第37話「私たちのif」
アラスタの南に広がる草原。初心者向けのはじまりのフィールドで、私とセレナは繰り返し戦闘を行っていた。
始めの内は大きく動きの単調なボアを集中的に狙って、それに慣れてきたら小型で狙いにくくはあるけど攻撃力の低いラビット、それにも慣れたら小型で空を飛ぶスパロウとの戦闘が続く。
そんな中、今私たちは戦闘後に自動で表示されるウィンドウを2人して凝視していた。
「やっぱそーゆー仕組みなワケ、か」
唸るセレナ。その視線の先のウィンドウには私のレベルアップの結果が記されている。
『【経験値獲得】
『《マナ強化》
[Lv.12]
《詠唱短縮》
[Lv.10]
《古式法術》
[Lv.1⇒2]
【アイテムドロップ】
ボアの毛皮×[1]
ボアの肉×[1]』
『NEW!』
『【スキル修得】
《古式法術》:〈ファイアシールド〉
《古式法術》:〈ウォーターシールド〉
《古式法術》:〈ウィンドシールド〉
《古式法術》:〈ソイルシールド〉
《古式法術》:〈ライトシールド〉
《古式法術》:〈ダークシールド〉
《古式法術》:〈プロテクション〉』
これは各種属性法術のレベルが2になった時に取得出来るスキルと同じもの。それら全てがずらりと並んでいた。
「《古式法術》のレベル別の修得スキルは属性法術のものと同じって事がこれで証明されたわね。これなら10レベルまでには全部のスキルがまた使えるようになりそうじゃない」
「スペルの問題があるから自由には使えないけどね」
とは言え、心の中では良かったと素直に思っていた。
《古式法術》の初期スキルは、確かに属性法術のものと一緒だったけど、何せこの加護は私が初めて発見したものだからこの先も同じスキルが修得出来るとは言い切れなかったのだ。
「じゃ、次は一番大事な事を確かめよっか」
「……うん」
周囲にモンスターがいない事を確認して後、私は〈ファイアシールド〉を使用した。杖の先に赤い球が生成される。
同時に視界には〈ファイアショット〉などと同様に2段階の再申請時間が表示される。シールド系の再申請時間は一律20秒なので2段目は半分の10秒、それが無くならないうちに私は《詠唱短縮》に登録しているスキルを唱える。
「“火の一射”」
結果は単純明快だった。
「発動しない……わね」
「……うん」
彼方にターゲティングしていたものの、〈ファイアショット〉は発動しなかった。
レベルが別のスキルなら、2段目の再申請時間は関係無いんじゃないか、そう思っていた。
けど、結果は見ての通り。
「まあ、仕方無いか。そうそう上手くはいかないよね」
気にしない風を装ってそう言った。内心は軽くため息でも吐きたい気分ではあったけど、そうしていてはいつまでも前に進めない。今はスパッと切り換えよう。
そう思っているとセレナにコツンと頭を叩かれた。
「こーら、何簡単に諦めてんのよ。いい? 《古式法術》は未知の加護なんだから1回やってみただけじゃ足らないわ。もっと根気よくやってみるもんよ」
なるほどと頷く。
そうしてしばしの間《古式法術》の検証をした結果ある事が判明する。それは――。
・再申請時間には2段階あり、1段目は使用したスキルに対する物。2段目は同レベルで修得したスキル、及び同属性のスキルに対する物である。
つまり、レベル1で修得した〈ファイアショット〉を使用すると、同じレベル1で修得しているショット系と〈ヒール〉、更に同じ属性の〈ファイアシールド〉の使用に制限が掛かる、と言う事らしい。
「ったく、めんどくさいルールにしたもんね。取得条件含めたら殆どイジメレベルじゃない」
呆れたようにセレナが呟く。
