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第111話「必要とされる喜び……?」




「ありゃあ毎年ウチの店の軒先に吊るしてる飾り物のガイコツの模型なんだ!」


 えっちらおっちらと私たちについてくるおじさんは息急き切らせながら必死にそう語る。


「元は悪霊避けの為に作った物だったんだがいきなり動き出してっちまった! 最近はガキ共に笑われて不満だったのかもしらん!」


 との事で、このままでは子供たちに危害を加えてしまうかもしれないと危惧し、どうにか止めてほしいと頼んできた。


「だそうだよ!」

『ハイハイ、なるほどね。ったく仕返ししたい気持ちってのは分かるけどさっ!』


 パーティーチャットで先行するセレナに事情を説明した私は後方にいる天丼くんに視線を戻す。


『何をのんびりしているんですかっ! 早くしてくださいっ!』

『キュイキュイッ!』

「『だあっ! こちとらお前らみたく体が小っさくないんだよ!』」

「ひいひい! こ、こんな事なら女房に言われた通りに痩せときゃよかったっ!」


 そこでは恰幅のいいおじさんとパーティー随一の体格を持つ天丼くんが鎧を脱いだと言うのに細い路地で中々進めないのでティファと路地を抜ける為に南瓜を脱いだひーちゃんが声援(?)を送っていた。


「『アリッサ先行け!』」

「う、うえっ?!」


 路地を抜けた先で足踏みをしながら待っている私にそう告げる天丼くん。しかし、その先に待つ相手が相手であるだけにどうにも気が引けてしまっていた。


「『あのバカを1人にするな!』」

『誰がバカよこのバカ!』

「り、了解……っ」


 それを言われては弱い。セレナは既に更に先に進んでしまっている。そこは同様に細い、追うなら天丼くんは同じように時間を取られるだろう。

 これ以上遅れてはいけないと、私は肺から息を出す、弱気も一緒に出ていくように。


「ひーちゃんは私と! ティファ、天丼くんの道案内をお願い!」

『もうっ、面倒ですねっ!』

『キュー!』


 天丼くんを置き去りにして私は走る。リリウム・ローブは柔らかく路地が狭かろうとお構い無しに進んで行ける。

 そして幾度目かの路地に入ったその瞬間――ガンッ! 響いたのは何かがぶつかるような硬い音。それが連続して続いている。


「セレナ!?」

「『下がってなさい! 巻き込まれたくなきゃね!』」

『カタカタカタカタカターッ!!』

「ひうっ?!」


 建物と建物の隙間、猫の額程の空間がそこにあった。セレナの言うように迂闊に近付けば軽快に建物の外壁を跳び回るセレナかガイコツにぶつかるのは容易いに違いない。


「『っ、面倒臭いヤツ……!』」


 パーティーでも抜きん出た瞬発力を持つセレナに負けず劣らずのスピードで外壁から外壁へと跳躍するガイコツにセレナが苛立ち混じりの声を漏らす。

 見ればガイコツはまるで糸に吊られたマリオネットででもあるかのように不規則な動きで以てセレナを翻弄しているのだ。

 けどモンスターと言えどこのイベント専用のそれは必ずしも戦闘しなければならない相手ではない。

 あのガイコツもHPゲージなどは見当たらない辺り、捕獲しなければいけない相手であるらしく、攻撃で倒せないのでセレナはひたすら苛立ちが募っている様子。


「セレナ! 今〈ウィンドステップ〉を掛けるから、タイミングを合わせて!」

「『お願い!』」


 〈ウィンドステップ〉は移動速度を上昇する効果がある。今は拮抗しているようだけど、それで均衡は崩れる筈だ。


「ひーちゃん、セレナが少し立ち止まらなきゃいけないの。その時にあのガイコツが逃げちゃったりしないように少しの間足止めをお願い出来る?」

『キュイッ!』


 やる気満面のひーちゃんがガイコツへと向けて飛んでいく。

 ひーちゃんは最近レベルと共にスピードが徐々に上がっている、セレナ程ではないけど退路を断つだけなら持たせられる筈。


「3コールで行くよセレナ、ひーちゃん!」

「『しゃあっ!』」

『キュッ!』

「3・2・1、リリース!」


 その声とほぼ同時にセレナが忙しなく動かしていた足を止める、ひーちゃんは言い付けに則って上空や出入口となっている路地を中心に行く手を塞ぎ、ガイコツが近付こうものなら赤々と燃えて威嚇している。


