第74話 優勝チーム
~織原朔真視点~
文句を言う奴はあとを立たない。サッカーのとんでもないパスミスによる失点、野球の大事な場面でのエラーや暴投で、暴言を吐く奴は山ほどいる。それは画面越しのお茶の間で、パブリックビューイングで、現地で言う奴もいる。しかしその文句の殆どは家族間や友人、隣の席の者にしか届かない。しかし配信では本人に直接伝えることができる。中にはスーパーチャットを使って、お金をかけて文句を言う奴だっている。炎上しているからと言ってコイツは傷付けても構わないんだと錯覚し、酷い言葉を吐く連中もいるんだ。
セカンドゲームでの失態。
しかし奴等を黙らせるにはどうしたら良いか。それはスポーツでも一緒だ。誰もが唸る様なスーパープレイをすれば良いのだ。
薙鬼流ひなみは正にそのスーパープレイをリスナー達に対して文字通り叩きつけたのだ。
『うらぁぁ!!!』
薙鬼流の咆哮が聞こえた後、僕とすれ違うようにして新界さんがワープゲートを移動していく。薙鬼流は見事に作戦を完遂したのだ。
僕は炎に包まれた安地外から再び安地内に戻った。ここもあと少しで炎に包まれる。回復を施し、薙鬼流はワープゲートに向かって銃を構えながら新界さんが戻ってきた時に備えている。
画面右上のキルログに新界さんの名前が出てようやく勝利を実感した。
「よっしゃぁぁ!!」
『やった~~!!!』
しかし勝利に酔いしれる時間などない。まだ僕ら含めて8チームも生き残っている。僕と薙切流はラウンド3の安地内に向かって走った。
─────────────────────
~視聴者視点~
『ヤバ、おもしろ!いやマジで面白い!!』
『まさか殴ってくるなんて流石の新界雅人も読んでいませんでしたね』
『よく思い付きましたね!あの時どんな会話が繰り広げられていたのか知りたい!!とは思いますが、まだまだ残存チーム8!!優勝候補に一気に名乗りを上げたキアロスクーロ!!このまま優勝なるか!?』
─────────────────────
~織原朔真視点~
『フェンスの後ろにハイドいます!』
シロナガックスさんの指示が聞こえる。彼女はもうゲームをプレイすることはできないが、僕と薙鬼流のプレイ画面を見ることはできる。その為、指示を出すことができるのだ。
「『了解!』」
剥き出しの鉄骨。荒れ果てた砂利道。直径5メートルほどの配管が放置されているところを通り抜けた。
『建物の中にワンパいます!』
「やりあってるやりあってる!!」
『前へ詰めましょう!中には誰もいないです!!』
ラウンド5の収縮も始まり、残り人数も減った。黄色いブルドーザーのような乗り物の中に僕と薙鬼流は入り、窓から様子を窺う。しかしこの場所も直ぐに安地外だ。背後から炎の収縮が迫る。前方にも炎が空にかかったカーテンのように迫るのが見える。
視界を動かせば、どこかしらで戦闘の様子が窺えた。暴力的な音も常に聞こえる。
炎に押し出されるようにして僕らはブルドーザーから出ると、少し離れた建物から同じようにして出てくる敵の姿が見える。
「撃って!!」
『撃ちます!!』
僕の指示と薙鬼流の意思表示が重なる。
敵のパーティーも僕らと同じ2人だ。交錯する弾丸だが、ここで別の角度からも弾丸が飛んできて僕らを襲う。
─────────────────────
~視聴者視点~
『乱戦に次ぐ乱戦!激戦に次ぐ激戦!!しかしここで勝負あったか!?』
画面は神視点。360°炎に囲まれた小さな円には2チームが残っている。1つは3人全員が揃い、残るもう1チームに襲いかかっていた。残るそのチームは既に1人が殺られており、ゼブラルターもダウン中、紫色のシールドを張りながら背後にいるルーを庇っている。そのルーはゼブラルターの後ろから必死に銃をぶっぱなしていたがしかし──
『っと~!ここで試合終了!!ラストゲームを制したのは、チーム上京組だ~!!』
〉gg
〉ナイスゲーム
〉調教済みで韻踏める
〉てことは優勝したのは……
画面はゲーム画面から主催の田中カナタと実写の武藤兼次の2人が並んで視聴者に向かって語りかける。
『え~それでは、ラストゲームのリザルトを……いや、ここで出しちゃうともう優勝チーム予想できちゃうから敢えて出さないでいきます?』
田中カナタの問い掛けに武藤が返した。
『…そうしますか?でしたらラストゲームチャンピオンのチームをお呼びしましょう』
『はい!準備、は出来てますでしょうか?』
田中カナタは確かめるように間をとりながら言った。
『はい!できているようなので、お話を伺いたいと思います。ラストゲーム、チャンピオンとなりましたチーム上京組の皆さんです!聞こえてますかぁ!?』
─────────────────────
~ぼっち組・渡辺視点~
「み、見てたか森氏?」
僕は同室の森氏に尋ねた。
「見てたよ渡辺氏……」
