128.5「はげ親父ピンチ! 依頼主が音信不通。これじゃただの裏切り者」(後編)
連日の体調不良から復活の巻。
「zzz」
「ふふふ、こうしてみると普通の幼子の様ですな。ティリス殿」
「……ベットが浮いていなければ普通の幼児ですね……。ところで貴方は本当に竜なのですか?」
マイルズが寝返りを打ちタオルケットがずれ、お腹が出ていると竜人学者デスガルドはタオルケットを優しくかけなおす。そして陰に潜んでいるはずのティリスに同意を求めた。
ここで『竜』と『竜人』について説明しておこう。
『竜』とはこの世界で生まれた最強の生命体である。
対して竜人とは原生動物が知恵を得て、獣人にあこがれ、進化した種である。
獣人とは精霊種の進化系体であり、世界の狭間に漂う『本来有り得たかもしれない人であった自分』をもう1人の自分として認知し、『2つの体を持つ』生命体である。
遥か昔、『原初の竜人』そう呼ばれた最強の竜がいた。
その竜は知能に目覚め、文化を持ち始めた竜のなかで最強とよばれ、全ての者を支配する気でいた。
最強と呼ばれた竜はその力をもって竜たちを束ね、集団を作った。
そこで最強の竜は思った『強く偉大な私に別種族も恭順し、生き残るために糧を私たちに捧げるべきではないか?』。自分は最強種の最も優れた個体。すなわち最も強い生命体だからその権利があるのだ、と。
最強の竜は隣接する土地に生息する獣人に知性と力を見せつけ自分に従うように要求した。
だが、次の瞬間最強の竜は地に落ちていた。
今でこそ個体数を増やすために力を落とすことを選択した獣人であるが、当時の獣人は村人1人でも竜など空飛ぶトカゲでしかなかった。
最強の竜は次々と落とされていく同胞を目にし、力の差を思い知った。そして仲間を見捨て、恐怖のあまり糞尿を垂れ流しながら、逃げた。
逃げながら最強の竜は悔しさを噛締めていた。だがそこで感情に走らないのが『知性』を誇ろうとしていた最強の竜だったからこそである。
集落に戻った最強の竜は自分を『落ち目』と勘違いし、襲って来た者どもを返り討ちにした。そして集落で実験を始めた。最強の竜は執念深かった。常識として『生まれ持った素質』だけでその種で最強になることなどできない。『最も』と呼ばれる者達は皆、粘り強く、そして最後まで考えることを止めず、足掻いて足掻いて足掻き続けるのだ。途中で甘えてやめるようでは最強になどはなれない。
最強の竜はそういった最強の中でも度し難いほど『あきらめの悪い』竜だった。
数百年。
竜の寿命が凡そ千年といわれる中で、そのない時間をかけて最強の竜は他種族を検証し始めた。
人類。そのカテゴリの中で最も弱く、最も数の多い人間を攫い、コロニーを作り様々な実験を行った。
そこで竜たちは魔法という物を知る。そして魔法に自分たちは適性が少ないことを知る。
時間が経ち、最強の竜が老成してきたころ、竜の中で不満が爆発する。
約半数の竜たちが集落を抜け、文化を捨て、そしてモンスターと化した。
最強の竜は魔法力に染み付いた悪意にそまりモンスターとなった挙句、襲い掛かってきた竜を殺した。
最強の竜は、竜全体をモンスターと勘違いし、それまで互いに不干渉を不文律してきたことを一方的に破り、集団で襲い掛かってきた人間を殺した。
そして最強の竜は思った。
『何故こうもこいつらは簡単に変われるのだ?』
竜はモンスターになり身体能力を向上、更には特殊能力を手にしていた。
人間は魔法力を扱う事で魔力適性を手にし、レベルを上げる、つまり肉体の構成自体を変化させていた。そして、意識を認識を心情を簡単に変化させ敵対してきた。それは特殊能力の様にも見えた。
それから最強の竜は『変化』というプロセスを検討し、そして可能な限りの事を試みた。
食しても変わらず。繁殖は不可能。体を分析して不明点が増えるのみ。試しに『人を育成しレベルを上げさせる』『集落を離れた竜が苦悩をする中モンスター化する』等を観察してみたが、神の御業を理解などできず不明点は増えるのみ。
ある日最強の竜は空を飛びながら思った。
『何故私は空を飛べるのだ?』
大きくない、退化し始めの羽に対し肉体は頑丈にできているため、鈍重である。
だが無理なく負担なく飛べている。
そこで彼は羽を使わず飛ぶことを試みた。
