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第59話「alissa」




 怪盗にして魔法使いのマリー・オネットが作り出した陣の効果なのか、唐突に目の前が真っ暗になった。のみならず空中から落下する感覚と地面に激突した衝撃に襲われる。


「っ……?!」


 何か、柔らかい物が私の上に折り重なり積み重なりのし掛かっているらしい。動けなくはないけど、突然の事に困惑が先に立つ。


(何、が……)


 が、そんな困惑を吹き飛ばすような咆哮が轟いた。



「『アンタッ!! アリッサをどこへやった!?』」



 それはセレナの声、パーティーチャットを繋いだままなのですぐ傍にいるかのように聞こえる……いや、それ以前に多少くぐもっているけどセレナの声が直接聞こえている。

 ここは……さっきまでいた場所のすぐ近くなの?


『上手くいった、上手くいった、あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは』


 次いで聞こえてきたのは背筋を凍らせるような狂笑。こんな事態に陥らせた張本人、マリー・オネットの声。

 そちらもやはりくぐもっていてガシャリと言う何かが崩れたような音と共に徐々に消えていった……けど、次の瞬間に私の耳のすぐ近くから囁くような声がする。


『今はまだ迎えに行けませんけど、またすぐに会えますよね』

「っ?!」

『その時が、楽しみです。マリーの……お友達(人形さん)


 それきり艶かしく舌舐めずりするような声は消えた。


(な、何なの……一体、私に何が…………っ?!?!?!!??!)


 そして寒気に自らの体を抱き締めた私は、自分に起こった恐ろしい事実に気付く。


(何で、何が……待って、待って待って待って待って、まさか、コレ(、、)は……そん、なっ??!)


 そして、のし掛かる物が何であるかを悟り、ある可能性に思い至る。


(わ、私……)


 声も出ない程の混乱に襲われていると事態は更に動く。


「『くそっ、完全に崩れちまった……何がどうなっていやがる!?』」

「『いえ、それよりもまずはアリッサさんの所在の確認を急がねば』」

『キューイキューイキューイ!』

「『ア、アリッサ……まさか攫われて……でも、何で……コレが残って……?!』」


 セレナの不安に揺れる言葉、自身の異常事態をみんなに知らせなきゃと、震える喉から声を出す。


「み、みん、な……」

「『アリッサ?! 無事?! どこ、今どこにいるの?! セバスチャン! 場所はどこだか分かった?!』」

「『……これは……?!』」

「『どうしたんだ?』」

「『場所はここ(、、)です。アリッサさんは……この部屋(、、、、)にいます』」

「『は?!』」


 私は意を決し、周りを埋め尽くす柔らかい物……布の中をずりずりと移動し、ようやっと見えた光の先へと顔を出す。


「ぷ、はっ」


 途端、割れた窓の向こうから射し込む眩い朝日が私の周囲を浮かび上がらせる。


「『な』」

「『は』」

「『ぬ』」


 ――そこには、私を見下ろす(、、、、、、)3人の巨人(、、、、、)がいて、


「あ、あの……お願い、見ないで」


 その視線の先には、着慣れた初期装備に埋もれ、一糸まとわぬ(、、、、、、)姿を隠しながらも顔から火を噴く私がいた。



 ――そう。私は、まるで人形のような大きさに縮んでしまっていたのだ。



◇◇◇◇◇



「『クエストの中には次回に繋げる為に何らかのマイナス要素をPCに科する物もありますが……まさかこの様な事態になろうとは……差し詰め“身長を奪われた”と言う事なのでしょうか』」


 窓へ向き合い、そう語るセバスチャンさん。パーティーチャットは、小さくなってしまった私の声を拾う為にそのままだ。


「『……そうだな』」


 そしてその横には、(初期装備で隠してたけど)裸の私を見た事でキレたセレナによってボッコボコにされた天丼くんが黄昏ていた。「何で俺だけ」とは彼の言。「いっぺん死ね」とはセレナの言。


「『んな事はどうでもいいのよ、とにかくアリッサを元に戻さなくちゃ』」

「でも……〈ピュリフィケイション〉も効果が無かったし、これ状態異常(バッドステータス)じゃなさそうだよ。解除もやっぱり、マリー・オネット本人じゃなきゃだめなんじゃ……」


