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第91話「終了して、再開したら、変わってました」




 教室には弛緩した空気が流れている。

 ある人は体を伸ばし、ある人は友達と談笑し、ある人は答え合わせに余念が無く、ある人はそれすらせずに頭を抱えている。

 後半はともかく、大体は4日間に渡って行われた中間試験が終わり、肩の荷が下りたと言った雰囲気。

 そして私も、そんな雰囲気を醸し出しているであろう1人だった。


「どうだった、出来の方は?」


 声を掛けてきたまこは私の机に腰掛ける。元より成績の良い彼女であるから、その様子は常と然したる違いは無い。


「自分では精一杯やったつもりなんだけど……うん、そこそこ……かなあ」


 我が校では試験終了日に正答のデータが配布される。それをどう使うかは個々人次第、私はこの後の事を考えて昨日までの出題データと照らし合わせて自己採点した所。

 その結果どうにも顔は苦み走ってしまう。

 だって昨日までの分と合わせ、今までのワースト記録を更新してしまったのだもの。落ち込むには十分過ぎる。

 まあ、赤点になるような点数ではなかったのが救いと言えば救いかもしれないけど。


「ねぇ、これからどこかで羽目を外す算段をつけている所なのだけど、結花もどう? もちろん光子も誘うつもりなのだけど」

「光子は部活じゃないの?」

「平気よ。どうせ出来の悪さに気分悪くしている所でしょう、そんな顔で部活になんて出られるものですか。きっと二つ返事でOKすると思うわよ?」


 どうにもイメージのしやすい光景を想像しながらも、やはりと私は首を横に振る。


「今回はやめておきます」

「その心は?」

「“あっち”でみんなを待たせちゃってるの。これからの予定が詰まっているからこれ以上は、ね」

「そう、妬ける事。なら詰まっていると言う予定が片付いたらまた改めて催しましょうか」

「その時はちゃんと参加出来るようにがんばります」


 「期待しないで待っているわ」、まこはそれだけ言って自分の席に戻っていった。



◇◇◇◇◇



「アタシはどうしてこう気が逸るんだ……ちゃんと考えれば解ける問題の筈なのに」


 などと、世界の終わりででもあるかのように肩を思いっきり下げて落ち込んでいる光子だった。


「光子は引きずり過ぎなのよ。1日1日気持ちをリセットでもしないとやっていられないわよ」

「そう言うのは試験が始まる前に言ってあげなよ……」


 その姿を下駄箱付近で見つけたのだけど……あまりにもアレな様子なので放っておけずに今に至る。

 私たちは試験の結果が芳しくなかったらしい光子を気遣いつつ(まこは微妙だけども)、帰宅の途に就いている。

 そんな途中の事。


「結花さん?」


 と、声を掛けられた。聞き覚えのある声に振り向けばそこにはやはり花菜のお友達である山城彩夏ちゃんの姿があった。

 ……彼女だけではなかったけど。


「お姉ちゃん〜……?」


 ぐったりとした様子で彼女()に肩を貸してもらっているのは花菜である。花菜は私に反応してのっそりと頭を上げる。


「助かったのです。役立たずなお荷物を運ばされて疲れてきた所だったのですよ」


 これ見よがしにげんなりとしたため息を吐いたのは肩を貸すもう1人。

 やはり花菜のお友達であり、MSOではミリアローズのプレイヤーである三枝木みなもちゃん。

 セバスチャンさんの実のお孫さんである彼女は割合と自身の心に素直な女の子である。

 嬉しければ嬉しいと、迷惑なら迷惑とずばり言う。オブラートへの包み方が苦手な類いの子。


「捨てる好機到来なのです」

「み、みなも!」

「ホントの事なのですー」


 と、少々気を使う性質の強い彩夏ちゃんが介入する事で空気は和らぐ。

 ここに能天気な誰かさんが加わると大抵は笑い飛ばせるのだけど、生憎と今は弱体化著しいので彩夏ちゃんの負担が増している様子。


「結花(あね)パース」


 「といやー」と言うやる気の無さそうな掛け声と共に花菜をこちらに向けて押し出した。

 普段ならば即座に距離を詰めて抱き付いてでも来そうなものだけど……今日の花菜は充電が切れたかのように4分の1辺り進むとよろよろと千鳥足になり、半分辺りで力尽きてばったりと倒れ伏した。ごめんね地面。

