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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第99話 ジェットコースター的快楽

~薙鬼流ひなみ視点~


 人混みを掻き分け、エド先輩の元へ行く。


 抱き付こうとしたその時、彼の顔が少し寂しそうに見えた。私は何かを察するように抱き付き作戦を中止する。


「お待たせしましたぁ!」

 

 何か考え事をしていたのか、エド先輩は私に気が付くと、その考え事を頭の隅に無理矢理押しやったようにして言う。


「…お、遅かったな。うん──」


「違います!うんこじゃないです!!乙女になんてこと言わせるんですか!?」


 私はわざと明るく振る舞った。エド先輩の悩み事がなんなのかわからないけど、私がそれを忘れさせてあげたい。


 私は彼の腕をとり、アトラクションに次々と乗った。


 センサー・オブ・ジアース

 レイジング・ソウル

 ソアリング

 インディー・フォードアドベンチャー

 タワー・オブ・ホラー


 徐々に日も傾き、明るかったパーク内が次第にイルミネーションの輝きに照らされる。


─────────────────────


~織原朔真視点~


 薙鬼流と色々なアトラクションに乗った。ほぼジェットコースターのようなアトラクションだった。


 乗っている時は全てを忘れられる。しかし楽しい時間はもう終わってしまう。


「先輩、楽しかったですか?」


「うん」


「本当ですかぁ?」


「本当だよ。ただ……」


「ただ?」


「この楽しい時間も終わっちゃうんだなって思うとなんだか寂しくて」


「え~!!?何か意外です。エド先輩がそんなこと考えてるなんて」


「僕は基本ネガティブなんだよ。そんな僕とは違って薙鬼流はポジティブだよね?」


 薙鬼流は顎に人差し指を添え、上を向いて考えてから発言する。


「そうですかね?あんまり考えたことないなぁ~、あっでも!この前の大会の時はたいぶネガティブでしたね♪︎」


 薙鬼流は楽しそうにネガティブ発言をした。そして続ける。


「実はあの時、私Vチューバー辞めようと思ってたんですよ」


「え?」


 突然のカミングアウトで僕は驚いた。


「でもエド先輩が私を救ってくれたんです」


「優勝したからか?でもあれはシロナガックスさんがいたから──」


「違います。まぁ勿論シロさんのお陰でもあるんですけど、私はエド先輩の『前に逃げろ』って言葉に救われたんです。私、個人でVやってる時もそうでしたけど、色々なことに逃げてて…その内逃げ道もなくなって、本当に苦しかったんです。でも逃げる方向が前なら、苦しくても私らしく前へ突き進めばそれで良いんだって思えたんです」


 薙鬼流は僕を見た。


「あの言葉が今の私の原動力になってるんですよ!!本当にありがとうございます!!」


 僕は薙鬼流に見つめられて、更には感謝も告げられたせいで恥ずかしくなり、目を逸らした。その視線の先にはジェットコースターに乗る人達が写った。そして言った。


「だとしたらジェットコースターって虚しいよな」


「え?どういうことですか?」


「薙鬼流は大会を通して、原動力となるものを見つけた。だけどジェットコースターは乗ってる時だけ楽しくて、終わっちゃえばそれでおしまい。何も残りはしない。だからこそさっき、寂しいって思ったんだ」


 自分でも嫌になるくらいのネガティブ発言をしたと思っている。しかもこの発言は薙鬼流とのこの時間を否定したも同然だ。


 僕が他意はないということを説明しようとすると薙鬼流は僕から逃げるように前へ躍り出た。


「じゃあ先輩?」


 後ろを振り返り、僕を見ながら彼女は言った。


「私と一緒にいれば毎日がジェットコースターみたいに楽しい日になりますよ?」


 彼女は挑発するようにウィンクをした。パーク内のイルミネーションが彼女の輪郭を幻想的に写す。そんな彼女にみいった僕は呟く。


「…そう、かもしれないな……」


「え?なんか言いましたぁ?」


「何でもない」


「え~!教えてくださいよぉ~」 


 明日はいよいよ、一ノ瀬さんの出る全国eスポーツ選手権大会の日だ。勿論僕と薙鬼流は現地で観戦しにいく。一ノ瀬さんの挑戦の行く末を僕らは想いながら家路に着いた。

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