はじめは失敗した。その試みは『手を使いコップを持っていた』のを『足のみでコップを持つ』ことに等しかった。つまり可能性が0%ではないことであった。
数日後、最強の竜は希望にあふれた晴れやかな表情で集落にもどり、宣言した。
『私はこれから進化する』
竜たちは思った。長年集落をまとめ、種を守ってきた偉大なリーダーがついに老いてしまった。
竜たちは死の寸前になると知性が無くなり、獣に帰る。
集落に残った竜たちにとってその姿は生を否定に等しく、自死する者が後を絶たなかった。
だから『ついにこの日が来てしまった』竜たちは悲嘆にくれた。
だが、翌日竜たちは希望を目にする。
最強の竜は村の中心部で羽を使わず浮いていた。目はきつく閉じられながら、口元は笑んでいた。
1日、1週間、1か月と過ぎ変わらぬ最強の竜の姿に竜たちは希望を抱き始めた。
集落を維持するのに必要な人員を決めると年嵩を増した竜たちから次々に最強の竜の周りに集まり彼の技を真似始めた。
それこそ一朝一夕ではできない。
だが竜たちは食事をしながら、未だ空に浮かぶ最強の竜を見て思った。
『我らも続く!』
竜とて生命体。しかも巨体を維持するためにはそれ相応の食料が必要である。
だが、最強の竜はあれからずっと食事をとっていない。しかし、その体が朽ちる兆候はない。生命力に満ちた体のまま、身動き一つせず空中に浮かんでいる。
幻。そう噂されるも最強の竜から影が差すとそれも消え去る。
それから1体また1体と宙に浮き、食事をとらなくなった。
そして、最強の竜から数えて400体目の竜が浮かんだときそれは起こった。
最強の竜が消え、彼が浮かんでいた直下に人がいた。
『見ろ、これが進化だ!』
最強の竜こと原初の竜人は高らかに宣言した。
その後数十年をかけて集落の竜は全て竜人へ進化した。
竜人たちは国を興し、周辺の竜たちを束ね、より高みを目指した。
しかし、増える竜に対して竜人の数は増えなかった。他種族と交わっても子を残せず、唯一残せた人間との間には人間しか生まれなかった。
故に未だ一般的には竜と竜人の区別がついていない。
各国首脳部でさえ『竜人とは竜の国の奥地に住まう高位種族』程度の認識だった。
「異なことを仰る。私が竜人ではないのであれば何であると?」
ティリスの質問に首をかしげる竜人学者。
「……竜人は獣人に対する本能的な恐れを抱いているはず。そしてマイルズ殿は獣王国の入り婿となられるお方。……竜人のあなたが怯えずそこにいるのは不自然……」
「……何故でしょうね……。私も不思議です。……事実を知った今でも、マイルズ殿は愛しむべき幼子ですし、趣味友でありますな」
カラカラカラと音を立てずに笑う竜人学者にティリスは鋭い視線を投げかけながら数分沈黙。
「……そういう事にしておきましょう。今のところは……」
「何やら手厳しいですな」
「……魔族は竜の強かさを忘れていない……。それだけ覚えておきなさい……」
『いや、竜と竜人は違う』と言いかけた竜人学者だが、言葉を飲み込み諦める。竜人にとってこういった偏見はよくある事であった。
「おら! 学者と生贄の子供! 遺跡が見えてきたぞ!!」
こうしてマイルズは予定通り死の国の遺跡にたどり着くのだった。
---禿親父視点
「……はぁ、来ちゃいましたね。。。」
「……ご到着ですね。して、宰相閣下からは何と?」
馬車の隊列を眺めながら私が呟くと横に並んでみていたつるっぱげのファフリ君が小声でささやいてきます。
「……え?」
「あ、お気づきになりませんでしたか?現在こちらに残っている8割の者は閣下直属の者どもにございますよ。ムライ殿」
「……おやおや、これは私が1本取られてしまったようですね……」
「ええ、閣下より『仕上げ前に不穏な空気を出さぬように操作せよ』と命ぜられております」
「……ほう、ではあの彼女も仕込みでしたか?」
「いえ、本気です。恨むっすムライさん」
一瞬にしていつもの軽い調子に戻ったファフリ君。私は毒気を抜かれてしまいます。
「宰相閣下……ですか、……音信不通なんですよね……いま」
「……えっ?」
間抜け顔で私をのぞき込むファフリ君。
いえ、困っているのはずっと私なのですよ?
あとで知ることになるのですがその頃、国境線へ進軍中の姫の軍に衝撃的な報告が入っていたらしのです……。サプライズはもう結構なのですがね……。
ここまでお読みいただきありがとうございました。





