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第128話「vsルル……?」




 ここ何日か、動こうと思う度に緊張する事がある。

 例えば目の前のドアの向こうにはどんな未来が、どんな結果が待っているのかと想いを馳せると不安が押し寄せたり。

 今もまた、私の胸の中ではそんな感情が渦を巻いていた。


『またぞろ厄介な事になったようですね』

『キュイ』

「……まあ……」


 チャットを終え、どうすればいいのかと考えているとティファとひーちゃんのじっとりとした視線に晒された。


(きっともう、ミリィはスレッドに書き込み始めてるんだろうなあ……)


 先程の事、妹のお友達であるミリアローズこと三枝木みなもちゃんと意見が衝突し、互いの信じる方法を選ぶ事となった。


 私はこのままあの子が訪れるまでログインし続ける道を。


 対して彼女はこれ以上の事態の悪化を防ぐ為にそんな私を止める道を。


 対立は明確だった。

 だから彼女はMSOの公式掲示板のスレッドを利用し、私の超長時間ログインを告発すると言う方法を用いているだろう。


(最初は猶予を与えるつもりだったろうけど、啖呵切っちゃったもんねえ私)


 私にログアウトの意思無しと宣言した以上、わざわざログイン時間を引き延ばすだけの猶予時間なんて与える可能性は低い。

 だとすると宿屋さんのような他者に侵入出来ない空間以外の、人目のある場所はすべて危険域だと言う事になる。

 一度そう思えば――情けない事に――あの時の威勢も、少しばかり鳴りをひそめてしまう。


 つまりは……スペルを口から出すのに心臓を高鳴らせている私の出来上がりだった。


「はあ……いつまでもここにいる訳にもいかないよね……うん」


 私の最大の目的は私を完全にシャットアウトしてしまった花菜を私と接触させる事。

 あの子なら、こんな真似を放っておける筈が無いと信じている。

 だからこそいつまでもここにはいられない。それはあの子からも接触が出来ないと言う事だから。

 あの子に会えなくてもいいの? そんなのは嫌だ、ならいつまでもじっとしてはいられない。


「……うん、よしっ。じゃあ――」

『……アリッサ、どうかしたのですか? どこかへ行くのでは?』

『キュイキュ?』


 動き出そうとした矢先の事、私は逆に動きを止めた。それを訝しんだティファとひーちゃんが首を傾げている。


「うん、あの……ごめん、ちょっと待っていて」

『キュ』

『はぁ……?』


 2人に詳しく話しもせず、私はシステムメニューを立ち上げるのだった――。



◇◇◇◇◇



 〈トランスマーキング〉で指定した転移先はやはりうらびれた路地の一角、夜でなくても人なんて滅多に通りそうも無いそんな場所。

 私は〈トランスポート〉でそこへと一瞬で転移した。

 とは言え今は状況が状況と、視界が回復するやすぐさま前後に左右に上下にと首を巡らせる。


「…………ほっ、良かった。誰もいない……」


 こちらの世界の人は元よりPCの姿も見当たらない。

 そうした場所に指定したとは言え、やはり転移先が目で見える訳でも無いので心配はあって、ひとまず安堵してしまう


『くちっ!』

「ティファ、大丈夫?」

『え、ええ、ちょっとくしゃみが出ただけです。これくらい……』


 夜も更けて風が冷えてきたらしい。PCは寒暖には強いけど、そうでない上に軽装のティファは寒いようで体を抱いている。


『キューイー』

『ああ、温かい……』


 火の精霊であるひーちゃんが自分の出番とティファにくっついて温める。強めの風が吹くけど一緒なら大丈夫そうだ。


「……っと、いけない。いつまでもじっとしてられない」


 こうしている間にもミリィがどんな行動に出ているか。

 フレンドである以上、大まかであるにせよ私の居場所は把握されてしまう。

 スレッドに書き込まない理由も無いだろうからなるべく早く動かなきゃ。


「ティファ、ひーちゃん。これから移動するけどなるだけ静かにしてね」

『キュイキュ』

『任せてください。私こう見えても子供の頃はかくれんぼは得意でしたからね。えっへん』


