112「盗賊の宝を狙おう!」
「おはようなのです!」
ん? 知らないのです。ちょっと寝てただけなのです。
こっちは半日ぐらいしか過ぎてないのです。
行軍を開始して2日目に亜神部隊と交戦し、何故だか眠くなったのです。
その後何かあったらしく、夕方起きると大天使のお姉さんが、かいがいしく私のお世話をしてくれてます。
「はーい、お顔ふきふきしましょうねー」
幼児扱いは……まぁ幼児なのですがね。
まぁいいでしょう。
「ぐぬぬぬ」
変態王子がハンカチを噛み締め、その後ろで小型の白龍が欠伸をしております。
「権三郎」
変態は無視します。
「はっ」
「南部連合軍にお使いにいってください。亜神たちが居なくなり、その上せた頭がどうなるのでしょうかね……内乱で無用に荒れるのだけはやめてほしいのですがね……」
ふぅと息を吐いて背中に体重を預け持たれかかると、大天使のお姉さんがそっと抱きしめて撫でてくれます。
癒しです。
20m級の案山子の上に私を載せてゆっくりと進軍するまーちゃん軍団。それを見て絶対に勝てない者に歯向かった間抜けな南部国家連合軍がどのような蛮行に及ぶのか……他国のことながら心配になるの私でした。
――――――――――ユングリア共和国大統領ダンダバの視点
私は今イライラしていた。
我が国は共和制だ。
大陸で一時期流行した、いわゆる衆愚政治という奴だ。
最近とある組織の暗躍で王を廃し、実権を貴族が握る。
そんな過去失敗した国家体制がまた流行りだしていた。
きっと、100年程度で共和政は破綻し やはり王政が! と再び言われるのだ。
共和政が成り立っていたのは、高度に教育が施された貴族が議会を取りまとめて居ればこその話だった。
我が国は革命の折りその貴族すら残殺してしまった。
歴史書には『横暴な貴族に』と書かれようとしているが、その実態はすべて冤罪。その上、正義を自称し略奪に明け暮れた者どもは混乱の最中、自害しようとしたご婦人たちを犯す様な蛮行を繰り返して来た。
我が国で起こった革命とは【野蛮な平民が、自らを守ってきた貴き者達を陵辱していった】そんな醜悪な事件であった。
確かに王族・貴族たちは経済政策に失敗し平民に一時的な苦痛を味合わせた……。だがそれはだれがやっても変わらなかっただろう。むしろ構成の歴史家が評価すれば『体制のわりに被害が少なかった』とさえ評価されるだろう……。
国と言う体制を守る最後の一線。人々を守っていたものを凌辱した彼らは、我が国に議会制政治を持ち込んだ……。それは王や貴族のような表立った世襲の手段ではなく、他の者どもにも機会を広げているが建前だけ……王制時代と何ら変わらない仕組みだった。
1年。
1年しないうちに、議会制政治は衆愚政治の姿が垣間見られた。
焦った平民代表たる議員たちの中でも良識派の議員が『大統領』を提案し採用された。つまるところ巨大な権限を餌に議会の暴走を止める役を作ったのだ。
生きることに精一杯だった平民たちは碌に政治も法を学んでいない。
学ぶ気もない。生きるためにその時間は必要ないからだ。
だから一般平民はその時の気分で政治家を選ばざるを得ない。
現在の国難はなるべくしてこうなったのだ……。
そして選ばれた議員たちは、権力に酔って暴走する。
地方の親族たちに事業資金として流れている姿は、革命のときに見た【一般平民の為に積み立てられた倉庫から我先に略奪をする】浅ましい革命軍のその姿、そのものだった。
混迷を極める我が国の状況で、なぜか……私が初代大統領に選ばれた……。
それは私が15歳まで伯爵家として育ったのが一番の理由だったのではないだろうか……。この国に残る高位貴族、その唯一の生き残りだから……と。
しかし残念ながら我が家は貴族ではなくなったのは、30年程前だった。
革命が始まる20年前の事だ。
我が家が貴族ではなくなった原因は、部下の横領と我が家の重臣が隣国へ移ったことが原因である。
