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第85話「どんな苦労だって越えていく」




 ダンジョン・古の城塞の地下に出現する3体の強化型ゴーレムとの戦闘中の私たち。

 やっとその内の1体、メガ・ソードゴーレムを撃破した私とセバスチャンさんは単身でメガ・アーマーゴーレムと対峙するセレナと合流を果たした。


「ごめん、遅れちゃった!」

『早い早い。どって事無いわよこの程度!』


 確かに、ニヤリと不敵に笑むセレナのHPは8割程度をキープしている。

 ただ、私たちが来るまで回避重視の時間稼ぎをしていたみたいでゴーレム側のHPもそれなりに残っていた。

 メガ・シールドゴーレムを引き受けている天丼くんの事もある、急ごう。


「私が動きを封じるからあまり動かさないで!」

『頼むわ!』


 アタッカー(攻撃役)に該当するメガ・ソードゴーレムに比べればメガ・アーマーゴーレムの攻撃力は低い、であればそれだけチェインの耐久値を削るのも時間が掛かる。

 その間を利用して大鎌に〈ウィンドフォース〉を掛けておく。


『これでっ!』


 セレナが地を蹴りメガ・アーマーゴーレムの前に立つ。

 が、折り悪く〈ライトチェイン〉が砕けてしまう、ヘイトが思いっきり上がっているだけあってその攻撃は怒りに駆られているかのようにセレナへと向かっていく。


『ゴゴゴゴォッ!』


 ゴーレムはその太い両腕を駆使してセレナを殴り、あるいは捉えようと振るう!


『だ・か・ら! トロイんだっつーの!』


 けど、セレナの機動力は巨漢で重量級のメガ・アーマーゴーレムのそれを大幅に上回っている。前後左右に自在に動き、攻撃に捉えさせない。


『そこぉっ!』


 瞬間、メガ・アーマーゴーレムの攻撃を避けた動きからスキルへと繋いでいく。


『〈ターニングリーチ〉ッ!!』


 ぐるりと1回転し、胴を真一文字に切り裂くセレナ……しかし、硬質な金属音がその流れを断ち切る。


『ったく! 面倒くさい特性持っちゃってさ!』


 メガ・アーマーゴーレムは例えダメージを受けても仰け反ったりよろけたりする事無く行動する。セバスチャンさん曰くスーパーアーマーと言うのだとか。

 お陰で攻撃が続かずにセレナ1人では攻めきれずにいたのだ。


『それでもダメージが通らないワケじゃないんでしょうが! アリッサ、セバスチャン。一斉に攻撃してさっさと倒すわよ!』

「了解!」

『お任せ下さい』


 各人がメガ・アーマーゴーレムへと全力で攻撃を繰り出す。ヘイト量はセレナの独壇場なものだから私とセバスチャンさんはかなり楽に攻撃出来ていた。そして――。


『でぇりゃっ!』


 一閃。大振りなその斬撃が、重厚な鎧を両断した!

 ――ガシャン!

 セレナの放った一撃にメガ・アーマーゴーレムは耐え切れずに力無く倒れ伏した。


『よっしゃ次ぃっ!』


 微妙に目を血走らせながら獲物を見繕うセレナは、離れた場所でメガ・シールドゴーレムの足止めに専念している天丼くんの方へと早速駆け出した。


『アンタで終わりよ、そこの岩っぽいの!』

「セ、セレナ待ってよー」

『わたくしたちも急ぎましょう』


 私たちは天丼くんの許へ向かった。まあ私だけが遅れるのだけど。


「天丼くん、大丈夫?」

『ああ、と言いたいトコだが回復を頼む。ポーションを思ったよりも使っちまってる』

「うん、分かった。セレナ、セバスチャンさん、フォローをよろしく」

『そのつもりよ!』

「『はっ。了解致しました』」


 そしてメガ・シールドゴーレムとの戦いが始まる。

 天丼くんのHPを〈ヒールプラス〉で回復し、セレナと天丼くんに改めて〈ウィンドフォース〉を使用した。

 メガ・シールドゴーレムはその名に恥じぬ防御力とHP量を有しているけど、3人の大攻勢への対応は難しいのか、岩のような盾でも防ぎ切れずに徐々にそのHPを減らしていく。

