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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第50話 良い子ちゃん

~織原朔真視点~


 アーチェリー場には弦が弾かれる鋭い音と的に当たる乾いた音が響いていた。


「おおぉ!すごいね!もう当てるなんて」


 まだ始めて間もない一ノ瀬さんが的に当て始めた。インストラクターのお兄さんが手でひさしをつくりながら遠くにある的を凝視する。


「3点に当たってるね」


 よく見えるな、と思いながら僕は一ノ瀬さんとお兄さんの会話を盗み聞く。


「ん~思ったような軌道を描けないですね。もっと山なりになるように調節したり、矢の蛇行運動を計算にいれないと……」


 お兄さんは、うんうんと頷きながら一ノ瀬さんに共感する。 


「もっと直線的に飛ぶと思ったのに……」


 一ノ瀬さんがボソッと言った。


「ん?何か言ったかな?」


 よく聞き取れなかったお兄さんが聞き返した。


「いえ!なんでもないです!!」


 一ノ瀬さんは弓を握っていない方の手を振ってなんでもないと否定していた。しかし僕には彼女が何をイメージしていたのかを知っている。それは、アーペックスに出てくる武器のことを想像していたのだろう。


 ラチェットボウという弓の武器だ。ラチェット社が造った弓という設定になっているゲーム内の武器だ。一ノ瀬さんが呟いたように弾道落下の影響が少なく、命中しやすい。それだけでなく弓なので発砲音がなく敵に位置がバレにくい武器としてアーペックスでは重宝されている。


 ──さしずめ、アーチェリー場に来たのは実際の弓を触ってみたかったからだろう…… 


 僕らはインストラクターのお兄さんに教わりながらアーチェリーを満喫した。しかしここで事件が起きる。


「着いた~!」


 入り口が騒がしい。いち早くそれに気付いたインストラクターのお兄さんは僕らに断りを入れて、新しい来場客を迎える。


「自然が気持ちいいねぇ~」

「それな!空気が上手い!!」

「てかアーチェリーとか初めてなんだけど」


 騒がしい入り口を僕は後ろを振り返って確認した。そこには大量の生徒達が押し寄せており、お兄さんがそれをどうさばこうかと苦心している姿が見えた。


 何故そんなにも人が集まっているのか、答えは簡単だ。音咲さんがいるからだ。


 お兄さんが人数を数えている。このアーチェリー場にはたくさんの人が来ても良いように弓と矢、的が設置されているが、流石にあの人数は無理だろう。数え終わったお兄さんが頭を悩ませた。


「ん~2人分足りないなぁ」


「流石にこの人数じゃ無理ですよね」


 音咲さんが困りながらそう言った。すると彼女の取り巻きの1人であるギャルが僕を指差した。


「あ!なんでアンタがいんの!?」


 その声に反応した音咲さん含めた大勢の生徒が彼女の指の先にいる僕に注目した。ドクンと心臓が跳ねたのをきっかけに僕の意識が遠退いていく。


 僕の様子を隣で見ていた一ノ瀬さんが僕に寄って来て声をかけてきた。


「だ、大丈夫?」


 僕は一度大きく跳ねた心臓が徐々に落ち着きを取り戻していくのを感じた。しかし身体中の体温が冷えていく。その隙に、といっては聞き心地が悪いが、取り巻きのギャルが僕に向かって歩いて来る。


「アンタが華多莉に何かしたの知ってるんだからね!!」


 音咲さんから色々と訊いたのだろう。彼女は僕を糾弾、いや断罪するために再び人差し指を僕の鼻先に突きつける。僕は音咲さんにしたことを色々と思い出していた。確かに色々した。いや色々あった。彼女が指しているのはどのことだろうか?僕が考えているとギャルの後ろから音咲さんがやって来て言った。


「ちょっと美優!!」

「どうして止めるの?コイツに何かされたんでしょ!?」


 この言葉に音咲さんの周りにいた大勢の生徒が口々に僕を糾弾し始めた。


「さいてー」

「は?なにそれ」

「犯罪者じゃん」


 音咲さんは少し慌てるようにして口にする。

 

「ちょっ、ちょっとちが──」

「いいの!私が代わりに言ってあげる!!」


 物凄い剣幕で美優と呼ばれたギャルが僕に迫る。しかし間に一ノ瀬さんが入った。


「待ってください!織原君が何かしたんですか!?」


「生徒会は黙っててよ!これはコイツと私達の問題なんだから!!」


「いいえ、生徒会として私が間に立つべきだと思います!!」


「なにそれ?こんな犯罪者予備軍のボッチを1人にさせないために構ってあげてるんでしょ?あぁ~やだやだ、良い子ちゃんぶっちゃってさぁ?アンタも勘違いされないうちにコイツから離れた方が良いよ?」


 その時、インストラクターのお兄さんが困ったように口を開く。


「ま、まぁまぁここは皆で仲良く──」


「あ!そうだお兄さん!2人分足りないって言ってましたよね?この2人が抜ければ私達全員でアーチェリーできますよね?」


 お兄さんは言い淀む。


「それにさ、ほら?良い子ちゃんなんでしょ?私達がアーチェリーできるようにさ、譲ってよ」

 

 一ノ瀬さんは俯き、黙る。そして呻くようにして言った。


「良い子ちゃんじゃありません……」


 一ノ瀬さんの雰囲気が変わった気がした。


「私は!良い子ちゃんじゃありません!だから譲りません!!」


「は!?」


 一ノ瀬さんの怒るところなんて初めてみた。それもこんな大勢の生徒の前で。2人の怒りが顕になったことにより、インストラクターのお兄さんが苦肉の策として僕らに提案する。


「じゃ、じゃあこれからアーチェリーで勝負をするのはどうかな?」

 

 ギャルと一ノ瀬さんがお兄さんを睨んだ。その視線にお兄さんは仰け反るようにして怯んだが、2人を諌める。


「だ、代表者の1人が矢を3回射って得点の高い方が勝ちってことで……」


 これはお兄さんがこちらの味方をしてくれたように思えた。初心者とは思えない一ノ瀬さんの実力なら負けることはないだろう。


 しかしギャルが物申す。


「でも向こうの方が先に練習してるじゃないですか?」


「この子達もさっき来たばかりなんだ。まだ2.3回しか矢を放ってないよ?それに君達の代表者にも教えるから、これでフェアな勝負ができる」


 ギャルはそう言うことなら、といって音咲さんの肩に手を置いて口を開く。


「華多莉!頑張って!!」


「な、なんで私が!?」


「だって華多莉、アーチェリーしたいんでしょ?」


「し、したいけど……こんな勝負なんて……」


 音咲さんは戸惑いながら周囲を見渡す。皆が期待の眼差しを音咲さんに注いでいた。そして対戦相手になりそうな一ノ瀬さんを見た。


「い、一ノ瀬さんだってこんな勝負なんて──」


「私の方が知ってます……」


 何故か静かに闘志を燃やす一ノ瀬さんが音咲さんに言った。


「私の方がエドヴァルドさんのことを知ってます」


 その一言で音咲さんの闘志にも火が着いた。


「はぁ?」

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