 歩道でなければ危ないからと、あるいは人通りがあれば邪魔でしょうと立たせる場面であるものの、それらが無いのでほっぽっておく事にした。


「手を貸さないの?」

「今近付いたらろくな事にならなそうなんだもの」


 横に広がる児童公園を抜けて花菜を避けつつ彩夏ちゃん&みなもちゃんに合流する。


「手間を掛けさせちゃったみたいでごめんね」

「いえこのくらいなら「まったくなのですよ」みなも!」


 彩夏ちゃんの叱責に、しかしみなもちゃんは涼しい顔で口笛の演奏に余念が無い。

 小柄なみなもちゃんを叱る彩夏ちゃんはそれなりに身長があるので見る人が見れば姉妹に捉えられるかもしれない。


「いいよいいよ。どうせあの子が『試験でエネルギー使い果たした。お姉ちゃんのいるとこまで連れてって』とか言って動こうとしなかったんでしょう」

「はぁ……まぁ……」


 げんなりとした視線の先にいる花菜を、どうしたものかと見つめる彩夏ちゃん。まったくもう、2人の優しさに甘えちゃって……。


「そんなあほな事言う子はぞんざいに扱ってもらって構わないから」

「そう言うのは得意なのですバッチこい」


 キラリンと瞳が輝く。こんな時ばかりやる気の漲った顔をするみなもちゃんに、どうやら頭を抱えている様子の彩夏ちゃん。

 苦笑を返しながら花菜を見やればまこ&光子の幼馴染みコンビにツンツンといじくられている。

 やがて「花菜っちお前もか」と憐れむような視線を光子が向け、「女の子としてこの格好はどうかしら」とまこはスカートの中を情報端末で撮影している。


「あら大胆」

「何が」


 みなもちゃんみなもちゃん、「へんし゛か゛ない、たた゛のしかは゛ねのようた゛」とはどう言う意味かな?


「ともかく、わたしはここらで失敬させてもらうのです。中間試験でゲームさせてもらえなかった分を取り戻さねばならないのですよ」


 やる気を漲らせるみなもちゃん、ゲームはしてなかったのか、させてもらえなかったのか。

 お祖父さんがセバスチャンさんな所からすると、お母さんが目を光らせていた花菜に近いかもしれない。


「うん。ここまで連れてきてくれてありがと。このお礼は必ずさせるから」

「貸し1ー。覚えたのですよー」

「セバス――お祖父さんによろしくね」


 返事だろうか、ひらひらと軽く手を振ってみなもちゃんは帰路に就いた。それを見送った彩夏ちゃんは花菜の事が心配なのか、そちらを気にしている様子。


「ちゃんと連れて帰るから大丈夫。それにほら、この子の事だから手でも繋げば自律行動くらい出来るようになると思うから」


 だってその言葉に触発されてピクリと動く駄妹だもの。案ずる必要なんてさらさらありませんよ。

 彩夏ちゃんもそれで胸の支えが取れたらしく、安堵のため息を苦笑しながら吐いた。


「分かりました。花菜もがんばったようなので、出来れば労ってあげてくださいね」

「善処します。するだけだけど」


 そんな会話の最中に足下から「労って〜……」とゾンビもかくやと這いずる妹に足を取られてしまい、仕方無しに手を貸すとむくむくと浮き輪に空気を入れてでもいるように元気になる花菜だった。


「元気百倍花菜パンナ、くくっ」

「ワンセットみたく言わないでもらえます?」



◇◇◇◇◇



 彩夏ちゃんとはまだ少し帰り道が同じなので連れ立って歩いていく。

 まこと光子とも面識があるとは言え、やはり話し相手は共通の話題のある私に偏るらしい。


「充電中充電中、離れられない仕方無い。ぐへへ」


 擦り寄ろうとする花菜の顔面を片手で掴んで制しつつ会話を交わす。


「花菜からお洋服を新調なさったのは教えてもらったのですけど……その後の調子は如何ですか?」

「うん、色々と苦労したけど……どうにかやれてるよ。今はパーティーのみんなで遠出していて、この後レベルを上げる予定なの」

「じゃあもうすぐ花菜と遊んであげられるんですか?」


 パッと華やいだ笑顔を向けてくれる彩夏ちゃんと、にへらっと不気味ににやける花菜にどう対処したものか……。


「どうかな……セレナと天丼くんの方も11月頭に中間試験があるからそれまでに間に合わせたいんだけど……まだいくつも問題があるし……」

「ナ、ナンダッテーッ?!」

「そうですか……」


 殊更残念そうにする彩夏ちゃん、こんなに親身になってくれるなんて良い子だなあ。

 もう少し見習ってくれないかな、「ヤダヤダヤーダ遊ぶーう」と抗議の声をがなるこの妹。


「それじゃあオフィシャルイベントには間に合いそうもないんですか……」

「イベント?」

「ご存知ありませんか? 一昨日公式ホームページで週末からオフィシャルイベントが開催される旨が発表されていましたよ」

「週末って……明日から?」

「はい」


 試験期間中はMSOからはすっぱり離れてたから全然知らなかった。

 どんな内容かは気になるけど……残念ながらお別れのタイミングだ。


「ともかくそう言うのがあるのは覚えておくよ。それまでに結果が出るかは別だけど……」

「出せ〜」

「オフィシャルイベントは大規模なのでとても楽しいですよ。と言っても私自身は10月のイベントを経験しただけなんですけど……普段感じられない独特の熱気があるんです。折角ですから参加出来るようがんばってくださいね」