 3本あったHPゲージが最後の1本になった時には自慢の盾に亀裂が走り、そのゲージが5割を割り込むと右の盾はガラガラと重々しい音を立てて崩壊していく。

 するとどうだろう、HPが減るとそれだけ動きが鈍くなるものだけど、メガ・シールドゴーレムの動きは以前よりも軽やかに見える。

 それだけ盾が重かったんだろう。メガ・ソードゴーレムのように全身が刃のようでない分攻撃力は下がるだろうけど、先程よりも攻撃の頻度は格段に上がっている。


『っつ! オイオイ、張り切り過ぎだぜオタク!』


 攻撃を受ける天丼くんも猛攻に防御スキルで対抗している。


「『蝋燭は燃え尽きる直前が最も強く炎を燃やす物ですからな』」

『じゃあこっちも、思いっきり燃えてやるわよ!』

『お前は燃えっぱなしだろうがよ……』


 その宣言の通り、私たちの攻勢に耐えるには片方の盾を失い、防御力が低下したメガ・シールドゴーレム1体では荷が重かった。

 右側からの執拗な攻撃が確実にHPを奪い、そして――ガシャン! メガ・シールドゴーレムは崩れ落ちた。


『チッ! やりきれ(、、、、)なかった(、、、、)!』


 カンッとセレナは苛立ちを込めてゴーレムを蹴り飛ばす。


「セレナ、気を付けて!」

『分かってる!』


 しかし、まだ私たちが構えを解く事はない。何故ならゴーレムの体はお決まりの黒い炎に焼かれていないし、ウィンドウだって開かない。

 やがて、シュウシュウとゴーレムの体から黒い靄が抜け出し始めた――!


『ヤダヤダ。しつこい男は嫌われるってのにさ』


 セレナの言葉に触発でもされたかのように、やにわにガタゴトと周囲から音がする。

 それは……私たちが打ち倒した3体のゴーレムから!


『もうひとがんばり、だな』


 崩れ落ちた各ゴーレムからいくつものパーツが黒い靄目掛けて浮かび上がる。

 そして、それらは寄り集まり1体のゴーレムを形作る!


「『メガ・ユナイテッドゴーレム』……!」


 ――ズシンッ!!


 床を揺らし降り立ったのは、メガ・ソードゴーレムの右腕、メガ・アーマーゴーレムの体、メガ・シールドゴーレムの左腕と盾を持つ寄せ集め……けど、油断をしていい相手とは思えない。

 ――ギンッ! その両の目に怪しげな光が点る!


『来るっ!!』


 右腕をわずかに引き絞ったゴーレムはガンッ! そんな床を蹴り抜く音と共に剣の如く鋭く尖る右腕を突き出しての突進(チャージ)を行った!

 その狙いは――私!

 メガ・ユナイテッドゴーレムのヘイト値は3体のゴーレムの物を統合して引き継ぐ……つまり、3体共に攻撃などを繰り返した私へのヘイト値が最も高くなったのだ。

 まるで巨大な弾丸の如く迫り来るゴーレム。しかし、そこに割り込む影があった!


「〈カバーリング〉ッ! 〈アイアンボディ〉ッ!!」


 天丼くんは〈カバーリング〉により私とゴーレムとの間に高速移動し、即座に移動不可の代償を伴う〈アイアンボディ〉により自らを壁とした!


 ――ズ、ドンッ!!


『っ!!!』


 聞くだに凄まじい衝撃音が広い空間を席巻した。ビリビリと剥き出しの肌が攻撃力をにわかに感じさせる。

 だが、まだゴーレムの勢いは完全に消えていない。事実、天丼くんのHPが今もガリガリと急速に減少を始めている。


『ど、らあっ!!』


 それを阻止するべく、セレナが左腕側から背後に回り込み、無防備な背中へと大鎌を振りかぶる!


『なっ!?』


 ――ガン。しかし、聞こえてきたのはそんな音。それはセレナが攻撃を受けた音だ!


『は、反則くさい!』


 吹き飛ばされたセレナは体勢を立て直しながら毒づいた。

 ゴーレムはなんと左腕の盾を右側に振るったのだ、背中側(、、、)だと言うのにほぼ180°(、、、、、、)も!


「『彼奴は人型ではあってもあくまでゴーレム、人体の構造など関係無いのです!』」

『チッ!』


 ようやくゴーレムの突進が終了したのか、足を止めて攻撃の邪魔をした天丼くんを凝視している。


『ホラホラどうした! 俺を攻略しなけりゃお目当てのトコには行けないぜオニーサン!』


 心を持たないゴーレムには〈ウォークライ〉などの一部スキルは効果が無い。ただの軽口ではあるけど、それもそうだと言わんばかりにゴーレムは天丼くんを退かそうと動き出す。


『っ、コイツは!』


 ゴーレムが左腕の盾を構えた、瞬間そこから黒い波動が放射される、まるで天丼くんの〈シールドプレッシャー〉だ!