 ひーちゃんと一緒だと目立つ気もするけど「頼もしい限り」と返し、まずは次なるスペルを唱える。

 発動したスキルは〈ファイアサーチ〉、周辺にいるPCなどの位置を視界内のマップに表示させる効果を持つ。

 これなら一定範囲への警戒にうってつけ、そして……その考えはどうやら間違いではなかったらしい。


「!」


 誰かがいる。

 夜闇の中で先に気付けたのは幸運だった。当然ながら相手が気付いた様子は無い、このまま反対方向へ逃げてしまおう。

 足をジリジリと下げていくのだけど、そこで思わぬ事態に発展する。


「まずっ?!」


 そのPCらしい反応がこちらへと向けて動き出したのだ。

 もちろんこの反応が私を追っている人である確証は無い。むしろPCの総数からすれば少数派ですらあるだろう。

 しかし、もし見つかってしまえばスレッドにアップされ、何人ものPCが追ってくる可能性が高く、〈トランスポート〉での緊急転移もすぐには使えない。

 見つからないならそれに越した事は無い――!


「2人共ついてきて……!」

『もうっ、忙しない……っ』

『キュイー……ッ』


 足音を立てないように、けど急いで、私たちは暗い路地を尚暗い方向へと駆け出した。

 幸いなのか、夜中と言う事もありこちらの世界の人は割合少なく、マップに表示されるのはPCだろうと当たりをつけて先々を見ながら走る走る。

 しかし、


(おかしい……! どうしてついてくるの?!)


 恐らくは一番最初に見つけたPCと思われる反応がずっと追ってくる。

 マップ内から消えるくらいに引き離しても安心出来ない、ゆっくりとながらその反応は私たちへと確実に迫ってくるのだ。


(まさか、相手は犬人族? 私の匂いを追っている? だとすると……ただ逃げるだけじゃ振り切れない……こうなれば一か八か、もう一度〈トランスポート〉で転移をして……)


 頭を振る。

 さっきは上手くいったけど、次にまたそうなるとは限らない。

 それに〈トランスポート〉は緊急時の切り札の1つでもある。やたらとは使わない方がいい。


(なら、)


 多少なり距離を作った所で、私はスペルを唱えた。


(後ろに戻るのも、前に進むのにもリスクがあると言うのなら……後は、上!)


 スキルの発動と同時、私の体が浮かび上がる。《嵐属性法術》〈ストームレビテイション〉、風をまとえるこれなら匂いも途切れさせる事が出来る……多分。


(やけにスピードが遅いから飛んだり跳ねたりは出来ないと思いたいけど……)


 私は通り沿いの建物の外階段に身を潜ませる。動くのは相手がこちらを見失ってくれてからだ。


『アリッサ、追ってくる相手はどんな方なのでしょう……?』

「さあ……せめて話して分かる人だといいんだけどね」


 ミリィの書き方次第だろうけど、望み薄な気がしている。

 そもそもこの事態をどう終息させればいいのかも分かっていない。


(もうミリィ1人をどうした所で……ああ、いけない。考え始めるとすぐ弱気になっちゃうな)


 ともあれ、これ以上の事態の悪化を防ぐ為にはミリィを説得するのも必要だからまずはそこから――。


『キュイキュイ! キュイキュイ!』

「ひっ、ひーちゃん?」


 ひーちゃんの騒ぎように驚くもその理由はすぐに分かった。マップを確認して反応がすぐ近くまで来ていたのだ。

 しかし、先程私が〈ストームレビテイション〉を使った場所でおろおろと戸惑うその姿に私は更に驚く事となった。


『あら? アリッサ、あれは……』


 ティファも知っている、そしてひーちゃんが何故あんなにも騒いだのかその理由も得心がいった。だって、彼女(、、)は――。


「――ルル、ちゃん?!」


 可愛らしいその姿を見間違える筈は無い。傍らにはティファと同じ導きの妖精であるケイちゃんもいる。


(それ、で……)


 合点がいった。

 フレンドであるルルちゃんはシステムメニューの機能を使って私を追い、あの区画へと訪れたのだろう。

 そこに折よく私が転移し、吹いた夜風に乗った私の匂いに気付き、後を追っていたのだ。ずっと。


(目的は、私の説得?)