「プレッシャーだなあ」


 彩夏ちゃんと花菜からの期待に満ちたその瞳を一身に集めた私だった。



◇◇◇◇◇



 その後、まこと光子とも別れた私と花菜はようやく自宅に到着した。

 2人でリビングで待っていたお母さんに中間試験の出来についてつまびらかに話す。

 ただ、あくまで自己採点なので大雑把に○×のみ。ここから先生方の判断で△が付けば点数は増減する

 だから今回の結果報告は仮として、「ひとまずはお疲れ様」と比較的楽に解放された。

 はてさて、答案が帰ってくる来週もこれだけ軽く済めばいいのだけど……ここからはもう採点に勤しんでいる先生方任せな訳で、私としては祈るばかり。


「おつとめごくろーさまでーす」

「終わってない終わってない。まだ答案帰ってきてないんだから」

「いーの! とりあえずあたしの力の及ぶ限りはしたんだから、後は野となれ山となれー。ゲームだゲームだひゃっほーい!」


 ホップステップジャンプとばかりに軽い足取りでリビングを後にする花菜だった。


「まったくもう」


 花菜も赤点は回避したけど、あまり安心出来るラインでもなかった筈、なのにどうしてああ能天気でいられるのか。

 ある意味感心してしまうけど、姉としては悩み所だった。


 私もまた後を追って自室に帰還。静かにドアを閉めると「はあ……」と息を吐く。

 4日間の重圧から解放されたので気が弛んだみたい。


「……いけない、やる事やらなきゃ」


 部屋着に着替え、机に向かう。

 今日は中間試験最終日と言う事もあり課題は出ていないものの、しかし予習復習の大切さは試験を受けた直後だからこそ実感する。

 週明けからは通常授業に戻るのだから少しずつでも頭を切り換えておかないといけない。

 いつものように机とにらめっこすると言う花菜からしたらショックが大きそうなイベントをこなしてから私は待ちに待ったMSOにログインするのだった。




◆◆◆◆◆




 もぞり。ベッドの上で身動ぎをしてゆっくりと瞼を上げる。

 久し振りに訪れた異世界は夕闇に染まりかけていた。見慣れた景色も、赤の陽射しの所為でどこか切ない。


「今日は夕方からか……大丈夫かな?」


 不安はこの後のレベルアップ作業に関する事。このまま行けば遠からず夜の闇が空を覆う、それがマイナスに作用しなければいいんだけど……。

 残念ながらセバスチャンさんからは詳細を伝えられていないので、今の私にはどんな事が起きても対処出来るよう尽くすくらいしかないだろう。


 机の上には私の装備がきちんと畳まれて置かれている。マーサさんが洗濯してくれたみたい。

 パジャマを脱いでその服に袖を通す。そして髪を結び、


「〈サモン・ファミリア〉、“おいでひーちゃん”」

『キュー!! キュキュキュキュ!!』

「わっぷ?!」


 召喚した途端、ひーちゃんは私の顔に体当たり。そして体を精一杯擦り付け、まるで泣くように火の粉を散らしている。

 どうしたの、と思ったけど……考えてみればひーちゃんとはほぼ4日近く会っていなかったのだ。寂しくなっちゃったのだろうか。


「あ〜、ごめんねひーちゃん。長い間留守にしちゃって。これからはちゃんと来れるから……泣かないで〜」

『キュ〜イ、キュ〜イ』


 よしよしと撫でるけど……どうにもしばらくは離れてくれそうもない。こればっかりは時間が経って落ち着くまでどうしようもないかなあ。

 ひーちゃんを伴い自室を後にする。トントントンと、リズミカルに階段を下りてリビングを目指す。

 ドアの隙間から精霊器の灯りを確認して音を立てないように開ける。


「こんにちは〜」


 向こうの様子を窺うとリビングのソファーに座って編み物をしているマーサさんと、両手でその糸の玉を持つボーイくんが視界に入った。


「あらら?」


 あちら側も同時に私に気付いたらしく顔を向けるものの、している事がしている事なので動けないみたいだ。


「あららっ、アリッサちゃんだわっ! ひーちゃんも一緒よ、ボーイちゃん!」


 跳ねるような勢いで喜ぶマーサさんと、動いていいのか分からないらしいボーイくんに顔を弛めながら近付く。


