第62話「その身の深くにあるものは」
私とルルちゃん、ひーちゃんは現在私の縮小化を調べる為に法術院へ移動中。
「ごめんねルルちゃん、手伝ってもらっちゃって」
その道すがら、私を乗せてくれているルルちゃんに改めてそう言った。
対するルルちゃんは恐縮したようにパタパタと手を振って答える。
「『そ、そんな……ワタシ、ただ、アリッサお姉さんが、困ってる、みたいだから、お手伝い、してる、だけで……ケイちゃんと会えたの、アリッサお姉さん、のお陰、だから、これくらい……』
「そっか、ありがとう」
正確には、私はセバスチャンさんに教えてもらっただけなんだけど、「それでも」と彼女は言ってくれる。
「『そ、それに……』」
「うん?」
「『あ、あ、や、やっぱり、なんで、もない、です……』」
そう言って顔を赤くするルルちゃん。どうしたのか気にはなるけど……こんな顔をされては深追いするのもはばかられる、話題を変えよう。
「あ、そうだ。ねえ、ルルちゃん。私たちが請けてるクエストにルルちゃんも参加してみない?」
「『ふ、ふぇ? で、でも……ワタシ……』」
ルルちゃんはこれまでソロでケイちゃんの為のお洋服などを作り続けていたらしく、戦闘経験は皆無なのだそう。彼女曰く『戦うの、怖い、ので』らしい。気持ちはすごく分かる。
「ううん、一緒に戦って、って言う訳じゃないの。このお洋服も今もお世話になってるし、クエストに参加すれば報酬なんかが支払われる事になった時ルルちゃんの分も出るからお礼になるでしょ。危ない目には遭わせないようにするから。どうかな?」
「『でも、いいんですか? ワタシ、なんかが、クエストに加わって……もっと、強い人、とかの、方が……』」
「元々私たちは4人でやっているからその辺りは気にしない、で……」
そこで言葉が不意に途切れる。私はぼんやりと空を見上げ、不安に思ったのか声を掛けられちゃった。
「『ど、どうかした、んですか? も、もしかして、足、が……?』」
『キュキュ?!』
「あ……ごめんね、何でもないの。足も全然平気」
今度は私が手を振る。
本当に何でもない。ただ少し思い出していただけ。
セレナと、天丼くんと、初めて会った日の事を。
あの日は今とは丁度逆で、私が手を貸してセレナたちがお礼をする立場だった。
あれから多少の時間は過ぎたけど、自分がこんな事を言うのはもっと先かと思っていた。
感慨深い、と言うには少し浅いけどそれでも、わずかでもセレナたちに近付けたろうかと思うと嬉しく思えたのだ。
だから、ルルちゃんともっと仲良くなる切っ掛けになればいいなとも、少し思った。
「それで、どう? やってみる?」
「『え、と……じゃあ、はい。よろしく、お願い、します』」
「うん、よろしくお願いします」
そうして私はシステムメニューを開く。
進行中のクエストに中途でメンバーを加えられるかはシステムメニュー内の[クエスト]に登録されているリストから確かめられる。
クエストに関する情報は大まかな概要のみだけど、参加メンバーや最大参加人数などが確認出来る。そして参加メンバーが最大参加人数未満だった場合、クエストの途中からでも新たに参加する事が可能だ。
これを利用すれば、例えば少人数でクエストを請けて情報を集め、それに沿った有効な加護なり装備なりを持つメンバーを選別して送り込んでクエストを有利に進める事も出来ると言う。俗に斥候とも呼ばれ未知のクエストでは積極的に用いられているのだそう。
ただし、一度登録すると抜ける事自体は可能だけど枠は塞がってしまい、そこに新たにメンバーを加える事は出来なくなる。選別には細心の注意としっかりとした事前の情報収集が重要――。
「――なんだって」
「『はぁあ、そうなん、ですかぁ』」
「これも殆ど受け売りなんだけどね」
実際にやるのは今が初めて、知識はネットとセバスチャンさんからばかり。それをしっかりと思い出しながら操作を進める。
[クエスト]
『【メンバー追加】
キャンペーンクエスト《怪盗マリーにご用心!》の攻略メンバーに[ルル]を誘っています。
※返答までお待ち下さい
[キャンセル]』
ルルちゃんはすぐに返答をくれて、正式にクエストに参加する事となった。
仲間が増えたと喜ぶひーちゃんに、ルルちゃんは恐縮しきりで、こんな状況だけど少し和めた。
◇◇◇◇◇
3日ぶりにやって来た法術院。微妙に嫌な思い出もある建物だけど、今はそんな事を考えている場合じゃないのでルルちゃんと共に中に入る。
受け付けで尋ねると『魔属性法術研究室』、略して魔法研の場所を教えてもらう。
