128.3「はげ親父ピンチ! 依頼主が音信不通。これじゃただの裏切り者」(中編)
寒暖差で発熱……。
え、今週末最高気温が13度?
ファンヒーター出さないと……。
「どーーーーしてくれるんすか! ムライさん!!!」
ツルッパゲのファフリ君が私の胸倉をつかみ叫んでいます……。あれ?私ここを占拠した組織の重役なんですが……。おかしくない?
「今日は以前から話してた彼女との記念すべき付き合って30日記念のデート日だったんです!!彼女にきらわれたらどーすんですか!!!」
「落ち着きなさい。キチンと使者を送って彼女の了承を得ています。そもそも彼女デートについて忘れていたらしいですよ?」
「うわーーーーー。聞きたくなかったーーーーーーーーーーーー!!!!!」
叫びながらも発掘作業を続けるファフリ君。真面目です。
「俺は今日が結婚記念日だっただよ!!!!」
隣の班の新婚リヤン君が叫びます。叫びの連鎖ですね。
「安心してください。領主様の印を偽造して領主命令という資料をお見せしたそうです」
「公文書偽造!」
……イラッ。
「ちなみに、イケメンの使者を出したらやたらとお茶に誘われたらしいです」
「あんくそあまーーーーーーーー!」
夫婦喧嘩は犬も食わぬ。うんうん。離婚原因は私じゃありません。全ては事実なのですよ。
さてさて、そんなこんなで私がしっかし交錯しているため、皆さん真面目に作業していただいております。……しかし、彼らには危機感という物がないのでしょうか?
「……貴方を信頼しているからですよ……。同じ釜の飯を食った同僚。俺達はまだ貴方なたを信じしています……」
髪をそり上げているため、発言が徳の高い僧侶の様なファフリ君。
「ですので、本当に裏切ってたりしたら信頼が憎悪に裏返しっす♪ 彼女と別れたら……」
「……待ちたまえ……、脈がほぼなしの彼女に振られるのまで私の責任にされては……」
「脈、あります! 『髪が無くてもお金があれば大丈夫! 愛せるわ!!』って言ってくれたんです!!」
「堂々と下種!」
「潔いその発言に惚れました(照れ)」
……照れる要素ありました?
まぁ、そんなこんなで労働者サイドは現状維持を続けてくれています。
そもそも遺跡中枢部直前まで発掘作業は進められており、あとは遺跡の解析作業でした。
この大遺跡ですが、実は『異世界人技術』と『魔法力技術』の2層構造となっております。
『異世界人技術』の区画は以前に発掘済みだったのですが、技術者がおらず放置されておりました。ですが、現在は大挙して現れた異世界宗教勢力が占拠し、遺物解析から起動直前まで進めているようです。……遺跡占拠から2週間で脅威の速度ですね……。その力と情熱をもっと生産的なことに回せないのでしょうか。つくづくもったいない人たちです。
『魔法力技術』の区画は現在最終区画を発掘中です。
両区画とも古代遺跡は表層部分が破損しているだけで、深層部は健在ということが30年前に神国から来た異世界人との混成調査団が報告しています。
死の国は放置し、悪用されることを恐れ発掘し管理することを選びましたが……。
警備を強化する直前のタイミングで現状です。
……まぁ、宰相様と謀ったのですがね。死の国の現役組中枢は双方から一杯食わされた格好です。宰相様は謀に気付かない現役組を採点しているらしく『再教育』と決断しているようです。
「ああ、この後進捗報告会か……。めんどくさいな……」
「あ、ムライさん。ワインの支給量増加で!」
ファフリ君の発言に周りが同調します。
「……ダメですよ。やつらの1宗派は禁酒とか言っていますが、どいつもこいつも薬も酒も大好きなやつらです。下々には禁酒を強要しますので、要望すると削減されちゃいますよ」
私は周りからのブーイングにため息を吐きながら階層をあがり指示塔に向かいました。
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「眠い会議であった」
ドゥガが眠気を噛むように欠伸を噛み殺している。
そういう事はぜひ私から遠い席でやっていただきたい。
労働者の待遇を守るために、一生懸命に交渉し、譲歩を勝ち取った私は疲労困憊だっていうのに……。
一見一枚岩で今日この組織に見える異世界宗教だが、内実多くの宗派に分かれて争っていた。
歴史は繰り返す。
かつて地球の歴史がそうであったように、宗教とは人に寄り添うものである。
