51「変態働け」
俺の名前は竹中衛。今年高校卒業する男だ。
そんな俺のちょっとだけ胸糞悪い話を聞いてくれるかい?
……ありがとう。じゃあ、ちょっとだけ付き合ってくれ。
……俺はここ異世界へ来るまでに周りの変態たちからひどい目に逢わされてきた。
変態たちはどいつもこいつも……揃いも揃って……恋愛脳の馬鹿ばかりだった。
いや、俺だって恋愛してるけど……。
でも、それがすべてじゃないし、物事の中心じゃない。
生きるってことはそれがすべてじゃない。
動物じゃないんだぜ?
……はぁ……さて何から話すべきか……。
まず……いや全ての元凶、男と女の幼馴染2人からかな……。
とりあえず……好きあってるなら勝手にくっつけと。俺にかまうなと言いたかった……。
でな、女のほう、香澄ってんだがこいつが俺を好きだったらしい。
俺? 興味ねぇ。
周りは香澄のことをほめたたえ、俺をうらやむ。
美少女? 純粋? 可憐?
あの目の奥に潜む不気味なものを知ってる俺的には『恐怖の化け物が外骨格奇麗にしてる』ようにしか見えねぇよ。
で、それに惑わされた男のほう。
英治っていうのが拗らせてな。香澄を襲っちまったらしい。
ちなみに英治は美男子だ。
性格は微妙だが特別注目していたわけでもない俺ですら、英治が告白されたのを5度も見かけている。爆発しろと思った。
そう、英治はモテる。
だから女遊びも激しかった。
正直、高校生でこれなら大人になったら救えねぇな。
……とか思ってた英治が何故だか香澄にぞっこんだったらしい。
香澄を襲った英治の殺し文句が『これが衛にばれたらどう思われるかな』だそうだ。
……かわんねぇーつうの……。
さて悲劇に酔ったヒロイン。
エロインと言っておこうか、香澄だが……見事に快楽にも酔ったらしい。
これ見よがしにやりまくるもんだから、目撃すること多数だ。
はじめの頃は『くっついたのか、ゲテモノ幼馴染コンビ……』と気楽だった。
何故なら、なんだかんだ言いつつも俺の眼から見れば香澄も英治も幸せそうだったからだ。
……しかし事件は起こる。
それは高校3年の夏休みだ。
馬鹿たちの行為が始まって半年、ついにばれる日が来た。
そう妊娠だ。
避妊くらいしろよ……ゲテモノコンビ。
ああ、これで卒業後晴れて結婚だな『幼馴染として盛大に祝ってやろう』そして俺は晴れて関西の大学でシングルライフだ。
そう…………気楽に思っていた時期もありました。
香澄があの主張を始めるまでは……。
「レイプされたの……嫌がる私に何度も何度も……」
いやいやいやいやいや。お前、楽しんでたじゃん。
『英治君好き好き!』ってバカでっかい声で叫んでたじゃん。
そのまま幸せにお成りよ。何を拗らせたの? 未来の夫も横で唖然としてるよ?
そして意を決したように提出される証拠の数々。
ほぼ毎回動画で嫌がる香澄に英治が#あの殺し文句を使い犯していた様子が映っていたらしい。
……かばいようのない完璧な証拠だった……らしい。
そして英治はあっさり退学になった。
さらにメディアにまで売りこまれた。
知っての通りマスコミは自重をしない。彼らにとっての正義は情報を流すことにあるからだ。しかも大物政治家を輩出した地元でも有名な高校の不祥事である……。
あっという間に英治一家全員実名がバレてしまった。
英治の妹は素直でかわいい子だったが、学校で性的ないじめを受けて(英治のやったことをやられそうになったらしい。やった子供は『お前ん家じゃ普通なんだろ?』とかいわれたとか……。いじめた側は正義のつもりだったらしい)……見事に引き籠った。
俺は英治や香澄よりもむしろ『英治の妹と仲が良かった』のでこれが一番ショックだった。
英治の親父さんもお袋さんも仕事をしていたけど、取引先すべてに情報が漏れていた。
とある打ち合わせで客先から『いいお話ですが……御社、いえ貴方とは……』と言われたらしい。
遠まわしに英治の両親は仕事を否定された。
社内でも居場所がなくない、連日陰口が絶えなかったらしい……。英治の両親はあっさり精神的に参ってしまい。2人とも現在休職中だ。
きっと、英治が懺悔に懺悔を重ねて首を吊るまで、英治の周りの不幸は終わらないのだろう……。俺の知っている香澄と言う女はそういう女だ。
えーっとつまり。現在英治の周辺はすべてこんな感じ。
調子に乗って香澄を抱いた英治の友人。抱いてない友人も含めてすべてな……。
女を脅迫して抱くなんてクズの所業をしたやつも、それを煽り助けた奴も、どうしようもなく自業自得だと思うが……。正直、やり過ぎである……。
さて俺の周囲だが……、事件後クラスメイトや学年の人数が減ること減ること。
学校側としても表立たせたくないとして、穏便策を打ったが……これが見事に逆効果。
教育方針から教師一人ひとり。さらには校長の横領など他の不祥事まで暴かれて学校自体空気が悪い。
一応ここ有名進学校なんだがな…………。
さて、それを主導した香澄は毎日俺の家に来て、何故だか俺の部屋の前で泣いて謝ってた……。
やめて、マジでやめて。これじゃ俺が悪いやつみたいじゃん。
行こうとしてる大学、難関大学なの。今大事な時期なのに……。
周りからも『もうそろそろ許してあげても……』と言われ始めた。
……いや! 俺の気持ちは? 俺の意思は? というかやだよ、あの性悪ビッチ。
根本的に嫌いなんだよ。受け付けないんだよ。
ご近所づきあいだから、昔から知ってるから話せるだけなんだよ?