共に新界雅人の視点を見ていた僕達だが、彼を打ち倒したエドヴァルド・ブレインか薙鬼流ひなみの視点を見るべきだと後悔した。殺られた新界先生は自分を倒したエドヴァルドの視点を見ながら、プレイの解説をしている。
森氏は新界雅人視点を視聴しているが、僕は渦中のエドヴァルド視点で観戦していた。そして最終ラウンド、フルパで残っていたチーム上京組に殺られたエドヴァルドの最後を見て、僕は神視点、主催者の配信へと移動する。
ラストゲームのチャンピオンとなった者達のインタビューだ。彼等の鼻をすする音と震えるような声が聞こえてくる。
「新界先生はエドヴァルドのことなんて言ってた?」
僕はラストゲームチャンピオン達のインタビューを聞きながら尋ねる。
「凄い誉めてたよ。あの動きが良いとか、1V1が上手かったとか、アビリティの使い方が上手いとか。確かに新界先生倒した時は僕も震えた」
「僕もさっきまでエドヴァルド視点見てたんだけど、普通に上手かったし、イケボだった。てかチャンネル登録しちゃったよ」
「僕もこれからアーカイブ見てみるでござるよ」
森氏がそう言い残すと、僕のワイヤレスイヤホンから拍手が聞こえる。どうやらラストゲームのチャンピオンインタビューが終わったようだ。
いよいよか。
『っと言ったところで、今日計3試合行われたんですが、すべてのチャンピオンチームにお話を伺うことができました。そしてこの後はいよいよ最終総合結果の発表となります』
『も、もう見れるんですか?』
『はい!仕事が早いですね。では参ります第1回田中カナタ杯。最終の総合結果、まずは!20位から4位までの発表をご覧ください!!』
画面が切り替わり、最終総合結果と書かれた表が現れた。画面の右側の下から20位、19位と順にチーム名とキルポイントとトータルポイントが刻まれる。画面の右側には20位から9位のチームが発表され、画面左側の下から8位から4位までが発表された。4位よりも上、上位3チームの枠は空欄となっている。
落ち着いた武藤兼次の声が聞こえた。
『第20位から4位までです』
順位とチーム名が読み上げられる。トップ10になるとチーム名の後、トータルポイントも読み上げられた。
『第4位、ビリミリ。トータル30ポイント。え~田中カナタさんこの結果をご覧になってどうでしょうか?』
『いや~、どのチームも満遍なくポイントが獲れていて、本当に最後の試合まで誰が優勝するのか読めませんでしたね』
『本当にその通りですね。どのチームが優勝をとってもおかしくないぐらいの実力がありました。さぁ、それではここからはトップ3の発表となります。まずは第3位のチームの発表です。第3位はこちら──』
画面の3位の枠にチーム名と3人のプレイヤーのイメージ写真が写し出された。
『第3位!プラハを着た天使たち!!』
『おお~!!!』
〉おめでとう!!
僕はコメント欄にそう打った。同じようなコメントが溢れ爆速で流れていく。
『彼等が3位です。それではいよいよ優勝チームの発表となります』
準優勝チームは、優勝チームの名が呼ばれてからの発表となる。先に準優勝チームの名が呼ばれると優勝チームがどのチームになるかわかってしまうからだ。
『第1回田中カナタ杯!頂点に輝いたのはこのチームです!!』
画面が暗転し、稲妻のようなエフェクトが幾度か走る。そして漆黒の画面が両開きに開くと優勝チームが画面一杯に写った。
『チャンピオンは!キアロスクーロ!!』
「うわぁぁぁぁぁ~!!演出かっこよ!!」
「やっぱりかぁぁぁ!!」
僕と森氏は叫んだ。
画面一杯に写し出されたシロナガックスのロゴマークとエドヴァルドと薙鬼流ひなみは、元の最終総合結果の表の空欄のトップに移行された。その下にはおしくも準優勝となった新界雅人率いるチームラストエンペラーが枠におさまっている。
『1位と2位の差が2ポイント?やば。これを見てどうですか?』
武藤兼次は田中カナタに尋ねた。
『本当にどのチームが優勝してもおかしくなかったですねぇ~、しかしどの試合でも常に上位、1位を獲った試合こそありませんでしたが、6位、3位、2位とキアロスクーロはコンスタントにポイントを獲っていた印象があります!!』
『皆さん素晴らしい試合を見せて頂けました。そしてキルランキング等を見たいところなんですが、実はですね時間が……』
『そうなんですよね……22時を回るとですね、配信が出来なくなる年齢の方が、しかもその方が優勝チームにいるということで、本来なら3位2位と順番にインタビューをしたかったんですが、いきなり1位のチームからインタビューをさせて頂きたいと思います!!』
〉未成年?
〉誰?シロナガックス?
〉キルヒナやで
〉薙鬼流ひなみが未成年
『はい!ということで、お呼びしましょう!第1回田中カナタ杯優勝チーム!キアロスクーロです!!』




