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第108話「遺せる何かはありますか?」




 クエスト《お菓子泥棒を捕まえて》もいよいよ佳境を迎えていた。

 ――チーン。

 その証、最後のクッキーが焼き上がる。みんなからは安堵の息が吐かれた。

 その緊張の大元となっていたオーブンは結局オーブンとしての本分を全うしている間は暴れずにいた。


(やっぱり使ってほしい、それだけが願いだったって言う事なのかな)


 しかし、みんなが動かないオーブンを見つめながらそう思い、空気が弛緩したのを縫うように状況が変化する!


「む?!」


 天板を取り出してわずか、オーブンから黒い靄がもくもくと出てきたのだ!

 それはやがて1つへと集束し、ひーちゃんを始めとした小精霊に近い姿へと変わる。


「モンスター?!」


 私たちは武器をしまったままだったので構えだけを取るものの、黒い小精霊はオーブンの上をくるくると回って……そして何をするでもなくパチンと弾けて消えてしまう。


「今のは……?」

「取り憑いていた悪霊なのでしょうが……もしや祓う事に成功した、と?」


 疑問は疑問のまま数瞬、答えを示すように私たちの前にウィンドウが自動で開く。



『【ハロウィン・スクリーム】

 [5]ポイントを獲得しました。

 現在の総獲得ポイントは[5]ポイントです』



 簡素なメッセージは現在開催中のハロウィンイベントに関する事。

 こうしてポイントを貯めていくとイベント終了時にポイントに応じた報酬を貰えるそうだ。

 ポイントが加算された以上、これで完全にオーブンは悪霊から解き放たれた事になる。良かったと胸を撫で下ろす。


「5ポイントって多いの? 少ないの?」

「それはまぁ……これからに期待じゃねぇかな」

「ショボいのね」

「あはは、がんばらなきゃね。……あれ?」


 ウィンドウを閉じようとするともう1つ、私とセバスチャンさんだけに新たにウィンドウが開く。



『【レシピ追加】

 レシピ『メリルリープのハピネスクッキー』がレシピリストに登録されました』



 それは《調理》の加護の機能の1つ、料理の作り方を覚えた事を伝えるメッセージだった。

 これで必要なレベルを満たしていれば材料から直接料理(クッキー)を作る事が可能となった。


「どしたのよ?」


 《調理》の加護を持たない2人は怪訝な顔になっていた。ウィンドウは基本的に他者からは見られない灰色の板(不可視状態)でしかないから説明しなければ分からない。


「クッキーのレシピが追加されたのですよ。料理を作り終えたのでこのタイミングだったのでしょう」

「ああそれで……《調理》の加護持ちは2人だけだもんな」


 今の所マーサさんから教わったものが少しある程度だったので久し振りのレシピ追加は素直に嬉しかった。

 もっとも今回大量にクッキーを作ってアイテムポシェットに入れられているから作るのはまだ先になりそうだけどね。


 そうして2つ目のウィンドウも閉じると、オーブンに変化が訪れる。


『キュ!』


 ポンッとオーブンの精霊器からひーちゃんが飛び出してきたのだ。ひーちゃんはまるでずぶ濡れた犬猫のようにぶるぶると体を震わせている。


「やっぱり悪霊に憑かれていた精霊器は嫌だったのかな? ごめんね、でもありがとうひーちゃん」

『キュイッキュッ!』

「うん、偉い偉い」


 えっへんと偉ぶり、私の胸に飛び込んできたひーちゃんを抱き締めて労を労う。


「じゃあ後はコイツを運ぶだけか。オイ、そっちを持ってくれ」

「チッ、めんどくさい」

「力仕事はパラメータ的に俺たちの区分だろ」

「そこは男の仕事にしなさいよ、まったくもう。私はか弱い乙女なのよ?」

「あーあー、そうだな。か弱いか弱い、ホラ早くしろー」

「むきー!」


 ぶつくさと言いながらも、セレナは天丼くんと一緒にオーブンを運んでいく。

 あのオーブンはもう今回のような事が起こらないように、教会で定期的に行われると言うバザーに出して使ってくれる人を探す事となった。

 見つかるまでは少し掛かるだろうけど、これで来年のハロウィンにはきっとお菓子泥棒は現れない筈。


(いい人に貰われるといいなあ)


