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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第38話 生徒会室

~織原朔真視点~


 授業も終わり、放課後となった。音咲さんは昼休み中に仕事で早退した為、朝に話し掛けられた以上に声を掛けられることはなかった。


 僕と薙鬼流ひなみ──本名は鶴見慶子──は生徒会室の扉の前で出会った。


「あれぇ~先輩?また会えましたね♡これはきっと運命です!!」


「偶然じゃないだろ!僕らはここに呼び出されたんじゃないか」

 

 薙鬼流ひなみは小さな頬っぺたを膨らませて、むくれる。僕はそんな彼女を無視して、生徒会室の扉をまじまじと見た。


 教室や職員室と違って引戸ではなく、ドアノブがあるタイプだ。扉は木製で古めかしい。しかしどこか光沢がかっており、この学校の生徒会が長年その歴史を引き継いできたのであろうと想像させる。


 僕はゴクリと唾を飲み込む。そして隣にいる薙鬼流ひなみに目を合わせた。彼女は僕の背後に隠れるようにして身を潜めており、僕の脇腹辺りから顔を覗かせている。


 僕は深呼吸してから扉をノックした。


 どうぞ、と厳かな声が生徒会室から聞こえる。ドアノブを回してゆっくりと扉を押し開けた。


 縦に長い奥行きのある部屋だった。


 中央には足の低いテーブルが置かれている。この部屋を縮小させたかのようなサイズのテーブルだ。縦の辺には向かい合うようにして黒いレザーのソファが置かれていた。そしてその奥にはまるでアメリカの大統領が使うような仰々しい机が置かれている。その机に備え付けられているリクライニングの効く椅子に生徒会である一ノ瀬さんが、両肘を机について指を組ながら僕らを待っていた。


 普段教室で会う彼女よりも、どこか凄みを帯びていて、漫画の一コマならゴゴゴゴゴと効果音がついていることだろう。


 僕と薙鬼流ひなみが入室し、ガチャリと音を立てて扉がしまる。生徒会室に静寂が訪れるが、それを破ったのは呼び出した本人、一ノ瀬さんだった。


「ようこそ、生徒会室へ」


─────────────────────


~薙鬼流ひなみ視点~


 ここからは私、鶴見慶子改め、薙鬼流ひなみがお送りします。


 私とエド先輩の密会を覗き見した挙げ句、大事な時期の私達の時間を奪おうとする学校の犬、生徒会に一言申したかった。


 私は愛しの先輩の背後に隠れて、いやほぼ抱き付いて生徒会室へ入室した。


 ──頼もしい背中……♡


 最近気づいたのだが私は背中フェチなのかもしれない。ゴツゴツとした先輩の背中とゴワゴワとした制服の相性は完璧だった。思わず頬擦りをしたくなる。しかし頬擦りをした結果私の化粧が落ちて先輩の制服に私の跡が残る。


 ──これってマーキング!?ヤバい。好き……


 半ばボ~っとした私だが、我に返る。先輩とのラブラブを邪魔した本人が目の前にいるのだ。


 生徒会、名前は確か一ノ瀬愛美。


 私はエド先輩の横に並び、その女に睨みをきかせる。


 ──私の幸せな時間を奪いやがって……


 ショートボブにキリっとした眉毛に丸みを帯びた目。鼻筋が通り、鋭角に尖る唇。


 ──フン!少しは可愛いじゃない!!私の方が可愛いけど 


 扉が閉まってから先輩達は声を発さない。


 ──だったらここは私がかましてやろうじゃないの!!


