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110「奴隷狩りは変態王子をリリースしました。が、戻ってきました」

すみません。10日も空きました。申し訳ございません……。

「お帰りなさいませ。 ご主人様」

 盗賊の頭は唖然としながらも、自分のアジトである洞窟を見回した。

 何故だか綺麗なっている床。これは出かける前まで凸凹、しかもモンスターの骨などが散乱していたはずの床だった。

 次に魔法道具により明るくなった室内、フロアは自然光を取り込んでいる。

 そんな馬鹿な。盗賊の頭は愕然とした。

 汚れたアジトに慣れた盗賊の頭ですら、戻ってくると鼻を摘まみたくなるような汚物まみれだったアジトの洞窟が、今は品の良い植物の良い香りが漂っている。

 盗賊の頭達は狐につままれたような表情で一旦洞窟を出る。そして必死にここがアジトであることを確認し、ここがアジトである事実に衝撃を受けた。やがて恐る恐る盗賊の頭達は洞窟に戻っていった。

 盗賊の頭は再び綺麗な礼をした部下……【アジトの見張りだったスキンヘッドで服と言えばボロ切れのような服を見に纏い、頭が奪った服を着ろと言っても「どうせすぐにボロ切れ」といってガンとして身なりを整えず、精神がやられていたような虚ろの日を身をしていた】男が、いつも猫背で卑屈な笑いと歪んだ目をしていた男が、今目の前で直立不動、背中に板が入っているような美しい姿勢と、簡素だが綺麗にあつらえられた服を身に纏い、誠実だが鋭い眼光で入ってくるものを選別するような高貴な家の門番に変わっていた。

 思わず頭を抱える頭に、見張り役の男は言う。


「みなさん汚いので、そちらの風呂で汚れを落として来てください。着替えはこちらでご用意いたします」

 なんか高級ホテルのようなことをいわれ、盗賊の頭は諦めた。

 盗賊の頭が連れていた幹部たちもそれぞれ諦めの境地にいた。

 風呂場に向かう途中、盗賊の頭たちは愕然とした。

 風呂場の入り口に『男』『女』の看板が出ていたのだ。

 衝撃である。

 女は商品としか認識していない。

 その商品だが高く売る為に身支度はさせる。だがそれは販売に向かう直前だけ……このように常時入浴体制を整えてはいない。なんだこれは? と頭が言おうとした時であった。

「邪魔だ!」

 後ろから現れた女に一喝され、道を開ける。

 女は歴戦の勇士かと思わせるぐらいの雰囲気を漂わせていた。しかし美人だった。その雰囲気のある美人は返り血と思われる血を体いっぱいに浴びていた。

 盗賊の頭達は女の覇気に当てられ、精一杯壁へ身を寄せる。

「こっちはモンスター相手に疲れてるんだ。何もしてない男が、馬鹿みたいに道の真ん中を大股で歩いてんじゃないよ!」

 怒られて恐縮した盗賊の頭と盗賊の幹部達だが、ふと我に帰る。

 ……おかしくね?

「あれ、大店の長女で東帝国貴族に売約済みのシェリー……じゃないっすかね……」

 盗賊の頭は『それは無い』と否定したかった。頭の中で無様に泣き続け、自分を売り渡した婚約者の名を呼び続けていた……か弱き令嬢の映像が……先ほどの女傑と被る。……と言うか本人だった。

 一瞬『部下にヤられて度胸がついたか?』と思ったが、初心な生娘の市場価値を知らぬ部下はいないのですぐに否定した。あと風呂に入れていなかったので汚物のにおいがひどく抱く奴は居なかった……はず。

 盗賊の頭は今、風呂の前に来ているので折角だからと風呂場の扉を開いた。

 そして頭達は再び愕然とした。板の間である。

 岩でゴツゴツしており、頭ですら地面に寝ているアジトで……この空間はなんだ? 再び頭達は固まると。


「頭。邪魔」

 後ろから小ぎれいな服を着た年少組の盗賊が入ってくる。

 頭はその服が見張りと同じである事に気づいた。そう制服だ。

「頭達、服を脱いだらこの袋に入れて、臭いからすぐに焼却処分だから、あと勝手に風呂入らないでね。俺たちが洗って良いってなるまでダメだから! お湯はみんなの共有財産だから汚したら酷い目にあうよ!」

