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第122話「vsセレナ・アフター」




 場末の安宿の一室。

 セレナと共に部屋を借りた私はどうにか彼女の説得に成功し、この世界(MSO内)に残れる運びとなって、それで――。


「ったくやめてよね。ぴーぴーとみっともないったら」

「そこまではなってません……」


 セレナに分かってもらえたと言う事実に安堵した事に気が緩んだのか涙が零れた。それなりに。

 しかしセレナの反応にバツが悪く文句を言っている。意地があるからかそのままにしていると不意に横合いから声がする。


『だっ、だだだ大丈夫ですかアリッサ』

『キューキュー……』


 話し合いに気を使っていたのか大人しくしていたティファとひーちゃんも、さすがにこの事態には反応せざるを得ないらしく、取り乱しながら私の傍をくるくると回っている。


「だ、大丈夫、大丈夫……ちょっと、ちょっと、その、嬉しかっただけだから……」

「もう、それでも泣いたままじゃ説得力も何も無いでしょうが」

「あう」


 ぐしぐしとセレナが自身の袖で私の顔を脱ぐっていく、のだけど……その手が不意にぴたりと止まった。


「セレナ……? み、見えない……」

「あのさ……ちょっと、無茶言っていい?」

「う、うん……いいけど?」


 元より私の無茶を認めてもらったのだから、逆は不可なんてある訳も無い。頷くとセレナは腕を退けて、神妙な顔でベッドで正座をする。



「ア、アリッサの幼馴染みと……話をさせてほしい」



「いいよー」

「軽っ?! かっ、仮にもリアルの話よ?! そんな簡単にOKすんじゃないわよバカ!!」


 即答したらセレナに叱られた。自分から言い出したくせに。


「だってセレナだもの。それに私、セレナの事はもう幼馴染みに話したりしてるから向こうも構わないと思う……それにセレナが話したいって言ってくれて、その、嬉しいし……」

「い、いやそれは……あああもうっ、ひっ、人が気合いを入れたってのにこのっ、天っ、然っ、はっ!」


 地団駄を踏み始めたセレナ、このままだと話が進まないとシステムメニューを開いて[メール]機能を選択する。

 元からまこと光子への連絡は私の情報端末を介して行う予定だったから特に迷いも無く準備は整う。

 ウィンドウを可視状態に変更すればセレナからもこのウィンドウでの操作が可能なのでそのままウィンドウをセレナの前に移動する。


「はい。メールをこのまま送れば幼馴染みたちに届くよ」

「えっ?! もう!?」


 ようやく復帰したセレナだったけど、ウィンドウを渡すや慌てふためいている。自分から言い出したくせに。


「ああっもうっ! ままよ!」


 そう気合いを入れるとウィンドウをひったくり、部屋の隅に引っ込んでしまった。


「セ、セレナ? どうしたの?」

「ちょっ、来ないでよ! なんか恥ずかしいじゃないの!」

「は、はあ、そうですか……」


 との事でセレナは1人、ウィンドウと向き合う事となった。


(何を聞くつもりなんだろ……あれ。そう言えば今起きてるのどっちかな)


 2人の幼馴染みは交代で休息を取っている予定、時間が時間だけにどちらかは確実に就寝中だと思われる。

 となると心配事が1つ。


(……せめて寝起きのまこでありませんように)


