第109話「小さな貴女を探してる」
普段は妖精の里・フロムエール以外では姿を見る事の叶わない彼女ら、なのにどうしてか王都で見掛けた(多分)。
セバスチャンさん曰く、本来のハロウィンでは妖精さんもこの世に訪れるらしい。それに関連付けた何かしらのイベントではないか、との事。
それなら私だってティファと一緒にいたい! その想いから情報を探す事になった私たち。
とは言え、元々導きの妖精と会えるシークレットクエストをこなした人が少なく、情報もまた少ない。
「だったら直接行ってみよう」
とまあ、そうなるのは当然の帰結だった。
特別なアイテム・星刻鳥の羽があればフロムエールまで行ける。そこでは妖精さんに直接会えるのだし、情報を集めるにはまず行っておかないと。
ただ問題は、フロムエールに行けるのは私とルルちゃんだけな所。
「私たちは私たちで情報収集しておくからそっちもしっかり頼むわよ」
「了解。なるべく早くどうにかなればいいんだけど……」
一旦セレナ・天丼くん・セバスチャンさんと別れて、私とルルちゃん、ひーちゃんはフロムエールへとポータル転移した。
◇◇◇◇◇
フロムエールはかなり殺風景なライフタウンだ。
建築物などは周囲を囲む木製の壁だけで、中には太く高い木々があるばかり。
妖精さんたちはその木々の上に家を建てているそうだけど、私たちPCには中々に手の届かない場所だった。
だから用があるなら向こうから降りてきてもらう方が早い。件の星刻鳥の羽を実体化すると眩い光を放って個々の妖精さんたちに私たちが来た事を報せる……のだけども。
「……光らないね」
「ふえ、え……」
『キューイ、キューイ?』
そう、光らない。
以前は星刻鳥の羽を実体化させれば光を放ち、程無く2人の妖精さんが降りてきてくれたのに。
この羽が1回こっきりしか使えない、と言う訳じゃない。
私はルルちゃんと出会った時の1回しか来ていないけど、ルルちゃんはあれからも何回かケイちゃんにお洋服を渡しに訪れているそう。
その度に星刻鳥の羽を用いていると言うのだから、どうやら今回が特別らしい。
「う〜ん……よくよく見れば、前よりも妖精さんたちの数が減ってるし……もしかして留守なのかなあ?」
木々の上では妖精さんたちが家を作り住んでいる(らしい)。そしてその間をほのかに光を放ちながら飛び交うのだけど、それが目に見えて少なかった。
明らかな変化、今回だけの変化。
「だとしたらやっぱりあの時に見たのは……妖精さんだったのかな?」
『キュー……』
「ああ、もうちょっと待っててね」
ひーちゃんは最初こそはしゃいでいたけど、何も無いので退屈そうだった。
(上の様子を見てもらおうにもひーちゃんは喋れないし、ティファたちとも面識が無いんだよね……なら……)
「うう、う、ケイちゃん、どこ、行っちゃ、ったの、かなあ……」
先程までのウキウキワクワクから一転、寂しそうにしているルルちゃんを見過ごせず、私は頭上を仰ぎ見る。
「高い……けど、やってみようか」
「アリッサ、お姉さん……?」
頭に疑問符を浮かべるルルちゃんに笑顔で「ちょっと待ってて」と答え、周囲を見て誰も近くにいないのを確認する。
「〈ダブル・レイヤー〉、“汝、虹のミスタリアの名の下に我は乞う”“我が意のままに形を成し、魔を討つ嵐の一欠を、この手の許に導きたまえ”。“其は、天へと駆け上がる螺旋”“風を集わせ、掛け合わせ、我を彼方へと誘いたまえ”。“吹け、嵐の浮揚”。〈マルチロック〉、リリース」
緑色の星法陣が足下に描かれ、《嵐属性法術》のビギナーズスキル〈ストームレビテイション〉が発動し、瞬間私たちの体が光に包まれる。
「ふっ、ふわー、ふわわー?!」
やがて体の周りの光からひゅうひゅうと細く風が吹き始め、重力が失せたようにふわりと体が浮かび上がる。
突然の事態に混乱するルルちゃんの手を握る。
「落ち着いてルルちゃん。これで上まで行けるから」
「え、え、ええ〜?!」
「大丈夫、人もいないし……私と同じように唱えてね。ひーちゃん、行こう」
『キュイッキュ』
巨大な風の玉はステラ言語で指示を出せば上下でも前後左右でもその通りにゆっくりとだけど移動していく。
移動する距離分MPは消費されていくけど、戦闘でもするならいざ知らず今なら不自由も無い。
(これ、周りに人がいると使いたくなかったんだよねー)
