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第135話「バックファイア」




 泣いた、けど笑った。

 クラリスと、花菜と、またこうしていられる。それだけで私は幸せで、幸せで、幸せだったから。

 ……けど。



 ――ワッ!!



 周囲の、地面すら揺るがすような尋常でない歓声には、さすがに顔を上げる。


「???」


 歓声の出所は私たちを囲んでいるPCたち。彼らは興味深そうにこちらを見ては、熱に浮かされたように騒いでいた。


「ちょ、邪魔よ邪魔! 通しなさいっつってんでしょうが!」

『アリッサ!』『キュイ!』


 そんな中で聞き慣れた声が耳に届く。人垣を縫うように現れたセレナは肩で息をしながら悪態をつき、ティファとひーちゃんは私にしがみついている。


「ったくなんだっつのよいきなり掌返しちゃってさぁ!」

『ぶっ、ぶぶぶ無事なのですかっ?! ずばーって! ばさーって!』『キュイキュイキュキュイ!』

「あ、ああ大丈夫、星守同士だし……で、でも、あのセレナ、セレナ、な、何なの、この騒ぎ……?」

「見りゃ分かんでしょうが。アンタらのノロケ話に感化されてんのよ。派手な見せ物だったからね、熱に浮かされてる感じよ」


 そう語るセレナだったけど、その顔はほんのりと桃色に色付いていた。

 その様子に私は改めて「な、何言ったっけ……?」と自分の発言を思い返し……顔が熱くなる。

 しかし、そうしていられたのも束の間、一部のPCからは疑問と文句が飛んでくる。


「オイオイ、一体何がどうなってんだよ?」「ふざけんなよ、あんだけ騒ぎを起こしておいて……!」


 そうしたざわめきはやがて歓声とぶつかり、所々で不穏な空気を醸している。

 これは私が元凶なのだからどうにかしないと、と思いつつもどうすればいいのか分からずにオロオロと周囲を伺っていると不意に――。



「お静まりくださいませッッッ!!」



 と言う、多少のざわめきどころか歓声すらも圧倒するような大音声が響き渡る。

 相手は……まあ分かり切っている通りのエリザベートさんだった。

 彼女はまたもモーゼの如く人垣を左右に分けながら、若干ボロボロな姿で扇子を高く掲げて歩いてくる。


「皆々様ッ!! 突然の事ッ!! 混乱なさる事誠にごもっともッ!! 故にッ!! どうぞワタクシたちにこの事態を説明する機会をお与え頂きたくッ!! このヴァルキリーズ・エールがサブギルドマスターッ!! エリザベーーット・ハルモニアがお願い申し上げますわッ!!」


 またざわめきが起こる、けどそれには多分に好奇と興味の色が混じっているように思える。


「事情があるって事ですかー?」

「如何にもッ!! しかし、それはワタクシの口から話すには多分にプライベートな内容ッ!! ですのでアリッサさんッ!! 出来るのならば貴女の口から皆々様に一部始終をお話して頂きたく思いますッ!!」

「ちょっと、アンタ何をいきなりっ!」


 そう私の目を見て迫るエリザベートさんに、セレナは食って掛かる。けど当のエリザベートさんは泰然とセレナに相対する。


「お怒りは実にごもっともッ!! しかしッ!! このままにしては今後のアリッサさんはどうなりましょうッ!! 皆々様からどう思われましょうッ!!」

「そ――」

「ワタクシは嫌なのですッ!! そのような事態はッ!! 故にきちんと事情を話さねばならないのですッ!!」

「っ! それは、でも……ここまでなったのは――!」

「……承知しておりますわッ!! 此度の騒動に我が麗しきヴァルキリーズ・エールのメンバーも関わっているとッ!! 故に責めはワタクシも受けましょうッ!! 如何様にもッ!!」

「なっ」

「その上での提案とッ!! どうぞご理解くださいませッッ!! 皆々様におかれましてもッ!! それで宜しいでしょうかッ!?」


 胸を張り、何十何百と言う視線をその身に浴びながらも1歩とて退かないその姿に、誰もが見入る。

 その言葉はまっすぐに、数多聞こえた非難や文句を言い放ったPCたちにも届く。

 ああそうだ、彼女は何十と言うPCの集うギルドのサブとは言えマスターで、慕われるからこそその地位を任されたのだと、確かに、その理由を実感した。


「アリッサさんッ!! 宜しいですかッ!?」

「……はい……っ!」


 私は首を縦に振った。



◇◇◇◇◇



 ポータル前の一画から私たちは場を移す事となった。

 元々王都などのポータル付近は広く、公園としても利用されている。

 オフィシャルイベント中、人の出入りの多いこの辺りに特設ステージを自主的に建ててパフォーマンスの場として提供しているギルドもあり、エリザベートさんの口利きでそこを利用させてもらえる事となったのだ。