 起床直後のまこの不機嫌さはセレナには刺激が強いかもしれない。下手をすればケンカになってしまうのではと今更ながらにハラハラしてしまう。

 せめて穏便に済みますように、などと祈っていると様子を見ていたティファとひーちゃんが口を開く。


『あの、それで問題があったらしいのは分かったのですが……一体全体どうなったのでしょう?』

『キュ?』


 2人はあくまでこちらの世界の住人だからか、必ずしもすべてを理解出来る訳じゃない。

 私とセレナが何かしら仲違いしている程度の認識であるらしかった。

 私は2人を安心させようと落ち着いた声音で答える。


「うん、丸く収まった……かな。ティファのお陰だよ、ありがとう」

『そ、そうなのですか。ま、まぁあれですよ、私はこれでも導きの妖精な訳です。星守を諭し導くなど当然の仕事な訳ですよ。えっへん』


 そう言いながら小さな胸を張るティファだったけど、1人だけ褒められたのがお気に召さないのかひーちゃんは『キュッキュ』と言いながらむくれている。

 そうこうしているとメールが終わったのか、セレナがウィンドウをこちらに寄越す。


「……ありがと……」

「う、うん。あの、どうしたの? なんだか……顔、赤いよ?」


 のみならず、どこか恥ずかしそうにしている。


「そ、その……ア、アリッサの体がホントに大丈夫なのか確かめたくて、それで面倒見てるって人に聞こうって、思ったんだけど……」


 やはり様子がおかしい。

 ……ハッ。まさか予想に違わず寝起きのまこにぶち当たってしまったのか、あるいは空気を読まない光子が余計な事でも言ったのか……思い当たる事が1つや2つでないものだから、私は慌てて弁明する。


「な、何か変な事言われた?! わ、悪い子たちじゃないんだけどっ、その、ちょっと変わった所があって――!」

「い、いや、ちゃんと面倒は見てて……思ったよりは大丈夫そうってのは分かったんだけど……」


 ?

 それならどうしてこんな風になるのだろうと首を傾げていたのだけど……。


「あ、ああー……覚悟の程は、うん、伝わったから。その、オ――」



「――オ……ゴニョゴニョ……の、事とか」



「っ!!」


 ボワッ! 一気に顔が赤熱する。

 意識が無い状態であろうと人体は新陳代謝を行っている。であれば当然生理現象も発生する訳で、長時間を経過すれば自然と……排泄されてしまうアレコレに対処する為に、現実の私は成人用の……その、アレを……履いていて……。