「けど、ちゃんと法則性はあったよ。きちんと理解すれば活用も出来るし、ほんとにちゃんと確かめれば使いようもあるんだね」
相変わらずスペルと言う最大級の問題こそあれ属性さえ異なれば連続での使用が可能なのだ。とすればレベルアップを重ねてスキルを再修得し、《詠唱短縮》と組み合わせれば十分戦える……かもしれない。
「お。ちょっとは前向きになってきたじゃない」
「誰かさんが簡単に諦めるなって言われましたから。まだちょっとは、だけど。……それでもこっちの予想外はフォローしきれないけどね」
システムメニューを視界の端に捉えつつ、私はそう言った。
「まさか1レベル上げるだけでここまで時間が掛かるなんて思ってなかったもの」
現在の時刻は午後9時の少し前。はじまりの草原に入ってから1時間は経っていないけど、それでもレベルを1から2に上げるだけでそれだけ掛かった。普通の加護よりレベルアップに必要な経験値は明らかに多い。10時過ぎのログアウトまでに更にレベルを上げられるかは怪しかった。
「そこよねー。加護7つ分は伊達じゃないか……ふーむ」
セレナはそれきり何かを考え始める。が、次第に眉根が寄り、目が釣り上がり、口が“へ”の字に歪み始め、背後には不機嫌そうなオーラまでもが禍々しく揺らめいて見えた(いや、錯覚なんだけどね)。
「セレナ、セレナ。顔が怖いよ」
「……はぁ」
そうして1つ息を吐いたセレナは、バリバリと頭を掻くと私へと向き直った。
「アリッサ、ちょっと考えがあるんだけど……」
「? うん、何?」
セレナによれば、はじまりのフィールドに出現するモンスターは基本的に戦いやすい反面取得出来る経験値は低い。数をこなしたとしても8〜9レベルくらいがここで稼ぐ上限と認知されていると。
(私12レベルになるまでここにいたんですけど……非効率だったのかー、そう言えば10レベル以降上がりにくかったもんねー……)
そして基本的にレベルが上がる毎に必要となる経験値は多くなる。単純に倍々、とはならずとも《古式法術》の必要経験値の多さを考えれば、先に考えたようにこのままではどれだけ時間が掛かるか想像も出来ない。
「このままなら、ね」
「え? それってどう言う意味?」
「つまりは……ボス戦よ。ボス相手なら獲得経験値はぐっと上がる、レベルアップもずっと早い」
私の目がパチクリと瞬き、考える。確かにザコよりもボスの方が経験値の入りは良かったように思う(それ以上に大変だったけど)、ならこうした戦闘を繰り返すよりもずっと早くレベルアップ出来るかもしれない。
でも……。
「でもボスを相手にするのは、今の私じゃさすがに無理があるよ? セレナにしたって……」
現在の私のパラメータは以前よりもずっと低い。ボス戦では1回倒すのにどれだけ掛かるか分からないから、その間私をガードしてくれるセレナはボスの攻撃に晒され続ける事になる。
しかも今の私のHPと防御力ではザコモンスターの攻撃ですら数発でやられてしまう。ボスであれば攻撃にもよるだろうけど一撃でやられてしまうのもあり得る話……そんな私を本来防御役ではないセレナがボスを倒すまで守り切らないといけない。
不意の一撃が致命的過ぎる。
セレナはそんな私の答えを予想していたのだろう、1つ頷くと話を進める。
「そこで……なんだけどさ」
さっきまでの勢いが急に鳴りを潜め、ぽりぽりとこめかみを掻く。
「……あの、さっきから妙に歯切れが悪い時があるけど……どうしたの?」
「いや、なんつーか。勿体無いって感じてて、でも必要かなーとも思ってはいんの。何より癪なんだけどさ」
ふう、一息吐くとセレナはこう言った。
「出前を頼もうかなー、ってね」
えー……?