 年少組の盗賊の剣幕に押され、盗賊の頭達は服を脱ぐと袋に入れた。

 袋を持つ年少組の盗賊が本気で嫌そうに手を伸ばしていたのが印象的だった。

 頭はぐっと涙を我慢した。

 風呂場に入るとそこは壮大な露天風呂だった。

 下手な王家ですら持ち得ない贅沢だ。

 しばらく呆然としていると盗賊の頭達の服が入った袋を持った年少組の1人が外に向かって袋を思い切り投げ捨て、追撃に炎の玉を撃ち出した。無詠唱である。

「うわー俺、臭くなったかも」

「俺たちが洗うからお前は風呂入んな、着替え持って来てんだろ?」

「あはは、汚いの回収係だって聞いたから、もちろん持って来てんよ」

 茫然自失の盗賊の頭達はされるまま洗われる。

 しかし洗い場が湯船から遠い。それを見た盗賊の頭たちは『やはり素人考え、湯もなしにどうやって流すのだ』と、うすら笑いを浮かべた。だが、年少組の一人が魔法道具に手をかざした瞬間、盗賊の頭たちの表情が驚愕に変わる。

 魔法道具によるシャワーだった。

『いや、どこの王族だよ!』思わず突っ込みたくなった盗賊の頭たち。

 その後盗賊の頭たちは年少組に体を掴まれて動けなくなった。

 そのまま石鹸で泡立てられ、さらに『小国の王様でもこんな高級品つかえねーぞ』と盗賊の頭たちはもう心の中とはいえ突っ込み疲れ語気が弱くなっていた。


「頭方、動かないでね。汚い毛剃っちゃうから。あ、動いて耳や鼻の一つそぎ落としても問題ないよね」

 盗賊の頭たちは怒りのあまり叫びそうになったが、有無を言わさぬ力によってねじ伏せられた。

 そこで悟った。1か月アジトを空け、王宮に報告に行ったのがまずかった。と。

 自慢の胸毛からすね毛まできれいに剃り上げられ、さらには髪の毛までつるつるになった頭たちは、オイルだ、何だ、と風呂上りに振られていい匂いとなったところで新しい服に着替え、奇麗な靴で見張り役の所に戻った。


「聊かましになりましたな、ご主人様」

 スキンヘッドの強面に少しばかりの笑顔が浮かぶ。

「マーキンスとレドロアはどうした?」

 盗賊たちの中でも最強の2人をこのアジト防衛に残してきたのだ。彼らがいるのにこのような変わりようは想像つかない幹部の一人が言う。

「お2人でしたら、今は夕刻ですからな。そろそろ……」

 そう言って振り返る見張り役。すると、アジトの中からきゃいきゃいと姦しい野太い声が聞こえてきた。

「……でね。って、あーーー! 団長だーーー。ちょーうけるーーwwww」

「あらほんとね。つるっつるになっちゃって、威厳もへったくれもないから気付かなかったわー」

 オホホホホホとオカマ笑いを続ける2人。開いた口が塞がらない盗賊の頭たち。

「じゃあぁね。今度うちの店に遊びに来てね、お・か・し・ら♡」

「かーーわーーいいーーー、頭たち照れちゃってるじゃん」

「ほんとだー、美しいって罪ね」

 そこに風呂上がりの女が現れる。

「あー、マカ姉ぇとリア姉ぇじゃない。これから出勤?」

 そこにはもはや『捕らわれて絶望していた令嬢』と『捕らえてきた強者』の姿はなく、男女の垣根を越えてしまった友情が描かれていた。

「そうよ、これからよ」

「ていうかー、あんた今日大物狩ってきたらしいじゃないの。お金持ってるならうちに来てパーッとつかっちゃいなさいよー」

「もち! 友達誘っていく! かわりに、なにかおごって!」

 思い切り盗賊の頭たちは肩身が狭かった。

 頼れる強者たちに何があったのか? ……まさか股間の工事を完了していないだろうな? 等、盗賊の頭は非常に気になっていた。

 そしてこのような劇的な変化に一つ、心当たりを思い出した頭たちであった。

 ……あの男だ。

 今回の遠征に彼ら『国公認の盗賊』が同行したのは『有能なハンターの隙をつき奴隷として攫う』事であった。強靭なハンターたちは色々な使い道があり、よい値で売れた。何をしても壊れ辛いのはある種の高位の者に非常に重宝される。

 今回の遠征は複数の国の王族が動かされ、国軍やハンターが多く動員されている。『だれに?』と思ったが、盗賊の頭はそこで口をつぐんだ。『王族を動かすものの影を踏んではこの渡世わたってはいけない』なので何も聞かずに帯同した。