「『ア、アリッサお姉さん、元に戻れる、でしょうか……』」
「どうかな、そう簡単には行かない気がする……」
魔法研は3階にあり、その階をまるまる使っているそう。そこにあるドアの1つをノックする。
軽い返事に続いて開かれたドアから顔を覗かせたのは年若い白衣の男性。
寝ぼけ眼でずれた眼鏡を直してルルちゃんと顔を合わせる。
「『あ、あのぅ……ここは、魔法研、ですかぁ?』」
「ああ、はい。そうですよ、何かご用でしょうか?」
さすがに私には気付いていないらしい。
「ルルちゃん、ちょっと手を貸して」
「『は、はい』」
私はルルちゃんに代わり前に出る。とは言ってもこの体なので、ルルちゃんの両手で捧げ持ってもらい、上背のある男性と目線を合わせる。
その男性は私を怪訝な様子で見ていたけど、やがてみるみると驚愕の表情へと変わっていった。
「あの、私を調べてもらえませんか?」
◇◇◇◇◇
「手が足りないぞ! そんな事はいいからこっちを手伝え!!」
「オイ、7番と11番の計測用精霊器まだか!!」
「星法陣書き終わりましたぁ!!」
私たちが訪れた事で魔法研は上へ下への大騒ぎになっていた。何せ彼らが日夜研究しているのは魔法、それによって変化してしまった当の被害者がわざわざやって来たのである。鴨が葱を背負って、所の話で済む訳も無い。
「騒がしいのは許してほしい、何せこんな機会は滅多に無いので皆はしゃいでしまっているようだ」
「いいえ、張り切ってもらえるなら、むしろありがたいですから」
私たちは部屋の一角に備え付けられている応接用と思われるソファーに腰掛けてお茶を出されていた。
そして私たちの目の前で応対しているのは魔属性法術研究室室長のエレオノラ・ハンプテスと言う名の化粧っ気の無い初老の女性だった。
彼女はドラゴニュートであるらしく服から覗く肌には鱗が散見され、瞳は爬虫類のそれ、額からは角が生え、更には筋骨隆々で巨漢と研究よりも剣と盾を持ってるのが似合いそうな外見に違わず佇まいは凛としていて、突然押し掛けた私たちにも真摯に接してくれていた。
けど、私がこうなった経緯を話す内にその表情は険しくなっていく。
「成る程……そんな事が。災難でしたね、アリッサ殿」
「ええ……」
「『あの、あの、アリッサお姉さんは、元に戻れ、ますか?』」
『キュ〜……』
「それを今から調べる、今しばらく時間を貸してほしい」
エレオノラさんがそう言った所で、先程会った研究員さんが準備が整ったと伝えてきた。
「分かった。ではアリッサ殿、ルル殿、ひーちゃん殿、こちらへ」
「『「はい」』」『キュ!』
いよいよ私はこの縮小化に関する情報を得る為に魔法研で検査を受ける事になった。
研究室内の中央からは机などが軒並み退けられ、巨大な星法陣が描かれている。
数十名近い研究員が忙しなく行き交い、熱狂の一歩手前の視線が私たちに集中する。おののくのはある意味当然で針のむしろのような状態。
「『あ、あの、検査って、痛かったり、するんです、か?』」
「まさか。あくまで術式による検査だ、痛みは無い。さ、ルル殿、アリッサ殿をあの陣の中心へ」
「『は、はい……』」
ルルちゃんは私を置くと陣の外に出る。ただ、やはり心配しているのかひーちゃん共々私を見る瞳には憂いの色がある。
そんな2人をこれ以上不安にさせないよう殊更明るく私は笑って手を振る。
「大丈夫大丈夫、そこで見守っていて」
「『アリッサ、お姉さん……はい』」
『キュイ……』
「ではアリッサ殿、検査を始めます。こちらがよいと言うまで動かないように」
「分かりましたー」
そう返すとエレオノラさんが方々に指示を飛ばし、何人かが星法陣に触れる。すると多分マナを注いでいるんだろう、その部分から星法陣に光がじわじわと走る。
いつも私が使う物よりもずっとずっと精緻で複雑な星法陣を起動するのは大変なのか、研究員さんたちは額に汗を滲ませながら代わる代わるマナを込めていく。
そうして数分後、星法陣の全てが光り輝いて起動する。
星法陣を描く光は床から解離し、くるくると回転しながら私を中心に立体的に展開し山のような円錐形となる。
(すごい……こんなの、初めて見た……綺麗……)
年末に街を彩るイルミネーションもかくやな光の中、言われた通り痛みは無い。星法陣がしばらくそうして輝いていると変化が訪れた……私の体に。
「な、何……?!」
体から黒い靄が湯気のように立ち上る。それはおそらく、瘴気。それが自分の体の中から出ている事に驚きと、おぞましさが湧く。
でもまだ終わらない。瘴気は徐々に形を成し、人の形を取っていった。
(女の、子?)