と、ちょっと呆けた後に、その意味を理解する。
「あ……天丼くん?」
言葉も無く、セレナは静かに頷いた。
「あいつなら相手のヘイトコントロールが少しは出来るし、そもそも堅いし、正直アリッサのボディーガードとしちゃ私よりも向いてんのよ」
それは、まあ確かに。
大きな盾と、頑強そうな鎧を身にまとう、元々のセレナのパートナーを思い浮かべる。
「アリッサが使えるレベルまで育つくらいなら私でも、って思ってた。ある程度成長したらボスも……まぁ苦労するだろうけど私1人でどうにか守り抜いて王都に連れていって加護揃えようって」
でも、予想を上回る程に《古式法術》の成長は遅かった。
普通にコツコツと経験値稼ぎをしていたのでは時間が掛かり、ボスに挑んでのレベル上げは私たちだけでは難がある。
「私が戦うって手も無い訳じゃないけどね、そんで王都でスキルをゲットしてから……とか。でもそれはなんか負けたみたいでヤだし」
「あはは……でも、うん。私も、今までがんばってきたんだもん、はじまりのフィールドくらいはちゃんと自分の力でボスを越えて行きたいな」
「そう言ってくれると助かるわ」
そこでセレナが考えたのが天丼くんへのヘルプだったと……。
「“困ってたら助けてくれる誰かがいる”って、昨日そう言ってくれたもんね、セレナは」
「そーよ! 自分でそう言っわよ! だから、アリッサみたいに意固地になって選択の幅を狭めらんないの! あーっ、癪だったら!」
地団駄を踏むセレナを見ているとそれが次第に落ち着き、最後には小石を蹴っていた。
それは何と言うか……不貞腐れて見えた。
「機嫌悪そうだけど、今度はどうしたの? 天丼くんに助けを求めようって話でしょう?」
それでどうして不貞腐れるのか……むしろ天丼くんが来てくれるのなら、セレナも羽目を外せそうな気がするのだけど……?
「…………………………じゃん」
「うん? えっと、ごめんなさいよく聞き取れなくて……何て言ったの?」
答えたセレナの声は殊更小さく、囁きのようでとても聞き取れなかった。私は体を近付けて耳をそばだてる、セレナはしばし躊躇いながらも意を決したのかこしょこしょと呟いた。
「……アイツが来たら、私要らないじゃん」
言い終わるとぷいっ、と顔を背けてしまった。
それはつまり……私と一緒に居られなくなると思って、拗ねちゃった?
「ぷっ」
「ちょっ?! そこっ、何笑ってんの!!」
「だって……なんかもう。セレナかわいい」
「がっ?!!?」
くすくすと、あまりの微笑ましさに笑いが零れて止まらない。セレナは顔を赤く染めてギャアギャアと抗議を喚く。
「あー……可笑しかった」
「ぐぬぬ。アンタねぇ、こっちは割とマジで言ったってのに……!」
「ああ、その事だけど、天丼くんに来てもらうにしたってセレナも一緒じゃなきゃ無理だよ」
軽く首を振って否やと答えを返す。
「あン? なんで?」
「だって、男の子と2人きりなんて……そりゃ学校でクラスメイトと話す事もあるし、男友達もいるにはいるけど、2回しか会った事のない天丼くんと2人きりになんてなってもどう接すればいいか分からないよ」
実際天丼くんと会う時は必ずセレナと一緒だったし、積極的な会話があった訳でも無しに、いきなり2人きりでパーティーを組めと言われても困る。
「だから、セレナも一緒に居てほしい」
「ハッ、カマトトぶっちゃってさ」
「……カマトトって何?」
「そーゆートコ!」
べーっ、舌を出す。多分照れ隠しなのではなかろうか。ともあれ元気になったようなのでひと安心。
「でも正直、戦闘でだってセレナが居てくれた方が安心出来るよ。物理的にも……精神的にだって」
「……ま、まぁアリッサがそれでいいならあのバカ呼ぼっか。さすがに今日は無理だから明日からになるけど」
「突然だけど、大丈夫? 天丼くんにも予定とかあるんじゃ……」