 そうしてオーブンを運び終えた2人が戻ってきたタイミングでメリルリープさんが私たちに深々と頭を下げてきた。


『みなさん、今回は本当にありがとうございましたの』


 私たちはクエストを請けただけだから気にしないように言うけど、それでもと感謝される。

 悪い気は全然しないけど、やっぱりちょっとくすぐったい。照れを浮かべながら話題を逸らそうと試みる。


「メリルリープさんはこれからどうなさるんですか?」

『折角ですからハロウィンを楽しもうと思いますの』

「それは良いですな」


 それからシスター・ロサの手を取り、想いを込めるようにぎゅっと握り締める。


『もし、もしよろしければこれからも私のレシピを使ってもらえると嬉しいですの』

「私でいいのなら、もちろんです……宜しければこれからもいらしてください。必ずこのクッキーをお贈りしますわ」

『ありがとう……ありがとうございますの』


 何度もお礼を言いながら街の雑踏の中に消えていくメリルリープさんを見送って私はセバスチャンさんに質問する。


「……どうしてまた(、、)ポイントが加算されたんだと思いますか?」


 先程メリルリープさんが去る辺りで再びウィンドウが開き、ポイントの加算が告げられた。

 何故一括でないのか、このポイントが何を意味するのかをセバスチャンさんに問う。


「ふむ。もしや……彼女にも未練があったのやもしれませんな」

「それは……クッキーの作り方、ですか?」


 先程のレシピ追加に加えて、メリルリープさんとの会話の中で彼女がクッキーに思い入れがあるとそう感じた。セバスチャンさんも同様であったらしく頷いている。


「あくまで想像ですが。レシピさえ伝えられたならば彼女のお菓子はずっと誰かに届きます。子供たちに渡す事に喜びを感じていらした彼女ならば、それはとても幸せな事ではありませんかな」