そう見えた。正確に浮かび上がった訳じゃない、ぼんやりと輪郭を描く程度。それでも波打つ長い髪や顔立ち、そして体のラインから女の子と判別出来た。
(これが……マリー・オネット、なの?)
明確なイメージがあった訳じゃない。でも、現れた像はどう見ても十代前半……いえ、もしかしたらそれよりも幼い。それに私は眉をしかめていた。
やがて星法陣がその像に対して干渉を起こしたのか、像にノイズが走り顔が歪められた……ように見えた。
けど――。
――バギバギバギバギ、ィィィィッッッ!!!
瘴気の像が癇癪を起こしたように腕を振るうと立体的に展開していた星法陣が異音を発しながら軋み、ヒビが走っていく。
最早星法陣は先程までの美しさを失い、崩れるのも時間の問題に思えた。
「『ひぃ、やあぁあぁぁっ?!』」
『キュイーキュイー?!』
「観測班!! 一片たりと見逃すな!!」
「3番精霊器が限界です、もう持ちません!!」
「予備器の起動急げ!! 起動班、後少しでいい陣を持たせろ!!」
ルルちゃんの、ひーちゃんの、エレオノラさんの、研究員さんたちの声が迸る。でも私は瘴気の像……多分、マリー・オネットの姿をただただ見つめていた。
苦しみもがいていた像は、星法陣からの干渉から解放されたからか暴れるのをやめ、陣が機能不全を起こしたからか端から霧散していくようだった。
像は……穏やかな顔で私の許へと来た。無邪気に腕を広げ、私を包み込んで……瘴気に還って私の中へと戻っていった。
(…………何? 何なの?)
その頃には星法陣は完全に消失し、室内は雑多な声の嵐に飲み込まれていて……心配したのだろうルルちゃんが私の許へ駆け寄ってきていた。
(マリー・オネット……あなたは一体、何なの?)
温かいような、優しいような、ぼやけていた輪郭でも伝わるものが確かにあった。
色んな人に暴力を振るい、私の友達を操ってひどい真似をし、狂笑と共に私をこんな姿にした魔法使いとはまるで結び付かなった。
ただ。
(悪いだけじゃ、ない)
ギュッと両手を組む。
私の心に、それだけは刻まれた。
◇◇◇◇◇
「結論から言おう。アリッサ殿、貴女の体を元の大きさに戻す事は我々には不可能だ」
星法陣を用いた検査から十数分後、研究室内は相変わらず研究員さんたちが忙しく動き回り、エレオノラさんに書類とおぼしき紙束をひっきりなしに持ってきては口頭で説明していた。
そしてそれがある程度貯まった時にエレオノラさんが発したのがさっきの言葉だった。
「…………」
『キュ〜……』
「『えうう……』」
私とひーちゃん、そして私をここまで連れてきてくれたルルちゃんは三様の反応を示す。
「貴女は、あまり驚いていないようだな、アリッサ殿」
「……予想はしていましたから。ですからそれよりも、マリー・オネットに続く手掛かりになるかもしれませんから分かった事があれば教えてもらえますか?」
知らないと分からない、私もマリー・オネットの事も……その思いに突き動かされ、下を向くよりも今は先に進もうとしていた。
「承知した。ではまず貴女の身に起こった変化についてだ。状態異常についてはご存知かな?」
「はい」
状態異常はPCにとって不利な状態となる事の総称だ。
毒ならば一定時間毎にHPが減少し、麻痺ならば一定時間動きに制限が課される。私が頻繁に陥るスキルが使用出来なくなる封印も状態異常の一種。
「あれらはモンスターが発する瘴気が我々に干渉する為に起こる物だ。感覚的には我々に瘴気が付着し干渉する事で異変を起こす、その瘴気の特性により起こる異変に差異が生まれる、と言った所か。だが付着しているのが表層である為にスキルやポーションでの洗浄も比較的容易と言う訳だ」
ならランクは汚れのしつこさ、落としにくさ、かな。
「だが貴女の今の状態はより深刻だ。先程見たように瘴気が体内にまで浸潤してしまっている」
この魔法研で受けた検査で、私の体内から噴き出した瘴気を思い出す。
一時的に外へ出たものの結局はまた私の中へと戻ってしまっている。
「我々はこの現象をより重度の状態異常、『状態汚染』と呼称しているが現在これを治療する術を我々は持ち合わせていない」
その単語はセバスチャンさんから永続的なバッドステータスであると聞いてはいたけど……エレオノラさんの様子を見る限り、深刻な物のようだった。
「『で、でも……瘴気、一度は出せた、じゃないです、か。なら……』」
例えばあの瘴気に対して〈キュア〉などを使っていけば浄化出来るのでは、と言う事?