「『これでっ!』」


 緑色の光をまとったセレナが壁を蹴って後を追う。ガイコツは縦横無尽に動き回り、あるいは跳び回っているものの、スピードを増したセレナが徐々にその距離を詰めていく。


「セレナ! ガイコツの動きを一瞬でいいから止めて! 〈プロテクション〉で閉じ込めるから!」

「『OK任せて!』」


 そう答え、更に追撃を続けるセレナ。

 その間にスペル詠唱を終えて待機状態にし、いつでもリリース可能な体勢とする。


「そ、こおっ!」

『ガガッ?!』

「『だぁぁぁぁっ、らっしゃああっっ!!』」


 とうとうガイコツを間近にまで追い詰めたセレナは、直下にいるガイコツ目掛けてさながらミサイルのように跳び蹴りを炸裂させた!


 ――ッ、ズドンッ!!


 一瞬両者が空中で静止し、次の瞬間には猛烈な勢いでガイコツが急降下を始めた!


「っ?!」


 瞬く間に迫るガイコツは脊髄を嫌な角度に曲げて苦悶の声(?)と共に程無く壮絶な爆音と共に地面に激突する!


「『アリッサ!』」

「リ、リリーースッ!」


 その隙を逃さぬよう杖の先から飛び立った紺色の光がガイコツ目掛けて飛んで無事に命中する。

 〈プロテクション〉により形成される光のドーム、これでガイコツが動き回るのは封じられた。


「『よっしゃあっ! ざまあみろってのよ!』」

「ちょ、セレナ?!」


 わずかに遅れてセレナが落ちてくる。PCには作用しないドームをするりと抜け、重力に身を任せ自由落下してズダンッと地面に舞い降りた。


「『っ、〜〜〜〜っ』」


 さしものセレナでも相応の高さからの落下では衝撃が走るのだろう、しばしぶるぶると身を震わせていた。


「セレナッ、もうっ! 心配させるような降り方はしないでよっ!」

「『仕方無いでしょ! 空中で制動するようなスキルも加護も持ち合わせが無いんだから!』」

「ゆっくり降りてきてよ!」

「『めんどくさい!』」


 豪語するセレナに呆れだか感心だかを向けつつ、〈プロテクション〉に閉じ込められたガイコツを見る。

 セレナの攻撃で地面に伏していたガイコツだけど再び起き上がり、〈プロテクション〉の光の壁をがんがんと叩いている。

 しかし、一定のダメージで破砕される〈プロテクション〉にはヒビの1つも無い。

 リリウム装備無しの私でこうなのだから、やはりこのガイコツにはオーブン同様に攻撃能力は無いみたい。


「『よ、ようやく辿り着いた……』」

『もう! どれだけのろまなんですか貴方は』


 路地の狭さに四苦八苦していた天丼くんと、道案内を頼んでいたティファ、そして私たちにクエストを頼んだおじさんがやっと合流した。

 そうした3人が目にしたのは〈プロテクション〉に捕らわれたガイコツ。


「『で、出番が無かった』」

「『ったくもう役立たずよねー♪』」


 ガックリと肩を落とす天丼くんと、それを見るや対照的にスッキリと肩を弾ませるセレナなのだった。



◇◇◇◇◇



「さってと、それでコイツどうすりゃいいのかしらね」


 私たちは今もカタカタと不気味に動くガイコツを見ていた。

 〈プロテクション〉で完全に閉じ込められたとは言え、こちらの攻撃も効かないらしく、セレナの跳び蹴りにもめげずに光の壁を叩き続けている。


「HPゲージも無いから倒すって事も出来ないしな……とすると、やっぱ未練を断ち切るのが条件か?」

「未練、ね……」


 基本的に悪霊が取り憑くのは何かしら未練を持っているからだ。人・物問わず取り憑かれるとその未練を解消しようと動き出す。

 また使ってほしい、汚れているのが許せない……悪霊はそんな未練を方法を問わずに実行させてしまい、結果として被害が出る。

 止めようと思えば穏便な手段で未練を解消するのが最善なのだ。