 そう意気込んだ私だが出鼻を挫かれる。


「ようこそ、生徒会室へ」


 きりっとした口調は、私達を威圧しているように思えた。私は負けじと声を発する。


「な、何がようこそよ!!私と先輩のラブラブを邪魔したくせに!!」


 私の言葉に先輩と生徒会の女が反応する。


「なっ!!?」

「うっ!!!」


 先輩の照れた反応とは違って、生徒会の女は苛立ちを募らせたことに私は気が付く。


 ──もしかしてこの女……


 そう思った私は挑発する。


「今の反応、もしかして生徒会さんも先輩のこと狙ってる感じですかぁ?それは残念ですねぇ、これから私と先輩は大切な予定があって直ぐに帰らないといけないんですよぉ。ねぇ先輩♡」


 先輩は戸惑いながらも頷いた。私はそれを見てとても嬉しい気持ちになった。そして思った。


 ──この関係を見せ付けられたらあの女、さぞ悔しがるだろうな……


 そもそも屋上にあがっただけなら放課後呼び出すなんてことはしない。その場で注意すればすむ話だ。きけばこの生徒会の一ノ瀬という女は先輩と同じクラス。何か特別な感情があってここに呼び出したに決まっている。私は生徒会の女を見た。


 彼女は口元をムズムズとさせて、何か言いたいけど適切な言葉が見つからないような表情を見せる。こういう時こそ頭ではなく感覚でモノを言えない真面目一辺倒の女を見て、私は自分の生き方に自信を持った。


 大事なのはタイミングだ。タイミングが悪ければ私は命を絶っていたのかもしれない。けれどもそれをエド先輩、織原朔真先輩が救ってくれた。先輩にしてみればただ痴漢から私を守っただけなのかもしれないけれど、私はそれ以上に救われた気がしたのだ。


 周りには敵しかいない。彼らは私の落ちていくところをまるで生餌が猛獣に食われる様子を嘲笑いながら見物しているように思えた。逃げ場のない檻に放たれたそんな私を獰猛な肉食獣達から先輩が救い出してくれた。


 私は先輩が好きだ。先輩と一緒にいられるこの時間を大切にしたい。生徒会なんかに邪魔されてたまるか。


「じゃあ私達はこれで失礼しますね♪︎」


 私がそう言うと生徒会の女は言った。


「ちょ、ちょっと!そ、そういうの良くないです!!」


「良くない?何が良くないんですか?不純異性交友って言いたいんですかぁ?」


 私は捲し立てるようにして言った。


「だいたい誰が不純だって決めるんです?あなたですか?学校ですか?学校なんて社会から隔絶された場所ですよ?そこにいる先生と呼ばれる人達も社会に出たことない人達ばかりです。それなのにここでは先生、先生と呼ばれるものだから自分が偉くなったと勘違いしちゃってるんですよね」


 ネット掲示板の創設者のように私は言った。相変わらず生徒会の女は自分の言いたいことを言えないでいる。


「じゃあ!そういうことで!行きましょ先輩?」


 私は先輩の腕を組んで扉のドアノブを握ろうとしたその時、生徒会の女が叫んだ。


「待ってください薙鬼流さん!」


 私の手と思考が止まった。何が起きたのか頭で理解できなかった。代わりに私の感覚が察する。そして先輩の顔を見た。先輩も驚きの表情を見せていた。


 私と先輩はほぼ同時に生徒会の女を見やる。女は続けて言った。


「エ、エドヴァルドさんも待ってください……」


 どうやらこの女は私と先輩の正体に何故だか気付いている。私と先輩は再びお互いを見合った。


 先輩の目はこう訴えていた。


『どうして知ってる?』


 私は感覚的に首を横に振った。それのさす意味としては知らないということと、私は誰にもエド先輩のことを言っていないということも示している。


 私は女に言った。


「どうして知ってるの!?」


 動揺を隠せない私の言葉に女は返した。


「織原君がVチューバーのエドヴァルドだって結構前から気付いてたの……でも貴方が薙鬼流ひなみさんだって気付いたのは今日の教室での会話と声で……だってあんな大声で同じチームになったとか言えば多少勘がいい人だったらわかるよ」


「あ、貴方Vチューバーマニア?」


 女は首を躊躇いながら横に振った。


「じゃあ何!?」


「……シロナガックス」


 女の言葉に私と先輩はクエスチョンマークを頭上に描く。女は初めは躊躇いがちに、そして後半は叫ぶようにして言った。


「…私……わ、私がシロナガックスなの!!」

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