「いや、あれは瘴気のほんの一部に過ぎない。全ての瘴気を除去するには、体の中の瘴気をもたらした者を討ち、入り込んだ瘴気そのものを消滅させる以外に道は無い」
だけどエレオノラさんは首を横に振ってしまう。
「『そ、そうなんです、か……』」
『キュ〜……』
肩を落とすルルちゃんとひーちゃんにエレオノラさんも「力になれず申し訳無く思う」と目を伏せる。
(やっぱりマリー・オネットと直接対峙するしかないのかな……)
そう思うと今は胸がもやもやする。それはきっとマリー・オネットが悪いばかりの存在でないと確信したから。
魔法使いは悪い神様に唆されていると聞いたけど、先程の検査で見た瘴気が結んだ像が、その有り様がマリー・オネットと戦わずに済ませられないのかと思わせている。
その役に立つ情報が出てきてほしいと思いながら、私は再びエレオノラさんに注視する。
「だが貴女の状態汚染、通称傀儡化については分かった事もある」
そう言うとエレオノラさんは膨大な量の書類の束の中からいくつかをピックアップして目を通しそれを伝えてくる。
「まず汚染の第1段階として体が縮小し、第2段階として体が人形となるのは見ての通り。そして更にもう1段階存在する事が判明した」
「……それは?」
「モンスター化だ。貴女の全身が人形に変わった時、貴女は魔法使いの思うがまま操られる存在、人形そのものとなってしまう」
「それって……魅了と同じ……」
魅了は対象者が使用者の意のままに操られてしまう状態異常だ。昨夜の戦闘ではセレナが操られて大変だった。
(もしセレナが受けた魅了を悪化させたのがこの状態汚染なのだとしたら、マリー・オネットの言葉は……私が自身のコントロール下となる事を指していたのかも……)
「それともう1つ、第2段階で徐々に浸潤が進み人形となるがその進行する条件が判明した」
「っ!」
昨日こうなってからいつの間にか人形の物になっていた両足、そうなった条件が分かった!?
それが分かれば完全に人形になるまでのタイムリミットが割り出せるかもしれない!
「そっ、その条件って……一体?!」
「検査の結果、貴女の魂が肉体を離れた時、徐々に瘴気はその体を浸潤していく」
「た、魂……?」
「そうだ、貴女方星守は休息する時、肉体は星の廻廊へ魂は肉体を離れ太陽神の御許へ還ると聞く。その時肉体は無防備になるのだろう、瘴気はその間に肉体を人形に変えていくようだ」
魂? 休息? エレオノラさんの言葉に首を傾げていると、ルルちゃんが小さく呟いた。
「『あ、あの……』」
「どうかしたの、ルルちゃん」
「『その、もしかし、て、なんですけど……それって、ログアウトの、事じゃ?』」
「あ……そうか、そうだよログアウトすればその間PCは……」
他のPCを見る限りログアウトするといずこかへと消える。意識は現実の肉体に戻るんだから……エレオノラさんの表現にも合致する。
「『ログアウト……必ずしなきゃ、いけない、のに』」
「……うん、そうだね」
他のゲームと異なり、ちょっと用事があるからと一時停止してずっとプレイ状態を維持する、なんて真似はMSOでは出来ない。
システム上、現実に戻る方法はゲームを終了する以外に無い。
そして私たちはいつまでも遊んではいられない。ごはんとかトイレとか睡眠とか、いつかは必ずログアウトしないといけない。
私はこれから晩ごはんだからログアウトする。それは……自分で爆弾の導火線に火を着ける事だろうか、出口への階段を登っていく事だろうか。
(大変だけど……やっぱり、クラリスに黙っていて良かった)
今日、私はクラリスと会う事になりポータルへ移動する為に1回余分にログアウトしている。
多分あれが無ければ浸潤はもう少し抑えられたのだろう。
……そうと知ればクラリスだって責任を感じてしまう。それを防げたのだからそれだけは良かったと思える。
「それで、その、休息を控えたりする以外に瘴気の浸潤を遅らせたり止めたりは出来ますか……?」