 セレナはおじさんに向き直ると改めて事情を聞く。


「確か、コイツは元々悪霊を退ける為の飾り物、だったのよね?」

「おおそうだ。南瓜と同じ悪霊避けさぁ。だのにガキ共め、可愛くないだの変だの役立たずだのと弄りくさりおってからに」


 ぷんすかと分かりやすく怒るおじさん。

 現在行われているハロウィンでは街に悪霊などが入り込む。その悪霊に、ここにはもう他の悪霊がいるぞ、と誤認させるのが南瓜やガイコツなどの飾りの役割だそうな。

 ただ、役目を果たしていたとしても結果は何も起きないと言う事だから子供たちからすれば役に立ったか分からないと言うのは弄るネタなのだろう。

 話を聞く限りはそれで自信を無くしたか、いえ自分が役に立つと証明したかったのかも。


「……なら、丁度いいかな」


 空を仰ぐと木々の隙間から青い空が覗いている。丁度こちらの世界では朝になった所だった。

 これなら子供たちも起きてきている筈。


「何かいい考えでも浮かんだのか?」

「うん。上手くいくかは分からないし、騙すみたいで気が引けるんだけどね」


 そう言いながら、私は傍らに漂うひーちゃんに視線を向けた。



◇◇◇◇◇



 あれから私たちはおじさんのお店の傍に移動して様子を窺っていた。

 路地裏にぽつんと佇むそこはPCなど滅多に訪れもしなさそうな、さながら子供たちの憩いの場。ハロウィンと言う事もあり賑やかさは一等だ。

 何人かの子供たちが無くなったガイコツを訝しんだり、笑って囃し立ててもいて、お店に戻ったおじさんが文句を垂れながらも応対している。


「ホントにこんなんで上手くいくのかしら?」

「そこはあれだよ、細工は流々仕上げを御覧じろ?」


 あまり今回の作戦を信用していないらしいセレナの気持ちはそれなりに分かる。だってこんなのは文字通りただの子供騙しでしかないのだもの。


「じゃあひーちゃん、がんばって」

『キューイ……』

「まったく今日は大活躍だよな」


 不承不承と言った呈のひーちゃんがふわふわと浮き上がり、お店へと向かっていく。


 マーサさんお手製の南瓜を被りながら。


 やがて子供の1人がそれに気付く、最初は首を傾げるばかりだったものが次第に驚きに変わり、おののきへと転ずる。

 明滅を繰り返しながら鳴く姿に気付く人数が増え、いつしか大騒ぎになっていく。


「やっぱガキねー、あんなんで騒いじゃってさ」

「……ノーコメントで」


 南瓜などは元々悪霊避けとして飾られる。つまりは南瓜は悪霊(、、、、、)かもしれない(、、、、、、)のだ。

 南瓜を被った人は見慣れていても、宙に浮かびながら明滅する南瓜なんてさすがに見た事も無いんだろう。誰も彼もが本物の悪霊が出たとパニックの一歩手前と言った様子だ。


「頃合いだね、キャンセル」


 そうして舞台は正念場に突入する、なら主役に出番だと告げねばと傍らにある光の鎖を消し去った。

 そこに縫い止められていた白いガイコツがカタカタと動き始め、そしてその顔が自身が飾られていたお店へと向けられる。


「ほら行け、出番だぜ」


 天丼くんに促されたからでもないだろうけどガイコツが動き出す。でも、どうしたのか先程のセレナとの戦闘からは見る影も無い動きだった。


「お前が痛め付けるから」

「うっさい」


 2人のやり取りは子供たちがガイコツの存在に気付いた所で止まった。

 新手かと怯える子供たちには目もくれずに空飛ぶ南瓜へと向かっていく。ガイコツはやたらめったらと腕を振り回す。

 ポカポカと大した威力も無さそうなパンチを何度も放つ。だが、空飛ぶ南瓜は盛大なダメージを受けたかのように明滅を激しくし、やがてふらふらと逃げ去っていく。