 ルルちゃんもあの子と面識がある。協力を打診されていたとしても不思議は無い。

 連絡を寄越さなかったのは……多少不可解だけど……セレナの例もあるか。


『アリッサ、どうするのですか?』


 不安げにティファがこちらを見る。ケイちゃんとはお友達だから、荒事になったらと考えてしまうんだろう。


「……」


 もう一度ルルちゃんを見る。


「……行こう」


 もしルルちゃんに咎められたら落ち込む自信がある。けど、だからこそ……そのままなんて嫌だから。



◇◇◇◇◇



「ケ、ケイ、ちゃん……ど、どう、しよ……どうし、よぅ」

『う〜ん。とりあえず落ち着こうか』

「ふ、ええ……」


 ルルちゃんは変わらずおろおろと挙動不審な様子で、とうとうしゃがんで泣きべそをかき始めているようだった。

 す、と息を吸ってそんな彼女の背後から肩を手でそっと叩く。


「こんな所でどうしたの?」

「!!」


 声を掛けたと同時、感心するくらいの素早さで振り向いたルルちゃんの顔には、単純な驚きと零れかけの涙が浮かんでいた。

 それを指で拭っていると小さく、震えた声が耳に届く。


「ア、アリッ――」

「え?」


 私の名前は最後まで言われる事は無く、感極まった様子のルルちゃんは私へと抱き付いてきた。


「ふえっ、ふえ、ええ……」


 生憎と受け止められる程逞しくはない私だから、勢いのままに尻餅を突いてしまう。


「えっ、と……?」


 いきなりの事に頭には疑問符が浮かびもするし、周囲も気になったりもするのだけど……。


(……うん)