 そして今はその袖で、まさにステージへ上がろうと言う場面だった。


「ふう……」


 ここからでも聞こえるざわめき、多少数は減ったらしいけど、それでも興味や糾弾の為にと残ったPCは数多いようだ。

 さっきはもうクラリスしか見えてなかったから気にもならなかったけど、改めてそんなPCたちの前に出るのに緊張するな、と言う方が無理な話だった。


「大丈夫なの……?」


 そんな私に声を掛けてくれたセレナは気遣わしげにこちらを見つめている。

 そしてその背後には他にも天丼くんやティファやひーちゃんを始めとした手を貸してくれたみんながいる。

 それが、本当に頼もしい。


「……大丈夫。みんなを見たら勇気が湧いたから。それに、これは大勢を巻き込んじゃった私がしなきゃいけない事だから……がんばるよ」

「いや、そうでなくて」

「え?」

こんな(、、、)状態でステージに上がる気かアンタは?!」


 目を吊り上げたセレナは、私にくっついたまま(、、、、、、、)のクラリスを摘まんでそう断ずる。

 うん、あれ以降クラリスは私に抱き付いたまま離れる気配がありません。


「お姉ちゃんー、だっこー、おんぶー」

「クラリスは甘えん坊さんだねー」

「いかん、完全にノロケてる」

「まぁ、俺らその為にがんばったワケだから受け入れたれ」

「アリッサさん、そろそろいいかしら?」

「あ、もう少し……」


 ステージからは司会進行を買って出た鳴深さんが私を呼んでいる。それに答えながら、私は……みんなに混ざっているセバスチャンさんに相対した。


「あの……」

「急ぎたまえ。そうは待たん」


 懐から取り出した懐中時計を見ながらそう告げられる。クラリスと仲直りが出来ても、その口調は変わらず、時間は厳守するようだ。


「……はい。いってきます」


 厳しい姿勢、自分のした事をこれから話す私にはそれが有り難かった。悪い事したのに、この子のぬくもりがそれを忘れさせてしまいそうだったから。


「ああ」


 短くそれだけを言ったセバスチャンさんは懐中時計をしまい、物陰に1人佇んだ。

 それに頭を下げて、私とクラリスはステージへと上がるのだった。



◇◇◇◇◇



 そこは簡素な物だった。木材で急造したステージは学校の体育館のステージと同じくらいの広さで、中央にテーブルと椅子が5脚、そしてマイクらしい物が5つ置かれているだけ。

 椅子の2つには既に司会進行役のエリザベートさんと鳴深さんが座っていた。

 ――ワッ。

 1歩、袖から出た私を出迎えたのはそんな声と数え切れないくらいの視線たちだった。

 加えて私にクラリスがくっついている事が分かると声のボリュームが一気に大きくなる。

 驚いたし、体は強張るけど、今はクラリスのぬくもりが解きほぐしてくれて、私は会釈してから椅子へ座る。


「「「おおお?!」」」


 どよめきが起こる……何故ならクラリスが隣の椅子に座らずに私の膝の上に座ったもので。


「『定位置だぞ』」


 テーブルの上に置かれたマイク(型の精霊器)に力強くそう語るクラリスなのだった。

 それに対する反応を待つように私に視線が集まるのだけど……。


「『……まあいいや。えと、じゃあ、事情の説明を――』」


 ――ドッ!