「ご無沙汰してます」

「あらら。星守さんの試験は終わったのかしら?」


 一応マーサさんは中間試験は星守が年に何回か受ける試験と認識している。どんな試験なんだと聞かれたら答えには窮しそうだけども……。


「はい、結果はまだですけど……赤点にはならずに済みそうです。これでしばらくはガッツリ打ち込めます」

『キュイ〜』

「あらら。それは良かったわね〜」

「ありがとうございます。あ、そうだ……留守の間、ボーイくんは教会のお手伝いに行っていたんですよね、もしかしてそれは……」


 指差す先、ボーイくんの胸元には紙で作ったような何かが貼ってあるのだ。以前には無かったそれには絵のような物が書かれている。


「あらら! そうそうそうなのよアリッサちゃん! アスタリスク教会は子供たちにお勉強を教えているでしょう?」

「はい、私も一度行った事があります」


 あそこでシスター・ロサから〈言語解読〉を得る為のアイテム・教本を貰ったんだよね。


「あらら。ボーイちゃんはあそこでお手伝いをする事になったのよ。それでねそれでね、ボーイちゃんは子供たちに大人気なの! そのメダルもね、今日子供たちが作ってくれたのよ」


 キャイキャイと、まるで我が事のようにはしゃぐマーサさん。その姿が、どれ程ボーイくんが人気者であるかを私の心に届けてくれる。


「……そうですか。そんなに……仲良くなれて良かったね、ボーイくん」


 ボーイくんは頷き胸のメダルに手を添えている。その姿はとても誇らしく思っているように私には見えた。

 それから少しの間話を聞けばマーサさん自身もお菓子などを作って持っていってとても喜ばれたのだと言う。

 くすり。

 笑みが溢れてしまう。


(良かった)


 2人の幸せそうな様子を見れて本当に良かった。


(これで心おき無く――)


 杖を握る手に力がこもった。



◇◇◇◇◇



「ふんっ、ふんっ」

『キュイ、キュイ』


 私は張り切っている。

 ひーちゃんも張り切っている。

 やる気に満ちた顔で鼻歌を歌いながら体を揺らしているのだ。

 外ならば奇異の目で見られてしまいそうだけど、マーサさんの家のリビングだしこれくらいは気になるまい。

 先日からセレナが同居する事になったので、まずここで合流してから〈リターン〉でポータルに転移し、更にディドブラ村に転移する予定。

 でも中間試験で早く帰宅している私である。予習復習に使ったと言えど集合時間までには時間がある。


(なら、こう言う時こそエキスパートスキルの練習をしておかないとね)


 《古式法術》はエキスパートスキルを使えば状態異常・封印になるけど、使っただけ封印状態となる時間を短く出来る。

 使えるだけ使っておけば、もしかしたら役立つ事もあるかもしれないのだから。


「あらら。やっぱり綺麗ねぇ」


 攻撃用の法術の場合、待機状態で使う訳だけど、マーサさんてば見てはそう言う。すぐにキャンセルしちゃうのがちょっと申し訳無かったり。

 晩ごはんなども済ませて、その後もバリバリと練習を続けていた。

 が。


「ふえっ?!」


 不意に視界が黒く染まった! 誰かが両手で私の目を塞いだらしい。あ、あわわわわわっ!?


「だ、誰ー、マ、マーサさん?!」


 降って湧いた事態に慌てふためく私、しかし事態は呆気無く終息する。ポコン。そんな軽い音によって。


「やめんかバカ」


 聞き慣れた声、それに反応するように手が私の頭を後ろへ引っ張った。ふにょんと以前どこかで感じた気がする柔らかく温かい何かが後頭部に触れた。


「いいじゃない。どうせだからびっくりさせたいのよ」


 やはり聞き馴染みのある声がすぐ傍から聞こえてくる。とするとこの感触ってまさか……ぐ。うらやましくないぞ。


「セレナ? 天丼くん? 一体いつの間に……?」

「ふっ、よく分かったわね」

「あのねえ……」


 どうしてだか2人はログインしていたにも関わらずこっそり近付いていたらしい。


(それにさっきのセリフは一体どう言う意味……?)


