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ウルスライアス清掃紀行  作者: 龍々山 ロボとみ
第一章:誕生、浄神の使徒
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8話:激烈、凶獣のベガ・1


 ライアスがタマヒコたちと出会うほんの少し前のこと。

 米所の村に、ひとりの退魔師とその弟子が訪れていた。


「それでは、その少年が妖魔だと言いたいのかしら?」


 退魔師は妙齢の女で、肩から胸元にかけて大きく露出した服を着ている。普段はくわえているタバコは、今は吸っていない。


「は、はい。おそらくそうではないかと。今まで何度もこの村に入ってきては、誰にも気付かれないうちに悪さをしていくんです。あれはきっと、天狗かなにかに違いありません」

「天狗が、そんなしょうもないことをするとは思えないのだけど。……まぁいいわ。妖魔がいるというのなら、見にいってみましょうか」

「おお、本当ですか!」


 退魔師と話をしていた村長は、安堵したように息を吐いた。

 最近村の外れに住み着いた悪童に、何度も村内の家々に忍び込まれて食べ物を持っていかれているのだ。

 被害自体はたいしたことではないのだが、何度もやられては住民たちも腹が立つし、何もしないでいるのも村長として外聞が悪い。


「もし確認して、単なる悪童であったのならば、その時は追い払ってくれるだけで構いませんので」


 本当に妖魔かどうかはさておくとして、こう言っておけば天狗ではなくても追い払ってくれるだろう。

 村長はそのように考えて、退魔師に確認を依頼した。


 村の者からすれば、悪さをする者さえいなくなってくれればなんでもいいのである。

 だから多少おおげさでも、本職の人間が動いてくれるような物言いをする。


 退魔師のほうも今までの経験上、実際は妖魔の仕業ではないことは何度もあったことなので、それも含めて依頼を受けた。


「ところでアナタ」

「な、なんでしょうか?」

「いくら出せるの?」

「へ? え、ええっと……」


 肩透かしでも別に構わないのだ。

 報酬さえ出るのなら。


「じゃあ、行きましょうか」

「はい、先生」


 村長が出せるだけのお金を提示させ、その半分を前払いさせた退魔師は、小さな弟子を引き連れて悪童が住み着いたという山の中に入っていった。



 そして、――そこにいた妖魔たちを、発見した。



『なっ…………!?』


 突如現れた乱入者に、ウルスラはとっさに言葉が出なかった。

 気付かなかったのだ。乱入者が声を発して、ミケに斬り付けるその直前まで。

 ライアスたちの話に意識が向いていたとはいえ、ライアスの周囲はぐるりと見ていたはずなのに。


 その理由を考えている暇もない。

 ムカつくほどに乳のデカい乱入者は猛然とタマヒコに迫り、右腕を振り上げた。


『ライアス!!』


 ウルスラが叫ぶのとほぼ同時にライアスが動き、タマヒコと乱入者の間に身体を差し込んだ。

 手にした箒を鉄棒のように両手で持ち、頭上に構えて受け止めようとする。


 乱入者の女は、構わず手刀を叩き付けた。


「――唐竹割(カラタケワリ)

「っ!?」


 箒で受けた瞬間、金属同士を激しく打ち合わせたような音がした。

 ライアスは勢いに押し負けて、ガツンと箒で額を打った。めちゃくちゃ痛い。が、そんなことを言っている場合ではない。


「こ、の……!」

「あらあらアナタ、まさか邪魔するつもりなの?」

「いきなりやってきて何なんだアンタは!」


 ライアスが女を蹴ろうとするが、ひらりと躱される。

 距離を取った女は、ライアスを見て不思議そうに呟く。


「ところでそれ、なかなか良いわね。ワタシの唐竹割で折れないならとても丈夫よ」

「そうかい!」

「それと、何なんだと聞かれたら、こう答えるわ」


 女は、両手を広げてニコリと微笑んだ。


「ワタシの名前はベガ。退魔師をしている者よ」

「退魔師……!」

「妖魔を始末するのがお仕事なの。わかったらそこ、退いてくれないかしら?」


 ベガの言葉に、ライアスは箒を構えることで答える。

 残念だわ、とベガは微笑んだまま呟いた。


「タマヒコ君、……タマヒコ君!」

「っ!」

「ミケさんを!」

「う、うん!」


 呆然としていたタマヒコが、切羽詰まったライアスの声に頷く。

 鎌鼬の妖術で斬られたミケに駆け寄ると、苦しそうに呼吸をしていた。

 まだ、生きている。


「抱えて走るんだ! 俺もあとで追い付く!」

「……! うん!」


 ミケを抱えて走っていくタマヒコを、ベガは困ったような顔で見送った。


「逃がしちゃうなんて、困ったことをするのね」

「……そんなに、困ってないくせに」

「そんなことないわよ? だってワタシ、弱いものイジメが趣味なんだけど」

「……はぁ?」

「逃げられたら、可愛がり(・・・・)たくなっちゃうもの。そんなことせず、スパッとやってあげたほうがあの子たちの為なのに」


 笑顔のまま、恐ろしいことを口にする。

 ライアスは、ベガから感じる凄味に怖じ気づかないよう、必死で箒を握り締めた。


『ライアス、ライアス! この女、とんでもないですわ!』


 ウルスラの声も切羽詰まっている。

 ライアスには、返事をする余裕もない。


『おそらく、妖術を使うためのものなのでしょう! 風の刃や、おそらく姿隠しなどを使っていましたし! けど、それにしたってこれは……!』


 ベガが、僅かに腰を落とした。


「最後の警告よ? 邪魔をしないで」

「残念だけど、……全力で邪魔をする」

『この女、今まで見たどの妖魔よりも大量の瘴気を身体の中に溜め込んでいますわ!!』


 次の瞬間、凶獣がライアスに迫った。

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