 私たち同様にメリルリープさんを見送るシスター・ロサを見る。

 私たちのみならず彼女にもレシピは伝わった筈だ。断言は出来ないけど、彼女もずっとそのレシピを大事にしてくれると思う。

 私たち(PC)はそうそうレシピを教える事は無いけど、彼女はシスターだ。

 きっと他の人たちにも伝えてくれる、それならメリルリープさんのレシピはずっとずっと残る。


「その憂いが晴れたからポイントが……悪霊を祓うばかりがポイントを得る手段じゃないんですね」

「ええ、未練を抱えた魂の問題を解決しても得られる、良い事を教えて頂けましたな」

「はい。解決していけば……メリルリープさんや他の誰かも、もっとハロウィンを楽しめるようになりますよね」

「ええ、きっと」

「なら、もっとがんばれそうです」

「左様ですなぁ」


 もう背中も見えなくなったメリルリープさんの姿を追う。果たしてまた会えるのかは分からないけど、その時も笑顔でいてくれるといいと思いながら。


「これでようやく終わりね、面倒なクエストだったわー」

「ま、今更俺らに効率的云々言われても困るだろ、って話だわな」

「バカ言わないでよ、効率良くやらなきゃイベント報酬で大した物ゲット出来ないじゃないのよ」

「そうだね、じゃあそろそろ行かないと」


 私たちは現在《お菓子泥棒を捕まえて》と言うクエストを請けている。

 その犯人であるオーブンは無事悪霊から解放された、これでクエストの完了条件も満たせた筈だ。その報告と他のクエストを請ける為に一度ユニオンに戻らなきゃ。


「行かれるのですか?」


 片付けを終えたシスター・ロサがこちらへとやって来る。


「はい、そのつもりです」

「そうですか……みなさん、この度は大変お世話になりました」

「言ったでしょ、私たちに掛かればこのくらいはちょちょいのちょいよ」


 最初にシスター・ロサからクエストの詳細を聞いた時、自信満々にこの件の解決を豪語していたセレナは見事それが果たされたからか、いつにも増して胸を張っている。

 シスター・ロサもそんなセレナを尊敬の眼差しで見つめていて、それが更にセレナを喜ばせていて、これでは時間が掛かりそうだと私から話を進める事にした。


「私たちも楽しかったです。それにこちらこそこんなに遅くまで付き合わせてしまってすみません」

「そうですね、少し眠いです。この後休ませてもらいます」

「ではあまりお引き留めしてはいけませんな。皆さんそろそろ参りましょうか」


 全員が頷き、教会を後にする。


「みなさん、お元気で!」


 シスター・ロサは最後まで私たちを見送ってくれて、それを背に私たちは雑踏の中へと混じっていくのだった。



◇◇◇◇◇



 それからユニオンに舞い戻った私たちはクエストを新たにいくつか請ける事となった。

 今度はもうちょっと時間の掛からない物を、とセレナが強硬に主張したのでそれらしいクエストを選んでいく。

 もっともまだ装備が戻っていなくて難しいのが出来ないから、と言う意味も強いんだけどね。


「このモデル募集ってのはどう言う類いだったのよ」

「曰くカメラに悪霊が取り憑き、モデルを寄越せ、写真を撮らせろと騒いでいるそうでして」

「ほっほーうアリッサ向きな」

「何で!?」


 などだったり、


「とりあえず帰っていいですか」

「墓場とは言ったってそこまでビビるかね」

「あ、そこの木の影に!」

「きゃああああっ?!」

「セバスチャンがいるーう」

「まだ生きておりますよ〜……」


 などだったりしました。

 そして、何だか私ばかりげっそりと疲れながら、言われた時間となったので装備を受け取りに王都へと向かった時の事。


「え……あれ…………あれ?」

「どうしたのよ、急に立ち止まっちゃって。あ、もしかしてさっきの怒ってる? だから悪かったってば〜」

「あ、ううん、違うの。ちょっと今……」


 周囲をキョロキョロと探すのだけど……そこにはもう先程視界の端に映ったものは見当たらない。

 押し寄せる人波と、飾られた装飾が一瞬前を遠い彼方へと追いやってしまっていた。


「何か、気になる事でもありましたか?」

「いえ、見間違いかもしれないんですけど……」


 自身でもそれを見たのかどうかに自信が持てずにいた。けどそれはあまりに忘れがたかった。



「今、妖精さんを見た気がして」



 人よりずっと小さくて、羽根を羽ばたかせて空を舞う存在。それが視界の端にちらりと映った……ような。


「妖精ぃ?」


 そう言うとセレナが怪訝な顔になり、周囲を見回してる。


「妖精ってアレか? キャラクターメイキングの時に出てきた……」

「うん、そうだよ。導きの妖精……だと思う」


 私たちPCはこのゲームを始める時に導きの妖精と呼ばれる存在にサポートされながらキャラクターを作成する。

 私が見た事がある妖精さんは2人いるけど、どうにもその系統の存在だった。多分。


「でも、フロムエール以外にいるものなんでしょうか? 私、キャラクターメイキングとあそこ以外では初めて見たんですけど」

「ふむ。現実のハロウィンでは、この時期は世界の境界が曖昧となるのだそうです。そして幽世(かくりよ)の住人たちがこの世へと入り込むのだとか、それが悪霊であり怪物であり死者の霊であり、そして妖精であると」

「何か微妙に詳しいわね」

「いえ、昔アナクロなゲームで使えるかと色々と調べた事がありまして……こほん……で、ですな。このように悪霊やら死者の霊やらが跋扈しておるのです、ハロウィンイベント中に妖精がいたとしても不思議ではないのではありませんかな」

「じゃあ本当に……なら、会いたいな。会って……」


 一緒に遊べるだろうか?

 一緒に冒険出来るだろうか?