普段のリリウムローブだと、割とスカートが大胆に開いているものだから下から覗かれては一大事なのだ(システム的に見られる事は無くても精神的には大ダメージですので)。
幸いにして今は人もおらず、もしいても今はルルちゃん作ハロウィン装備のバルーンスカート、端がすぼまっているので足さえ閉じれば問題無い、ルルちゃんの方もパンツだから大丈夫。
ふわふわとそれなりの時間を掛けて上昇を続けていくと、やがて木々の枝葉の部分へと辿り着く。
「わ、小っちゃ、いお家ー」
そこには私が小さい頃に持っていたお人形のお家を思い出させる妖精さんたちのお家らしいログハウスが建ち並んでいる。
ルルちゃんがキラキラと瞳を輝かせ、私もまた昔を思い出しその可愛らしいお家を見つめていた。
(リタちゃんのお家だったけど、近所の子にあげちゃったんだよね……どうしたかなあ)
幼い頃の思い出を回想しながら、徐々に近付く光景の中に光が横切る。
「あ、あのっ、すみませんっ! 少しいいですかっ?」
その光に届くように声をあげる。すると光は停止し、こちらに近寄ってくる。
「お、誰? 誰? 誰?」
(わ、男の子だ……初めて見た)
一応お爺さんがいるとは聞いていたけど、女の子の妖精さんとしか会った事がなかったので少し驚く。
『キューッ!』
「わわっ、ひーちゃん、めっ!」
『精霊だ、珍しい』
興味津々なひーちゃんが男の子の周りをぐるぐると回っているのでそれを制して挨拶をする。
「あの、私はアリッサと言います。こちらの里のティファ・ティアンノさんとケイ……えと」
「ケ、ケイ・クレイナ、です」
「って言う女の子たちはいらっしゃいますか?」
「ああ、2人の知り合いなんだ。でも今はいないよ。ハロウィンでは俺たち妖精は他の街に遊びに行ける事になっているから大概どこかの街へ遊びに出掛けるんだ」
「どこか……ですか?」
「生憎と聞いてない、悪いね。でも……もしかして君は羽を渡されていないかな?」
「羽、もしかして星刻鳥の羽? これがどう……あ、まさか」
そう言われて羽の効果を思い出す。
「そうさ。それは彼女に合図を送る為の物だよ」
「……ここで使って光らなかったのはティファがいなかったから……?」
そうだ、初めて星刻鳥の羽を実体化させたのはアラスタの自室だった。その時は光る事は無く、ティファのいたこのフロムエールで初めて光を放ったのだ。
「なら、ティファのいるライフタウンに行って使えば気付いてくれるかも……しれない」
「そうさ」
「分かりました、やってみます。ありがとうございました」
「いいって。君みたいにわざわざ上まで来てくれる星守は珍しいんだ。僕も話せて嬉しかったからさ。2人に会えるといいね」
「は、はい〜」
「ありがとうございましたっ」
◇◇◇◇◇
「との事でした」
フロムエールを後にした私たちは情報収集をしてくれていたみんなと合流して得られた情報を共有していた。
ただ、残念ながら向こうは芳しい情報は得られなかったそう。時間も無かったし、しょうがない所かな。
「ふぅん、なるほどね。で、試したの?」
「うん、でも……この通り」
王都に戻ってからも星刻鳥の羽は先程と同じく光を放つ事は無かった。
「問題はどこにいるか、か」
「私行った事のあるライフタウン少ないから……」
「ワ、ワタシ、もです……」
ライフタウンへの転移はライフタウンのポータルポイントへ直接赴き、登録しなければいけない。
私が登録しているのはアラスタ周囲から王都、そこからフレスレイクまでのいくつかのライフタウンのみ。
ちなみにルルちゃんは更に少なくアラスタ・ケララ村・王都の3つのみなのだとか。
「いっそセバスチャンに羽を渡してライフタウン回ってもらう?」
「いえ、お2人の星刻鳥の羽はシークレットクエストの報酬です、他者への譲渡は出来ぬ筈」
「そうなるともう完全に運任せか……唸ってても時間が勿体無ぇ、転移して回って行こうぜ」
「うん。そうだね」
私たちはひとまずルルちゃんの行った事のあるライフタウンを回ろうとなった。
でもケララ村での反応は無し。早々にラストとなったアラスタへ一縷の望みと共に転移する。
その結果は――。
「ひ、光ったっ?! 光り、ましたあっ!」
「当たりか!」
転移を終えたその瞬間、ルルちゃんの羽が光を放った!