 ソファーに座るセレナの膝に、初期装備ごと抱えられている私は先程の事を思い出す。

 この縮小化が何らかの状態異常によるものなら、と《聖属性法術》中最高の浄化(バッドステータス解除)効果を持つ〈ピュリフィケイション〉やセバスチャンさんの持っていた浄化系の回復薬を使ってみたものの体に変化は訪れず、今もこうしてセレナの膝の上に乗っている。


「『ふうむ。やはりこれは『状態汚染(カースドステータス)』のようですな』」

「『何よソレ』」


 セレナと天丼くんも首を傾げている。もちろん私も初耳の単語だった。

 セバスチャンさんはそれを確認して説明を始めてくれる。


「『先程申しましたクエスト中のマイナス要素などで見られる永続的な状態異常をそう呼ぶのです。何かしら条件を満たしたなら解除される筈ですが……』」

「逆に言えばそれまではこのままなんですね……」

『キュウ〜……』


 そんな私を心配そうに見つめるひーちゃんも今や私の身長の半分以上で、バランスボールよりも大きい。


「大丈夫だよひーちゃん、今の所体の大きさが変わった以上の異常は無いから」


 小さくなってしまった手でひーちゃんを撫でる。

 そう、確かに異常はそれだけだった(とんでもない異常ではあるけど)。ひーちゃんを見ての通り、法術を使用しても通常時と同じサイズの〈ファイアショット〉などが発動している。

 ただ、だからこそこの縮小化の目的が分からず不安に思うのだけど……。


「『……これがこのキャンペーンクエストのシナリオギミックであるのならシナリオを進めれば道筋も見えるやもしれませんが、はてさて次にどう動くべきか』」


 結局の所、今の私たちには決定的にマリー・オネットに関する情報が不足していたのだ。だから場には沈黙が満ちてしまう。


「……あの、それなら……セバスチャンさん、天丼くん、ひとまず外の様子を見てきてもらえませんか? みなさんが無事かどうか心配で……」


 マリー・オネットとの戦闘が終わり、がなりたてていた精霊器も落ち着いたのだけど、番兵さんたちがどうなったか詳しい事は分からないまま。自分の事はもちろんだけど、そちらも気掛かりではあった。


「『ふむ、そうですな。ひとまずは今回の依頼を終わらせねば始まりませんか』」

「はい……私はこの有り様で出歩けないので……お願いします」

「『ま、いつまでも割れた窓硝子ばっか見ててもしょうがないしな。行ってくるか』」


 天丼くんが頭を掻きつつこちらを見ないように部屋を出ていく。セバスチャンさんは他の人たちと話している時に別の話が割り込んでは混乱してしまう為一旦パーティーチャットを解除する旨を伝えてきた。

