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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第52話 幻聴

~音咲華多莉視点~


 矢を構えている時が心地良かった。


 すべての神経が的に向かい、私の世界が縮小していくのがわかる。その世界は単純でわかりやすい。私を取り巻いている悩みや仕事、人間関係等の複雑に絡まった事象を、私と弓と的だけにしてくれる。そこには敵も味方もない。


 今まさに敵である一ノ瀬さんと競っているのかもしれないけれど、弓を構えれば何も聞こえなくなる。


 ──どうして競っているんだっけ?


 そんなことが頭に過った。しかし直ぐにその思考をかき消す。思考を消すなんて非常に難しいことであると私に弓を教えた指導者が言っていた。私は何故だか直ぐにできたが、本来ならば訓練が必要らしい。簡単な訓練方法としてはマインドフルネスがある。呼吸に集中し、空気の流れを思考し続ける。それを4分間続ける。簡単なことに聞こえるかもしれないが、それが意外にも難しいようだ。先程言ったように私は意にも介さず実行できたが、他の共演者達は大いに苦戦していた。


 その人達が言っていたのは、1分間ならできるがその後は、余計な言葉や思考が頭を埋め尽くし、気付いたら別のことを考えていた、らしい。


 集中力はスポーツや芸術活動に多大なる影響を与える。才能というものを集中力に置き換えている者もいるくらいだ。


 さて、今は的に矢を命中させることだけを考えよう。幸いにも一ノ瀬さんは的の中心を外した。私はいつも通り矢を真ん中に的中させるだけだ。私の世界が縮小し、応援してくれる美優と茉優、他の生徒達の声すら聞こえなくなった。そして自分の思考の声すらも。


 私は弓を構え、引き手と押し手の緊張を感じながら引っ張っていた弦を弛緩させようとするが、その瞬間、思いもよらぬ声が聞こえた。


「…それよりもありがとう……」


 その声によって私の縮小した世界が音を立てて崩壊する。


 ──エ、エドヴァルド様!!?


 私は現実に引き戻された。気が付けば引っ張っていた筈の弦から指が離れた。矢はあらぬ方向へ飛んでいき、的を掠めることもなかった。


 3射目の私の点数は0点を刻む。インストラクターのお兄さんが勝敗を発表した。


「一ノ瀬愛美さんの勝利です!」


 その宣言に特に盛り上がることもない。集中していた私はエドヴァルド様の声によって現実世界に引き戻された。普段は彼の声で夢の世界へ行けるのだが、今回は逆だった。しかし一体どこからその声が聞こえたのか、集中していた私にはよくわからない。


 ──この争いをエドヴァルド様が見ていたの!?


 私は周囲を見渡した。クラスメイト達が驚いた表情をしている。それもその筈、今まで的の真ん中に矢を的中させてきたのだ。勝利を確信していたのにそれを私が裏切った。


 私の頭の中に様々な感情が渦巻いた。


 ──エドヴァルド様がここにいる?でもここにいる皆の声を私は知っている。だからエドヴァルド様はいない。みんなの期待を裏切ってしまった。それにエドヴァルド様は今日アーペックスの大会なのだからここにはいない筈だ。もしかして幻聴!?一ノ瀬さんが私を焚き付けるから?


 流水のように溢れる思考によって、私はいたたまれずアーチェリー場から逃げ出した。


「か、華多莉!!?」

「待って!!」

「かたり~ん!!」


─────────────────────


~薙鬼流ひなみ視点~


 じわりとかいた額の汗を腕で拭った。


 ──マイクアームは2人が来てから合わせれば良いよね?てかエド先輩のマイクってコンデンサーじゃないのか……


 他の配信者の配信機器を見るのは面白い。今度自分も真似てみようか。特にシロさんのゲーミングPCとキーボード、マウス。これらを使いこなしてあんなスーパープレイをしているのかと想いを馳せる。


 ──って私はまた……


 その時、エド先輩から電話が掛かってきた。


「もしも~し♡」


『あ、もしもし?今電話できるか?』


「は~い♡エド先輩とならいつでもできますよぉ?」


『……進捗を聞かせてもらおうか』


「なんか業務連絡感が……とりあえず自分の含めてお二人のPCも起動できるようにしましたよ、ネットにも問題なく繋がります。回線速度も問題ありません!」


『そうか、ありがとう』


 エド先輩の低音を効かせた感謝の言葉が私の全身をくすぐる。


「ここ本当に良いところですね!」


『薙鬼流も同じ高校なんだからその内来ることになるんじゃないか?』


「え~、その時はエド先輩も来てくださいよぉ」


『……それよりちょっと色々あって、この自由時間の間にそっちに行けなさそうなんだよね。だから大会が始まる30分前とかになりそう』


 本来ならば、一度この時間帯にこのホテルに寄ってPCの確認に来る予定だった。動作確認と一度プラグを抜いてしまった為、PCの設定が変わってしまっている可能性もあるからだ。


「あ~、誤魔化したぁ!良いですよぉ、待ってますから」  


『今、一ノ瀬さん……シロナガックスさんに代わるから……』


 私はシロさんから直接指示を受け、マウス感度、DPI等の設定を確認した。

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