 観衆が湧く。どうやらクラリスを気にもしない私が可笑しかったらしい。

 場を鳴深さんがなだめて、ようやく私は話し始めた。時折観衆からの質問にも答えながら、あらましを説明していく。


 ――私たちが姉妹である事から始まり、

 ――私が加護を使いこなす為に夜更かしをした事。

 ――それをお父さんに知られて叱られた事。

 ――クラリスがそれを知った事。

 ――喜びはしたけど、罪悪感を覚えてしまった事。

 ――だから私から離れようとした事。

 ――嫌いって言われたので寝込んだ事。


 その時には「『嘘ー、嘘だよー、お姉ちゃん大好きだよー』」とのフォローが入ったり、「シスコーン」と言うヤジが飛び、場にまた笑いが起こりもした。

 そして、そうした話を受けてなのかどうなのか、徐々に良い雰囲気になっているとは思った。


「『それでその……離れるなら近付くように仕向けようと思って……』」

「『ログインし続けたのね』」

「『はい……』」


 擁護に回ってくれるPCも徐々に増えているように思うのだけど、やはり反発するPCはいて、所々でギスギスとした空気が生まれている。

 それでも……いえだからこそ私はクラリスを促し、立ち上がる。


「『私がした事は悪い事と理解しています。始める前からです。それでも、必要でした。後悔はありません』」


 右手の先には左手が繋がれている。繋がっていられる、だから後悔する理由は無かった。


「『……けど、みなさんを巻き込んでしまった事も、巻き込ませてしまった事も、申し訳無く思っています。本当に、ごめんなさい』」


 深く頭を下げる。ざわざわと様々な声の反応が湧く中で、隣で可愛らしい声が緊張を孕みながら張り上げられた。


「『あ、あの、その、ごめんなさい! 全部あたしがバカだった所為だから! お姉ちゃんいじめないでください!』」


 そうしてクラリスも頭を下げて……どれだけそうしていたか、反応は鈍く判断を下し切れていない様子だった。


「『では、残りの話はこちらから、なのです』」


 しかし、その流れを断ち切るように新たなPCがステージに立ち、一気に場が騒然とする。


「『どうも、騒ぎの元凶のミリアローズなのです』」


 ミリィがたった1人でステージへと現れたのだ。

 リンゴも、ベルも伴わず……いえ、伴う事を許さず(、、、、、、、)に。


「事情をキッチリ話せーっ!」「こっちはお前に乗せられて参加したんだぞー!」


 そこかしこからヤジが飛ぶ。

 ミリィは自分で協力を募りながらも最後には私に力を貸している。それに巻き込まれたのはごく一部だけど、姿を見たPCから噂は広まっていたのか、登場するなりざわめきが起こる。もちろん非難の声が大勢だ。


「ミリィ……元凶って言うなら」


 私だと言おうとすると、それを遮るようにミリィは真面目な表情で頭を左右に振り、彼女は座る事無く、観衆に対して深く深く頭を下げた。


「『ごめんなさいなのです。私がアリッサを追い詰めたのは、クラリスをログインさせる為……その為にみなさんの善意を利用したのです。2人の間で済む筈の問題を拡大してこんな騒動を生んだのは間違い無く私なのです』」


 「『本当にごめんなさいなのです……』」、そう謝罪を繰り返し、また頭を下げる。

 リンゴとベルの分までも背負って、そう謝罪するのだ。


「ミリィ、そんな事、だってあたしが……」


 クラリスの顔が歪む。


「そんな顔はよすのです。大事にしたのは全部事実で、覚悟の上なのですから」


 そう語る彼女の顔は見えないけど、その声色には確かに後悔の色は読み取れなかった。

 幸いか、先程までの空気が残っているのだろう。「それなら……」「仕方無いかもなー」「仲直り出来たならいいじゃん」、そんな声が上がり、中には友達思いだと拍手して褒めるPCもいる。

 けど、それでも非難の声は完全には止まない。


「あそこまでやって許されると思うのか!」「そうだぞ!」「ええ? みんな結構楽しんでなかったか?」「だよねぇ……」「お前らと一緒にすんなよ!」「何よ、その言い方!」


 進行役である鳴深さんが収拾しようとするも止まらず、声は秒単位で大きく、激しく悪化していく……。


「『許さなくて結構だ』」


 その時だ、テーブルのマイクを攫うPCが現れた。

 低く、重い声がマイクで増幅されて周辺へと響く。非難の声を上げていたPCすらも驚いた様子で、一旦場が静まる。


「『彼女には相応の罰で責任を取らせるつもりだ。勝手とは思うが、あなた方にはそれを以て謝罪の意とさせてもらいたい』」

「ば、罰って何するつもりだよ! 軽いモンで誤魔化せるとか思うなよ!」

「『軽く済ませるつもりは無い。差し当たり、彼女が今使用しているリンクスを取り上げようと考えている』」

「じっちゃん?!」


 思わず立ち上がるクラリスには目もくれず、セバスチャンさんは同様に困惑しているPCたちに向けて話し続ける。


「取り上げるって……リアルで知り合いなの?」「え、知らないの?」「うん?」



「『ああ、知り合いなどと言う生ぬるい関係ではない。彼女は、わしの孫だ』」



 私たちにすれば既知の事実、けどこの場の大多数はそうではなかった。


「リアルじじいキター?!」「え、マジ? マジでじじいだったのあの人?」「知らんの? あの人ってMSOの最年長プレイヤーだぞ」「あの子が孫だって言うのも私知ってた。ホントらしいよ」