貴族としての管理責任を問われた父は、領地を、爵位を返上し平民に降ることを選んだ。
……先見の明があったのだろう。
我が家は伯爵家とは別に商売を展開していた。その当時でも屋敷や部下をそのまま受け入れられるほどの資金力に余力があった。なので領地の引継ぎを終えると海運業に投資し、私財や商売を国外に移すことにした。
父と母は国外で安住の地を見つけ、妹と弟達は父達と共に国外で商売を手伝っている。それぞれ家族ができ、幸せに生活している。一部には孫がいるらしい。羨ましい限りだ。
私は……と言うと国に残り商売を続けた。
派手に稼げば『元貴族が、稼いだ金を外国に渡しているのか、国賊が』と言われる。
商売から一気に手を引けば『財をもって逃げた』と犯罪者扱いを受ける。
なので現状と変わらず、つつがなく商売を回なければならない。そのための代表として私が犠牲になった。
……そう言う事だ。
それでも周りの商人たちからは『若造が……』と、明らかに私を見下していた。
それはあまり気にならなかった。
いかに我が家の裏の動きを気取られないかに注力していたからだ。やがて捨てる市場などに興味はなかった。
そして私が増やした財以外の私財や商売を国外に移しおわったところで、不景気が起こった。
金貨が足りなくなり大幅に物価が下がった。
既に富を蓄えていたものは問題なかったが農民以外の平民が食料品を購入する金が無くなり、食うに困る事態に陥った。
時間が経つにつれこの経済的な病は国を蝕み『これから働き稼ぐ者』が『既に金を持っている者』に奴隷以下の労働を強いられ、将来を背をうはずの若者を犠牲にして一部の人間を支えるような社会が構成されていた。
これに対し私と商人ギルドの会議は『神王国の例に習い』国へ金貨の金含有量を下げ、金貨を増産する政策を陛下に奏上した。……まぁ、受け入れられなかったのだが……。国の為の【清貧】などという潔白な想いが、結果……国を崩してしまったのだ。
厳しい経営環境の中、私は資金運用に困った同業者に救済を行い。平民が食うに困らぬよう、王都郊外に王都の学園と共同で畑を作り、職を失った平民を雇用し、他国から伝えられてきた新しい農法を試み成功させた。
その後も色々と国の為に飛び回った。
その時私は所帯を持たず35歳になっていた。
そこで国は耐えきれなくなり、革命が起こった。
王都では感じなかったが、地方では貧困が限界にまで足してしまっていたようだ。そして民衆は、少しでも財を持つ貴族を襲った。
貧困対策の為に限界まで兵を減らしてしまった各領主は、数の暴力に屈してしまった。私も1か所、革命の現場をみた。それは山賊の略奪現場より悲惨な光景だった……。
自分たちの不幸を全て領主のせいにして暴行に及んでいる。
私は知っていた。
その領主たちが居なければ、領民たちは数万の犠牲を出していたことを。
蛮行に及ぶ平民たちは私の言葉を聞かず、略奪と都合の良い正義という言葉に酔い痴れる。
しかしその光景を、平民をたきつけた邪悪な革命家たちは舌打ちをして眺めていた。……そして放った言葉を私は一生忘れない。「質素な貴族だ。碌な物を持っていない。折角焚き付けたのにがっかりだ」。
……私は良識を持つものを探し、平民たちを抑える事に必死になった。
そこで私の20年は無駄ではなかったと知った。
平穏を取り戻す領民たち。
一方貴族たちは一部こだわりを持つもの以外国外へ逃走させた。
専門教育を施された彼らは、性格に難がある者以外は他国で非常に重宝された。
しかもこの困窮した経済状況で領地運営をしてきた貴族たちだ。他国での評価は妥当なものだ。
取り残された平民たちは、陛下を殺してハタと気づいたらしい。
『自分たちに政治などできるのか』と……今更である。
こうして、我が国は一度国として終わりを迎えた。
周辺各国も混乱期にあり、侵攻を受けなかったのは本当に幸運であった。