 獣王国との国境線を超えて1週間。朝日と共に金色の光が進行方向より輝く。

 神々しい光に盗賊の頭は思わず膝をついて祈りを捧げた。

『あの方角に、宝が、神の奇跡がある! 進むぞ! 凄腕ハンター達よ!!』

 進むほどにモンスターが増える。

 進むほどにモンスターが強くなる。

 後方部隊として置かれた盗賊部隊は、ハンターを助ける振りをして攫う。

 薬で眠らせて封じの首輪をつけ、潜んでいる別部隊に引き渡した。

 さらに一週間経過したある日。獣王軍が出現した。

 混乱していた場にさらなる混乱が発生する。

 やがてそれは盗賊たちが保護(拉致)すべきだったハンター達が、次々と獣王軍のキャンプに放り込まれ、盗賊たちの仕事ができなくなっていった。しかしその活動で薄くなった獣王軍本陣に、一際異彩を放つ人間の男がいた。

 仮面で半分顔が見えないが、色男だ。男色家の貴族が見ればよだれを垂らすほどのいい男だ。

 盗賊たち狙いを定め、男を攫うために隙を伺った。何より人間である。獣王国の客だとしても獣人をさらうほどのリスクにはならない……。やがて、見計らったかのように男は一人で厠に立った。千載一遇のチャンス、盗賊たちは男を死角から襲い、連れ去った。

 アジトに連れ帰った男が何者なのか確認する為に持ち物を漁った。

 神王国の物が出てきた。

 盗賊の頭は元神王国民であると言う片腕の男を連れてきて確認させると『間違いねぇ、俺が見たのは10年前だが……。あの神を思わせるオーラは王家の麒麟児カクノシン様だ』とか言い出した。

 盗賊の頭はすぐに決断した。

 目隠しをしたまま馬に運ばせて捨てた。死ぬ前に獣王国軍が拾ってくれると思われた場所に。


 盗賊の頭が安堵してアジトに戻るとカクノシン王子が料理を作って待っていた。

『遅いぞ馬鹿者』

 食わされた料理が美味かった。

 今にして思えばあの頃からすでに『アジトはカクノシン王子に占拠されていたのかもしれない』。

 盗賊の頭は意を決して王宮へ指示を仰ぐこととして、長い道のりを行き来して今に至る。

 そう。あのカクノシン王子を1ヵ月も放置したのだ。そのせいでこれがある。

 見張り役を見ると、少し困ったような顔をしている。そして……。

「お迎えが来たようです。ご主人様」

 笑みを湛えたカクノシン王子がアジトの奥から現れ、こう言った。

「ようやく帰ってきたか? では、裁判するから奥に参れ!」

 理解が追い付かない盗賊の頭達であった。


カクヨム+α

変態王子拉致2日目。

「ほう、ほう。盗賊団を改造ですか。いいでしょう楽しそうなので協力します。てか、なんで帰って来てるのですか? ほほう。リリースされたと。で、明日の朝には牢に戻って脅かすと? 悪趣味ですね……」


変態王子拉致6日目。

「ほう、これが南部の人身売買ルートですか。全部王家がつながってるじゃないですか……。わかりました。勝さん一号を通じて王国の暗部に渡しておきましょう……ん? その内自壊するように仕込みしとく? 悪徳ですね……」


変態王子拉致8日目。

「ふむ、中心メンバーが王都に指示を仰ぎに行きましたか……、じゃぁ。勝さん一号が行きますよ。って、王都での商売? 奥さん2号に任せておけばいいじゃないですか……奥さんじゃない? 勝さん一号……人としてドン引きなのです」


変態王子拉致9日目。

「……変態王子……なんか牢の中と外が逆転しているように見えるのは気のせいでしょうか。牢の中のほうがきれいでいいもの食べて清潔な服を着ていませんか? ……ほう、気のせいと言い張る? あ、うん。私に会わせるのに最低限を……そんな気遣いいらないのです。あ、おねーさん。もっとまーちゃんを愛でるのです。うん。強くなりたい? 任せるのです! まーちゃんテクノロジー全開で行きます! ……なんですか勝さん一号。自重できる幼児を信用してください」

 という事で哀れな盗賊たちは、近くに獣王軍が布陣し、意味不明な幼児によって5日後アジトの近くに街ができることに気付かないのであった。


変態王子拉致10日目。

「……露天気持ちいいのです……。しかし、女風呂の防御固め過ぎたのです。幼児は女性と一緒に女風呂ではないのですか! ……ん? 常時変態王子がついているから遠慮してる? ……ふむ、変態王子。ハウスなのです! ……ん? 神宮寺君の依頼? そんなものとまーちゃんの女湯体験、どっちが重要と?」

 結局一時的に神樹の元の神宮寺へ報告に向かい、変態王子が不在となった。私は……………………………………………………………………………………………………………………………………モヒカンの盗賊(執事)に丁重にお風呂に入れられたでした…………………………。


「夢が! そこに夢があるはずなのに!!!」

 女湯を見つめながらそう呟いたのは内緒です。そう呟いたはずなのです……。


 以上。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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