 それは想像しただけで心が踊った。


「折角です、少し調べてみませんか」

「出来るなら是非!」

「お二方はそれでも構いませんかな?」

「んー……ま、ハロウィン限定っぽいし、何かしらポイントに結び付くかも。OK、ちょっとくらいならいいわよ」

「俺も問題は無ぇよ」


 そうして妖精さん探しをしようとなった私たち。雑踏の中を歩きながら他愛の無い話に花が咲いていた。


「なぁ、アリッサはなんでそんなに妖精に拘るんだ?」


 天丼くんが妖精さん探しが決まって以降、終始上機嫌な私に問い掛けてきた。


「色々あったんだよ。すっごく色々。例えば……この髪とか」


 自身の金髪を撫でる。

 それはキラキラと周囲の灯りを反射する(アリッサ)の自慢の1つ。


「ティファ、キャラクターメイキングの時に私を担当してくれた子がね、すごく綺麗な金髪だったんだ。だから私もそれに憧れてエルフにしたの」

「ほう、それは初耳」

「じゃあ今のアリッサになったのもその子のお陰だったワケ?」

「うん、だから拘りもするよ」

「おお、そう言えばアリッサさんは導きの妖精のシークレットクエストもクリアしておいででしたな」

「はい、まあそっちはほんとに偶然だったんですけどね」

「「?」」


 2人は見当が付かないらしく、大雑把に説明していく。


「簡単に言うと、キャラクターメイキングの時に妖精さんと仲良くなって、何かしら約束をするの。それを果たすと手紙と……星刻鳥の羽、って言う妖精さんのライフタウンに転移出来るようになるアイテムを貰えるんだよ」

「へぇ、そんなのがあったのか。全然知らなかった」

「普通はゲームスタート前にそんな事があるなどとは思いませんからな。かく言うわたくしも手早くメイキングを済ませてしまったくちでして」


 聞く限り第1陣組のプレイヤーの大半がこのクエストに気付かなかったらしい。


「皆プレイを楽しみにしておりましたからな。早くメイキングを終えて遊びたがっておったのです」

 ああ、クラリスも私よりずいぶん早く終えてたっけ。遅いってぷりぷりしてたのを思い出す。


「そうしてクエストを開始した者は極少数。クエストクリアに時間が掛かる場合が多かったようで、判明した頃には皆相応にPCが育っておりました」

「このゲームだと新規でPCを作るなら現行のを消さなきゃいけないからな、時間が掛かった分消してまで確認するって選択肢は無かったか」

「ええ、こう言っては何ですが、クリア報酬自体も妖精の住まうライフタウンに行けるだけで、限定アイテムやクエストなどは無いと聞かされまして、やがて情報は埋もれていったのです」

「で、俺たち第2陣の頃には気にもされてなかった、と」

「左様で」

「よくもまぁそんなの見つけられたわね」


 感心したような、微妙に呆れたような顔を向けられてしまう。失敬な。


「だって……ティファ可愛かったし、お喋りくらいするよ。そしたら色々あって約束してて……」

「アリッサらしいと言うか」

「何と言うか」


 変な所で納得するなあ2人共。


「どのような約束をされたので?」


 その質問に1拍の間を置いて、私は空を見た。そこにはいくつもの星々が瞬いている。

 その内の1つが目に留まる。



「誰も見つけていない星を見つける事」



 そう約束した。殆ど行き当たりばったりで、その時は守れる保証もなかったけど。


「それって……?」


 みんなが黙り込む中、セレナが聞き返す。


「そう。それが、私が《古式法術》を取得する決め手になったの。本当はあの時躊躇ってたんだけど、その約束がよぎって。もしティファとの約束が無かったら私は今も独り身(ソロ)でちまちまと各地を徘徊していたかもしれない。だから、みんなと今こうしてるのもティファのお陰……そう思うんだ」


 不思議なもので、みんなとは取得以前から出会っていたけど、あの日あの時取得したからこそ今がある。

 《古式法術》を取得したら弱くなってへこんで、セレナが偶然連絡してきた。

 セレナが励まそうと外泊した事でセバスチャンさんが気にしてくれた。

 そしてセレナが天丼くんを連れてきた。


 本当に、私たちは不思議な縁で繋がっていると思う。


「……そりゃまた。何か私も会いたくなってきたかも。なら、善は急げよね」


 前を向いてギュッと私の手を掴んで、セレナが駆け出した。


「会えたらちゃんと紹介してよね!」

「――うん!」


 会えるといいな、会いたいな、そう思いながらみんなと走る、走る、走る――!