 私はお腹に押し付けられる彼女の頭を優しく撫でる。

 それよりも今は目の前にいるルルちゃんを落ち着ける方が大切だった。

 それからしばらくすると泣き止んでくれたルルちゃんは、恥ずかしそうに頭を上げる。


「その、ごめ、ん、なさい……アリッサ、お姉、さん……」

「いいえ、いいの。多分……そうさせちゃったのは私の所為だと思うから」


 正解だったらしい、そう言うとルルちゃんは表情を曇らす。


「妹……クラリスから連絡があったの?」

「は、はい……でも、信じら、れなかっ、たです。アリッサ、お姉さんが……なん、て」

「うん……それで、私を止めに?」


 1拍の間があった。

 ルルちゃんは首を振った。それが横にである事に、私は酷く驚いた。


「……信じら、れな、かった、んです。だか、ら本、当かって、調べよ、うと思っ、てネット、を……」

「っ、そう……」


 ならミリィの立てたスレッドも読んだんだろう。


「そう、したら、色々、な事が、書かれ、てて……でも、ワタシ、アリッサ、お姉さ、んが、ただそん、な事す、るなんて、思えな、くて、だから……」


 そう言うとルルちゃんはシステムメニューを開いて、アイテムを実体化させた。

 それは……服だった。両手でも持ちきれないくらい沢山の、お洋服だった。


「色ん、な人た、ちがい、たんです。アリッサ、お姉さん、を捕まえ、ようって、人も……」


 けど私に確かめようにもそうした人たちがもし私を追う場面だったらと、連絡もはばかられたらしい。


「でも、きっと、アリッサ、お姉さん、にはやら、なきゃい、けない、事がある、と思っ、たから、少し、でも助、けになれ、ばって……」

「それで、変装用に……こんなに……」


 直接渡す為に、フレンド機能と自身のアビリティだけを頼りに私を探していた。

 お店で売る為の商品なのか、あるいは自分用なのか。可愛い物も綺麗な物も、沢山ある。


「パラ、メータ、補正は、全然で、すけど……少し、くらい、はって」

「……ああ」


 嬉しかった。

 信じてくれた事、力を貸してくれようとしている事、そしてその証が目の前にある事もとても、嬉しかった。

 だから、私は彼女を抱き締めた。


「……ありがとう」


 「ありがとう、ありがとうね」と何度も言う。ルルちゃんは照れて顔を赤くした。

 ……だけど、私は最後に「ごめんなさい」と口にする。


「……え?」


 体を離すと困惑した表情のルルちゃんがそこにいた。


「貴女の気持ちは嬉しいよ。嬉しくて堪らない……けど、私がこれ(、、)を着ているのは……」


 示すのは私の体を包む装備……それは、ルルちゃんのハロウィン衣装ではなくて、夜半さんのリリウム装備でもなかった。



「私が初期装備を(、、、、、)着ている(、、、、)のはね。貴女に、貴女たちに迷惑を掛けられないと思ったからなの」



 このまま、ミリィのスレッドで悪名が広まるような事があったなら、その時私が着ている装備を作った人にすら、私に装備を提供した、悪いレッテルが張られてしまうかもしれない。


「さんざんフォトは撮られた後だからもう遅いかもしれないけどそれでも、もう受け取る事は……出来ない」


 自分に損をするなんてのは当然で自業自得だと理解している。けどそれで他の誰かに迷惑が掛かるなんてだめだから。

 だから、私は初期装備に袖を通した。撮られた事もあるし、悪目立ちもするだろうけど……それでもと思う。


「ぁ、ぅ……」


 悲しそうな顔で、両手いっぱいのお洋服を抱き締めている。私も俯いて……でも、小さな声がした。


「……じゃ、ない、です」

「え……? わっ」

「迷惑、なんか、じゃな、いんです!」


 ルルちゃんの、これでもかと言う程に強い言葉と共に、沢山のお洋服が私へと押し付けられる。

 思わず受け取る私は困りながらルルちゃんを見返すと、彼女は唇を噛みながらも私をじっと見つめていた。


「ワ、ワタシ……ワタシ、へっぽ、こだから……もし、アリッサ、お姉さん、に、何か、あっても、力に、なれ、ない、から……っ」

「ルル、ちゃ――」

「ワタシ、今、楽し、いです、色ん、な事、出来て、それ、はアリッサ、お姉さんの、お陰だ、から、だから……役に、立ちた、いん、ですっ! 力に、なり、たい、んですっ!」


 ルルちゃんが喘ぎ、言葉は先細りになっていく。それを継いだのは、ずっと傍で私たちを見守っていたケイちゃんだった。


『出来れば貰ってあげてくれないかな?』

「ケイ、ちゃん……」

『僕はその服を作っているのを見てきた。それはとても楽しそうだったけど、とても大変そうだった。それを沢山君にあげようと思えるのはきっとルルの言う事が本当だからだ。その思いを無下にしないであげて』