 まあそれも解放されてからか。


「あの、そろそろ離してくれない? 微妙に切なくなるから……」


 いけない、思わず本音が……。


「OKOK、こっちとしてもいつまでも目を塞ぐつもりはさらさら無いワケだしね〜♪」


 けどそんな私の様子は気にせずに、セレナの声は楽しげに弾んでいるように聞こえた。ほんとにどうしたんだろう?

 ぱっと両手が離れたので目を開けると、そこには――。


「あれ?」


 天丼くんがいたのだ。セレナに対してか「やれやれ」と肩を竦めていたのだ。

 でも、その姿はいつもと異なっていた。


「その鎧と盾……どうしたの?」


 天丼くんは今まで黒っぽい全身鎧と、身の丈に迫ろうと言う大きな盾を装備していたのだけど……。


「新調したんだよ。この前のクエストで盛大に稼げたし、使わなきゃ勿体無いからな。どうだ?」


 言われて改めて天丼くんの新しい鎧を見る。

 黒っぽかった鎧はくすんだ銀色に変わっていた。重厚さは以前の方が勝っている気がするけど、散見される意匠がより高性能であると物語っているよう。

 盾は警察で使われているような長方形の盾なのは変わらないのだけど、鎧とお揃いの銀色となり優美な意匠が施されている。

 よくよく見れば剣も変わっているようで、厚く太くなっている様子。


「何だか綺麗になったね」

「今までが汚かったみたいな物言いじゃないか?」


 そんな事無いです。


「ああ、じゃあセレナが隠そうとしていたのってそれだったんだね。うん、結構びっくりしたよ」

「ふっふっふ。びっくりするのはここからよ!」

「え?」


 ふわり。肩に少しだけ重さを感じた。セレナが私の肩を支えに飛んだんだろう。

 視界の右端からはためく赤い布が見えた。


(けど、いつもと違う……?)


 ヒールが床を叩き澄んだ音を響かせ、桃色のツーテールがなびく。


「それ……」

「そう! その通り! 私も新調したのよ! 大枚はたいて! しばらくはまともに装備買えそうにないけどね! あっはっはー!」


 大笑するセレナには悲壮感はまるで無い、それだけ新しい装備がお気に召しているんだろう。


 灼熱の炎のようなデザインの大鎌を始めとして総取っ替えされていた。

 ドレスとしての記号が散見された以前の服とはずいぶんと異なっていた。

 ミニワンピース、長袖丈のジャケット、膝上まである軽鎧付きのロングブーツ、色合いこそ同じ燃えるような赤色だけど以前よりもずっと動きやすそうな出で立ちだ。

 ただ……。


「すごく可愛い、とは思うんだけど……セレナ、スカート短すぎない? その、飛んだり跳ねたり蹴ったりするのに……」


 膝上程度までしかないミニワンピースはひらひらと頼り無く揺れている。現実の私ならば一生着る機会など無さそうな丈だ。

 それをよりにもよって戦場を暴れまわるセレナが着るのは色々危ない気がする。


「大丈夫大丈夫、下にはスパッツ履いてるしね。昔見たアニメのヒロインだってこんな感じだったじゃない?」


 ヒラリとスカートの端をめくると確かに同色のスパッツがあるけども女の子が軽々しくそんな真似をしてはいけません!!


「隠して隠して! 男子がいるんだからっ!」

「ったく真面目なんだから」

「真面目不真面目以前の問題です!」


 セレナに注意をしていると玄関からノック、セバスチャンさんが到着したみたい。2人がこんな調子だったのでまさかセバスチャンさんも?


「遅れまして申し訳無い」


 そんな考えがよぎるけど、セバスチャンさんはいつも通りだった。ちょっと肩透かし。


「ふむ、既にお2人のお披露目は済んだようですな。どうです、中々様になっておられるでしょう」

「はい、2人ともかっこいいですよねー。スカート丈はともかく」

「ほっほ、見かけだけではありませんぞ。性能も上がりましたからな、ますます頼りになる事でしょう」

「そうそう。アリッサが留守にしてる間に散々試したのよ、もうバッチリ。キッチリカッチリ頼りにしてくれていいからね」


 えっへんと胸を張るセレナ。自慢したくて堪らなかったんだろうなあ。


「うん、頼りにさせてもらいます」

「任せなさい!」


 「おー!」とハイタッチ。これならどんな困難が待っていても大丈夫だと思える。

 先への不安など無く気持ちは高陽していくのだ。


「……頼ったらレベル上がらないよな」

「天くん。一言多いです」


 テスト結果は大体こんな感じ。


 結花・中の上。

 まこ・上の上。

 光子・中の下。


 花菜・下の上。

 彩夏・上の中。

 みなも・上の下。


 ちなみに赤点は35点以下。

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