118「獣王際!でてこい!ウッサ」
いつもおっさん3歳を読んでいただきありがとうございます。
2月に始めたおっさんももうすぐ一年。
職を変えたら修羅場さん登場で、1週間更新になったり。
ダンジョン農業が書籍化したり色々ありました(発売は来年春です)。
では、6章「突撃隣の獣王飯」最終話です。
「52番ムハルジェ、神獣の御子様に心を込めて歌います~!」
犬型獣人の男性が手を振り上げ、歌い始めます。マイク片手に慣れない舞台の上ですが、拳の入った熱唱でした。お世辞にも上手ではありません。ですが、元々こちらの世界の歌はヒーリーングミュージックのようにゆったりとしているので、特に音程がはずれても気になりません。野太い声で音程を外していようが、神に感謝を伝える歌には変わりないのですから。
さて、なぜ私がここ神樹の森の端に作られた【特設舞台】で、歌の審査員をしているかと言うと……話は8日前にまでさかのぼります。
~~~マイルズの回想、8日前の獣王の間
「お隠れになるって……」
「いや違うぞ……言葉通りだ」
何のことでしょうか。
「説明は私が……」
獣王様の横に立っていたウサギ型獣人の女の子、ピンクの髪が特徴的な15~16歳の可愛らしい女の子です。これは勝さん1号の毒牙にかかる前にお帰りいただかねば……。
(本体、それはひどい……偏見だ! 冤罪だ!)
だまれ、ハーレム太郎。
(太郎??)
あなたは明日から勝さん改め、『生まれてすみません ハーレム太郎』です。
(ちょっ、俺の存在をこの世に生み出したの本体なんだけど……)
しょーがないのです。製造者責任として一緒に謝ってあげます。
「……あの~、……………………………………………………………どうしよう。こんな可愛い幼児にガン無視されてしまいましたわ……」
ウサギ女子はお嬢様口調でオロオロしております。かわいそうなので聞いてあげましょう。
「すみません。ハーレム野郎……じゃない、ちょっとした身内と念話しておりました。失礼」
「え、そのお歳で念話もできるのですか……」
ウサギ女子は自信を失った様子です。……が、額に手を当て天井を見上げると『ドンマイ私。がんばれ私。私はやればできる子。努力の子。天才にコンプレックスなんてないですわ』とかぶつぶつ言っています。可愛らしい子から、可哀そうな子にランクアップしてしまいそうです。戻ってきてください、ウサギ女子。
「失礼。お話をしていただけるのでは? あと、おねーさん何者ですか?」
「マイルズ、失礼であろう。この可哀そうな子は、神樹様に仕える神使様なるぞ」
「……あれ? 獣王にディスられました? 私の聞き間違いかしら? でも神使なのはあっておりますし……」
「タキ丸様は立派な神使にございます。細かいことは気にされてはなりませぬぞ!」
「はい! 獣王、ありがとうございます! ですわ。 私、神樹様に眷属として召し上げられた元聖獣のタキ丸ですわ!」
つまり、このポンコツウサギ型獣人女子は元聖獣にして神樹様の神使?という事で、今から神樹様関係のお話があるという事ですね。
「あれ? あっさり状況把握されたようなお顔ですね。まぁいいでしょう……。マイルズ殿、ご説明する前に、神樹様より賜ったありがたいお言葉を伝えます…………」
そこまで言うとウサギ女子(本当に神使?)が咳ばらいを一つ。
「『まーちゃん! 娘が次元の狭間に引きこもっちゃったの! 遅めの反抗期なの! どうしよう! ……ということで、どらえm……じゃなかった、まーちゃん! 助けてー! といって丸投げします。宜しくなの!!』です」
ウサギ女子は頑張ってモノマネしていますが……、イライラします。
「事情の詳細は……」
つまるところ、正式に神様になったウッサは神様としての役割をいただいたそうです。
【地球の神獣】
管理神として優秀な神が多い世界だそうで、新神を送り込むにはうってつけの世界だそうです。
ですが、一つウッサにとって大きな問題があったのです。
『行くは安し、戻るは難し異世界……なの!』
だそうです。つまり、この世界に帰省しづらい部署に配属がきまり、ウッサは……次元の狭間に引きこもってしまったそうです。
「神樹様曰く『信頼と安心のまーちゃんなら任せて大丈夫なの!』らしいです。マイルズ様、いえ幼女様。何卒よしなに……」
……ねぇ、なんで言い直した?
