127.6「魔宝技師、無双す(後編3)」
寝てしまった・・・
勝は地球に帰らなければならないのです。
置いてきた家族の為に。彼女の為に。勝は地球人なのです。だから級で生きねばならないのです。
だから手段は探さねばなりません。
しかし、幼児では何もできません。
それはこちらに来て1週間で知った事実です。
地球の様に豊かな科学文化ではなく、リソースの少ないを分け合って生きるこの世界では尚更待っ盛られるべき幼児は何もできません。
では、他の人がやるべきなのでしょう。
大人に頼るべきなのでしょう。
だから私は使える者は最大限使っています。
この死の国もその1つなのです。
「ティリスさん何の心配もございません。大船に乗った気分でどうぞ」
「……魔王様が仰られていました。『大船って言いだしたらきっとそれは幽霊船。最大限の警戒をせよ」……と、何となくわかった気がします……」
失礼な。オープン・ザ・閻魔帳! 魔王ちゃんページも増えてきましたね。……どうしてあげましょうか(幼児スマイル)。
「儂はマイルズ殿が良ければそれでよい。いざとなれば身代わりになろう……」
竜人学者さん。だからその代わりに私の手元の遺物に興味津々なのやめません?
まるで私が物で釣っているようではありませんか?
「おお、これだ! この遺物こそ長年の謎を解明する最後のピースだ。さすがマイルズ殿これを再起動するとは恐るべし幼児! 略して、恐ろしい子!」
どこをどう略した!
ドン
「やかましいぞ!」
和気藹々話を続けれ私たちに馬で並走していた教会の方が切れて馬車を蹴飛ばします。
現在私たちが乗っている馬車は魔王国で作成したホバー馬車ではなく現地調達のおんぼろ馬車です。なので蹴られると余計な振動が加わります。
「まーちゃん。殺ル?」
「いえ、きっとお友達が増えて気が大きくなっているだけなので気にしないでください」
私は追走している20騎の騎兵を確認しています。
この数、彼には多く感じているのでしょうね。今行動している教会関係者の数に比べたら……『たった20騎』なのですがね……。
「……。マイルズ殿。殺ってくる」
「ノーです。ステイなのです」
竜人学者は先程の部品を解析中に揺らされ、日光を浴びてはいけなかったであろう部品が変色して遺物が動作しなくったのが相当頭に来たらしく、口の端をひきつらせながら怒りの表情です。
「もう1個あげるので、がまんするのです」
「……。ふむ、仕方ないな……」
「はははははは! 主よ! あなたの愛を感じます。耐え忍んだ長い年月が今報われようとしています!」
ハイテンションの教会関係者の笑い声に、私の近くにいる若干2名が苛立ちながら我々の馬車は北へ向かいます。
~~死の国首脳部~~
「共和国を追われた……いえ、捨てた教会軍が国境付近になだれ込んできています」
「防衛軍はどうなっているのですか?」
「想定外の規模の為住民避難で精一杯です……」
死の国王都、宰相と偉大なる先達たちが不在の中で起こった共和国軍の侵攻。死の国王都は蜂の巣をつついたような喧騒に包まれていた。
「して宰相閣下はなんと残されていた?」
「馬鹿者! 居ない人間に頼るなど己には国政を任されたものとしての誇りはないのか!!」
国防という目的達成の為、最も確実な手段を取ろうとする派閥と先達からの独立を、誇りを主張する派閥の喧々諤々とした話し合いは続く。やがて……。
「もう埒が明かぬ! 私が1万の護衛軍を率いて南西へ向かおう。共和国を逃げ出した有象無象など何万、何十万来ようと敵ではない! お主らは他を警戒せよ。方法論はもうよい。目的を果たす議論をせよ! 陛下! 私、姫将軍キアナとその軍は只今をもって出陣、共和国侵略軍を駆逐いたします!」
「……はぁ、すまんな。妹よ」
「……兄上……政に私情を持ち込まれますな……」
王女キアナは優しき王こと兄の言葉に苦笑いを浮かべ表情を崩す。
「キアナ、中核都市での防衛に徹せよ。……どうやら宰相が何やら仕掛けを施しているようだ」
兄王が疲れた様子で一枚の紙をヒラヒラと振る。
「御意」
勢いよく返事を返すと、どこかで安心感を得た様な表情のキアナは謁見場から出ていった。
「さて、皆の者。情報とは武器である。言われるがままなのは不甲斐ないのも理解できるが、ある情報を考慮しないのは愚である。今より宰相の情報を精査し、また議論をしようではないか。少なくとも南西の共和国対策は……どうやら問題ではないようだしな」
死の国は大きく動き出していた。
後日宣言通りキアナは魔王国東部へのけん制の為出陣準備をしていた軍から足の速い部隊で軍を編成し、南西へ出陣していった。
その夜、王都では国体を揺るがす事件が起きていた。
「馬鹿な、どうやって侵入した……そしてどうやって……」
そこは死の国最奥に厳重に管理された聖王の間。
365日24時間眠る必要ない最強の護衛である氷の女王が主人を守る部屋。
氷の女王は不死の先達の中でも最強の魔法を持ち、近接戦闘も神王国より伝わる薙刀を駆使し騎士団長と並ぶとうたわれる女傑。
その女傑が……ある朝消えていた。
部屋に安置されている聖王には傷1つない。
氷の女王の失踪を疑われた。だが、部屋内の戦闘痕がそれを否定する。
いや否定したかった……王と死の国をかじ取りする者たちは最悪を想定する。
最悪の状況……それは『不死の先達』が教会に操られてしまう……そんな悪夢である……。
可能性は……少なくなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
明けましておめでとうございます。