 厄介なのはダメージよりもその追加効果! 〈アイアンボディ〉は再申請時間中なのか使えず、天丼くんはバチンと後方に弾き飛ばされてしまう!


『ぐ、ううっ?!』


 床に叩き付けられてゴロゴロと転がる天丼くんをしり目に、道の開けたゴーレムが再度突進の構えを取る。


「っ、〈ダブル・レイヤー〉! “光の縛鎖”!」


 ガンと床を蹴る寸前、私はゴーレムに〈ライトチェイン〉を使う。だが全身に攻撃判定でもあるのか、数瞬と持たずに破壊されてしまう!


「『アリッサさん!』」


 セバスチャンさんが間一髪私を抱きかかえて飛びすさる。一直線にしか進めないらしい突進はそのまま直進し、縮めた筈の私との距離を自ら開けた。


「『どうにも。攻撃・防御・それを成す体、そして技……まさしく三位一体ですな。厄介厄介』」


 3体のゴーレムはそれぞれに特化していたものだけど、剣と盾と体、それが集まるとここまでになるなんて……事前に教えられていたとは言え、息を飲む。


『つってもやる事は決まってる。アリッサの法術とセバスチャンの曲メインでぶっ飛ばす! そうすればあの()が壊れるから私の出番。それまでは……天丼!』

『ああ、いつも通りの尺稼ぎだろ。言われんでも分かってる』


 ポーションで消耗したHPを回復させる天丼くんは再びとゴーレムの前に立つ。


『生憎と、時間無いのよ! 試験勉強とかでさぁっ!』


 足留めを目的にしたヒット&アウェイ、自慢のスピードを活かしたそれにゴーレムの挙動にわずかに隙が出来る。


(そうだ、どんな格好でもゴーレムはゴーレム、突進に気を付ければ移動自体は鈍い筈……!)


 そう信じ、私はスペルの詠唱を繰り返す。


 ――やがて。


 ガラガラガラッ! 盛大な音。そう、亀裂の走っていたメガ・シールドゴーレムの盾が砕けたのだ。


『よしっ!』


 小さく拳を握るセレナ。これで左側はほぼ無防備となる、格段に攻撃はしやすい。


『剣は俺が抑え込む! その間に攻撃を叩き込め!!』


 ゴーレムの右腕を抱き込む格好で〈アイアンボディ〉を使用し、自分自身で動きを封じる天丼くんが叫ぶ。

 いつまでも効果が続く訳じゃない。やれる限りをやらないと!


『〈サイジング・エクスキューション〉ッ!!』

「“燃えろ、始まりの火”っ!」

『キュキュイッ!!』


 セレナの大鎌が走り、次の瞬間には火柱が高く高く燃え上がる、そこに流れ込むように音符たちが殺到する。


『だあっちっちっ!?』


 その中から〈アイアンボディ〉の効果が切れたんだろう、天丼くんが転がり出てくる。ダメージは無い筈だけど……熱は別かな?


『ぐっ、オイあの野郎出てくるぞ!』


 その指差す先にはズシンズシンとゆっくり火柱の中から黒い影が姿を現す。


『は。ありゃ『火傷』してるわね。ああ言うの地味に効いてくるわよ』


 ゴーレムの体には所々に黒く焼けたような痕跡がある。HPに継続ダメージを与える状態異常の火傷(バーン)、〈オリジンファイア〉は高確率で火傷を負わせるのだけど……機械でも火傷になるんだね。


『ねぇ、またさっきのやってよ。そしたら私たちで殴るから』

『火に巻かれるのが想像以上にクるんだが、またやれと?』

『言ったでしょ。急ぐのよ、色々と』

『貧乏くじを引かされている……』


 などと言うやり取りにより戦略が決まった。天丼くんが大変な方向に。



◇◇◇◇◇



 このゴーレムはフロアボス扱いなので幸いにイーヴィライズしない、なのでHPも順調に減少を続けている。

 が、それにより苦労している人が約1名いた。


『ぐっ、ちょ、おまっ、危ね――!』


 現在メガ・ユナイテッドゴーレムの腕は両方破壊されている。剣と盾はどちらも破壊可能であったけど、それにより天丼くんが動きを封じる場所が限定されている。

 具体的には足にしがみつく事に……その為セレナの鎌が頭の上を行ったり来たり。

 今のは天丼くんのウサギの耳が風圧で揺れた所。


『後もうちょいなんだから我慢しなさいよ!』

『我慢とか言う問題じゃねぇーーっ!?』


 でもセレナの言う通り、相手のHPはそろそろ尽きそうなのだ。

 メガ・アーマーゴーレム譲りのスーパーアーマー効果によりヘイト値の高い相手にズンズン進撃してくるメガ・ユナイテッドゴーレムだ。天丼くんの足留め無しではもっと厄介な事態になっていたかもしれない。