幼女様ってなによ!
てか私は男なのです!
ん? ……ひらひらスカートのメイド姿? ……くっ殺せ!!
(本体よ。状況はまるっと理解した。そして解決策も見えたが……あまりにも……。仕事の丸投げって人間として最低の行為だよな……)
なのです……。……勝さん1号。ふと思ったのですよ。
素人参加型の歌番組、……からのカラオケシステム販売…………。尊きもの(お金様)のオーラ(輝き=物理)を感じます。
(本体……。お主も悪よのう……)
くふふふふ、お代官様ほどではございません……。
(かかかかか)
ふふふふふふ。
という事で、良い笑顔の幼児を見つめるこの国のお偉方が、青い顔して一歩下がったところで私たちは動き始めました。
そして7日の準備告知期間を経て現在なのです。
システムとしては王都、獣王都、魔王都の大広場を借り、神殿楽団の演奏をバックに素人参加型の予選会を開催し、一定の基準を超えた人からこの神樹の森の浅いところに作られた特設ステージで歌を奉納。
ここのステージすごいのです。神樹の森の木々、実はすべて神樹様のお子様で(子だくさんです)、ウッサほどの自由度はないです。それでも家族のピンチに神聖な力をふり絞って助力してくれました……。
彼らは演奏者への照明・演出を担当してくれています。
しかも時間経過とともにどんどんノリに乗ってきたので演出が上手になっています。
やがて枝を使って出場者とハイタッチなんかしています。
……ウッサのピンチ……だと理解してます?
その様子を見た神使様曰く『……こんなにはっきりと喜んでいるの初めて見ましたわ……』だそうです。神樹の森の木々さん、普段は無口キャラのようです。
……皆さん。両親がアレとアレであれば反面教師として無口になりますよね。うん。
さて、その両親はというと10番目ぐらいに夫婦で歌っていました。
あなた達は……歌を奉納される側!!
……ツッコミで疲れます。
今でも3時間ぐらいおきに『まーちゃん、出番まだ?なの』とか聞きに来ます。
神獣様に至っては子犬の分身体で常に私の傍にいて、そわそわしながらチラチラ視線を送ってきております。地味なアピールを続けておられるようで……。
……仕方ないので、後でスケジュールに組み込んでおきます。
……でもね、あなたたちが歌っている間、歌が聞こえる範囲のすべての人類種がひれ伏しているんですよ?
獣王都では8割がたの獣人が涙を流して感動にうち震えていたらしいのですよ? ん? 人前で歌うのが気持ちいい? ……うん。神様ってそんな感じですよね……。
さて、予選会場ですが、初めは受け入れられるか不安だったのですが、現在徹夜組が現れるほど盛況です。それだけ待ってもすぐに鐘を鳴らされて終了という事もあるのですが……皆さん満足げにまた並ぶようです。……参加することに意義があるというやつですね。うん。大丈夫か? この国。
さて『なぜこうなった』のか理由を考えてみました。
初日、つまり昨日。オープニングをミリ姉に飾っていただき続いて獣王様、我が家の祖父、そしてなぜかうっきうきで現れた魔王様が歌い始めました。
ていうか魔王様、神様って……ん、普通にあがめている? ああ、そうですね。地球のファンタジー基準じゃないですもんね……。
まあ、要するに各国で尊敬される要人たちが歌い、楽し気に談笑している姿が中継されてしまい。興味があるけど恥ずかしさが前面に立っており、参加を見送っていた人々が一気になだれ込んだのだとか……。一応、国民には人気あるんですね……あの不良中年達でも……。
そんなこんなで1週間続けて行う『獣王様主催! 新たな神獣様誕生祭!!』略して獣王祭を行っております。その裏でサナエルさんと勝さん一号でカラオケシステムへの投資検討を行っていただいております。ん? インサイダー?? 残念!! そんな言葉は異世界にはないのです!!