 笑顔でそう語るケイちゃんに、私は……ただ項垂れるしか出来なかった。どうすればいいのか迷ってしまったのだ。

 そのまま、無為に時間が過ぎるかと思った矢先、場を動かしたのは……ティファだった。


『くちっ!』


 可愛らしいくしゃみをしたティファは、これ見よがしに二の腕を擦っている。


『あー、冷えますね。まったく、どうにかしたいものです』

『キュ?』

『ちょ、今大事な所なんですから出しゃばっちゃダメじゃないですか!』

『キュ、キュ……キュ……?』


 突然始まった小芝居に、私もルルちゃんも呆気に取られていると、苦笑していたケイちゃんが私が持つお洋服から1着を引き抜いた。


『それは大変だね。そうそう、ルルは僕たちサイズの服を作るのも得意なんだ。丁度ここにティファに似合いそうなコートがあるから着てみたらどうかな?』

『あらそうなのですか。そう言えば以前に服を貰ったと自慢していましたね。どれどれ?』


 背中の羽根用のスリットがあるらしく、何の問題も無くコートを着たティファは機嫌良くくるくると宙を舞っている。


『良いですね、コレがあればポカポカです』

『それは良かったね。さぁ、どうしよう、アリッサがいくらごねてもティファが着る気満々だよ?』

『そうですね、脱ぎたくないです』


 2人の妖精はくすくすと堪えきれない微笑みを称えながら、私たちの周りを回っている。


「え、と……もしかして、だから私がいくら着なくても無意味だ、って言っている?」

『さぁ、どうでしょう? ただまぁ……無茶をするアリッサを諌めるくらいはするかもしれませんね。ホラ、私導きの妖精ですし』


 しれっとそう言うと、他にどんなのがあるのかと私が持つお洋服を漁り始める。

 しばしそれを呆然と見つめていたのだけど、不意に小さな笑い声が聞こえてきた。


「ふっ、ふふ……」


 俯いたルルちゃんは肩を揺らして、お腹を押さえて笑っていた。


「うん、うん…………うん」


 ひとしきり笑うと今度は笑顔でこちらを向いた。


「そうで、すよ。素直、に諦、めてく、ださい。そうだ、ワタ、シ貰って、もら、えるまで、ついて、いっちゃ、います、よ?」


 開き直っていたずらっ子のようにそう語るルルちゃんは私の持つお洋服ごと抱き締める。


「ルルちゃん……」


 長く長く息を吐いた。

 諦めなのか、あるいは安堵なのかは私自身にも分からないけど、どうやら覚悟を決めるしか無いらしかった。


「どうなっても知らないよ」

「あっ、は、はいっ!」


 それはまた、とびきりの輝くような笑顔だとそう思った。



◇◇◇◇◇



 沢山のお洋服をリリウムポシェットに詰め込むと、ティファから質問が飛ぶ。


『着替えないのですか?』

「さすがに外ではね」


 すっかりと失念していたけど、人通りがほぼ無いものの一応は路地なのだ。

 今は淡い色合いの外套を羽織るだけに留めておく。これだけでも初期装備オンリーよりは余程目立たないだろう。


「じゃあ私はこれで。ついてきちゃだめだからね」

「……はい」


 残念そうにルルちゃんは頷く。私と一緒なのはいつも楽しいから、らしい。

 そう言ってもらえて嬉しいけど、今は仕方無い。ルルちゃんの能力以前に今の私と一緒にいるのは色々マズいのだから。

 もし知れたら悪評は装備の比ではないだろう。


「あの、アリッサ、お姉さん」

「うん?」

「その……」


 ギュッと手を握られる。

 さっきまでの笑顔が嘘のように強張って見えた。


「ルルちゃん、どうしたの?」

「あ、や……げ、元気、出して、くださ、い……!」

「え」


 自分の元気を分けるかのように、ルルちゃんはぶんぶんと手を振る。

 何を、と思ったけど思い至る。私はまだ笑えていないらしいと。


「……うん、ありがとう。行ってくるね」

「は、はいっ」


 私からもギュッと握り返すとようやくルルちゃんの笑顔が解れる。それに安堵し、ルルちゃんに別れを告げる。


『ティファも元気でね』

『ええ、ケイも。お世話になりました』

『いいさ。僕はルルの手伝いをしただけだからね』


 ティファとケイちゃんも互いに別れを告げる。とは言え遅くても明後日にはフロムエールに帰るからか軽い感じだ。


『さて、では行きましょうか……って、アレ? ひーちゃんさんはどこですか?』

「さっきティファが出しゃばるななんて言うからそこで落ち込んでいます」

『あちゃ〜……』

『……ュイ……』


 ぐでりと壁に寄り掛かっているひーちゃんを胸に抱き上げ、私たちはその場を後にした。

 見えなくなるまでずっと手を振り続けるルルちゃんとケイちゃんに見送られながら。


『良い方でしたね。ああした星守ばかりなら苦労も無いでしょうに』

「事情は人それぞれだから……さ、時間を大分使っちゃったからなるべく早くこの地区を出よう」


 足の回転を速めて、夜の街の奥へと向かうのだった。


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