 今回のパーティーリーダーは私なのでウィンドウを開いて(私に合わせて小さくなっていた)フルモードを解除し、改めてセレナとチャットを繋ぐ。


「いってらっしゃい」

「『いってらっしゃい、だってさ』」

「は、では行って参ります。何かお気付きの際は適宜ご連絡下さい」


 そう言ってセバスチャンさんも部屋を辞した。残された私は男性陣が去った事でほっと胸を撫で下ろす。

 やはり初期装備に潜っているとは言え裸であるので羞恥心がじりじりと私の心を苛んでいたらしい。


「『まずはログアウト前に何か着る物用意しなきゃね』」

「うん……」


 MSOではある程度服はPCに合わせてサイズが変わるそうだけど、さすがにこのサイズ差には対応出来なかったらしい。このままじゃ1人で外に出られない。

 悩んでいるとセレナからアイテムトレードウィンドウが開かれる。


「セレナ?」

「『とりあえず私のハンカチを貸しておくからそれを体に巻いちゃって』」

「うん、ありがとう……洗って返すから」


 そう言えば私ハンカチ1枚持ってないや……。

 トレードを済ませてウィンドウからハンカチを実体化、それをセレナに巻き付けてもらう。


「『まさかこんな形でアリッサを着せ替える事になるなんて思わなかったわね。子供の頃に戻ったみたい、っとどう? キツくない?』」

「うん、すっごくスースーするけど平気。ほんと着せ替え人形になった気分……洒落になってないけど………………ん?」

「『どうかしたの?』」


 着せ替えを終え初期装備をアイテムポーチに仕舞ってもらっていると不意に思い付いた事があった。



◇◇◇◇◇



 しばらく後、チャットウィンドウが開き天丼くんからの着信を告げた。


「はい、アリッサです」

『おう。さっきの件は伝えておいたぞ、向こうさんも馬車出してくれた』

「うん、ありがとう」

『で、だ。一応大体の被害の確認が済んだ、物はそれなりにぶっ壊れちまってるが人的損害は番兵が軽傷を負った程度だったよ』

「そう……良かった」


 ちらりと見るのは見取り図と駒、あの戦闘の中で倒れた駒は無かったからそこまで重い怪我を負った人はいないだろうと思っていたけど、改めてそう知れてほっとする。


『それでな、子爵サマがそっちに行って紅の涙の無事を確認したいんだそうだ。報酬の受け渡しもそれを確認してからで、あ〜〜……つまりな、問題無いなら“アレ”をどうにかしておけってあのバカに言っといてくれ。あんなん下手すりゃ報酬が減額されかねん』


 後半になる程ひそめられる声、“アレ”と言うのはタミトフ子爵家の宝であり私たちが守った宝石、紅の涙だ。けど今はセレナが色々といじくり回してしまって見る影も無い。うーわー。

 なので子爵様に見られる前に元に戻しておかなきゃ。


「……だよね。分かった」

『頼むぜ、また後でな』

「うん」


 チャットが終了しウィンドウが閉じる。


「セレナ、天丼くんが――」

「『あ、ちょっと! 動かないでよ、今良いトコなんだからさ』」

「でも」


 セレナは今私の髪を梳いていた。けど時間も無さそうなので事情をかいつまんで説明する。


「『ったく、こっちの事情も知らないで……あんのバカは。せっかくこれから髪を編み込もうとしてたトコだったっつーのに』」

「それは時間が掛かるからまた今度ね。さ、いそいで片付けちゃわないと」


 ぶーたれるセレナは私をソファーの上に置いて紅の涙の戻し作業に取り掛かる。……あれどうやって戻すんだろう。



 その後、子爵様が来るギリギリで紅の涙の戻し作業を終えたセレナ。

 そして私なんだけど、さすがにこの格好で子爵様の前に出るのは憚られたので私は用事が出来たから先に帰ったと伝えて、このサイズなら入れるかとアイテムポーチへと身を潜める事にした。

 子爵様はマリー・オネットを捕まえられなかった事こそ残念がっていたものの、それでも今までどこも盗まれ通しだったので守り抜けた事だけでも満足してくれたようだった。


「よくやってくれたね、流石は僕の見込んだ勇士たちだ! 薄汚いこそ泥もこれで少しは懲りる事だろう。まったく僕も鼻が高いよ、はっはっは!」

「『お役に立てたならば何よりです閣下』」


 紅の涙を嬉しそうに愛でる子爵にセバスチャンさんが応じる。その姿はもはや完璧に屋敷の主とその執事でした。違和感はどこだろ。


「うむうむ。さて、では報酬を支払わなければいけないね」


 ご機嫌だからかパンパンとリズミカルに手を二度叩く子爵様。それを合図にしてメイドさんたちがガラガラとカートにG硬貨が詰まった袋を乗せて入ってくる。

 セレナは両手を上げて喜んでいるんだけど……あれ?

 袋の中には以前に見た白金色の硬貨が入っているようなのだけど……その枚数がおかしい。


「ね、ねえ……お、おお、多くない、コレ?」

「『ホント! 何よサービス?! 気前いいじゃない!』」


 本来の報酬は紅の涙を守りきって50万G、マリー・オネットの捕縛で100万Gの筈なのに、この中には50万より明らかに多い。だってお金が溢れんばかりに詰まっているんだもの、何故!?


「『アリッサとセバさんのお陰だ』」


 ?


「うむうむ。セバスチャンとエルフのお嬢さんが色々と兵たちに良くしてくれたお陰で被害が抑えられた、兵たちも感謝していたよ。そちらも合わせて改めて礼を言わせてくれたまえ」

「『光栄です』」

「……ほっ」


 そっか、番兵さんたちもそう言ってくれているんだ。何だかがんばりが報われて嬉しいな。


「そこで、功労者である君たちには家をあげて礼を尽くしたい……のだが、生憎とこそ泥が僕の屋敷を好き放題に荒らしてしまってね、十分な持て成しが出来そうもない。不甲斐無い限りだよ。すまないね」

「『いえ、閣下のお気持ちは我ら一同しかと感じておりますれば、どうかお気になさらず』」

「そうか。とは言え、それだけで済ませたとあっては子爵の名折れだからね、報酬にはもう少し色を付けさせてもらったと言う訳さ。遠慮せずに受け取ってくれたまえ」


 あ、セレナが満面の笑みに!