「天丼くんがんばって!」

『つってもそろそろ持たな――』


 天丼くんの言葉が言い終わらない内に〈アイアンボディ〉の効果が終了した。ゴーレムの足が天丼くんを振り回し、地面へと叩き付ける!


『ぐっ、がっ?!』

『チッ! いい加減に!』

「動きを止める! その間に!」


 2つの鎖が暴れるゴーレムの体を床に縛り付ける!


『しゃあっ! 終わ、れえぇっっ、〈クレッセントスラスト〉ッ!!』


 赤く輝くセレナの大鎌が袈裟懸けにゴーレムの体を切り裂いた!


『……どう、よ?』


 ――ガ、シャ……ン。

 HPはそれで完全に0になりゴーレムはその動きを停止した。

 そしてようやくその体が黒い炎となって燃え尽きると、みんなの前に表示されたウィンドウが、私たちの勝利を教えてくれた。


『やたっ!!』

『終わった……』


 前線を支え続けてくれた2人は対照的なリアクションで勝利を実感しているらしかった。


「『お喜びの所申し訳ありませんが、皆さんドロップアイテムのチェックをお願い致します。すごい歯車を1つ造るのに必要なゴーレムの金属片は1つ、最低でも3つ、足りなければ再戦ですぞ?』」

『『だああっ、無茶言うなっ!』言わないでよっ!』

「ご、ごめんね。でも……あ、私のドロップに1つだけゴーレムの金属片があった」

「『わたくしは残念ながら無しですな』」

『こっちには2つあるぞー』

『チッ、1つ』


 計4つ、ギリギリかあ……。

 いえ、足りて良かったと思おう。



◇◇◇◇◇



 私たちは元来た道、通路の左へと進む。そこはゴーレムの製造を一手に担う工場区画。

 少し進んだ先にはガラス窓が並び、その向こうでは見た事の無い小型のゴーレムがバラバラの状態の各種ゴーレムを『よっせ、ほいせ』と運んでは組み立てている。結構かわいい。

 そこを更に遡り、私たちは部品の製造区画に辿り着く。


「ここですな」


 セバスチャンさんは私たち全員に向き直り、これからすべき事の確認をする。


「よいですかな。作業の流れですが、最奥にある製造装置に先程のドロップアイテム・ゴーレムの破片を入れスイッチを押せば自動で稼動し約10分で歯車となって出てきます」

「ずいぶん簡単ね」

「加工の工程自体は。ただし、歯車はアイテム名から察せられるかと思いますが別々の3種がある為、三度同じ工程を繰り返さねばなりません。つまり最低でも30分は必要となります」

「まだるっこしいな」

「同感です。そしてこれが最大の問題なのですが――」

「室内に入ると警報が作動して各種ゴーレムが大挙して押し寄せるんですよね」

「左様です」


 セレナと天丼くんが「「うげぇ」」と呻き、セバスチャンさんは「ふむ」と1つ頷く。


「気合いが入っておられるようですな」

「ばっちりですよ!」


 ふんっ! と鼻息も荒く答える。繋いだ手の先にいるボーイくんの未来が掛かっているんだから、気合いも入ろうと言うもの。


「セレナもほら、ボーイくんが見てるよ。がんばろ!」

「分かってる、分かってるって。やったるわよ!」

「ほっほっほ、それは頼もしい。では皆さん、作戦会議と参りましょうか」


 ギラリと片眼鏡を光らせてセバスチャンさんはそう言った。



◇◇◇◇◇



 ヴィーン! ヴィーン! ヴィーン! ヴィーン! ヴィーン! ヴィーン! ヴィーン! ヴィーン! ヴィーン! ヴィーン!