◇◇◇◇◇



 息を荒らげながら夜半さんやマルクスさんのお店に装備を受け取っていく。

 ついでにと妖精さんの情報に心当たりが無いか聞いてみたけど、芳しい答えは返ってこなかった。


「生憎と心当たりは……妖精を見掛けた記憶もありませんね」

「そう、ですか……ぜいぜい」

「どうしたのですか、やけに疲れているようですが」

「い、いえちょっと……駆け足で来たもので。しゅ、修復ありがとうございました」

「仕事ですからね」


 マルクスさんから七星杖を受け取り、マルクス武具店を後にする私たち。

 その後は更にセレナたちの装備を受け取りに行くつもりだったけど、私はみんなを引き留めた。


「私、ちょっとルルちゃんの所に行きたい」

「どうしたのよ急に」

「私とルルちゃんが出会ったのってフロムエール……妖精の里だったの。ルルちゃんが小さなお洋服を作ってたのはケイちゃんって言う妖精さんの為だったんだ。だからルルちゃんにもこの事教えてあげたいの」


 チャットでもいいとは思うけど、ルルちゃんの露店はそう遠くない。なら、直接会って伝えたかった。


「んー、OK。またバラけましょ。私と天丼は装備の受け取り、セバスチャンはアリッサに付いていって」

「かしこまりました」

「行くわよ」

「おう」


 そうして私たちは再び二手に別れた。雑踏の中を急ぐと程無く先程訪れた露店へと辿り着く。


「ルルちゃん?」

「はうっ?!」


 通りに背中を向けていたルルちゃんに話し掛けるとびくりと跳ねた。


「ごめんなさい、驚かせちゃったかな」

「い、いえ、大、大丈、夫……あ、あれ? ア、アリッサ、お姉さん?」


 つい数時間前に訪れたばかりだったからか首を傾げるルルちゃんは、やがて顔を青ざめさせ涙目になってしまう。


「ル、ルルちゃん?」

「も、もももももしか、して、どこか、不具合、がっ?! へっ、返品、ですかっ!?」


 ガーンとショックを受けて、寒くもないのに震え出すルルちゃん。

 心配そうに私の着ているルルちゃんお手製のお洋服を見ている。


「え、あ、ううん違うの。落ち着いて」


 勘違いして盛大に狼狽えるルルちゃんをどうどうと宥める。


「ちょっとルルちゃんに伝えておきたかった事が出来て……近くまで来ていたから直接ね。お洋服はなんの問題も無いから」

「そ、そそそ、そうです、か……ほっ……あの、それで、伝えて、おきたかった、事って、なん、ですか?」

「ああうん、実は――」


 私が偶然妖精さんらしい姿を見掛けた事、それを確かめる為に行動している事を話す。

 するとさっきまで縮こまっていたのにみるみると元気を取り戻し、今や満面の笑みを浮かべている。


「ワ、ワタシも! 一緒に、行きたい、です!」

「しかし、お店の方はよろしいのですか? お祭り時は稼ぎ時ですぞ」

「ああそうですよね……」


 街を歩く人は少なからずハロウィンを意識してコスプレをしている。

 けどあくまで少なからず(、、、、、)の段階、その他の人たちはまだまだ多い。その人たちにお洋服を買ってもらえればよい稼ぎにもなり、その稼ぎは次へ繋がるだろう。

 なら商売の邪魔になってしまわないかな……?


「あ、い、いえっ! 大丈夫、です。お店も……今さっき、粗方、片付き、ました、から」


 お店を見れば確かに、いくつもあったお洋服が綺麗に無くなっていた。


「ああ、売れ行き好調だったんだね」

「そ、その……アリッサ、お姉さん、の、お陰、だと思って……」

「私? って、もしかして……」


 思い至り、少し気まずく視線を逸らす。

 聞く所によると、私が去った後しばらくすると結構な数のPCがやって来たのだそうな。

 そして作り貯めておいたお洋服は次第に無くなり、丁度さっき私が声を掛けた辺りで粗方売り切っていて、わずかな残り分を出すかどうか考えていた所だったらしい。

 ワラケルさんがすぐさま手を回してくれた、と言う事なんだろう。


「リアルでもテレビや雑誌で取り上げられた服が売り上げを伸ばす事はままありますからな。アリッサさんがモデルならばそれはもう評判を呼ぶでしょう」

「い、言い過ぎですよ」


 ともあれ、ルルちゃんもお店を気にせずに同行出来るそうな。

 ただ明日お店に並べる商品を作る時間も必要なのでそう長くは付き合わせられないのだけど。


「じゃあ行こう!」

「は、はいっ!」

「ほっほ」


 そうして私たちは久方ぶりにルルちゃんをパーティーメンバーに加えたのでした。


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