忌の代物なのでしょう。先ほどの彼の扱いも……。


「……参ったものです。救えない国でも人は人なのですね……」

 オーギュスタンさんが置いていった包みを開くと硬いパンが半分入っておりました。多分彼のご飯の半分なのでしょう。

 口の中が傷だらけなので食べたくないです……でも食べないと……。私は再び『勝さん1号が学び私と共有済みの異世界魔術』を使い口の中の傷も回復させます。この魔術は確か……体組織というか脂肪内のエネルギーを使って術を起動していたはず。食べる為にエネルギーを使って回復して、食事でエネルギーを得る。……少し不毛な気もしますが……。

 ……完治しました。これでパンが食べられます。

 ……硬いパンでも十分においしかったです。きっと空腹の為でしょう。

 お腹も膨れて思います。まずいですね~。と。

 逃げないといけないのですが、逃げる方法が……。

 というか逃げても幼児1人で生きていける自信がありません。

 どうしましょうか。本当に……。



魔王の視点―――――――――――――――――――― 

「ヒューゴ、ヒューゴはどこか!」

 しばらくすると闇からヒューゴが現れる。


「あの件はどうなった!」

 午前の会議などほぼ何も耳に入らなかった。

 数日前より我が国に雨が降らない。

 きっとルカスの嫌がらせだ。

 天候魔法など魔族でも操れんというのに。忌々しくも農業魔法とか言ってはばからぬ奴の魔法は天候を操る。

 しかし、問い合わせたところで『それは不運ですな。お天道様がご機嫌なのでしょう』とかはぐらかされるのだ……。

 証拠がないからそれ以上はこちらとして何も言えぬ……。


「はっ、現在鋭意調査中でございます」

 言外に『何も分かってません』と返される。

 まずい。まずいぞ。魔神戦争以降我が国は極度に平和主義になっている。

 平和が続くと人道的とかいう言葉が……道徳が流行っている。

 現在、我が国の民は誇れるほどに道徳的だ。

 それは平時には非常に心強い。

 しかしこれから戦時になると……。いざ戦うとしたときにこの話が蔓延すればおのずと我が国は内部から倒れるだろう……。

 永延と、それこそ魔神戦争すら乗り越えた我が国が、たかだか幼児一人さらったという疑いで倒れるのか……。


「陛下抑えてください。宮廷が崩れてしまいます」

 いかんいかん。どうやら俺も平和ボケで力加減を忘れていたらしい。


「早急になんとかせねばな……宮廷魔導士のタウが関わっていたのは確かな話か?」

「はっ、転移を使えるものがグルンドへ向かい確認いたしました」

「転移の許可がまだあるのか?」

 正直驚いた。そもそもこのような緊張状態になった時一番に手を打たれるのが都市結界による転移元座標判定停止、つまり転移防止だ。

 ……我が国をなめているのか?

 それとも戦争にまで持ち込む気は無いというメッセージなのか……。


「転移許可はございますが、彼の公爵領内魔族が侵入すると魔法力が強制的に吸収される特殊結界が張り巡らされております」

 メッセンジャーは受け取るが何かできると思うなよ?

 と言ったところか。

 しかし種族指定の結界とか……あの女、大賢者はやはり侮れぬ。やはりあそこを落とすには同じ人間を使う搦め手しか……はて?


「そういえば、なぜ確認したものが戻ってきている? 馬にしても、天馬にしても早すぎ……」

「魔王ちゃーん。おいっす! 久しぶり!」

 アリリィ・ザ・アイノルズ!

 なんでこの『大陸西部最大の危険人物』がここにいる!!


「やだなー、あんたの部下が帰れないから送ってあげたんじゃない♪ 感謝してよー♪」

 最後に放たれた殺気に反応して闇がうごめく。

 やめよ! 敵対してはならぬ。そう叫ぶ間もなくアリリィのもつ杖が光る。

 絶叫がとどろいた。

 ある者は足を、ある者は利き腕を、俺を守る為に闇に潜んでいたヒューゴの部下たち20名が……一閃された。

 ただの一撃で我が精鋭たちが身体を破損してうずくまる。


「魔王ちゃん。これ私に対する殺人未遂ね。喧嘩……売ってる?」

 可愛らしく首をコテンと横にする。

 ……その手の杖はまさか! 世界最大の魔法力増幅装置『賢者の杖』か!!

 しかし、あれは機能を失って久しいはず……。

 そうだ! 役立たずの木の棒だから先代賢者に俺がさずけたものだ。


「ねーねー、お返事は? パパが来る前に滅ぼしちゃうよー」

 アリリィの目が完全に座っている。まずい。


「アリリィ殿この度は我が配下が無礼をした」

「うん、で?」

「我が配下を送迎してくれたこと感謝する」

「はいはい、で?」

「……事件についてはこちらとしても鋭意……」

「あ゛? おせぇよ。こっちは下手人をばらして脳から直接情報を引き出したいんだよ。だけど魔王ちゃんとの義理もあって待ってやってんだよ。一刻も早くするのが義理じゃねーのか?」

「……おっしゃる通りです。ですが、ただの旅行として出ているのです……なんとも」

「しってんよ。そのぐらい。……聞きたいのはな、魔王ちゃん。……誰のさしがねかって事だよ」

「…………」

「選択肢あげよー!」

 急に明るくなるアリリィ。


「黙秘か滅亡か。選べ」

 急転直下の絶対零度。笑顔の仮面から放たれた情の籠らぬ言葉だ。というか選択になっていない……。


「捜査協力をさせていただきます! こちらでの自由捜査権も差し上げる……」

「うん。いいお答えです。これはさーびーす!」

 アリリィが一回転する。

 賢者の杖から考えられないほどの魔法力が白い光となって蹲るヒューゴの配下に向かう。

 次の瞬間、彼らの傷が、損傷が完全回復している。傷跡は損傷部位の衣類の欠損だけだ。

 目が点になる。賢者の杖とはこれほどまでなのか……。


「さすが『まーちゃんの杖』。『驚きの省魔法力!』ていう、うたい文句に間違いなし! お姉さん感激!」

 呆然とする我ら。杖を抱きしめ、はしゃぐアリリィ。

 この場面だけ見れば聖女だ。だが、被害を与えたのもこの女だ。


「あ、いっておくけどこれ奪っても無駄だよ。専用装備とかで、別人が使用すると防衛機能が働くんだって。こわいよねー」

 ケタケタケタと笑うアリリィ。

 対策を立てねば国が滅ぶ……その思いが現実的になった。

 何より実行犯が我が国の宮廷の、つまり俺の直参の者なのだ。

 最悪俺の首で収めてくれるだろうか……。



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