「『ああっもう! うるっさいわねぇっ!!』」

「『安心しろ、お前の声も大分うるさい』」

「『んなっ!?』」


 2人は一番槍と殿として前後を走りながらそんなやり取りを続けている。

 ボーイくんを部屋の外に待たせて突入した私たち。情報の通り、扉を開けた瞬間からけたたましい警報が部屋を満たした。いくつかある通路からガシャンガシャンと言う足音が無数に響き始める。

 それを受けて私たちは足を速める(やっぱり私は遅れるけども)。

 そして最奥にまで辿り着くと先頭を走っていたセレナがザザザッと立ち止まり殿の天丼くんと並び立つ。


「『じゃ、操作は任せたわよセバスチャン!』」

「『は、かしこまりました』」


 セレナの言葉通り、セバスチャンさんが製造装置に向かう。製造装置はどうにも科学技術による物では無く、複雑な紋様が彫り込まれた円筒でその上部から素材を投下するようだった。


「『さて、お出ましだ。30分間粘ってやらぁ!』」


 ――ガシャン!!!

 幾十も重なる金属の足音は、この部屋の空気を震わせる程に強かった。

 剣を鳴らし、盾を構え、鎧で身を固め、幾体も連なりながら迫る金属製のゴーレムたち。


「『っ、はぁっ!』」


 そんなゴーレムたちへと、己を鼓舞するように吼えてセレナが飛び出した! 既に部屋に入る前に〈ウィンドフォース〉を使用している大鎌は緑の光の帯を引きながら前方にいるソードゴーレムへと向かっていく。


『〈メテオール〉ッ!!』


 振り上げられた大鎌は文字通り、まるで流星と化したように加速して無防備だったソードゴーレムの胴体を切り裂いた!


『はっ! マジみたいね、さっきの話っ!』


 共有した情報の中に『出現するゴーレムはPCに接触した時点から攻撃を開始する』と言う物があった。

 攻撃の際に迂闊に触れさえしなければ積極的に襲ってくる事は無い、はじまりのフィールド第1層に出現するモンスターの性質に近い。

 けど違いもある。攻撃こそしないものの奥へ奥へと、それも密度を上げて迫ってくるから余裕がある訳じゃない。

 ――ガインッ!


『らしいな……!』


 セレナの攻撃後に打って変わって両手の剣を振り上げての攻撃を行ったソードゴーレム、天丼くんは盾でそれを防ぎつつ足へと攻撃している。


「リリース!」

『キュイキュイッ!!』


 私もただ見ているばかりではなくなるべく攻撃に参加する。

 でも私の法術は性質上連続攻撃には向かない為に狙いは私の攻撃でも一撃で倒せるポップゴーレムとセンサーゴーレムになる。


『お待たせ致しました、わたくしも戦線に加わりましょう』


 装置を動かし終えたセバスチャンさんがヴァイオリンを奏で始め、広範囲にその効果を及ぼす。だからこそ相手方の数が多い程にその真価を発揮する。

 幸いゴーレムたちはデバフに対しては無反応らしいので、セバスチャンさんは積極的に支援してくれる。

 〈敏捷のエチュード〉で動きを鈍らせ、〈精神のララバイ〉でただでさえ低い精神力を更に下げ、〈筋力のマーチ〉で攻撃力を下げる。


(すごい……ここまで楽になるなんて)


 ゴーレムの進軍速度が軒並み下がっていく。新たに出現するゴーレムも、鈍足化している前方のゴーレムが壁となりデバフを受けていなくてもその足は鈍り、攻撃するこちら側にも余裕が生まれる。攻撃に時間を要する私には非常にありがたい。

 こんな大量のモンスターとの戦いは初めてだから私たちへのバフも、ゴーレムへのデバフも、総じて支援なのだとなんだか改めて実感した。

 後ろから絶え間無く奏でられていたヴァイオリンがその音を止めるのが心細くなるくらいに。


『おや、1つ目の歯車が出来たようです。皆さん、少々暇を頂きますぞ』

「はいっ、がんばりますっ!」

『キュキュイッ!』

『早めに戻ってよね!』

『ようやく3分の1かよ、先は長ぇな』


 セバスチャンさんがいなくなってもデバフは残る。それらに助けられながらセレナと天丼くんは攻撃力の高いソードゴーレムを中心に戦い、私は隙間を縫うようにこちらへ押し寄せる小型のゴーレムを中心に攻撃中。

 なんとか捌けている、そう思った辺りで私たちは違和感に気付く。


『ふぅっ。何か……増えてきたわね、連中』

『こっちも情報通り、って事なんだろうな。もっと怠けてくれてもいいもんだが』

『厄介なものですな』


 この事態もまた情報通り。

 ゴーレムの出現頻度は歯車を時間経過で増えていくと言う。


(この調子じゃ最後にどれだけの量に膨れ上がるんだろ……)


