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110.5「奴隷狩りは変態王子をリリースしました。が、戻ってきました 後編」

すみません。月曜日に出したつもりが。消えてました……

 奥に進むと床が王宮のようにピカピカだった。壁も高級感がある。

『ここらの装飾品一個持って帰ったら一生遊べそうだな………』

 頭が思わずこぼした。

 するとなぜだか、風呂からそのまま付いてきていた年少組に睨まれた。

『冗談だったのにな……』と零しながら頭たちはやがて、洞窟だった拠点の奥に到着した。

 そこには槍を持った【先日攫ったはず】の冒険者が、先頭を歩く変態王子に敬礼する。


「ご苦労様、開いてくれ」

 変態王子は軽く手を挙げて応じる。

 すると、3mはあろうかという大きな扉がゆっくりと開かれ、高さおよそ10m、教会の大聖堂のような、荘厳な雰囲気の大きな空間にでる。

 変態王子は無言で最奥へ進み、豪華な椅子に座った。

 そこで頭は気づいた。左右に立ち並んでいるのも【元】商品達だ。

 彼らは捕える前のくたびれた装備ではなく、統一された皮鎧と各々質実剛健を地で行く得物を携えている。盗賊の頭達を見る目は一様に冷たい。

(……そうか、俺はようやく裁かれるのか……まぁ、被害者に裁かれるのであればしょうがない……)

 狼狽え逃げ出そうとした幹部たちとは反対に、頭はその場に腰を下ろした。

 そして変態王子を睨みつける。盗賊のリーダーとしての体面を繕いながらも、頭は過去を思い出していた。

 盗賊の頭が盗賊になったのは30年ほど前の話だ。


 当時盗賊の頭はとある貴族が溺愛していた【お嬢様の護衛】を担当していた。

 今でこそぼろきれを着て腐った瞳だが、当時は貴族へ仕えるに相応しい整った服装で使命感を帯びた鋭い瞳の青年であった。

 お嬢様は父である貴族に溺愛され、純粋培養で育っていた。

 故に、たかだか平民出身の護衛である盗賊の頭にも、優しく声をかけてくれるような優しい子であった。

 しかし、そのような恵まれた子供にも事件は発生する。

 それはお嬢様の10歳の誕生日の事であった。

 盗賊の頭は、その日久しぶりに再会した友人と酒場で飲んでいた。

 楽しい酒につい飲みすぎた。

 盗賊の頭が気づくと女も一緒に飲んでいた。

 友人は『うまくやったな、この野郎』と笑いながら『明日早いから』と気を遣っていなくなった。楽しい夜だった。それから盗賊の頭と女が男女の仲になるのに、それほど時間は必要としなかった。

 そんな折、お嬢様は『王子様』と面談する機会が増えていった。

 その度に優しいお嬢様に陰りが見える。

 巷の噂では『14歳にして聡明、見目麗しく民にも優しい王子様』との事だが、お嬢様の様子を見る限り違う様だった。

 そんなある日、お嬢様は王子様とのお茶会から頬を赤く腫らして帰ってきた。

 屋敷に仕える者達は騒然とした。盗賊の頭も義憤にかられる。

 盗賊の頭は次のお茶会に護衛として立候補し、仲間と護衛計画を決める。

 何かあったら自分が代わりに! と意気込んで盗賊の頭は挑んだ。

 お茶会で受けた王子の印象は巷の噂とは正反対である。

 発展途上とは言え美を感じずにはいられないお嬢様を、吊るし上げては醜悪な笑みを浮かべている。常に侍らせて居るのは庶民の目から見ても【胸が大きいだけ】の厚化粧で娼婦のような女だった。

 それでもお嬢様は、王子の言葉にひきつりながらも笑顔に努めている。

 それが王子はつまらなかったのだろう『まるで好きな子に意地悪をする様に』王子はお嬢様に近寄ると腕を振るう。不穏な空気を読んでいた盗賊の頭は見を挺してお嬢様をかばう。