「アリッサのは――」
「だめ。アラスタにはいないみたい」
がっくりと肩を落としそうになるけど、ルルちゃんがケイちゃんとは会えるかもしれない。それは十分に喜ばしい事じゃない。
フッと息を吐いて気分を切り換える。
「どこにいるのかな……アラスタも結構広いから向こうから来てくれるまでに時間が掛かっちゃうかもしれないね」
「ふむ、そうですな……おや? ルルさん、少し落ち着いて頂けますか」
「ふ、ふわ?! す、すみませんっ?!」
ケイちゃんがどこから来るか気になりぐるぐると回っていたルルちゃんは、セバスチャンさんの指示に縮こまる。
「ああ、いえ……少々気になった事が。ルルさん、羽を左右に大きくゆっくりと振って頂けますか」
「は、はい……?」
戸惑いながら指示に従うと……。
「……光量が変わるな」
右側に振れば光はわずかに強く、左側に振れば光はわずかに弱くなるようだ。もしかして……?
「光が強い方にいるのかも!」
「標はあるようですな。皆さん、いっそこちらから出向いてみましょうか」
「そうね、ただ待つだけじゃ時間が勿体無いし」
否やは無く、みんなで走り出す……かと思いきや、そこは私とルルちゃんの体値低スペックコンビ、私はセレナに、ルルちゃんはセバスチャンさんに抱えられる事となった。
ハロウィンで人がいっぱいいると言うのにですよ!!
「どんな拷問かと!」
「小っちゃい事言わないの!」
などと喚き、「ひいひい」とルルちゃんの悲鳴にもならない悲鳴を聞きながら光が強くなる方向へと突き進む。
「ここら辺りか……?」
ある一点を過ぎると光が若干弱くなったような気がした。立ち止まり、辺りを見てみる。
そこはアラスタにはよくある入り組んだ路地。道である事以外に記号の無さそうな場所だった。
「周囲にそれらしい影は……となれば、」
『やぁ! ルルじゃないか!』
「ケイちゃん!」
やはり飛んでいたのか、ルルちゃんのお友達であるケイちゃんが頭上からすいすいと枝葉を避けて降りて来た。
2人は合流するや手を繋いで再会を喜び合う。
「うーわ、何か久し振りだわ」
「だなぁ」
セレナと天丼くんからすれば妖精さんを見たのは2ヶ月近く前のキャラクターメイキング以来となる、懐かしくも思うみたい。
「アリッサもう1回小さくなんないかしら」
「そっちですかっ!」
10日程前に、私は魔法使いから受けた状態汚染・人形化により妖精たちと同程度の大きさに縮んでしまった事があるのだ。色々いじられました。
『君たちはルルの友達かい?』
「ええ、わたくしはセバスチャンと申します。多少老いぼれておりますが、友人をさせて頂いておりますよ」
「セレナよ。こっちは天丼」
「おす」
『僕はケイ・クレイナ、ルルの友達だよ! いつもルルと仲良くしてくれてありがとう! ルルは引っ込み思案だからいつも僕は心配ばかりしているんだ』
「ケ、ケイちゃんっ、そ、そう、言うの、いい、からっ!」
真っ赤になりながらケイちゃんに掴み掛かるルルちゃんは、まるで同級生に話し掛けるお母さんを引き離そうとする娘のよう。
みんなが微笑ましく思いながらその光景を見守っていた。
「ケイちゃんと会えて良かったね」
「あ、う、は、はい」
「ルルちゃんはこれからどうするの?」
ティファが見つからない以上、私たちはこれから他のライフタウンに向かわないといけない。
ルルちゃんの行けるライフタウンはもう無いのでどの道ここでお別れとなる。
「えと、えと、お店で、売る、お洋服、作ら、なきゃ」
『僕にも行っていいかい? 前から見てみたかったから一緒に行きたいな』
「う、うん、もちろん、いいよ。あ、でも……仕入れ、王都、だから、戻らなきゃ」
そう言ってケイちゃんへと視線を移す。ポータルでの転移で一緒に行けるか分からないからだろう。