「あ、平気平気。予定があろうと無かろうと首に縄つけて引きずってでも「やめてあげて?!」いつもの事いつもの事」
あっけらかんと言うセレナ。私はそんな風に扱われる天丼くんに同情の念を禁じ得なかった。
◇◇◇◇◇
明日の予定は決まったものの、まだ今日は時間があったので私たちは再び戦闘へと突入していた。
「アリッサ!」
「リリース!」
正面から突撃してきたボアに法術をプレゼントする。ボ、ボンと起こった小規模な爆発を見ながら感じていた。
何度も何度も繰り返す中、最初の頃よりも確実に私たちの連携は磨かれていると。
他のプレイヤーからすればこのくらいはおままごとと言われる稚拙なものかもしれないけど、昨日までの1週間を1人で戦っていた私にとって、その感覚は心地よく成長の明確な実感として気分を高揚させていた。
「おつかれ、そろそろ切り上げよっか」
セレナのログアウトは私よりも早く10時過ぎだと言う。
それを聞くと、昨日はずいぶん長居をさせてしまっていたんだなと申し訳無く思ったりもする。
「ああ、もうそんな時間? ごめんね、こんなギリギリまで付き合わせちゃって」
「いーよ。今更でしょ? 戦って自分を磨くのもプレイスタイルなら、誰かに手を貸すのもプレイスタイル。上も下も無いし、楽しけりゃ問題なんて無いってば」
胸を張るセレナに「ありがとう」と言ってウィンドウに目を落とした。
「でも、結局レベル上がらなかったね、残念」
「しゃーないって。それでも後少しだし、天丼加えてボス戦に挑めれば一気に上がるかもしれないじゃん」
「うん。じゃあいつまでもここにいる訳にもいかないし、アラスタに帰ろうか」
そうして歩き出すと、いつの間にやらそれなりにアラスタから離れてしまっていたんだと分かる。アラスタをぐるりと囲む壁がずいぶんと遠く見える。
「あ〜。ここから戻って宿探し、ってめんどくさいわね」
「はじまりの草原は南側だからまだマシだと思うけどね」
宿泊施設が集中する南大通りは遠くに見える南門を抜けてすぐの所にある。泊まる宿屋さんにもよるだろうけど〈リターン〉無しなら十分に早く帰れる部類だと思う。
アラスタの周囲100m程広がっている芝生のエリアにはモンスターも出現しないので私たちは注意を払う事も無く、雑談を交えて歩いていく。
「あ、はじまりの森」
左側に視線を向ければそこでは草原が途切れて森になっている。はじまりの草原と同じ初心者フィールドの1つ、はじまりの森だ。
「なんかもう懐かしいわね。アリッサと初めて会ったのもあそこだったっけ」
「だね。私たちにとってはほんとに“始まりの森”なんだよね。色々あったなー」
良い事も、悪い事も、色々。
まだ攻略してから1週間も経ってないのに、改めて見ると懐かしさが胸に来る。まあ一際苦労したもの、感慨も生まれますとも。
「……出会い方は思いっきり間抜けだったけどね」
「あはは、まあ派手ではあったかもね」
セレナと天丼くんは転がりながらセーフティーエリアへと飛び込んできた。中々に斬新な登場ではある、うん。
「でも、ま。今から思えばそれが良かったのかもね」
「それ?」
どれでしょう?
「アリッサ曰く『派手な』出会い方、よ」
セレナは空を見上げながら話す。
ざっざっ、草を踏む2人の足音がどこか遠く聞こえる。いつしか私はセレナの話に意識を傾けていた。
「あんな出会い方じゃなかったら、こんな風にはなってなかったような気がすんのよね」
「え、どうして? 普通に入ってたってあの時はお弁当あったし、セレナたちはお腹空かせてたから、多分お裾分けしてたと思うよ?」
まあ普通にセーフティーエリアに入ってきていたら、話し掛けるのを多少は躊躇ったかもしれないけど。
「んー、アリッサはそうかもだけどさ……多分私がさ、そう言うの蹴っちゃってたと思うんだよねー」
「どう言う事?」
実際にはセレナたちは条件付きながら応じてくれた。でも、あのアクロバティックな登場の仕方でなければ違ったって一体……?