それから数年、私は経済の専門家として国の財政立て直しに奔走した。
かつて仕事を共にした学園の教授や、学生たちが手助けをしてくれて何とかなった。だが、政治家たちはうまく行かなかったようだ。その時代、権力者同士の暗殺が横行した。民を煽った革命家達は……その権勢を1年と保てずに……。現在、革命家の一族郎党全て見渡し、この世に残る者はいない……。
王国であった頃、経済がうまくいかなくともここまで治安が荒れたことはなかった。そんな状況で……なぜだか私が大統領として立つことになった。
そして今回の話である。
大天使からの提案に戦争を知らぬ博愛主義者を自称する政治家たちが口々に『正義は我にあり、戦うぞ』と叫び、平民たちも日ごろ『戦争は嫌』と言っていた者たちほど『戦わないのは非国民!』と煽っている。
そんな状況に革命当初より穏健派だった将軍が胃を押さえていた。
そう、戦争になったら高確率で死ぬのは彼の部下であった。
確かに戦争の場合、『数の上では』平民からの徴兵された兵が多い。
だが、戦闘のプロではない彼らは接敵するだけで数割逃げ出す。
真面目に命を懸けて戦うのは専業軍人だけである。
だが、勝利後敵国の村々で略奪するのは、統制の取れない平民からの徴兵された兵たちだ。
良識ある軍人たちは『武力は威力を誇示するための物』であり、『敵国の侵略に対して効果的な打撃を与え和平を実現する』ための装置であることを知っている。
だが、平民たちは知らない。
そして都合の良い正義感に溺れ、戦争を煽る。
将軍と私で戦争参加を拒否していたが、『亜神』という後押しのせいで議会が押し切った。
現在、私は連合軍の国家元首たちが集う部屋にいる。
先ほど、亜神100柱を打ち倒した獣王軍から使者が来たのだ。
『マイルズ様へ頭を垂れ、許しを請えば責任者のみ処分するだけで許す。2日与える。国民全てと心中するか、責任を取るか選ぶがいい』
そう語る使者殿の感情に色がなかった。
私の横でカタカタと震えるユールゥエル聖国の代表、レベル神の使徒である老女ディラーンが使者殿が去ってから青い顔で教えてくれた。
「使者殿は魔王クラスの猛者です……」
亜神を打ち倒したのだ……その程度の力はあろう……。
となると私がした問答も紙一重だったのではなかろうか。
「待ってくれ、使者殿。民には罪はない。どうか民に慈悲を」
「ない。今回の汝らの愚行でマイルズ様はお怒りだ。汝ら愚者どもを支持し、その恩恵を受けている民に責任が無いなど笑い話にもならん」
歩き去る使者殿を見送りながら私は国を、戦争をしたがる議員たちを、どう説得しようか考えを巡らせていた。
だから、隣で凶悪な笑みを浮かべる女王アニータに気付かなかった……。
――――――――――グンニル王国女王アニータ
与えられた自室の扉を閉めると、思わず笑みがこぼれた。
私が王などになってしまったのは……弟が成人するまでのつなぎの為だ。
弟が成人すれば王を辞し、婿を取り領地なしの公爵として余生を楽しむつもりだった。だが………今日、運命の男性と出会ってしまった。
マイルズ殿と言う方の軍から遣わされた使者殿だ。
ああ、これで当初の予定通り同盟国家など、契約もしても居ないのに浮かれて叫ぶ馬鹿どもの背後をつける。
断罪待ちの愚図どもはさらに期限を延ばすだろう。
1ヵ月。1か月あれば馬鹿どもの首都、要所をすべて落とせる。電撃戦の下準備はできている。その為に、弟を旗頭に国元に大量の兵を残してきている。
援軍として遅れてくるという私の嘘を、馬鹿どもは信じ切っている。
まぁ、それは国境近辺で用意を整えている軍に密偵を派遣し確認でもしているのだろう。良い方に勘違いをしてくれた。
私は数日に一度使者殿とお会いし、我が国がこの珍騒動を収め、主人のマイルズ殿と通じ良い関係を築き、その証として使者殿を我が夫に………。
うふふふ。悪くないわ。