「《星属性法術》には転移を補助する法術があるから転移自体はどうにかなるけど……そもそもケイちゃんはどうやってアラスタまで来たの?」
現在までフロムエールの所在は判明していないと言う。そこからの移動手段があるならそれを用いれば王都へ行けるんじゃなかろうか。
『僕たち導きの妖精は君たち星守を迎える為に星の廻廊を通って地上の星の身許に入る事を許されているんだよ。普段はアラスタとフロムエールの往復だけだけど、年に何回かはどんな場所にも行けるんだ』
「その1つがこのハロウィンの期間であるのですな」
『そうだよ。だからルルが他の街に行くなら僕も一緒に行けるのさ』
「そ、そうなん、だあ」
ほっと息を吐くルルちゃん、どうやら私の出番は無くても平気そう。
「ならここからは別行動でも大丈夫って事ね。私たちも次に急ぎましょ」
「あ、そ、そっか、ティファ、さん、探さなきゃ、ですよね」
『ティファ? ティファがどうかしたのかい?』
「実は私たちティファを探している所なの。どこに行ったか知らない?」
そう聞くとケイちゃんは腕を組んで考え始めた。
『……ティファは君を尋ねると言っていたよ?』
「はい?」
ケイちゃんの話を聞くにティファは「まぁ、暇があれば会いに行くのもやぶさかではありませんね、ええ」などと言っていたのだとか。
「そっか……」
「どう言う事なのよ。アリッサの所に来るって言ってたって、アリッサの羽はこれまで一度も光ってないんでしょ?」
「うん、フロムエールでも王都でもケララ村でもアラスタでもそうなんだよね……」
それとも言葉の通り暇が出来なきゃ会えないのかなあ……?
「ふむ……そもそもティファさんはどうやってアリッサさんを見つけるつもりだったのでしょう?」
「家に遊びに行くとか?」
「確かに住んでいるライフタウンとかは教えたけど、ここだしね」
現在いるのはアラスタ、住んでいるのもアラスタ、けど反応は無かった。
「……もしかしたらひっきりなしに移動してるのが悪いんじゃないか? アリッサを探してるなら向こうと行き違いになってるとかさ」
「ふむ、一理ありますな」
なるほど、仮にティファが私を探しているとして。
考えてみれば今日こちらの存在を報せる星刻鳥の羽を実体化したのはフロムエールが最初、それまで長くいたアラスタや王都では転移直後にしか実体化していない。
もし、私がフロムエールに転移した時点でティファが王都にいたとして、私を追ってフロムエールに向かったのと入れ違いで私が王都に戻ってしまったなら反応も無いだろう。
希望的観測と言えばそれまでだけど。
「ではしばらくアラスタでクエストを探しますか。その間は常に星刻鳥の羽を実体化させておきましょう。ティファさんが訪れれば自然と光るやもしれません」
「ですね」
それ以外に情報らしい情報は無いのだし、オフィシャルイベントは今日終わる訳でもない。
すぐに会えないのは残念だけど、ケイちゃんのように会えた実例もあるのだから悲観するよりも期待する所と思おう。
◇◇◇◇◇
ルルちゃんたちをポータルまで送った後、再びユニオンへと向かい、いくつかのクエストをこなしてポイントを貯めていく。
その中で分かったのだけど、取り憑いた悪霊は《お菓子泥棒を捕まえて》でそうであったように知恵と工夫で争い事は回避出来るパターンが多いみたい。
だからこうしたパラメータ補正のほぼ無いコスプレ装備であっても対処が可能だったりする。
セバスチャンさん曰く「低レベルプレイヤーへの配慮」なのだとか。
「だ・か・ら・って! どーして掃除なんかしなくちゃいけないのよ!」
憎々しげにそう語るセレナは水で濡れた雑巾を破れないか心配なレベルで力の限りに絞っている。
「仕方無いじゃない。あのモップが自宅が汚いのが嫌だって言うんだから」
視線の先には、モップ部分まとめて足にして、柄の部分をぐねぐねと曲げて指図を出す、どこぞのアニメにでも出てきそうなモップがいた。