「……どっち……」

「へ?」

「そんな事を教えたのはどっちかって聞いてるのっ!! 早く教えなさいいいいっ!!」

「ア、アリッサが壊れたーっ!?」


 ちなみにまこでした。

 覚えてろ。



◇◇◇◇◇



「で、」


 諸々の件が(強制的に)一段落を迎え、私は(、、)セレナを(、、、、)ベッドに押し込めていた。

 当のセレナは至極不満そうにこちらをジト目で睨んでいる。


「なんでこうなんのよ」

「なんでって……もう夜も遅いからに決まっているじゃない。早くログアウトしなさい」


 私はこのままゲーム内に残る。それは計画されていた事で、セレナも認めた事だ。

 しかし、現在は既に日を跨いでいて今日も平日である事を考えれば、日常生活を送るセレナは早くログアウトして休むべきだ。

 そう語ると、セレナは殊更顔を歪める。


「納得いかない」

「私の行動には納得したんじゃなかったの?」

「そっちじゃないわよ。だって言ったでしょ、混ぜろって! アンタの幼馴染みは絶賛夜更かししながらアンタの面倒見てるのに、なんで私は参加出来ないのよ!」


 などと言って起き上がろうとするセレナをどうにかベッドに戻すとため息と共に聞いてみる。


「なんで、って言われても……じゃあセレナはどう参加するつもりなの?」

「そりゃ、こっちの面倒事を腕力で解決、的な……」

「今は深夜だもの、動きがあるとは思えない。それに私だって睡眠度回復の為に寝るんだから、セレナはログアウトして現実で寝て」


 正論でそう諭すとセレナはへの字口に早変わり、余程仲間外れになるのが嫌らしい。


「じゃあ朝一でログインする……」

「それも却下。ただでさえもう遅いんだからぐっすり眠らなきゃ。だとしたら学校に行くまでにそんな事している余裕なんか無いでしょう」

「なら学校休みゃいいんでしょ? 文句なんか言わせないわよ、アンタも幼馴染みーズも学校休むって事なんだから!」


 確かに、私は学校をずる休み(体調不良ではあるけど、ゲーム三昧な時点でずる休みもいい所だ)しているし、幼馴染みの2人にも体の面倒を見てほしいからと巻き込んでいる。

 そうと言われれば文句も言えない……なんて、そんな事は無いのだ。

 ――ずびし。

 私はセレナの脳天にチョップをかましてみた。


「痛いじゃない」

「ばかな事を言うからです」


 本音では痛みなんてまともに無いだろうけど、こちらを睨んでいるセレナに私もまた睨み返していた。


「私がログアウトせずに徹夜をするのはしょうがない事です。それがこの策の肝だから」


「幼馴染み2人が交互にとは言え、昼夜を問わず私の体の面倒を見てくれるのもしょうがない事。セバスチャンさんみたいな人に対する手札だし、元々の体調不良が悪化すれば強制ログアウトさせられる危険があるから」


「でもセレナは違う」


「力を貸してくれると言うのは果てしなく頼もしいし、単純に嬉しいよ。けど、それが必須じゃないのなら、私はセレナにちゃんと休んでほしいし、ちゃんと学校に言ってほしい。だってこれは間違ったやり方で、悪い事なんだから」


 そうだ。だからこそこうしていれば止めに来る。セバスチャンさんやセレナがそうであったように、きっと花菜もそう思う。

 私は敢えてこの道を選んだけど、混ざらないならそれに越した事は無い。


「……だから混ぜろってのに」


 腕で目を隠し、ため息と共にそう呟いたセレナはその腕で私の首を抱え込む。

 近付けられた顔には不承不承と言う色が濃くて、私をこれでもかと睨んでいるけど、それでも納得はしている気がした。


「なんかあったら、メール寄越しなさいよね。学校だろうとどこだろうとぶっちぎって飛んで来るから」

「なら報せられないね」


 そう言うとあからさまに苦々しい表情を作るとこれ見よがしに舌を出す。


「ったく、こんな真似して少しは吹っ切れたかと思ったのに、相変わらず変な所で真面目なのはそのままじゃない」


 「らしいけど」と続けるとウィンドウを操作し始める。ベッドで寝る事を選択すれば次はログアウト操作。それが無事完了したらしくセレナの体は徐々に光の粒に隠されていく。


「ティファ、ひーちゃん。この堅物の面倒は任せたからね」

『なんだかよく分かりませんが、ええはい、面倒を見ろと言われたならばもちろんではないですか。任されましょう』

『キュイッキュ!』


 ちょん、と胸を叩くティファと、ここぞと気合いを入れて燃え上がるひーちゃんを満足げに見たセレナは、最後に視線を戻すと右手をピストルの形にしてこちらに向ける。


「私が戻るまで負けんじゃないわよ」

「早く終わるように祈ってる、とかじゃないんだ」

「そう簡単に済むなら苦労しないわ、でしょ? だから緊張感を無くさないようにしなさい――、――――」


 セレナはピストル形にしていた手を少しだけ上にずらす。


「ばーんっ、かな」


 途中から声が途切れたけど、私への意趣返しにきっとそう言っていたのだろう。


「……了解」


 セレナは完全に光と共に消えた。そこで寝ていたとシーツのよれだけが示すベッドに向けて、私は不格好な敬礼をして送り出したのだった。



◇◇◇◇◇



「じゃあ私は休むけど……2人はどうする?」


 セレナが去り、宿の一室に残された私とティファ、ひーちゃんは顔を付き合わせていた。


『決まっているではないですか! セレナさんに面倒を見ろと頼まれましたからね、これはもう寝転けている貴女を見守る以外に何をしろと言うのですか! そうは思いませんかひーちゃんさん!』