 本当か否か、本当だとしたら重くはないか、否だとしたらどう確かめるか、そうした様々な声で場は混沌となる。


「み、身内なら余計に信用なんて出来ないぞー!」


 苦し紛れとも聞こえるその言葉に対して、セバスチャンさんは殊更に強い声で答える。



「『いいや。身内だからこそ厳しくしなければならないのだよ、少年』」



 鋭い眼光が声の主を射抜く、次の言葉は……出てはこない。言葉の重みが、天と地程も違うと理解するなと言う方が無理だったのだ。


「『それでも信じられないならば、フレンド登録なりすれば動向は知れるだろう。好きにしたまえ、当然の措置だ』」


 そのセバスチャンさんの厳しい態度と提案に、非難の声を上げていたどのPCたちからももう言葉は上がらない。

 むしろ擁護の声すら出る有り様だった。


「あのー、長い事育てたキャラだしロストは、その、さすがに可哀想じゃ……」

「『無論1日2日で返す気は毛頭無いがいつかは返すつもりではある。それがいつになるかは孫次第だが、心配は無用だ』」


 その答えに安堵の空気が広がる。この場に居る誰もがPCを失う事を、この世界に来られなくなる事を恐れているからだ。

 しかし、だからこそセバスチャンさんは次の1手を打つ。



「『……そしてそれまではわし自身も付き合うつもりだ』」



 恐らくはミリィへの責めを少しでも減らす為に。


「セバスチャンさん……」

「じっちゃんまで!?」

「なんとッ!?」

「さすがと言うか……」


 どよめきが伝播する。その言葉に嘘が無いと、その言葉から伝わる真摯な思いが、誰の胸にも届くのだ。


「……ごめんなさいなのです、じいじ」

「これもわしの責任だ。反省をするなら、その気持ちを忘れるな」

「……忘れる訳が無いのです」

「宜しい」


 セバスチャンさんの手がミリィの頭に置かれ、そして2人共が頭を下げた。

 誰からともなく鳴り出したのは拍手、そしてそれを制したのは話の邪魔となるからか今まで極力黙っていた大音声。



「以上がッ!! 事のあらましッ!! 確かにッ!! 彼女らの行為は間違っているのでしょうッ!! 悪い事なのでしょうッ!! ですがッ!! ですがどうかお心に留め置いて頂きたいのですッ!! 彼女らの行動はすべてッ!! 大切な誰かの為なのだとッ!! 皆々様には居らっしゃいませんかッ?! 身を賭してもッ!! 罰を受ける事もいとわぬ方は居らっしゃいませんかッ!! もし誰かがお心に浮かんだならばッ!! 許す事は出来ずともッ!! 理由だけはどうかッ!! ご理解下さいませッ!! このエリザベーート・ハルモニアッ!! それだけはッ!! 何を置こうとッ!! 言いたく思う次第ですわッ!!」



 マイクすら介さないその大音声は、この場に集まった誰もの耳へと届いたのだろう。

 その言葉を肯定するかのように、パチパチと……最初は小さく、疎らだった拍手が次第次第に、歓声を伴って大きくなっていく……!


 ――ワアアァァアァッ!!


