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人前で話せない陰キャな僕がVチューバーを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件  作者: 中島健一


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第24話 ジェスチャー

~織原朔真視点~


『ゴメンナサイ』


 僕は音咲さんに首を傾げる。


 すると音咲さんは、手元にある紙を拡げた。おそらくまた怪文書のような文字が記されているのだろう。僕は眉間に皺を寄せ、目を凝らして文字を読もうとしたが、教室の電気が落とされる。

 

「えぇ~、今から杉田玄白についてよくまとめられた動画を流すから、電気消すよ~」


 先生のその言葉に生徒達は色めき立つ。


「おい!寝るんじゃないぞ!既に寝てる奴もいるから起こしてくれ~!全員起きたら動画を流す!!」


 生徒達は寝ている者を起こす。その間に先生は動画の説明をする。


「杉田玄白はターヘル・アナトミアという……あぁ、杉田玄白で思い出したけどその時世界ではジョン・ハンターっていう面白い医者がいて……」


 話がよく脱線する日本史の先生だが、僕はその脱線話が好きだ。しかし、今はそれどころではない。僕は音咲さんが何を伝えたいのか考えるべきだ。彼女が僕に謝罪したのだから。


 音咲さんは僕を指差す。そしてペンを両手で握りしめ、床を磨くようなジェスチャーをした。あまりにも必死に床を磨く為、僕は思った。


 ──カーリング?


 次に音咲さんは自分のことを指差す。そしてパントマイムのように手で壁を表現して、そこから僕を覗き込ようなジェスチャーをした。


 ──ひょっこ○はん?


 その後彼女は再び僕を指差す。


 ──お前……


 そして次に首を真一文字にかっ切るようなジェスチャーをする。


 ──首を落とす…… 


 最後に両手を合わせて祈るようなポーズをとった。


 ──御愁傷様……


 音咲さんはもともと大きな目を更に大きくしながら上目遣いで僕の反応を窺っている。この顔は何が言いたいのか何となくわかった。『どう?伝わった?』だ。


 僕は彼女のジェスチャーを見て先程感じたことをそのまま文章にして彼女に渡した。


 音咲さんは初めは期待した面持ちで僕の書いた文章を読んでいたがしかし、次第に彼女の顔が険しくなっていくのがわかった。


 そして僕の書いた紙をビリビリに破り捨て、僕を指差して✕印を作りながら声を出さずに口を開けて伝える。


『ち・が・う!』


─────────────────────


~音咲華多莉視点~

 

 ──どうして伝わらないの!?


 私は内心イライラしていた。


 声を、言葉を使わないと相手に上手く伝えられない。自分がどんなに深く相手のことを想っていてもそれは声に出さないと伝わらないのだ。


 そんなこと言うと声が出せない人や耳が聞こえない人はコミュニケーションをとるのがもっと大変なんだろうなと私は思う。

 

 その時ふと思い出した。昨日のエドヴァルド様の配信を。


『一時期ストレスで声が出なくなった事がありまして、それを治すためにボイトレに通っていたんですよ』


 声が出なくなった彼は一体どんな気持ちだったのだろうか。きっと苦労した筈だ。いっぱいいっぱい努力して配信ができるようになったと言っていた。それに織原もコミュニケーションをとるのが苦手だと支配人の白州も言っていた。


 ──ここで私がコミュニケーションを諦めたらエドヴァルド様に顔向けできない!


 織原朔真に私の想いが伝わるまで、先程のジェスチャーを最初からやってのけた。


 モップのように床を磨くジェスチャーだけでなく机を拭くようなジェスチャーを加える。


 そして『わかった?』と私は顔で聞いた。織原は私に回答を記した紙を渡し、中を覗いた。


『殺し屋?』


 ──コイツ、わざと間違えてねぇか?


 こめかみに青筋が立つ私だが、ポーカーフェイスを保つ。そう、エドヴァルド様に相応しい人になるのだから。


 私は執拗に織原を指差しながら清掃員のジェスチャーを送り続ける。するとようやく織原は自分のバイトのことだと理解した。


 それがきっかけで彼は私のジェスチャーを次々と理解していった。私がストーカーだと勝手に勘違いしたこと、支配人に首にしてほしいと言ってしまったこと。そして最後、手を合わせて謝罪の意を示そうとしたその時、日本史の先生が言った。


「オイ!音咲!行動がうるさいぞ!!」


 私のジェスチャーが指摘された。私は先生に手を合わせてお辞儀する。それを見て先生はわかった、わかったとその場を終わらせたが、私は続ける。そのまま織原の方を向いて言った。


「ごめんなさい」


 彼は目を丸くして居心地が悪そうな顔をしていた。そして少し恥ずかしそうにして頷く。その時私の心に沈んでいたモヤモヤが軽くなった気がした。


 すると織原は自分のノートを破き、そこに何やら文字を書いて私に渡してきた。


『体育館裏で、僕のことを守ってくれてありがとうございました』


 ──あれは、私がまいた種なんだから別に感謝しなくて良いのに……


 そう思ったがしかし、胸の内側から弾むような感覚が押し寄せて私を満たす。


 今日はなんだか良い1日になるかもしれない。 

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