「『重ね重ねのご厚意、痛み入ります』」


 セレナと天丼くんもセバスチャンさんにならって子爵様にお辞儀をしてメイドさんからずしりと重い小袋を受け取る(私の分も)。

 こうして私たちの資金稼ぎの依頼()クリアする事が出来た。


 ……ただ、やはりと言うかクエスト終了を告げるウィンドウは表示されずじまいだったけど……。



◇◇◇◇◇



「『70万G! 100万Gからすると見劣りはするけど、1日で稼いだなら上々の成果よね!』」


 ご機嫌な様子のセレナは紅の涙の部屋を一歩出た瞬間からこの調子。


「『そうですな。元々マリー・オネットを捕まえるのは無理ではと思っておりましたので実質50万Gが上限と思っておりましたからな。20万の上乗せは素直に有り難い』」

「それもこれも天丼くんが番兵さんたちの様子に気付いてくれたお陰だね」

「『それを言ったらアリッサの料理も、セバさんのシフト管理も上手く回ったからだろ。コイツはみんなのがんばりの分さ』」

「『ちょっと、私が抜けてるわよ私が!』」

「『お前何かしたっけ? しでかした事は色々と思い当たるんだが』」

「『るさい!』」


 そうして移動したのは一度訪れている客室だった。私たちはある人を待つべくここを使わせてもらう事になったのだ。

 それまでの間に受け取った報酬をアイテムポーチに仕舞っておく。

 右手でアイテムポーチを二度タップすると右手がぼんやりと光り出すのでそのまま小袋に触れる。するとフッと小袋が消えポーチ内に収納される。

 確認の為にシステムメニューウィンドウを開いて所持金を確認してみる。



『所持金:[707482]G』



 う。お。わ。

 あ、当たり前だけど2週間がんばって貯めた額から桁が一気に増えてるう、硬貨のままだとお金と言うよりメダルみたいな感じで実感無かったんだけど実際にこうして金額として表示されると……。

 ぶるぶる。ああ、手が震える。さっきのダメージではありませんよ。


「『どしたの』」

「あ、ああうん。普段大金なんて持ち歩かないものだから、き、緊張しちゃって……」

「『……宝くじで大金が当たったらきっとこんな感じだよな』」


 なんて的確な!


「はっ! ぎ、銀行で貯金しなきゃ! つ、通帳とカード作らなきゃ!?」

「『落ち着いて下さい。この世界には個人単位で利用出来る金融機関は存在しません。ポーチ内にあるなら安全ですからご安心下さい』」

「あ、ああ、そうでした……」


 うう。だって普段から無駄遣いしないようになるべく貯金するようにしてるんですよ(お陰で机の上の豚さん貯金箱はすっかり重量級に……)。

 そんな私にこんな大金が舞い込めば錯乱くらいするのです。


「『さて……ひと段落ついた所で今後の方針を決めましょうか』」


 コホン。セバスチャンさんがそれまでの話を打ち切り、これからの……明日からどう動くべきかの話を始める。


「『アリッサさん、マリー・オネットは『すぐには迎えに来れない』『またすぐ会える』と言ったのでしたな』」

「はい」


 最後に私が聞いたマリー・オネットの声はみんなには聞こえていなかったらしい。


「『これってつまり時間制限付きって事か?』」

「時間制限?」

「『一定時間が経過した段階でマリー・オネットがアリッサさんの許に現れるのではないか、と言う事ですな。その時に戦闘となるのか、アリッサさんを連れ去るのかは分かりかねますが』」

「もし、負けたり連れ去られたりしたらどうなるんでしょうか……」

「『さて、正直やってみねば分かりません。このMSOがゲームである以上は“死に戻り”してクエストが失敗扱いとなるか、あるいは更に不利な状況に陥ってしまうのか……』」

「迂闊に待ち伏せるのも危険、ですか……」

「『ふん、負けなきゃいい話よ。のこのこ出てきたら首根っこ捕まえてやるわ』」


 私の弱気な考えをバッサリと切って捨てるセレナ。


「『脳筋め』」

「『ふむ。時間に制限がある、とは逆を言えば時間に猶予があると言う事でもありますからな。その間に準備を整えマリー・オネットを捕まえると言うのも1つの手ではあります』」


