47「本当の悪に美学などない」
「……読んでください」
ポチとタマが座る席まで行きジンパに関する記事を差し出します。
「良い記事じゃの。記者を褒めて遣わそう。特に聖女の下り」
分かっていってますね、ポチよ。それは宣戦布告と言うやつです。
「女装解除を要求します。これは我が家の名誉にかかわる事態となりました!」
ポチタマは困ったような表情で『しょうがない』と言いかけたところで親衛隊の面々が口をはさみます。
「マイルズ様。却下です」
「全校生徒の意見として許可できません」
「むしろ男子の服など仮装にしか見えない。すでにあなたは女の子なのです!」
「誤解だとしても面白いのでご継続ねがいます」
ぬ。なんだと……。
そんなに女装を受け入れられているとは……。
いや、待て私!
今一瞬、受け入れようとしてしまった!
「ふむ、全校生徒の意見とあれば無視はできん。マイルズの意見とあらば無視もできん」
ポチはそこで手を打つ。
「では、勝負するがよい!」
は? 何言ってるんですか? ポチ?
「だから、己を通したければ勝負して決めよと言っておる」
親衛隊メンバーから闘志が湧き上がっているように見えます。
いいでしょう!
名誉にかけて受けて立ちます!
「うむ! 両者良い顔をしておる!」
満足気に立ち上がったポチはその場に居た生徒全員に宣言する。
「皆の者! 儂はここに王女として宣言する!
互いの意地を掛けた勝負の開催を!」
ふふふ。何の勝負になろうが負ける気がしませんよ。くくく。
「勝負の内容は……」
皆集中します。
「ファッションじゃ!」
……? 何しゃべってるの? このお犬様。
「開催は2日後! 大講堂にて行う!」
あっれー、何? 私にとって一番無理な分野なんですけど……。
「以上じゃ! お互い励むように!!」
……ぽつりと残された私。
権三郎はアレですし。
私もアレなのでセンスなんかかけらもないのです。
ピンチです。ピンチなのです!!
当方に暮れる私に……、その時天使が舞い降りてきました。
「マイルズ様。よろしければ私がお手伝いしますよ」
……親衛隊長! あなた本当ですか!
「ええ、大船に乗ったつもりでご期待ください。必ず勝ちましょう!!」
「おー! なのです。ふふふふ勝ち目がでてきましたよ!!」
知りませんでした。
最大の敵は……常に味方に居るという事を……。
そして、ウキウキの私は当日迎えるのでした。
秘話! 獣王国食の聖女伝説4「午後のまどろみ……幸せは身近に」――――――
優雅におやつを堪能した私。
変態王子はこれから投資先との打ち合わせがあるらしく去っていきました。黄色い声とともに……。
私はお昼ご飯前にもう1項目測定のために移動しております。
「あ、マイルズ様だ。いらっしゃい。お待ちしてましたよ」
……ん。なぜ親衛隊長、あなたがここに?
「はーい、お着換えの時間ですよー」
目が怖いのです。ここは撤収なのです!
……権三郎。この手は何ですか?
「先日のファッションショー、不覚にも記録容量の関係で録画できませんでした。」
ほほう。良いことではないですか。
「……先日そのことがリーリア様に伝わってしまいまして……」
祖母ですか……。うん。権三郎。苦渋の決断風のセリフですが、楽しそうな表情ですよ。
「では、おばあちゃんには私からきつく言っておきますので……」
はい。無駄でした。
その後親衛隊長主導によるお着換え会が開催となりました。
「そーいえば、ここは何の測定なのですか?」
「被服型魔法道具適性検査です」
……。
うん。
くそ。
正しい検査か。
なんもいえねー。
「あ、検査お願いします」
「はーい、検査していくので1番の布から魔法力流してくださいねー」
……・
「……」
「……」
「はい、あなたは火属性の魔法道具と相性がいいようですね」
「去年より適正値増えてる! やったー」
「いいなぁ……私も火属性が良かった……」
……。
「……」
「……」
……。
「……」
無言でお着換えさせてるその服は何ですか?
布で良いのですよね?
というか計測してましたか?
「……かわいい、プライスレス……」
親衛隊長。横暴です。
「計測?あ、」
『あ、』ではないのですよ計測の教官。
「もう2・3着お願いいたします。あ、マスター可愛いポーズと笑顔ください」
権三郎。その使命感の燃える視線は何ですか?
カメラマンに目覚めてしまったのですか?
「マスターの御姿を後世に残すのが私の使命!」
言い切りました。微妙にそのマスター、反応に困ります。
「マスター、いい笑顔です。ありがとうございます」
「……なんだかんだと、ポーズも表情も良い。マイルズ様さすがです。さすがのチョロインです」
『さすチョロ』とか言っちゃだめですよ。
というか、反射なのです。
私が皆さんのリクエストにお応えするのは調ky……じゃない皆様の教育のたまものなのです。
叔父さんが少女趣味に目覚めたわけではないのです。
そう、私が本当は『娘が大好きなお父さん』だからこそ!
ポーズや表情を理解しているのです。そう、おじさんスピリッツなのです!
「はーい、検査が終わった人~、1分見たら次に行ってくださいね~。はいそこ! 飴で餌付けしようとしない! マイルズ様が真ん丸になってしまいますよ! ……あ、それはそれで可愛い……」
……。今餌付けって言いました?