ねぇ、声かけたらうれしそうに明るくならないで。先生からの用事を伝えるだけだから。
いやだ! 何か外堀が埋まってゆく。
いや、ちげーから。照れ隠しじゃねーから。こら! そこの女子、噂してんじゃねー!!!
…………そんな感じで俺は狂いそうだった。
肝心の勉強も芳しくない。
異世界に来る直前なんか血迷って香澄を抱こうとしちまった。
手を握った時点で気持ち悪くなってトイレ直行で助かった……。
「まだ…………なんだね。でも私頑張る」
…………呪いの言葉だった。
神様。いるなら助けてくれ。お願いだ……。
そう思いながら学校を出ようとしたところ、突然地面がなくなった。
気が付くと荘厳な神殿の前に横になっていた……。
俺を助け起こしてくれた人は、後で知るのだが、神官さんだった。
俺の背中から出る白い光を見て色々と教えてくれた。
ここは魔法の存在する異世界であること。
ここは神々が近くに存在する世界であること。
元の世界には戻れないこと。
過去こちらに来た連中が悪さしまくって異世界人は偏見にさらされること。
異世界宗教はさらに悪質だったので十字を切るだけで白眼視されること。
俺たち兄弟は昔から近くの教会に通っていたから違和感があった。
あそこの神父さん正月盛大に祝って門松飾ってたり、盆踊り楽しんでたり、クリスマスパーティーにご近所のお坊さんと神主さん呼んで七面鳥焼いて朝まで礼拝堂で飲んでたりしてたな……。
そういや、娘さんの受験の時は神社で熱心に拝んでたな……。教会でやれよ……。え、やってる? ご利益ありそうなら何でも! ですか……。当時の俺はそれよりも神父さんが持っている一升瓶と、妙にソワソワしつつこちらを伺っている神主さんが気になったのを覚えている。
あれ? 教会ってこんなんだっけ? って思ったのである。
世界史で興味を持ってちょっと調べたけど、中世ぐらいの教会ってすっごい残虐。
今のテロ組織もかすむぐらいの非道、外道の連続。
あ、そうか! その頃の人たちがこの世界に来て、同じ乗りでやったら盛大に嫌われるよね……。
一通りの説明が終わると俺は神像の前に連れていかれた。
この都市ポリナルで唯一存在する神殿が運命神らしく、通常は異世界人の審判など上位神である運命神はしてくれないらしいのだが『物は試しです』と全力の笑顔で言われた。……結構こいつら気楽だな……。
で、運命神と会いました。
「はーい! 地球人君! 災難だったねー。いや、神の救いだったかなーw」
『w』って言葉に入れるなよ。単芝はやすな!
「ぷぷぷ、いやさ。君の地球での災難を視たけど、面白かったよー」
なんかこの女むかつく。
「あはははは、上級神の特別権限をもって地球に強制送還してあげようか?」
「マジっすか?」
「うん、できるよー。こう見えてもそこら辺にいる低級神とは比べ物にならないくらい偉ーい、神様・だ・よ♪」
「……」
「帰らないなら力余っちゃうからちょっと能力プレゼントするよー」
「残ります!」
ノータイムで言えた。うん、香澄のいない世界のほうが幸せになれる。そんな確信がある。
「ほっほう! おっけー。じゃ―まず、その欠陥を治すねー」
俺の体から光が収まる。背中の熱が収まってゆくのでそうなのだろう。
「次~、運命神の加護~」
額に熱がこもる。焼き印でもされたような痛みが走り思わずもだえる。
「最後~、能力の種。これは君が何か運命のめぐりあわせで才能に目覚めた時にスキルとして発現するよー」
心臓を掴まれるような痛みが走る。
「じゃ、楽しい異世界ライフを! ……っていってみたかったのよwwwww。あ、香澄ちゃんだっけ?………………逃げられるといいねwwww」
以上が神様との邂逅だ。
元の世界に戻ると神官さんがひどく驚いていた。
そもそも、運命神と邂逅できるのは本当に稀なようで、さらに審判(どうやら過去と未来に至るまでの罪を視られたらしい)されたらしい。神官さん曰く『加護を受け、能力まで賜るなんてこちらの世界の人間でもほとんどいないよ! 少なくとも私は初めてみた!!』と興奮気味だった。
その後も色々とあったが……とりあえず……当面俺はこの都市でこの世界の常識を学ぶこととなった。
判ったのは文明レベルは高くないが住みやすい世界であると言う事だ。
何より心が病んでいた俺にとって日一日と癒されている事を実感できる快適な世界だった。
……ただ、運命神がいたずらにいった最後の一言が忘れられない……。
俺はあえて不安を心の奥底へ追いやり、心機一転この世界で人生を楽しもうと思う。