「いいぞいいぞー! 許してやるぜー!」「実は結構楽しかったしねー!」「このゲームってPvP無いからなんか新鮮だったもんな!」「ガールズラブ最高ーっ!」「じいさんカッケーぞー!」「声デカイってー!」


 そんな声が、いくつもいくつも私たちに届く。

 温かくて微笑ましくて優しくて、胸が詰まりそうな……そんな声の嵐。

 こうして、本当にひとまずは、だけど、一連の騒動には一区切りがついたのでした。



◇◇◇◇◇



「アリッサちゃーんっ!」「こっち向いてーっ!」

「え、ええと……」


 あれからしばし、ステージに立つ私たちは押し寄せるPCたちの熱烈な攻勢に四苦八苦していた。

 とりあえず手を振ってみたりした日には大量のカメラウィンドウの集中砲火に晒される、みたいな。

 そんな中で私たちにプライベートな質問をしてくるPCも出始めて(加護とか加護とか加護とか)、収拾がつかなくなると判断した鳴深さんによりステージは閉幕となる。

 文句も飛んだけど、私をこれ以上ログアウトさせないのはマズいと言われれば退かざるを得ず、緞帳が降りてようやく人心地。

 袖からみんなが駆け寄る中で、私は傍にいる2人に頭を下げていた。


「ミリィ……セバスチャンさん……ごめんなさい、私たちの為に……」

「そんな顔をするものではない。責任を感じているのだろうが、どの道、この後が(、、、、)楽になる(、、、、)訳ではあるまい(、、、、、、、)

「やっぱり……分かりますか?」

「君は、そう言う人間だ」

「おあ?」


 ……そうだ。ログアウトして、そうしたら私は……。


「む、いかん……アリッサさん、そろそろ約束の時間だ。ログアウトをしなさい。わしも看過する限界だ」

「あ、は、はい」


 止まない歓声の中で、不意に懐中時計を取り出したセバスチャンさんが私にそう告げる。


「約束?」

「うん、セバスチャンさんと約束してたんだ。もし決めた時間までにクラリスが来なかったら諦めてログアウトしなさいって」

「なんと!」

「実は結構ギリギリだったんだ」


 ミリィがいなければあるいは……可能性は低くはなかったかもしれない。


「ミリィ、ちゃんと言ってなかったよね……ありがとう」

「いいって事よ、なのです。2人の為ですからね」


 そこまで言うと、ミリィは声を潜めて私に耳打ちする。


「それに、ここまでは想定内なのです。リンゴとベルを出さなかったのはやっぱり正解だったのです」

「え?」

「じいじの罰は、身内である私1人だからこそ最大パワーで作用するですからね。リアルで親交の無い2人が出てはああ上手くは運ばなかったのです」

「じゃあ……その為に?! 私、ミリィが2人の分まで責任を取ろうとしてると……」

「それもあるですが……まぁ、ダメージコントロールが大事なのは、何も戦闘だけじゃないのですよ」


 「だから、これが最善なのです。そんな気にしちゃダメなのですよ」と、可愛らしくイタズラっぽくウィンクする様はとても似合っていた。

 さすがに少し力が抜けてしまった……。


「ミリィ〜……それでも、ごめんにょ〜」

「貸しにしてやるのです。一生感謝するのですよー」

「お姉ちゃんの時と対応違う!!」

「HAHAHA、気の所為なのです」


 そんな2人の微笑ましいやり取りをいつまでも見ていたい誘惑に駆られたけど、私は改めて2人に会釈をしてシステムメニューを開いた。


「じゃあね、クラリス」

「じゃあね、じゃないよ! あたしすぐに行くから、飛んでくから、だから向こうで待っててね。お姉ちゃん!」

「うん、待ってるよ。みんなも本当に、ありがとうございましたっ」


 ステージ袖でずっと私を見守ってくれていたみんなにも深く頭を下げる。感謝はどうやって返せばいいのか、まだ分からないけど……。


「へっへー、ざっとこんなモンよ。またなんかあったら今度は最初から頼りなさい」

「良かったな。とは言え俺はこんなん2度はゴメンだから、注意してくれよ」

『解決したのなら何より。逃げ回るのは疲れますからね』

『キュ!』

「どうぞご姉妹末長く仲良くなさってくださいなッ!!」

「後はこちらがフォローしますからご心配無く。それがヴァルキリーズ・エールなりの責任でしょうから」

「またな、今度こそは遊ぼうぜ!」

「バイバーイ♪お礼は期待してるね♪」


 そんな風に見送られながら、ログアウト操作を実行して私は……この世界を後にしたのだった。




 サブタイトルでのバックファイアは、あらかじめ木々や草などを焼いてしまう事で山火事などの延焼が拡がるのを防ぐ意図的な放火、向かい火の意ですね。


 ちなみにセバスチャンは騒ぎの中でミリィと対峙した辺りで粗方は察していたようです。年の功&お祖父ちゃん歴が物を言いました(ログアウトしたら雷ですが)。



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