だが、人からの信頼、人からの依存は、時として力をもつ。
世に力を集約し管理する者、それを権力者という。
権力者の敵はいつも既得権益者、つまり既にいる権力者である。
宗教もまた同義である。
しかして、宗教は民衆によりそう建前がある。その為大ぴらに権力者を排除できない。
故に彼らは手段を取るのだ、誰もが嫌がる社会基盤を積極的にこなし、基盤を元にじわじわと権力に、政府に浸透する。やがては宗教ありきの政府に仕立て上げ、国の、王の、政府の上に立つ者として権力を牛耳る。
異世界宗教、原点が同じだけで手法や思想信条も違う。同じ文章を呼んでも解釈が違う。
だから彼らは異教よりも異宗派を嫌う。
大事なものに対する理解の違いは根本の違いなのかもしれない。私が地球に居た頃世界的に脅威となっていた。私の敵達も大陸で同じ党名なのに血みどろの殺し合いをしていた。
さてそんな前提で現状を鑑みてみよう。
異世界宗教でこの場に駆けつけている宗派は3宗派。
1つ目は平和を訴え、そしてこの国を平和的に支配しようとしているは宗派。
2つ目はこの世界に見切りをつけ、地球帰還を望む宗派。
3つ目は……。
「つまらん奴等よ。折角この国全土を覆う龍脈、その中央点を握ったというのに呪術一つながさんとはな…」
ドゥガ率いる死の国全土の奴隷化を望む宗派だった。
「……ドゥガ様。危険思想もほどほどに……」
この場においてドゥガの戦闘力は最強である。しかし、数千と集まった異世界人の中では少数派であった。如何なドゥガとはいえ最低限地球魔法を扱える者どものと多勢に無勢の戦いは……きっとすまい。
「何、ちょっと病を流行らせ、神の慈悲と直してやるだけよ。平和的、平和的」
ガハハハッと笑うドゥガはやはり凶悪である。その平和的作戦でどれだけの人間が死ぬと思っている。
「ドゥガよ、余計なことをするな」
ドゥガの隣から2つ目の地球帰還を望む宗派のトップ、アリウが腕を組んだまま不機嫌そうに口をはさむ。幾つになるか知らないが、老年には似つかわしくない高身長引き締まった体と気の弱い人間なら射殺せそうな厳しいまなざしでいつも不機嫌そうに見える異世界宗教の重鎮である。
「ほう、これは異なことを呪い好きの神敵呪殺の【知恵】、アリウ様とは思えぬお言葉だな」
そうなのだ。アリウは異教徒への救いは死、という危険思想の持主で彼の得意技は呪病と呼ばれる病を流行らせることだ。私が知る限りそれは専ら異教徒ではなく異宗派に使われているのだが……。
「このような救う価値もない世界に煩わされるだけ無駄よ。貴様もその信心、地球に戻ってから使うといい」
……彼が帰還派で助かった。
「まぁまぁお2人、冷静に。私たちは同じ神を慕う同士ではありませんか?」
最後に口を挟んできたのは最近の私のストレスの大本、ディニオである。
ディニオとはいつもニコニコと人の好さそうな笑顔を浮かべ、親切そうな発言を繰り返す詐欺師である。年の頃なら20歳程度にしか見えない。だが異世界宗教の最古参。いわゆる化物である。
そして彼が『平和的に死の国を支配』する宗派のトップである。実際に幾つもの国を『民衆の力』で転覆、陰に日向に支配し、教団をここまで大きくした功労者であった。
そしてここに至っては隙を見て『聖域化』の呪術を龍脈に流しこうもとする。
毎日彼が動かす刺客(といっても善良な教徒)を説得し押し返す日々だ。
……ああ、胃が痛い。
「おや?ムライ君腹痛かい?それなら良い薬があるよ?」
「いえ、お心だけいただきます。薬は自分のがあります故」
「そうかい?……でも必要になったら言うんだよ?」
「はい……」
誰が言うか。お前の薬を飲んだらどうなるかが怖いわ!
この一見良い人が一番の悪魔だ。
「かっ、偽善者が」
「異端者め。神の裁きがあらんことを」
ドゥガとアリウは吐き出すように言うと目を背け、やがて歩き去っていった。
「あらあら。皆平和が一番なのに……ね?」
『困ったちゃんだね』といわんばかりの愛嬌のある顔で言うが、最後に私へ殺気を飛ばすことも忘れないディニオ。ぶっちゃけあんたが一番怖いわ……。
……。
宰相様。
早く連絡くださああああああい!
こんな変質者と殺人鬼ばっかりの奴等と、何故か俺を信頼しきってのほほんとしてる奴等ばっかりじゃ俺の精神がやばい!
ここまでお読みいただきありがとうございました。