「無理だろうな」
書類に目を通しながら、割とあっさりとそう言われた。
「状態汚染はそれだけ厄介だと言う事だ……が、幸いと言って良いのかどうか。この状態汚染は使用するのにかなりの瘴気量を必要とするようだ。いかな魔法使いと言えどそうそうと使えはしまい」
「そうですか……」
少なくとも次に戦う事になってもセレナたちが私みたいに状態汚染になる事態は避けられるみたい。それだけは安心出来――――。
「――エレオノラさん……その瘴気量と言うのは一体どんな物なんでしょうか?」
「簡単に言えば魔法使いにとっての瘴気は我々にとってのマナに等しい。貴女方の言葉ではMP、だな」
…………まさか。
「だがだからこそ無尽蔵に瘴気を扱える訳ではない、人である以上は限界がある。それが瘴気量だ。このような強力な状態汚染を起こせばその上限は圧迫される筈だ」
つまりは私を小さくした事でマリー・オネット側のMPゲージが最大量まで回復しなくなっている。私にとってのひーちゃんを召喚している時と同じような状態なんだろう。
…………でも。
「あの、マリー・オネットは各地で宝石を強奪しているんです。それもマジックジュエルと呼ばれる宝石ばかりを……それは、何か関係すると思われますか?」
「な、」
エレオノラさんの顔色が一気に青ざめる。
そう。マジックジュエルは外付けのMPゲージ、MPの最大量を増やす、それは……。
「魔法使いにも、関係あるんですね?」
「……ああ」
喉から絞り出すような声音でそう答えるエレオノラさんは懐から親指の爪くらいの宝石を取り出す。
「宝石が土の中で生成されるのはご存知か?」
「はい」
こちらの世界と現実では違いがあるかもしれないけど、今は細かい部分でどうこうと言っていられない。
エレオノラさんの指先が淡く光る。先程も見た光、マナを指先に集めているんだろう。それを取り出した宝石に近付けるとしゅるしゅると吸い込んでいった。
「マナを取り込む性質は無機物・生物問わず万物が有する、我々とて世界に満ちるマナを取り込んでいる。そして様々な力を発現するのだ。だがその中でマジックジュエルに分類される宝石は特異な性質を有する」
「それは……?」
「これだ」
そう言うと、今度は巻き戻しのように宝石から光が指先へと戻っていく。
「マナを取り込むのではなく自在に出し入れ出来ると言う性質だ。他の物が水が地面に染み込むような不可逆の性質だとするなら、だがマジックジュエルはコップのような空の器だ。これは土中で生成される中でマナが供給されないのが原因とされる」
「でも、マナはこの大地から湧き出る物で……なら土中にだって……いえ、土中だから豊富なんじゃ?」
「そうだ。だが、土中にあるのは何もマナばかりではない」
「マナの他……?」
「大地神が生み出すのがマナなら、悪しき神が生み出すのが瘴気。そして悪しき神は……」
思い出す。かつて読んだ絵本『はじまりのものがたり』によれば、その大地の奥には悪い神様が封じられている。
そしてその悪い神様が瘴気を生み出すなら……。
「土の中に……瘴気が含まれている?」
「局所的に、だが。真逆の性質を持つマナと瘴気が干渉し合う事で土中はニュートラルな状態となり宝石の内部にマナが入らずエネルギー的に空洞化する、それをマジックジュエルと呼ぶ。そしてどちらにも染まっていないと言う事は……」
「瘴気を蓄える性質をも有している、んですね」
「そう言う事だ……! 不味いぞアリッサ殿。それがどれだけの用量のマジックジュエルかは知らんが複数所持するまでであれば目的は――――」
「――他にも誰かを人形に、それも大勢を対象にする為に……?!」
無言のままエレオノラさんは重い所作で首を縦に振った。
「十分考えられる」
どうも047です。
大晦日、2014年ももう終わりですね。
皆様良いお年を。
来年も拙作「そして、少女は星を見る」をどうぞよろしくお願い致します。m(__)m