 残されたのは子供たちとガイコツ、そしておじさん。

 ガイコツは威嚇するように空飛ぶ南瓜を睨んでいたけど、見えなくなるとやがてその動きを停止した。

 そして力無くガシャリと地面に崩れ落ちた。黒い靄が出るものの、おじさんがその恰幅のいい体と大仰な仕草で誤魔化している。


「おお! なんてこった! どこに行ったかと思えばコイツめ! ガキ共を守ろうとしていやがった!」


 悪霊も消え去り、完全に元の飾り物へと戻ったガイコツを抱き上げるとまるでミュージカルのように踊って、怯えて遠巻きに見ていた子供たちにガイコツの勇姿を語っていく。


「おお、俺の店の納屋がねぐらのガイコツよ! ガキ共を脅かす南瓜もお前にかかりゃあイチコロだ! 大したもんだぜコンチクショウ!」


「何やってんだか」

「いいじゃねぇの、ガキ共もはしゃいでんだ」


 言った通り、自分たちを守ってくれたガイコツに対して子供たちはやんややんやと称賛の嵐。その内胴上げでも始めてしまいそうな勢いだ。


『キューイ……』

「お疲れさま、ひーちゃん」


 子供たちに見つからないように迂回して合流を果たしたひーちゃんは疲れたと言わんばかりに南瓜から抜け出して私に擦り寄ってくる。

 それに感謝の気持ちをこめられるだけこめて抱き締める。

 さてさて、おじさんからクエスト報酬を貰うには子供たちが落ち着かないとどうしようも無いのだけど、果たしていつになるのやら……。



◇◇◇◇◇



「それで、これはどう言う事なのかな。街中でクエストが発生するのは聞いていたけど……」

「ま、スターターを妖精は見つけられる、って話だと思うわよ」


 ふいっとティファを見るセレナは若干眉を上げてそう言う。


『そこここに妙な気配はありますよ。私がどうこうではなくあなた方が鈍いだけでは?』

「言うわねアンタ」


 こめかみをひくつかせながらセレナはティファと細い火花を散らせている。


「ま、これで今回のイベントに妖精まで駆り出された理由も分かったか」

「それじゃ利用する為みたいで複雑だけど……一緒にいられるならいっか」


 ティファはひーちゃんに腰掛ける。以前私もした事がある、落ちかけたけど飛べるティファなら問題は無いだろう。


「さて、じゃあこれからどうしようか」


 ティファがクエストを発見出来る事は分かったものの、こうして時間を掛けずに済ませられる反面、どれくらいの難易度であるかは分からない。


「そうだな……ユニオンでクエスト探すのは難易度は分かるが時間掛かるしな……歩いて見つけられるってなら使えるかどうか何度か試してみりゃいいんじゃねぇか?」

「それでいいんじゃない? セバスチャンならそう時間を掛けないで戻るでしょうし、ユニオンかティファか本格的にどっちにするかは意見聞いてからでもいいっしょ」


 との事で私たちはアラスタを歩いて回る事となった……それを後悔するのは少し後の話。



◇◇◇◇◇



「すいません! ちょっといいスか?」


 ……まただ。


「は、はい?」


 私は疲れを隠しきれぬまま振り向いた。そこには数人のPCが和気あいあいと立っていた。


「その子妖精だよね! ちょっとクエスト請けさせてもらえるかな?」


 私は少し困りながらもティファに取り次ぐ。ティファは疲れた様子も無く応対してクエストを発生させている。


「あざっす!」


 軽く手を上げ、それだけを言って去っていく。


「ふう……」


 私は少し長いため息を吐いた。先程から街を歩いていると今のように何度も話し掛けられた。

 どうも妖精さんたちの情報がオフィシャルイベント用の掲示板に投稿されたらしく、それを見た人たちがティファを見つけては自分も妖精さんと会おうとクエストを申し込みに来るのだ。