そしてこれは正当な商売なのです。
不当利益ではないのです。
なので現在、私は両サイドからがっちりキープされております……。
獣王妃様、魔王妃様、ご安心ください。
儲けの仕組みは両王家にも流れるようにします。はい。
色々心労がたまる私の目の前、何もない空間に一枚の紙が現れます。
『まーちゃん、私も歌いたいです。 ウッサより』
いそいそ返信を書いて送りました。
『却下なのです』
あなたは最終日に降臨予定なのです。
トリなのです。
自重してください。
……誰ですか? 『目的を置き去りに手段が目的になっている』っておっしゃった方! そのあたり私がぬかるとでも御思いですか? え? あ? いつも抜けてる……。過去のことを気にしてはいけないのです!! 未来志向なのです!
という事で、ウッサが引きこもっていた原因ですが……。
既にあっさり解決しております。
簡単でした。
ウッサは『地球配属になると旦那様とイチャイチャできなくなる。嫌!』だったのです。だから、こう伝えました『神宮司君の分身体、地球にいるよ。しかも、ちょうどいまフリー』。
『いきます! そして分体と本体を直結してもらってイチャイチャするの!』
うん。神宮司君ふぁいと♪
……嬉しそうな泣き言が聞こえますが……無視しましょう。
さて、あと6日間!
先行投資的な意味合いのお祭りですが!
頑張って稼ぎますよー!
「まーちゃん殿、笑顔が怖いです……」
役立たず系ウサギ女子タキ丸さん。だまりなさい。
~~~~~~~世界の果て、とある少年
「あははははははは」
映し出されたバカ騒ぎ。
能天気な祭りを前に彼らの偉大なる主は、お腹を抱えて笑っている。
「流石だよ。さすが光の神。君がいるところは皆能天気に優しい光を放つ。世界はそんなに優しくないのにね………………」
100を超える眷属神たちは彼、王座で笑い続ける少年を前に膝をつき頭を上げない。いや、あげられない。今、主を見てしまえば自分たちは狂う。それを知っているから。だが、彼らは皆そっと笑む。
「………………でもね。その優しい光は僕のものなんだよ? わかってるかな。君が下等なもの達にそれを振りまくだけで僕は嫉妬でくるってしまうんだよ。ああ、やっぱりこんな世界壊してしまおう。僕に君の光を照らさない世界なんて必要ない。力にもどして次を作ろう。次は闇だけに仕事させる世界にしよう。君は…………………………………僕のものだよ………………………………………」
少年は映像に手を伸ばし、そして怪しく笑う。
彼らには多くの呼び名がある。
世界の安定を崩すもの。
世界がある限り存在し続けるもの。
それが彼ら。
その王座に座すもの。
それが少年。
「そろそろ、始めよう。………………………………………今度は僕の手に残っておくれよ。愛しい光よ」
少年のゆがんだ笑いが空間を満たし、少年の臣下たちに力を与える。
そして、世界の各地で混乱は巻き起こる。
それは少し先の話。
おまけ~
専用の映像投射機を前にその男、神王コゴロウ・デネルバイルは悦に入っていた。
「面白い。面白いのう」
満足げに髭を撫でる神王にそばに控える側近が同意を返す。
「この放送とやらの企画を進めたのは日ノ本の者だな。間違いなかろう。やり口が特殊すぎる。……ふむ」
神王は一つ考えているふりをする。側近たちは嫌な予感で苦笑いを浮かべる。
「我が国へ招こう。このような新たな娯楽は民達に必要であろう……」
一言『御意』と返す側近。無論招へいだけが目的ではない。わかり切っていることではあるが大国がこの事業をからめとろうと思えば……。
「ふふふふ」
映し出されたミリアムを前に神王は満足げに笑む。
戦神。
現人神。
大陸最強の武力を持つ王が、マイルズに興味を抱いた瞬間であった。
おまけ~





