68「白龍観光名所」
皆さんこんばんは、第一王子のジリアム・ア・アルキアです。
夜半、皆が寝静まり灯里の落ちた我らが王都に白龍が現れました。
白龍とは『あの』神王国の神王をもってして討伐不可能とし、多大な犠牲を払って和平にこぎつけた天災と称される生物です。
神王国以外で出会えば必死とさえ言われる生物の頂点。それが龍です。
竜と龍との違いは何か?
龍の外見は蛇に似ている。
都市一つ分と言われるほどの細長い胴体に複数の手足を持ち空を舞う、その姿は『この空こそ我が領地』と言ってはばからぬ荘厳さを持つ。
知能については竜も龍も高い知能を有しているが、性質上龍の方が神に近い。
かの知識の神が龍から昇った方だというのは有名な事実です。
戦闘力については言わずもがなです。
竜族が自ら公表してはばからない事ですが『龍に相対するならば竜の一族ですら総力をして引き分けるのが精一杯』と言われています。
つまり、人間の上位存在である魔族と獣人、魔族の一員と交渉されている竜、いえ竜人と呼ばれる竜族をして【神】とあがめる龍、その1体がこの王都にあらわれたのです。
我ら人間は成すすべがあろうはずがない……。
私はゆっくりと我が城上空まで下りてきた白龍を見上げることしかできなかった……。
しばらくして龍が即座に攻撃してくる様子がないことから私は周囲の様子をうかがうことにした。
私と並んでベランダから龍を見上げている国王である父上は開いた口が塞がらない状況。王城内は想定外の事態に混乱を極め、阿鼻叫喚。日ごろ訓練を積んでいる近衛も余りの威圧感に武器を取り落とすものが多数。脆弱な体制……いやイレギュラー過ぎなのだ当然か。だが、この機会にそれそれの者どもがどう動くのか確認しておく必要がある。何故ならば次代の王は私なのだから……。
私が王となることを通告されたのは数か月前。
王として、為政者として初めに与えられた課題は我が弟の更生でした。
私と張り合って王を目指したり……なんの影響なのか料理人を目指してみたり……弟の自由気ままな行動に頭を痛めていました。そんなところに龍です。……我が王道いばらの道です……。
「賢者様は!」
思考を取り戻した父上が周囲に問います。
しかし、賢者様は獣王陛下への謁見の為、3日間の予定で訪問中はずです。
「獣王陛下との交渉に赴いておられます。戻りは3日後です……」
「くっ、ルカス兄に連絡を!」
元魔導公爵ルカス殿を身内呼びの『ルカス兄』。相当父上は動転しておられる。
グルンドに居られるルカス様に早馬を出しても少なくとも1週は届きますまい。転移術師など魔王国や獣王国のような大国でなければ雇えない。故に頼りの綱であるお2人に頼ることはできない。
「今、王都に居られるのはアリリィ様のみでございます」
ちょっ! 一番危ない人が残ってた!!
賢者様とルカス殿の娘、アリリィ・ザ・アイノルズ殿はまずい。
先日お会いした時など『じゃーん! 賢者の杖レプリカげっと~。ああ、これでパパ並みの地殻変動魔法が使えるのよ! あとは火山並みの火魔法も魅力的♪』とか言っていた!