 その後王子に『不敬な平民が!』と罵られ容赦のない蹴りを何度も喰らう。やがて王子は疲れたのだろう、荒い息で疲れた様子で留飲を下げた。だが、体は疲れて止まったが立ち去る際まで盗賊の頭とお嬢様を侮辱する言葉を止めない。

 やがて飽きたのか肩を怒らせたまま帰っていった。

 この出来事は仲間内から称賛された。

 盗賊の頭は次回も! と意気込んで護衛計画の会議に出席した。

 頭はこのことを今でも後悔している。

 前日の話である。『あなたは今回来なくていいわ。あと、今日から20日間暇を与えます』そう言って、先日蹴られて青あざになっていた盗賊の頭の背中を、痛恨の表情でお嬢様は撫でる。

 気付くと盗賊の頭は酒場で浴びる様に、酒を呑んでいた。

 お救いしたいと焦がれていたお嬢様に、自分がかばった事でお嬢様自らが傷つくより、より大きな心の傷をつけてしまったのだとその時盗賊の頭は気づいた。

 そんな事にもこれまで気づかなかった自分に、お嬢様にあんな悲しそうな顔をさせた自分に、嫌気がさしていた。盗賊の頭は休暇を与えられ半ばやけっぱちであった。

 気付けば女が自分を支えていた。

 心地よかった。

 酔って弱さをさらけられる出せる相手がいることに安堵し、さらに酒を煽ってしまった。

 翌日、目を覚ますと男は一人だった。

 手元には幾分減ってはいるが給与としての金貨がある。

 酒場の近くにある宿の2階。窓から差し込む朝日がまぶしかった。

 ベットの上には昨晩の情事の後が見て取れる。女の長い髪ががチラホラ見受けられる。

 男は深くため息をつくと身支度を整え、折角頂いた休暇と割り切って南の保養地を目指すこととした。


それから4日後。

 旅の途中もうそろそろ中継地点の村が見える頃合いで、女が現れた。

 女の笑顔は盗賊の頭を戦慄させる程の残酷な笑顔だった。そして……。

『お嬢様なら死んだわよ。王子様からの命令でね』

 唖然とする盗賊の頭に女は続ける。

『王子様がね【俺になびかない女などいらぬ。俺の顔を見るのがつらいのであれば見えない所へ送ってやれ】ていうのよ。そしてお嬢様の遺髪を持って行ったら、良い笑顔でお笑いになるの♪ あ、あなたにも一本ぐらいならって』

 金に揺らめく髪を一本だけ女が見せそして手を放す。盗賊の頭はそれを必死に拾い、愛おしそうに抱きかかえる。

『さて、ここであなたに選択肢を上げるわ。1つ、私たちの同僚になる。2つ、王都に戻る。王都に戻るのはお勧めしないわ……護衛の数やルートがなぜばれたのか……あの優秀なお嬢様の御父上なら気付いているはずよね』

 盗賊の頭は愕然とする。あの夜何があったのか知ってしまった。知るとかすかな記憶が呼び覚まされる。

『夜の演技って大変だったわよ。あなた下手なくせに大きいし、激しいから只々痛かったんだもの』

 女は酒場での表情とは打って変わって残酷に笑う。

『いいのよ、王都に戻って、愛しのお嬢様の後を追うのも』

 盗賊の頭は結局、公式上の死を選び憎き王子の配下になることを選んだ。

 そして栄えあるお嬢様の護衛は汚い事に手を染める。

 王子がとある村に施せば、国の反対側で村を襲い人を攫う。

 そして王子はそのような痛々しい村に向かい、人々を慰め、親子・兄弟を売り払った金で施しを行う。

 聖人君子。王子は10年で国外からもそう呼ばれる男になった。

 お嬢様の御父上はどうしたかというと……と。

 そもそもモンスター対策で国軍にもひけをとらない領軍をそろえ、外国との貿易で巨万の富をもって中央進出も順調だった方だが、お嬢様の死に心折られ自領に戻ってしまった。

 代わりに中央での政局を担ったのはお嬢様の兄上で、王子と好が通じている男だった。盗賊の頭も何度か会っているが、この男がお嬢様の兄とは思えないほど狡猾な男であった。『お家の為死んだのだ、立派な妹であった』盗賊の頭はワインをたしなみながら満足げに言ってのけたお嬢様の兄上を盗賊の頭は忘れない。自分がお家の後継たる地盤を固めるのにお嬢様が邪魔だったのだ。