 「『ですが』」とセバスチャンさんは続ける。


「『再度現れてもそれが人形では先程のように切り捨てられる可能性もあります。やはりこの時間はマリー・オネットの正体に辿り着く為の猶予と見るべきなのでしょう』」

「『ったく、七面倒臭いわね。もっとこう……ばしーんと正面からぶつかってきなさいよねあのクソビッチ』」

「『その手の直接戦闘に結び付きそうなクエストは意図的に省きましたからな。展開がシティアドベンチャーに傾くのは致し方無い所です』」


 このクエストを探してきてくれたセバスチャンさんは今の私たちでは厳しいからと荒事っぽいクエストを選ばなかった。

 それは有り難かったけど、セレナからすると今の状況はやきもきしてしまうみたい。


「『ああ、今更後戻りも出来ないんだ。だったらこの先の事をちゃんと考えないとな。とりあえずは明日調べる事柄のリストアップだ』」


 夕方に行ったのと同じようにみんなで意見を交わしていく。手掛かりになりそうな物をリストアップし、その中から重要度が高そうな物を選んでいく。

 ただ、調べると言っても今回は王都各所に跨がっている。人手を分けるかは思案のし所だった。


「『いつマリー・オネットが来るか分からないってのがネックだよな……』」

「『でも時間が無いからこそここは手分けするべきじゃない? 石橋を叩いてたりしたらそれこそ間に合わなくなるわよ。これ以上後手には回れないわ』」

「『……ふむ。そうですな、調査に掛ける時間も無いとはさすがに有り得ぬ、とメタに考えればセレナさんの言は正論やもしれません』」

「『じゃあ手分けする、でいいか。それを踏まえて誰がどこを担当するかを決めちまおう』」

「……」


 どちらの場合でも、今の私は1人じゃドアも開けられないし、移動にしたってみんなに頼らざるを得ない。本格的に役立たずな事に気分を沈ませていると、ドアが控えめにノックされる。

 セバスチャンさんが応対するとドアが開かれ、番兵さんの姿が見えた。


「『ご苦労様です。お手数をお掛けしてしまい申し訳有りませんな』」

「いえ、貴殿方のご活躍には皆感謝しています、この程度ならばいくらでもお申し付け下さい。では自分はこれで失礼致します」


 2、3言葉を交わすと番兵さんは敬礼してこの場を去り、開けられたドアの向こうには小さな影が残されていた。


「『お話は伺っております。さ、アリッサさんがお待ちです、どうぞお入り下さい』」

「は、はいぃ……」


 ビクビクと思いっきり怯えながら部屋に入ってきたのは先日とは別の、花をあしらったローブに身を包みハンチング帽を目深に被った小柄な犬人(ウェアドギー)の女の子。


「ルルちゃん!」


 部屋の一角を占めるテーブルセット、私はそのテーブルの上から大声で彼女の名を叫び、手をブンブンと振っている。こうでもしないと気付いてもらえないだろう。


「わ……ア、アリッサ、お姉さん……ほんとに、ちっちゃくなっちゃってる…………すごい、可愛い……いいなぁ……」

(いいな?)


 それに気付いたルルちゃんは目を見開いて驚いていたけど、どこかほっとした様子でぱたぱたと小走りで駆け寄ってきて……私を見るその目はキラキラと輝いている。


「久し振り……って言う程経ってないよね。今日はこんな時間に呼び出しちゃってごめんね」

「い、いいえ。いいんです、時間空いてたし……アリッサお姉さんに会えて嬉しい、ですから」

「ありがとう」


 恥ずかしげに俯く彼女とは三連休初日に訪れた妖精の里・フロムエールで出会った。一緒にいた時間は本当に短い物だったけどフレンドとなり、今回は助力を請うべくお越し願った。

 ルルちゃんをパーティーに誘いつつ話を続けると、やはり迎えに驚いたと言う。


「『アリッサお姉さん、お姫様なのかなって、思っちゃいました』」

「あはは……」


 ルルちゃんの迎えは私たちと同じ馬車を使ったものだからすごく恥ずかしかったとも語る。私はみんなと一緒だったけど、1人ならそりゃ戸惑いもするよね。


「こほん、じゃあ改めて。みんな、この子はルルちゃん。前に偶然知り合ってフレンドになったの」

「『ど、どうも』」

「それで……女の人がセレナ、男の人が天丼くん、お爺さんがセバスチャンさん、みんな私とパーティーを組んでくれてるの」

「『よろしく』」「『来てくれて助かるぜ』」「『お見知り置きを』」

「それで、この子が私と契約してくれてる精霊のひーちゃん」

『キュー』


 それぞれに挨拶を交わし、ようやっと本題に入る事になった。


「それで、チャットで伝えた通りなんだけど……」

「『は、はい……色々、持ってきました』」


 ウィンドウ操作を行い、アイテムを実体化するルルちゃん。それらは小さな、人形サイズのお洋服の山だった。

 ルルちゃんはゲーム開始直後のキャラクターメイキング時に出会った導きの妖精・ケイちゃんの為にこのサイズのお洋服を作っていた。それを思い出したのでもしかしたら余っている服があるかもと連絡してみたのだ。