「アリッサの事、意固地なんて言ったけど……私は私で見栄っ張りのええかっこしいだったりするからさ」
「ん〜、私からすると素直じゃない、くらいだと思うけど?」
見栄っ張りやええかっこしいと言うのは、それらしい事は散見されるもののそれが問題となるレベルとは思えなかった。
「ア、アリッサと一緒の時はまだマトモな方なの! 普段は……自分でもそれはどうよ、なレベルで見栄張ってるの! 張りまくっちゃってんの!」
「そこまで?!」
あ、いや。
「そう言えばシロネさんがそれらしい事を言ってたような……」
高値を吹っ掛けても見栄張って買ってく、みたいな。
「ぐ、まぁ……ね。……だからさ、多分アリッサが手を差し伸べてくれても突っぱねてたかも、って」
セレナはそう言うと、どこか遠くを見つめるように目を細めた。
それは何だか呆れているような、自嘲しているような……そんな風に感じられた。
だから、先を促した。
「でも、そうはならなかったじゃない。転がって、出会って、一緒にお弁当を食べられたよ」
今に繋がる話を。
「そりゃ、あんな間抜けでみっともない姿を真っ先に見られちゃ見栄もかっこつけもあったもんじゃないでしょ。外面じゃない私だからアリッサの手を掴めたのよ、多分。……ほんと、かっこは悪かったけど、運は……運だけは良かった」
あはは、とセレナは照れが滲む笑みを浮かべた。
(運が良い、か)
でも、と思う。
「そうだね……でも、運だけじゃないよ。きっと。どんなに運が良かったって、それは元々セレナに出来る事だったから、元々可能性があったから、そう出来たんじゃないかな」
「アリッサ……?」
セレナが言ったように突っぱねるのが1つの可能性なら、受け取るのだって1つの可能性に変わりは無い。
セレナの言う通りなら確かにその可能性は低いのかもしれないけど、ふとしたきっかけでひょっこりと顔を出す事だってある筈だ。
それを私は、知っている。
「いつだって、誰にだって素直になれるよ。きっと。それで友達になった前例がここにいるもの。偶然からでも、失敗からでも、出来るって証明されたでしょ? なら、セレナがそうなりたいならきっと次も大丈夫。だって」
間は一瞬。
「その証拠が今も、これからも、ずっといるもの」
続いて数瞬。見る間に最近見慣れてきた紅葉のような赤に染まるセレナがいた。
「――ばっ……。は、歯が浮いてなんじゃないの、アンタ」
「じ、自覚はあります。でも、言わせたセレナが悪い」
でも言いたかった。きっかけが運だったとしてもあれは、私たちがフレンドになれたのは、貴女が勇気を振り絞ってくれたからなのだから。
その勇気を、私はすごいと素直に思っているから、運だけで片付けてほしくなかった。
頬に熱さを感じる。
互いに頬を赤らめながら、明後日の方向に視線を逸らす私たち。
折よく南の門まで到着した私たち、けどアラスタに入る一歩手前でセレナの足が止まる。
「え?」
振り返った私に、セレナは言う。
「生憎と私、そんな簡単に変われる程柔じゃないから」
目をしっかりと私に向けて。
「だから、そんなボンポン友達とか出来ないから」
まっすぐに背を伸ばし。
「……でも、アリッサと一緒なら……素でいられるから」
よく通る声で。
「それが、普通になれるまで……しばらく付き合ってもらうから!」
前に進むと宣言した。
「うん、望む所」
だから、応える。
明日からは私だけの為に組むのでは無いと言ってくれている。
つまりそれは、互いに支え合う形。足りない何かを補い合う提案。
だとするなら世話を掛け通しの一番新しい友達に、それが私に出来る事なら喜んで、そう応えずにいられようか。
「言ったわね?」
セレナは笑う。唇の端を震わせて。
「言いました」
私は笑う。心から。
「なら」、セレナは次の瞬間には風のように駆け出して私を追い越し――。
「また明日!」
――それだけを言い置いてセレナは手近な宿屋へと飛び込んでいった。
「うん……また明日」
私はそんな恥ずかしがりで照れ屋な友達を苦笑混じりに見送った。
より賑やかになるだろう明日を、楽しみに思いながら。