 それに気づいた盗賊の頭は自分を陥れた女を問い詰めた。

『馬鹿ね。殿下の狙いはあなたたちの不幸よ? あなたが、護衛として高潔さを見せつけた護衛は今では生きるために盗賊。無様ね』

 盗賊の頭はその場で女の首を落とした。王子の腹心だった女を殺したのだ、自分も殺される……。覚悟を決め、護衛だったころの自分を取り戻した盗賊の頭は王子の一派と戦うことを決意し、裁決を待った。

 ……だが既に王子のお気に入りのおもちゃとなっていた盗賊の頭はなにも罰せられなかった。『暗部を知りすぎた女をよく処分した』と褒められ、より組織から逃げられない立場に置かれた。自らも『お嬢様を殺した原因は自分』だと再認識させられたのだ。

 その後王子は今国外より美しき王妃を迎え、2男1女に恵まれこの国の王となっている。国民の生活も貧しくもなく、かといって富んでも居ないこの国で民が見る幸せな夢は王家にあった。

 だが、盗賊の頭は知っている。

 王妃様が何のためにこの国に来たのか。

 そして自分がどんな情報を彼女に預けているのか。

 王子が彼女との間以外に、20人程隠し子がいることも……。その子らが全て日陰者として家畜のように扱われていることも、知っている。

 聖人君子を気取る鬼畜は、この後真綿で首を絞められるように苦しんでやがて死ぬ。そう『知っているのに何もしなかった』もう1人の屑、盗賊の頭と共に。


「どうした? ジェインズよ。走馬燈を見るにはまだ早いぞ」

 変態王子が全て見透かした目で盗賊の頭に言う。

「ビーンってのが俺の名だ。そんなご大層な名など知らん」

 盗賊の頭は横暴な男だった。

 部下がいかに儲け話だといっても、嫌であれば首を縦に振らず、勝手をした部下は全員殺した。それはまるでお嬢様を死なせてしまった自分を責めるように。そんな厳しい男だった。

「お頭……」

 長い付き合いの幹部連中はそこで頭の気持ちを悟った。

 頭はここで汚い盗賊として死ぬつもりだ、と。

 幹部連中は知っている、これから巻き起こる革命軍、その中枢に居るのはほとんどが頭によって売られた男たちであり、それを統括しているのはお嬢様の御父上であると。

 救国の英雄にすらなれるかもしれないのに、頭はここで死ぬのだ。

『二君に仕えている俺は……いずれ極悪人と死ぬが定めだ。今はごまかしが効くが、昔は悪辣な貴族に売ってしまった奴等もいる……』

 幹部は孤児であり頭の腹心である。

 つまりは売れなかった子供を幹部にまで育て上げたのが頭である。


「お前ら、何か勘違いしてないか?」

 変態王子は呆れた様に言う。

「お前らがただの盗賊ではない事は捕えられる前よりわかった。なれば、私がここで望むことが分からないか?」

「あなたに降れと?」

 失笑する盗賊の頭。

「マリー嬢の父、カール公爵閣下には既に降っているのだ。獣王国の犬になるのも大差あるまい?」

「断る。今殺せ。俺は、俺達は野良犬だ。恩義も知らぬ畜生だ。だが、畜生にも畜生なりの仁義がある。誇りがある。屑は屑らしく死ぬ。それだけだ」

 幹部の一人が耐えきれなくなり、口を抑えて嗚咽を漏らす。

「……親父」

 盗賊の頭は確かに騙されて盗賊に落ちた。

 非道もした。その代わりに手も尽くした。

 しかし、その根底にある思いは……お嬢様から賜った優しさは……ねじ曲がった少年であった幹部たちを、世の中に悲観して罪を犯した部下たちを、最後の一線、人間じゃなくなることを踏みとどまらせていた。