その杖はあの賢者様をして疲れ切った表情で『賢者の杖レプリカはオリジナルより危険かも……』と仰られていた代物です。
放っておけばあの自由奔放が服をきているようなアリリィ殿の事……絶対に白龍へ喧嘩を売るに決まっている。
「まずいぞ! だれぞ馬を飛ばせ! リィに『白龍にかかわるべからず』と伝えい!」
父上の……陛下の言葉にうろたえていた近衛達に落ち着きが戻ってくる。
近衛隊長の指示の下近衛兵たちは各自役割分担を行い、最低限の護衛を残して散っていった。
『貴様がここの王か?』
アリリィ殿の事で動転して白龍の接近に誰も気が付かなかった。
とっさに近衛長が父をかばい前に出る。
その行動自体意味はないが褒められるべき忠誠心だった。
だが、父上は近衛長を制し前にでる。
「そうだ、私がこのアルキア王国国王ミル・ル・アルキアである」
謁見の間など権威を誇示する場ならば威厳を感じる父上の言葉だが……残念ながら見上げて張り上げるその声に国王の威厳はない。
『まずは騒がせたことを詫びよう……』
……よかった。人間をウジ虫と認識している類の龍ではなかった。
『我はこちらへ流された我が主をさがしてにきた。人間ミルよ。知っていることがあれば教えるがよい』
白龍の言葉に思考が停止する。
『主』。つまるところ白龍さえも従える存在があること。
そして、その存在がこの王国に存在すること。
その『主』が何を思ってこの国にいるのか……。
しかし、どう考えてもそれは火種以外何物でもない……。
「まて、我らは貴殿が言う『主』という方が何者か情報を知らぬ。知らぬであれば教えようも、探しようもない」
至極当然の帰結だが。龍がそれを承服してくれるだろうか。
『ふむ。然り。では『主』の情報を伝えよう……』
この夜2度目の衝撃が私と父に走る。
主がまさかの人間であったとは……しかも私より年下の神王国人だったとは……。
その後白龍との交渉の結果、白龍へ休憩地の提供と捜査協力として落ち着いた。
『この地に住まう人間共よ! 我は貴様等に害を加えることはない! だが、我が主カクノシン・ムサシ・デネルバイル様につながる情報を持つものは、国王へ伝えるがよい! 我からも報償を用意する!!』
その夜、混乱を抑えたのは白龍の宣言でした。
しかし、神王国の神童カクノシン王子がこの国にいらっしゃったとは……。
勝さん1号の視点――――――――――――――――――――
「どうよ!」
『美味い! コゴロウの所で喰った甘味と似た味わいだが、この食感と品の良い甘さ! 人間はこれだから滅ぼせん!!』
只今ズアル王子の3分かもしれないクッキング!
……え、タイトル違う? 気にしたら禿るよ?
えっと現在この状況。つまり放送中である。ここで撮影された内容は王都内各所広場と王城に中継されている。
そして本日の商品紹介はズアル王子が漏らしてしまったので私、勝さん一号!
ゲストは東の大国からいらした白龍さんです!
白龍の情報を統合すると変態王子を探しているらしく、情報と引き換えに番組出演をオファーしてみたら快諾されました。
そして、カメラに収まらないというともらすと、自主的にこの1mサイズのミニ分体を創造されました。ええ、白龍や。
ええっと、どうやら龍とは単一の存在ではなく無限に分体創造可能だそうです。
しかもリアルタイムで情報連動可能とか……正直数万集めれば龍に勝てるとか竜が吠えているそうですが、勝ち目など端から無いなこれ。
「白龍もびっくりのリャーシャ名物カガミ屋羊羹を食べられるのはルースパン王都一号店だけ!」
『なんと! 金を出せば食えるのか! 恵まれておるのう~』
白龍さんグッジョブ!
本当にこの白龍は天の恵みだな。
先日実用化した……が、1枚が高価すぎるので商品にはできなかった、写真技術をここで観光写真にして売り出そうかな……。
「白龍さん! 明日は芋羊羹を紹介しますよ~!」
『なぜ今食わせんのだ! くそー、これが人間の罠というやつか!』
「果報は寝て待て! 待つのも楽しい時間という事ですよ!」
『うむ! では期待して待とう!』
「皆さんも、美味しいものを想像しながら寝てくださいね~。私はお先に頂きますけどね!」
『うぉーー、マサル殿それはない!!!!』
「じゃ! 皆さんおあやすみなさーい! あ、明日はズアル王子が復帰するかも! ご期待ください!!」
皆で手を振って放送が終わります。
広場では引き続き音響システムを使った演奏会が開かれているようです。
本日ご紹介した羊羹の販売はしません。数が少ないので見せつけただけです。
「マサル殿。吾輩、白龍殿でさらにがっぽりな予感がするぞ」
とダンジョン伯爵。だが、目が正常ではない。
ついでに観光写真ビジネスの話をすると喰いついてきました。
写真作るにしてもこの伯爵の所の素材が大量に必要ですからね。
とりあえずはサナエルさんの所から素材を融通してもらってブームを煽りましょう。
王都で流行ったら貴族向けのサービス展開をして……くくく、金の香りがする。
「ふふふ、マサル殿も悪よのう」
「失敬な、正しい商売というものですよ。ねぇ、サナエルさん」
「……気づかれていましたか。驚かそうと思ったんですがね。しかし、魔宝技師様は中々の商人ですね」
「いえいえ、しがない一介の研究者ですよ……くくく」
遠巻きに見ていたアーリンさん。お子様二人にこちらを指さして「ああなってはだめよ。大人として」等と言ってます。聞こえてますよ?
ともあれ、白龍とのwin-winの関係が始まりました。長くても1か月! その間に稼ぐぞ!!
ん?
本体向けの芋羊羹?
すまん!