このクエスト《お掃除して!》は、文字通りお片付けが苦手な方のお部屋をお掃除しなければならない……今回は結構悪霊側に理があるような気がする。
「ゴミ出しはもう終わりかー?」
「うん、大体これで終わりー」
「これならば早々に終わりそうですな」
私が住人の方と不要な物を分別し、天丼くんがゴミ捨て場へ持って行き、セバスチャンさんが掃き掃除、セレナが拭き掃除を担当している。
今回も汚してしまうかもしれないので初期装備に着替えている私は住人の方ことバフロさんと話していた。
「悪いなぁ、こんな事手伝わせちゃって」
「いえいえ。困った時はお互いさまと言いますから……」
顔中を包帯でぐるぐる巻きバフロさんは中年の男性だった。
出不精な彼はゴミを溜め込んでしまい、ほっぽっていたモップに悪霊が宿って『片付けろ』と催促したのだと言う。
しかし、普段片付けなどしないバフロさんはまともにお掃除出来ず、モップにしこたま叩かれてしまい、たまらずユニオンに依頼を出したそうな。
お陰で顔は腫れ上がっていたので〈ヒール〉を使い、どうにか包帯でどうにか見られる程度まで回復したのだ。
「でも次が無いように片付けはきちんとしなきゃだめですよ?」
「お、おお……」
「頼り無い返事だなぁオイ」
さすがに《古式法術》にも片付けに関する物などは無く、それから30分程みんなでお掃除していく。
「お、ようやく終わりか」
そうしてお部屋が綺麗になるとモップから悪霊が出ていき霧散、ただのモップに戻りコテンと倒れた。
それによりウィンドウがポイントの加算を告げる。これでクエストのクリア条件を達成出来た。
「ありがとう、助かった」
「いえ、でも本当に良いんですか? こんなに色々なアイテムを貰ってしまって」
視線の先には小山となったアイテムがある。それらはゴミの中に紛れていたアイテムだ。売ればお金にもなるそうな。
バフロさんは報酬とは別に、手伝ってくれたお礼にそれらのアイテムを譲ってくれるのだと言う。
「構わん構わん、どうせ俺は使わんもん」
「OKOK、貰えるんなら貰うわよ。やっぱ無しとか言っても返さないからね」
「ホンットお前は……」
「いいって。好きなだけ持って行ってくれ、はっはっは」
若干包帯でこもった声で笑いながらそう語るバフロさんのご厚意に甘えてアイテムを受け取り、お部屋を後にした。
「で、どんなアイテムがあるのよ。使えそうなのはあった?」
その途端に興味津々とセレナが詰め寄ってくる。
「んー、内容としてはポーションとか素材アイテムが大半かな」
「えー、あんなゴミ溜めの中にあったポーションとか飲みたくなーい」
「気持ちは分かる」
どれも汚れていてラベルが読み取れない物まであったのだから。どれもさっさとウィンドウ越しに売ってしまいたいレベルだった……どこで、と聞かれたら迷うのだけども。
「とりあえず目が飛び出るような値打ち物は無いんだって」
「ええ、まあ。良くて二束三文と言った所でしょうか」
一応お掃除中にセバスチャンさんに確認してもらったのだけどそんな程度。
「じゃあクリア報酬以外ろくな儲けにもならないって話じゃないの」
「そりゃゴミの中から出てきたんだ。少しでも金になるならめっけもんだろ」
「そだね。まあ売るのは後にして、他のクエストに行っちゃおうか」
「そうしましょうか」
私たちはぶーぶーと唇を震わせるセレナを連れて次の目的地へと足を向け、晩ごはんの為にログアウトするまでクエストをこなし続ける予定。
「……」
そっと触れるのはポケットに入れている星刻鳥の羽。取り出してみても……未だ変化は無かった。
「まだダメ?」
「そうみたい」
無くさないように大切に、またポケットへと収める。
「早く会いたいなあ」
光る果実が照らす街並みを仰ぎながら、その時が早く来ますようにと祈る私だった。