 そんな盗賊の頭は死ぬことが、それがその思いを通す道だと無言に示している。

 部下や幹部たちは寂しく思いながらも、聞く事しかできなかった。

 そうしているうちに幹部たちも、憑き物が落ちたような表情になっていく。


「うむ。悲壮な決意しているところ申し訳ないが、お前さんの悲願はあっさり達成されそうだぞ」

 盗賊の頭は思った。何を言っているんだこの男。と。

「うーん。白龍で焼き尽くしても良かったんだがな。我がいとし子が『何かむかむかしたので、まーちゃんと1万の案山子兵団で、滅ぼしてくるのです! Let's滅亡なのです!』といって出ていったのだ。どうしたものか……」

 ちなみに、3日前の事である。

『ご歓談中失礼するぞ』

 空間を割って出てきたのは小型白竜だった。

『この国の王と繋がっていた者どもが動き出したぞ。もうそろそろマイルズとその案山子兵団と交戦に移る様だ。……まったく、たかだか亜神100柱程度の戦力でマイルズに挑もうなど、反逆者共も底が浅いな』

 ヤレヤレだぜ、とあきれる白竜。

「じゃ、その背後関係を洗って周辺国家の王様芋ずる式で釣り上げるか。……ということで、お前らその実行部隊だから。戦闘は案山子兵団が行くから。あ、拒否はできないような呪いついてるからよろしくな♪」

 それだけ言うと変態王子は白竜と共に空間の割れ目に潜って去っていった。


「………………………………なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 盗賊の頭の叫びはごもっともだが、今後の事を考えるとこの程度慣れ無ければならなかった……。



カクヨム+α

「……そう言えばお前らの俺達に対する態度ひどくなかったか?」

 幹部の一人があきれがちにそうつぶやく。

「「「「「「「「「「汚くて臭かったからしょうがないじゃん」」」」」」」」」」

 ハモった。

「にしてもうちのトップ2がおかまになっていようとは……」

 頭の言葉である。

「「えー、初めから頭狙いで入団したんですけどー、ちょーうけるー」」

 はい、盗賊のお頭は逃亡してすぐ捕まる――!

「お前ら離せ! 俺はお嬢様を死なせた原因である酒と女と、女かもしれない生物を相手にするのはやめたんだ!」

「生物学上オスだから気にしたら負けよ♪」

「そうそう、昔から頭のそういう所が可愛いと思ってたのよ♪」

 洞窟内に頭の悲鳴が響き渡り、全員が微笑ましい笑顔を向けた。

「そういや、売られた先でどうだったのよ?」

「ん? 快適だよ。稼いだらサッサと自分を買い戻せた。何せうだつの上がらないハンターなんてごろつき以下じゃん? 未来が見えない所から、いい就職先できて満足よ」

「だな。捕らえられて売られたときは絶望したけど。着いてみれば今までよりもいい生活。奴隷って何よ。って1年ぐらい悩んだは」

「あるある。それみんな思ったよ」

「……まぁ、それも良く聞けばあの頭がじっくり選んだとか、何とかだしな」

「複雑ではあるわな」

 まさに雑談タイム中だったがここで一人の少年が手を叩いて注目を集める。

「はいはーい。皆さんお待たせしました。これより『え゛? 3日間で人生変わる。死ぬ気と臨死体験尽くしの、カクノシン流魔人の作り方研修』を始めま~す。逃げ出したら当社比1.5倍辛くなるので覚悟してください。……はぁ、王都帰って商売してぇー。何やってんだろ俺……」

 教官、勝さん一号はげんなりしつつも講習会を始めるのだった。

 適度な運動+原理を理解する座学+疲れた体に優しいマッサージ=カクノシンメソッド♪

 なお、以下が実態である。

 適度な運動=死ぬギリギリまで追い込む運動。

 原理を理解する座学=脳に直接ダイレクトアタックという名の睡眠学習。

 疲れた体に優しいマッサージ=段階的な改造手術。

 ……。

 頑張れ皆!


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