全部売り切るつもりだ! 許せ(笑)
どうせ怒りは勝君の改造プランに全部向くはずだし。
多分いい方向だ。きっと。中途半端になるよりやり切ったほうがいい!
…………うん。これだ!
その頃芋羊羹を奪われた幼児の視点――――――――――――――――――――
「お婆ちゃん。何やらすっごく王都に向けてロンギヌスを落としたくてたまらないのですが……」
「色々聞きたいことがあるのだけど、まずは王都で何かあるのかしら?」
「虫の知らせなのです。マサルさんという名の悪魔が芋羊羹販売計画を立てているような気がするのです。ほぼ確信的に」
祖母が苦笑いします。失礼な。
「芋羊羹好きなの? 食べたこともないのに?」
「お婆ちゃん。勝さん1号と私は一部感覚共有ができます」
「へぇ」
「美味しいもの食べた日などは否応なく強調されます」
「なら食べたことあるんじゃ?」
「でもそれは他人の口なのです。感覚共有も現実味が薄いのです! つまり、とってもリアルなお土産話を事細かに自慢されてる気分なのです!」
勢いで言い切ると喉が渇いたのでお茶を頂きます。
紅茶です。
そして衛君のお土産である羊羹を一切れ。
「緑茶をつけてくれなかった勝さん1号はきっと私に反逆の意思があるのです!」
「いや、さすがにねぇ」
祖母はあきれて手元の資料に目を向けます。
『マモル君改善プラン!』
「この副脳って何?」
「毎回発言がアレなので、サポート思考機能です」
「却下」
企画書に『却下』と大きく赤筆を入れられます……解せぬ。
「で、このサイコガンって何?」
「何というか慌て者なので安全策として、右手を義手にし光学魔導兵器の発射装置を組み込もうと!」
「却下。今肉体的損傷はないのよ?」
再び企画書に『却下』と大きく赤筆を入れられます……解せぬ。
「次このニュータイプ理論ってなに?」
「これ眼玉機能なのです! まず脳に刺激を加え拡張するように培養して、外部感覚共有など新時代の宇宙に対応できる人類創造……」
「却下。うん、これ香澄ちゃん呼ぼうかしら。らちが明かないわ」
再び企画書に『却下』と大きく赤筆を入れられます。
不当な評価なのです!
衛君の改造をもって人類は外宇宙への夢を一歩踏み出すのです!
「一歩踏み出して人間の領域踏み越えてるよね?」
「うぐっ」
とっ尊い犠牲は魔術の発展につきものなのです!
「かすみちゃーん」
待つのです!
悪かったのです。お婆ちゃんには見つからないようにやるのです。
なのでご勘弁を!
とある宗教幹部の密談――――――――――――――――――――
「希望の! かたずけてきたぞ!」
俺は【希望】のディニオに依頼された教会幹部殺害依頼をこなしこの拠点に戻った。
幹部のくせに歯ごたえのないやつだった。泣いて助けを乞うてきたのは面白かったがな。
奴が弄んで殺した女の娘に刺させてやった。神の慈悲よ。くくく。
「お疲れ様です。報告聞いてますよ。また、遊びましたね」
「よかろう、聖人たるもの正しきをせねばな、がははははは」
「まぁ、結果オーライでよいのですがね…」
そう言って書類に目を落とす。
奴が俺を見ないのは珍しい事だ。
曰く「貴方が目の前にいるのに目を離すと何をしでかすか……」とか、言いえて妙だな。
「【信仰】についてか?」
「ええ、我らが教主【信仰】のリエルが思惑通り動いています。元主の、親代わりと思っていた【博愛】からの報告書がいたく御気に障ったようで……くくくく」
【希望】のディニオが悪い笑顔である。こういう時にこいつは放っておくに限る。
「ふむ、俺が手を出せんのはもどかしいな」
「やめてください。万が一に成功すればそれでよし、失敗すれば奴の派閥ごと消し飛んでくれるのです。今から態々虎の尾をふみにいかないでください」
軽く茶々を入れると思った以上に必死に言われる。
「わかっている……ああ、暇だ」
「それならば、長期で東帝国に出張してください」
「それはいいな! あの地戦乱が耐えんというしな!」
俺はそういうと【希望】のディニオが入れた紅茶を一気に飲み干す。
「【正義】のドゥガ、後ほど命令書を渡します」
「承知した次期教主よ、いや次期教皇猊下とよぼうか?」
「馬鹿なこと言うものではありません」
ディニオの顔が歓喜に歪んでいることが見て取れる。
くくく、それでいい。
お前は俺に刺激(戦場)をくれる。
だからそれでいいのだ。