 ……のだけど……。


「ず、ずいぶん一杯あるんだね……」

「『あ、あれから、またケイちゃんにあげようって、思って……色々作ってて、気付いたらこんなに……』」


 どれも目を引く可愛らしい服で、精緻な出来はとても3、4日で作ったとは思えず、みんなからも感嘆の声が聞こえる。

 そして、それに一際反応する人が約1名いたりする。


「『へぇ、アンタ良いセンスしてんじゃない。ちょっと甘めだけど、アリッサには丁度良さそうね』」

「『っ?!』」


 突然横から割り込んできたのは当たり前と言うべきかセレナだった。でも、最初から部屋に居たとは言え基本的には私としか相対していなかったルルちゃんは見知らぬ人の登場に驚き、私の後ろに隠れてしまう(隠れる訳無いけど)。


「だ、大丈夫だよルルちゃん、この人は私の友達だからそんなに恐がらなくても」

「『ご、ごめんなさい……』」

「『オイ、苛めてやるなよ可哀想だろ』」

「『私がいつ苛めたってのよ?! どっちかってーと褒めてんじゃない! 耳腐ってんじゃないの!?』」


 ガウと激烈に吼えるセレナにまたしても怯えてしまうルルちゃん。ああ、悪循環。

 ぐだぐだな流れになろうとしていると、山と積まれたルルちゃんの服に興味を惹かれたのかひーちゃんが近寄っている。これ幸いと話を元に戻す。


「そ、それにしてもいっぱい服があってどれにしたらいいか迷っちゃうね。ひーちゃんはどれがいいと思う?」

『キュー?』


 服を整理して並べていくと、ひーちゃんはコロコロと転がりながら眺めていく。目論みは成功したのか、さっきまでの一悶着も落ち着――。


「『……考えてみりゃ、あれよね。実際着てみないと似合うかどうか分かんないわよね』」


 ぞわっ。怪しげな視線を感じる。あ、あれー?


「『そ、そうですね。どうせなら、一度全部着てみたり……して、フォト撮って、見比べたり……うふふ』」


 ぶっ、ルルちゃんまでそっちにつきますか?! さっきまでおどおどしてたのにっ!


「ちょ、ふ、2人共……あの、ほら! あれだよ?! 今私下着無いからスカートとか無理だし?! そんなに気合い入れなくてもいいんじゃないかなっ?!」


 男性陣に一語一句丸聞こえなのに何を言ってるんだろうね私!! でも、どうにかして瞳をギラつかせている2人にブレーキの存在を思い出してほしいんだものっ!!

 が、そんな努力はルルちゃんの笑顔の前に玉砕する!!


「『じ、実は……試しに、作って、たり……えへ』」


 ゴソゴソと服の山を漁ると出てきたのはそれなりに簡素ながら紛れも無い上下の女性用下着でした!

 自信作なのかルルちゃんがちょっと自慢気ですよ!?


「『グッジョブよ、えーと……ルル!! オラ男子! こっからは女子オンリーよ、ゲッタウッ!』」


 最早テンションが限界突破してしまったセレナを止められる筈もない。

 部屋を出ようとする天丼くんとセバスチャンさんに助けてとアイコンタクトを送っても手を合わせて頭を下げられただけだった。薄情者お……。


「しくしくしく……」


 せめて2人にあられもない声を聞いてほしくはないとパーティーから外して私は色々と諦めた……。


 作中の設定では、プレイヤーはPC作成の際に頭身を変える事は推奨されていません。異なる体でも違和感を減らす為です。

 ですのでPCはドワーフでもずんぐり体型ではありません。


 ですが体のサイズ自体を変えるならOKじゃね? と思いこの展開にしてみました。これなら選べる種族に妖精とか巨人とか追加してもよかったかもしれません。




 ……ただ、この展開書き終わったタイミングで日5アニメ見てガックリしたりしてました。orz

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