『キュッ、キュキュキュッ!』


 2人はセレナの去り際のセリフが余程効いたらしく、先程から興奮した様子なのです。

 これはもう何を言っても聞きはしないと、私はすぐさまベッドに横になった。

 視界内に表示されている睡眠度は既に限界に近い、遠からず警告の寝落ち状態が発生するだろうレベル。

 その前にベッドで宿泊状態となり睡眠度の回復を行うのは必須だった。


「ティファ、ひーちゃん、おやすみなさい。私が寝たら2人も休んでいいから」

『ええおやすみなさいアリッサ。ああそうです、子守唄でも歌って差し上げましょうか? これでも歌声には少々ならずと自信があるのですよ。けふんけふん、ラララ〜♪』

『キュキュキュ〜♪』

『あら、素敵な歌声……ひーちゃんさんにはバックコーラスをお願いしましょうそうしましょう』


 特に意味は無いのだけど、張り切っているし折角の好意を無為にするのも悪いかとお願いする事にした。



 ポーン。


『【就寝】

 [蜥蜴の尻尾亭での宿泊]

 就寝しますか?

 [Yes][No]』


『【就寝】

 [蜥蜴の尻尾亭での宿泊]

 ログアウトしますか?

 [Yes][No]』



 ベッドなどに横になると自動的に立ち上がるウィンドウ、それにセレナとは少し異なる操作を行う。


 つまりは、ログアウトしない。


 今の私にはこの選択しか無い……ただし、気掛かりがある。

 就寝中はPCの体は一切動かせなくなる。指1本すらも、瞼を開く事すらも。

 出来る事は2つ、目を覚ますか否かの選択ウィンドウ、それを視線で選択する事と、視界内に常時表示されている睡眠度が全快するまでのカウントダウンを見る事のみ。

 私は数時間、ただ何をするでもなくそれらを眺めながら過ごすのだ。


(知ってる。最初から知ってるもの)


 睡眠度の回復中でもログアウトをしないと言う選択肢はそれこそプレイ初日から知っている。


(もうずいぶん昔に思えるけど、あの時はベッドからログアウトしようとして、ついログアウトしない操作をしちゃって慌てたっけ……)


 だから、ログインし続ける選択をした時点で覚悟はしているつもりで、後は私自身がそれをどう感じるかだけ。

 こればかりは実際にしてみなければ分からない所だった。


(まさか自分からこの選択をする日が来るなんて、あの頃は思ってもいなかったな……)


 当たり前と言えば当たり前なのだけど、今の私はずいぶんと変わったと自嘲しつつも、花菜の為にそこまで動く自分を誇らしく思っていた。


(大丈夫、耐えてみせる。この先に花菜がいると思えば、きっと――)



◇◇◇◇◇



(……)


 私は予定通り、ただひたすらに時が過ぎるのを待っていた。

 睡眠度が全快するまでの数時間に及ぶカウントダウンが1秒、また1秒と減っていくのをただただ眺めると言うのはやはり辛く、いっそ苦行めいている。

 そんな中で、私は思わぬ助けを得ていた。


(もう、いつまで歌ってくれるつもりなんだか……)


 視界が塞がれても、体が動かなくても、ティファとひーちゃんの歌がいつまでもいつまでも、この耳に届いていたのだ。



 ――ルルリララ、ルルリララ(キュ〜、キュ〜)♪


 ――夜は怖くて寂しくて、けど夜空にはほら星がいる、見上げればほらあんなに輝いている♪


 ――ルルリララ、ルルリララ(キュ〜、キュ〜)♪


 だから安らかにおやすみなさい可愛いあなた♪


 ――ルルリララ、ルルリララ(キュ〜、キュ〜)♪


 ――あなたはいつでも1人じゃない、どこでもいつでもいつまでも、この空の下にいるのだから♪


 ――ルルリララ、ルルリララ、ルルリララ……(キュ〜、キュ〜、キュ〜……)♪



 いっそ心配になってしまうくらいにずっと2人は歌い続けていた。

 それでも心には不思議と焦りや不安は無くて、ただ心地よさばかりが湧いてくる。

 それこそ微睡みに落ちるのじゃないかと思えるくらい、2人の歌は素敵でいつまでだって聞いていられた。

 そして……思っていたよりもずっと早く、カウントダウンが0へと到達する。



 ――そして、運命の1日が幕を開けた。


 すみません、短めです。

 本当なら121話と地続きだったのですけど、あの場面で終わりたかったのと思ったよりも長くなってしまったので2分割しました。

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