 不安を胸に抱きつつ戦闘を継続しているとセバスチャンさんが戦線に復帰し支援が飛ぶ。

 再びゴーレムたちの足が鈍り、数を増したゴーレムを塞き止める。

 しかし、小型のゴーレムたちは必ずしもその限りでなく、網の目をくぐるように飛び出してくる。

 すぐにでも攻撃したいけど、周囲の大きなゴーレムたちを刺激しないように気を配らないといけない。引き付けてからタイミングを見計らい攻撃を仕掛ける。


『アリッサ! 〈ウィンドフォース〉が切れそう!』

「分かった、しばらくお願いっ!」


 セレナの注文に、私は数歩下がり詠唱作業に移る。その間のセレナと天丼くんはフォーメーションを変えている、大きなゴーレムを引き付ける役はまだ〈ウィンドフォース〉が効いている天丼くんに任せられ、セレナはと言えば……。


『どっせいっ!!』


 豪快なオーバースローで小型ゴーレムを千切っては投げ千切っては投げ戻す。物量が多いものだから時間稼ぎだ。


「リリース!」


 どうせならとセレナと天丼くんへ〈ウィンドフォース〉を使い私も戦線に復帰する。

 その間にも増えていくゴーレムを見て目眩がしてるけど。



◇◇◇◇◇



『皆さん後2分です! どうかご辛抱下さい!』

「は、はい〜」

『キュ、キュイ〜』


 既に歯車は2つまで完成し、残す1つも間も無く完成する……けど、明らかに殲滅速度よりもゴーレムの出現する速度の方が多くなってしまっている。


『だあっ! 無理っ、もう無理っ! MP持たないっ!』

『お前が言い出しっぺだろうが! 弱音なんざ吐いてんじゃねぇっ! こっちだってカツカツなんだぞ!』


 ゴーレムに押され、前線で踏ん張っているセレナと天丼くんのHP・MPはそろそろ危険な域に入ろうとしていた。


「“導け、聖なる抱擁”! セレナはちょっと待っていて」


 しかし、回復に回ればその間にゴーレムが入り込む。


「――燃えろ、火の円環”!」

『キュイッ!』


 〈ファイアサークル〉2連発によって小型ゴーレム数体をまとめて攻撃する。

 倒すには至らないものの、〈ファイアショット〉〈ワンドヒット〉〈ファイアアタック〉による追撃などで倒している。

 でもそれもそろそろ限界が近い、私のMPは共用なので減りも早く、ひーちゃんも疲れてる。焦燥感がジリジリと首筋を焙り始めたそんな時の事。


『皆さん、お待たせ致しました! 最後の歯車が完成致しましたぞ!』

『ホント?!』

『やっとか!!』

「よ、良かった……」


 セバスチャンさんのもたらした朗報に疲れ切った声が返る。でもまだ休むには至らない。目の前に群がっているゴーレムを突破しなければならないのだから。


「『行くわよ! もうこんなトコからはさっさとおさらばしたいっ!』」

「わっ、わわっ」

『同感だ! さっさと出るぞ、そんでもって休むんだ! だらけるぞちくしょう!』

『エチュードの効果時間はまだ続きます、急げば十分間に合う筈です。お急ぎを!』


 攻撃状態になってしまっているゴーレムを倒し、私たちは製造区画から脱出すべく行動を開始する。

 セレナは大鎌をしまってやっぱり私を抱き上げる、天丼くんも武器を、セバスチャンさんも楽器をしまい……駆け出した!

 天丼くんはゴーレムたちの中へと飛び込み、人混みを掻き分けるように進んでいく。対してセレナとセバスチャンさんは……。


「ひやあぁぁあっ?!」

「『しっかり掴まってなさいよ、落ちたら一巻の終わりなんだからねっ!』」

『ううむ、羨まし……ごほんごほん』


 壁を蹴って宙を舞い、そして……ゴーレムの体を足場にして駆け抜けていく!


『ぐあっ、狭い狭いっ! なんで俺だけこんな目に遭ってんだっ?!』

「『だってアンタ重くて飛べないでしょ、防御力だけは高いんだからがんばんなさいよー』」

「えと、〈ヒールプラス〉と〈ウィンドステップ〉掛けておいたからがんばってね」

『あーっもうっ、やったらぁっ!!』


 天丼くんの絶叫が室内に木霊するのを聞きながら、私たちは出口目掛けて走っていくのだった。


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