28「変態がいなくなったとある平和な国」
悲しい事に変態王子にとって女性との触れ合いは『政務』のようです。
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その龍は戸惑っていた。
親愛なる主が今まさに目の前で、取るに足らない人間共に罵倒されている。
彼の目には、雌が3匹嫌味たらしい言い方をしているのが映る。
しかし罵倒されている龍の主は、そのようなこと全く意に介していない。
そもそも龍の主は興味がないらしく大きな欠伸をしている。
それが雌共の逆鱗に触れる。音量が上がる。龍はうるさくてたまらない。
そもそも主の親より主の為と呼び出されたのだが、この時間の無駄はどこまで続くのだろうか……もう寝ていいかな? 龍はそう考えて眠る。
1時間ほど熟睡していた龍の主とその龍。まだ叫んでいる雌たち。
龍は意識を取り戻し、もういいだろうと首を振る。視界の端に同じく暇そうにしている兵がいた。
龍は自分に乗ろうとしている、刑の実行を確認する任を帯びているであろう、兵に告げる。
『もう面倒くさいからこいつと主をもっていけばいいか』
念話で伝えられた兵は龍を恐れながらもうなずく。
それを確認すると龍は吠える。驚愕の表情で黙った雌たち。
龍は片手に主、もう片手に兵を持つと言い放つ。
「人間共よ、主とその父に免じて、今行われた『目に余る無礼』は許してやろう。だが次見えた時は餌にする。覚えておくがいい」
龍はその体をくねらせて空に飛び出す。そして上空で高速飛行仕様の風結界を展開すると主の父に指定されたポイントへ飛ぶ。片道15時間といったところだった。
目的地に到着すると丁度太陽が上り生物たちが活動をしている時間帯だった。
龍は名残惜しそうに主を放す。主の今のレベルだと死んでしまうかもしれないと思ったが、この程度で死ぬ方ではないなと思い直し投棄する。
確認の兵に落ちていく主を確認させると龍は華麗に反転し、国へと戻っていった。
もどる途中たまに風の結界から兵を出して悲鳴を楽しんだのは、龍にとって当然の権利だと龍は思う。
帰還すると珍しい事に主の父が出てき、報告を受けていた。
龍はここで餌を所望した。許可が下りたので主の投下を見てせせら笑った醜い餌を喰らった。
しかし、あまりの不味さに一口食べて吐き出した。そしてブレスを吐き出し消し炭に。龍は片付けのできる龍だ。
自分の住処に戻り龍は想う。あの主が近いうち戻ってくるだろうと。
その時再び主を乗せて飛ぶ自分を空想しながら眠る。
たぶん1年ぐらい寝たら何か変わるだろうと。
変わらなかったら迎えに行けばいい。もうこの国にも飽きたところだ、丁度いい。
その程度の認識で龍は眠りについた。
とある侯爵令嬢の視点――――――――――――――――――――
初めましてカミラ・ディバーンと申します。今年で15歳になります。
突然ですが私には婚約者がいました。
婚約者はこの伝統ある神王国12王家の1家の王子。しかも、神王陛下の実子でした。
彼は10の時、我々の世代で唯一神に会った。しかも初めから高レベル。それから4年経った今ではどれほどまでレベルを上げたのかわからない。大人たちと並んで魔物討伐に行く姿はすでに貫禄がありました。
勉強に関しても入学前よりすべて終了しており、何を学びに来たのかという状況。時折民草の生活に交じり遊んでいます。彼は何になる気なのだろうか。これから貴族の、政治の、世界に飛び込む御人。しかも血統としては、陛下を除けば最良の血統です。貴人として負う責任は他より重いはずです。
それこそこの国は、大陸中央で圧政を敷く国家のように、貴族の識字率が3割すら超えなくても血統で許される腐った国ではないのだ。私はこの婚約者を見ると、この方でいいのか? という思いに毎晩苛まれる。
王子が私の事を見ていないという事に気づいたのはいつ頃でしょうか。
まるで奴隷でも見るような目つきで私を見て微笑んでいる王子がいた。気のせいかと思った。気のせいだと信じたかった。
3年たったある日、私のところに王会議より書簡が届きました。
内容は簡単である『王選の儀を行う』と書かれていました。彼への課題は『人間関係』だった。ああ、この国はよく人を見ている。そう素直に感嘆しました。
翌日彼を誘惑する役の男爵令嬢と、王選委員である12王家の方々と打ち合わせを行いました。
計画は順調に進んだ。男爵令嬢と触れ合う王子をみても特に何も感じませんでした。
結果、高等学院の卒業パーティーで私は婚約破棄を突き付けられました。
『王選の儀』は失敗。
その場で取り押さえられ連行される王子。なぜだか特に感想もなさそうです。
いえ、嘘だ。その目は激しく失望している目です。
私は直感で『この王子すべてわかった上でやった』と分かりました。
知っていた。知っていた事実が頭に来た。
私との婚約はそれほどとるに足らなかったというのでしょうか?
彼にとってこの国はそんなにつまらないものだというのでしょうか?
彼は『女の色香に負け、神王が取り決めた約定。神の決定に背いた罪』で瞬く間に刑の執行へと進んでいきました。
刑が執行される当日、私は王子の前に立っていた。
この私を眼中にも置かなかった王子。
全てを持ち、全てができる王子。
死刑に等しい刑を受ける直前だというのにピクニック気分の王子。
そんな顔、私の前で一度もしたことなかったのに!
私とハニートラップの仕掛人である男爵令嬢は激情に駆られました。しばらくすると龍が面倒くさそうに王子と監視の兵をもっていってしまいました。
その後数日、気持ちの整理がつきませんでした。
なぜでしょうか……。なぜ、王子は私達よりも、この素晴らしい国よりも『良いものがある』ような、すがすがしい顔をしていったのでしょうか。
もし、もし、王子が私たちに料理をふるまってくれた時、私たちの反応が違えばどうだったでしょうか。
企みを見抜いていることを教えてくれたでしょうか……。
私たちに少しでも興味を持ってくれたでしょうか……。
持って生まれたことを、不幸、としか思っていなかったことを、思い直してくれたでしょうか……。
もう彼はいない。そもそも私は彼に何の想いもない。
そう、それでいいのでしょう。
明日父が新たな婚約者を紹介してくれるらしい。
もう任務の事も話してよいのです。私も年相応の想いをこの胸に抱こうと思います。