ねぇ?
餌付けって言った?
ねぇ? 鼻を押さえて親指立てるのやめませんか?
ねぇ?
ねぇ?
ねぇ?
シリアスさん? 私とあなた。相性悪くないですか?
「そんなことない。俺のことを知ればやめられなくなる」
危ない薬みたいなこと言いますね。
「そんなことはない。君のお友達の、衛君や香澄ちゃんも契約してるよ? シリアスさんとの契約は人生でとっても大切な契約だよ?」
新興宗教みたいなことを……。
「神を信じましょう。きっと救われます!」
自信満々なのです。そういわれるとそんな気もしてきたのです。
「さぁ、じゃあ。ここにサインして。今なら洗剤3か月分と野球の観戦チケットがついてくるよ! そして! 今回だけ! マイルズ君の為だけ3か月無料キャンペーン! くそ、もう赤字だ! でも、マイルズ君とは長くお付き合いできるって叔父さん信じてる!」
……。
「…‥」
サインすると思いましたか?その営業方法3流以下ですよ?
「何のことでせう?」
その後10分ほどシリアスさんとのにらみ合いが続きました。
「…………マスター……マスター……」
優しい権三郎の声です。
「ちっ、心の隙に付け込めると思ったのに厄介な奴がそばにいたか……」
あなた何者ですか?
「……いずれわかる。事実を知った時に後悔するがいい! 野球観戦チケットを手にできなかったことを!!」
あ、サッカーファンなので間に合ってます。
「……浦和のチケットもあるよ?」
サッカーファンがみんなあのチーム好きだと思うなよ?
…………
……
「マスター……あ、お目覚めになりましたね」
揺れる感覚と思い瞼。あ、そうかお昼の後の撮影会で疲れて寝てしまったのですね。
ふと目に入ったのは夕日。
……そんなに時間がたってしまいましたか……。
「マスター……。こちらが本日の測定結果になります」
渡されたの一枚の羊皮紙。
……。
身長体重とか健康診断っぽいことした記憶が……。
「お休み中に検査を実施いたしました」
……。
視力『精霊眼』ってなんですか?
「『精霊眼』をお持ちなのでそもそも視力測定不能という事らしいです」
精霊眼……。
まぁ、いいでしょう。でも色々気になる記載の中で一番気になったのは……。
「なんで魔法力測定の結果に莫大な金額が書かれているのですか?」
「触れた瞬間大破しましたので損害賠償額です」
「……」
「尚、獣王様が嬉々として建て替えてくれました」
「……」
「『うまく貸しを作れた! 皆者、大義である』だそうです」
あうち……。
とある異世界宗教の7大幹部、その1人――――――――――――――――――――
「フィラント様……教主様より……」
兄(部下)が文を差し出す。手渡してしまってよいかという苦悩の表情である。
若者よ。組織と個人で苦悩しているのか、優しいことだ。だが、それは重要なことだ。苦悩するがよい。判断とは、知識とは、考え、思い、悩んだ先にしか身につかんのだ。
「……ご苦労」
「(……中はおっさんなのに、可愛い。守りたくなる。何なのこの気持ち……)」
儂は組織のトップである教主からの文を渡してよい物か、己が役職への正義と人として正義の狭間で揺れる兄(部下)から文を受け取り封を開ける。
…………。
書かれていたのはグルンドでの諜報活動がうまくいっていることと3名の幹部を既に潜入させ英雄の生活圏で工作を始めているという内容であった。無論、儂の活動がうまくいっていないことへの苦言も書かれていた。この世界に来て儂との立場が逆転したこともあり、儂への指摘・叱責の部分は妙に長く、筆が乗っている。何とも小物よ。しかし、世の中得てして小物が大きな事件を引き起こすものだ。この荒唐無稽な西大陸を混乱に陥れる計画も……、もしかしたら考えもつかぬ事象を起こすかもしれん……。しかし、コムエンドの潜入か……確か【希望】のディニオと【正義】のドゥガと【節制】のバルニフェルディアスか……。うむ。間違いない。教主はディニオに手玉に取られておる。
儂はあの人の良いを浮かべる策謀家ディニオを思い浮かべる。財源を担当し、各国の裏とつながる男。そんな男が簡単に教主の【派手な】計画に乗るだろうか……。
そうだな。きっと、別な計画を進めていたディニオの元に制御不能なドゥガと、裏切りの聖女バルニフェルディアスを無理やり押し込んで計画を押し付けたのだろう……。
という事は失敗してもディニオの思惑が働くに違いあるまい。
そうなるとある程度の【損切】を行われるであろう……。
後始末はバルニフェルディアスと儂か……。
厄介な……。ここで派手に動くことは得策ではないか……。
クラーケン計画がギリギリであるな……。
などと思案しておると何やら頭頂部に違和感がした。
「……何をして居る?」
「フィラント様……町娘であれば髪飾りの一つもするものです……(うん、妹可愛い♪)」
「……そうか、儂がそのようなことに疎い故、毎回苦労を掛けるのう……」
「いえ、フィラント様のご苦労を思えば……(次は何にしようか……服かな? いや~妹が幼かった頃を思い出してきた~~w)」
儂はこのように気遣える部下がおる。ここはひとつこの者たちを守るためにもひと踏ん張りせねばならんな……。
そう気持ちを改め、儂は職場に向かうのであった……。





