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第14話✶過去―現在 ≒ 未来

瑠珂の話を聞き終わった私は、衝撃の事実に触れて震えていた。

まさか瑠珂の平安の生の終わりが自害だったなんて。

私の託した薬のせいで瑠珂にそんな辛い思いをさせることになるとは、想像もしていなかった。


とにかく、私の薬によって死なない呪いをかけられた瑠珂は、そこから魂のループが始まったのだと理解した。


「新しい時代で輝夜と再会した時、僕は輝夜が彼女と同じ魂だってすぐに分かったよ。

だけど輝夜は、僕のことは全然覚えていないみたいだった」

「そりゃ、そうでしょ」


私にとっては初対面だ。

ニワトリが先か卵が先かという話があるけど、現代の私が竹取物語に転生したのか、かぐや姫が現代(未来?)の私に転生したのか、だんだん分からなくなってきた。


現代スタートの私にとって平安の生は過去・・へのタイムリープだし、平安スタートの彼にとって現代は未来・・へのタイムリープなのだ。


そもそも、かぐや姫はさらに前世の罪を償わさせられてたわけだから、私の前のかぐや姫にもまた前世があって…

もう何が何だか、私は混乱し始める。

そう言えば、前前前世が何とかって曲があったな…

あれって転生ループものの歌だっけ?

などと意識がトリップした所で、瑠珂から肩を揺らされた。



「ハッ…!  ごめんごめん」


「ううん、こっちこそごめんね。いきなりこんな話をして…驚いたよね。でもまた君に会えて本当に嬉しい」


「それは、私も。瑠珂に会えてすごく嬉しいよ。

だけど、私?のせいで瑠珂を大変なことに巻き込んじゃったのは本当申し訳ない…

不死の薬なんてオカシな薬を渡したばっかりに」


実際に渡したのはかぐや姫であって輝夜わたしではないが、もう彼女が初代の私であることは疑いようがなかった。

私に記憶が無いだけなのだろう。


「いや、あの薬が無ければ、彼女かぐやひめと輝夜の両方には会えなかったはずだよ。今とは全然違って発展した未来も見られたし。

むしろ感謝しているんだから」


相変わらず前向きな瑠珂に苦笑しつつ、私も今日に至るまでの話を伝えた。

竹取物語の前提として、かぐや姫が地球に下ろされたのは罪滅ぼしのためだったことや月に連れて行かれた後の処遇、そこから始まった現代と平安の交互転生と運命を変えるための試行錯誤、その失敗、20歳での必然死…。

実に18回ぶんもある生だから、全部話し終わるまでには、結構な時間がかかった。



ものすごいボリュームの話を一気に聞かされた瑠珂は、かなり難しい顔をしていた。


「瑠珂、驚いた…?」


彼には珍しく険しい顔をしていたので、心配になった。


「瑠珂が知ってる話が殆どと思ったけど、知らない話もあったかなぁ?」


「… いや、大丈夫だよ、少し、ビックリしただけ」


瑠珂と会うまでは毎世あまり変わらないし、中学生以降はいつも一緒にいたから何でも話していたのだけど。

都度変わる進路も、瑠珂は応援してくれた。


黙り込んだ瑠珂の顔を覗き込んだ私に気づいて、瑠珂は表情を崩した。


「こちらの世界のことは忘れて、月では幸せに暮らしてくれているとばかり思っていたから、月でそんなに酷い目に遭ってたとは知らなかった」


ああ、そこか。

確かに、月へ行った後のことは、初めて話す内容だった。


「最初、私もそう思ってたから月の人達の塩対応には心底驚いたね」


だからこそ、バッドエンド回避のための策を講じ続けているのだ。

そして、しばらくしてから瑠珂は分析をし始めた。


「なるほど。それで輝夜は、このループはかぐや姫の魂のみそぎだと考えてるんだね」


「うん。でも、いい加減終わりで良くない?て思ってる。

だって17回死んだんだよ。最高刑の死刑でも普通1回じゃんね、多すぎだよ」


私はうんざり、というジェスチャーをした。


「本当にね。これ以上、輝夜に辛い思いをしてほしくない。今回で、この魔のループを終わらせなければ」


瑠珂の真剣な眼差しに、私も自然と力が入る。

決戦の日、8月15日まではあと2ヶ月といった所だ。

考え得る対策も工夫も尽き、頼りの知識人会議で持ち寄った案も微妙だった今世。

瑠珂と離れたくないという気持ちまで加わって、一層月に行きたくない。

どうやって乗り越えるか… でも… と、またしても襲われた絶望感に、先程乾いた涙がじわりと浮かんできた。



「大丈夫だよ、輝夜」


瑠珂は私の頭を撫でる。

温かい広いてのひらが髪の上を滑り、私は瑠珂を見上げた。


「僕だって、無駄に転生していないんだから」


ちょっぴりいたずらっぽく笑う瑠珂が可愛くて、涙は止まった。


私がループ生活で重ねた試行錯誤や努力はさっき話したが、瑠珂も何か策を講じていたのだろう。

頭の良い瑠珂のことだ、きっと、私には思いもつかない事に違いない。


私は期待を込めて瑠珂を見つめた。


「君は、とても賢い人だ。それが君の性格からなのか、月の人にある不思議な力なのか分からないけど、君は昔から何でも知っているし、感受性が豊かだ。

そこにある籠を、開けてみてくれないか」


瑠珂が部屋の隅を指した。

妙に存在感があるあの葛籠つづらが、実はずっと気になっていた。


私は近づいてそっと蓋を開けてみる。


「これは…!!」


「僕は、前の生でこれをずっと探していた。長い時間を掛けて文献を調べ書籍を漁り、世界中を回って集めた。そして今世でも、その知識を使ってようやくこの手にできたんだ。

とうとう全部揃った(・・・・・・・・・)これで確かめられる(・・・・・・・・・)


瑠珂には珍しく、言葉に熱が籠もる。

どこかで聞いた台詞な気がした。


目の前に輝く5つの宝物を見下ろしながら、私は記憶を辿った。



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