 まあ、それだけならまだ良かった。私たち以外にも妖精さんと再会出来るならそれは素直に喜ばしいし、今は大変でも連れている人が増えればいずれはこちらの負担も減る。

 ……ただ、疲れる要因はそれだけではなかった。


「すいません、フォト1枚いいですか?」


 まだ妖精さんと一緒にいるのが珍しいからか、頻繁にティファを撮影したいと申し出る人がいる。

 それに加え、何故か私と一緒にとよく言われていた。


「えっと……それは」


 少し戸惑う。先程のルルちゃんのお店の前での出来事は宣伝も含めての事だ。

 自身のフォトが見ず知らずの誰かの手に渡ると言う事に躊躇いが残っている。


「……い、1枚だけなら」


 でも私は許可を出す。

 ただ、後半になる程声は掠れてボリュームを下げてしまうのだけど、これは慣れの為の修行だ。

 人目に慣れなければならない。好奇の視線にも、注目を浴びても動じぬように、いつでも笑顔でいられるようになろう……あの子の為に。その為ならとがんばってしまう私だ。


「撮りまーす」

「は、はい……」


 カシャリと大きめの音が響く。自覚はある、今の私の顔はあまり良くは無い。

 以前隠し撮りされた経緯と、私の脆弱なメンタルを考えればこうして撮らせる事自体は格段の進歩ではある。

 けど、まだまだ顔の筋肉は無駄に固く、錆の浮いたスプリングの方が音を出してくれているだけマシかもしれないとすら思う。


「ありがとうございましたー」


 にこやかに去っていくPCに小さく手を振ってお別れする。


「……疲れるう……」

『ふぅう。まったく、妖精使いが荒いですね』


 振り返った途端に出るのはそんな言葉と、またため息だった。


「お疲れ。にしても、やっぱ呼び止められる頻度が高いな……」


 難しそうな顔をしている天丼くんが見るのは先程のPCの去った方向。

 既に人ゴミに紛れているけど、天丼くんはその人ゴミこそを見ているのかもしれない。


「ごめんね……」


 ティファ目当てで話し掛けられる回数は徐々に上がっていた。そうなれば悪霊探しの速度も落ちるのは当然だ。

 せっかくのオフィシャルイベントを私の都合で潰してしまう事に罪悪感が浮かばない筈も無い。


「そう言うのはいいのよ。人間必要とされる内が花ってね」


 強い声でそう語るのは、私のフォトを求める声が増えたので隠し撮り対策にと周囲を見張っているセレナだった。


「なんだよ、今日はずいぶんと寛容だな。お前なら出来の悪い番犬よろしく寄り付く傍から吠えて回るかとひやひやしてたってのに」

「んな事するワケ無いでしょ……アリッサから事情は聞いてるんだから。相変わらず理由がシスコンってたけど……」


 悪かったですね。


「だから分かるのよ。前からアリッサはその事(、、、)に関してだけは融通なんて利かせないんだから。だったら私に出来るのは無茶しないように見張って、背中を押すくらいしか無いじゃない」

「セレナ〜」


 《古式法術》取得時の、情けなくも頑なな姿を見て、それでも力を貸し続けてくれている彼女の優しい言葉に、どうにも少し涙ぐんでしまった。


「フッ、どって事無いわ」

「かっこつけてんなー」

「ま、それにアレよ。この展開ももう終わりでしょ」

「まぁ、減らしは出来るよな」


 先程セバスチャンさんからメールが来た。無事にクレイアさんと再会出来たそうでこちらと合流する予定だ。

 現在はセバスチャンさんと別れているからこそ街を歩き回る事になり、結果話し掛けられる回数が増加していた。

 セバスチャンさんと合流して本格的にクエストを始めれば一定の場所で忙しくもなり、そうしていればむやみやたらと話し掛けられる事も減ると思う。


「さ、いい加減捕まらないように行きましょ。さすがにこれ以上はイベントの邪魔だもんね」

「え、あ、うん」


 ぐいっと手を引かれて歩き出す。

 オレンジと黒に彩られた街を歩くのはどうにも非日常感に酔いそうだった。


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