転入生です!
というわけで、転入生が来る当日になった。
お兄ちゃんと、理人君に潰されたって人は同じクラスらしいよ?
そういえば聖一先輩達――風紀の人達はバンジージャンプの事聞いちゃったからその転入生に優しくしようって思ってるらしいよ。
あと、新聞にばっちり、僕のお兄ちゃんが『金姫』だってばらしちゃったから、皆そわそわしてる。
会長さんが、「俺様の『金姫』を皆が見てるって何か嫌だ」だの不機嫌そうだったが、うん、とりあえず、お兄ちゃんが会長さんといちゃつくのかなーとか思うと見るのが凄く楽しみ。
「今日海の兄ちゃん来る日だな」
「うん」
朝から教室に向かう途中に遭遇して、今は快人と一緒に教室に向かっている途中だ。
飛鳥ももちろんいるよ?恋人繋ぎしてるんだー。
「ねぇねぇ、飛鳥ぁ、お昼は会長さんとかお兄ちゃんの所いこっかぁ。
ふふ、副会長さん達は仕事してなかった罰で生徒会室で仕事三昧だしぃー。副会長さん達がお兄ちゃんに会うの妨害しよかなー」
だって、僕まだ怒ってるもん。
お兄ちゃんは甘くて、偽物とかも赦しちゃったけどね。でも、僕は怒ってるんだもん。
「って、妨害すんのかよ!?」
「うん。だって本人がいったんだよ? お兄ちゃんに近づかないって」
教室にたどり着いて、ガラリと教室の扉を開ければ、
「海、小浜、おはよう」
そういって挨拶をしてくる偽物がいた。
今はすっかり偽物は変装を説いているのだが、うん、あれだな、お兄ちゃんの方が可愛い。
お兄ちゃんに怒られて大分丸くなった偽物だけど、まぁ簡単に今までの事チャラにはできないから皆に敬遠されてるけど。
つか、偽物……、快人もいるのに快人には挨拶なしなのは何でなんだ?
まぁ、どうでもいいけど。
「今日あいつ来るんだろ!! 俺、会いたい!!」
「お兄ちゃんにあってどうする気?」
「お礼言うんだ!」
それにしても、相変わらず声がでかい。
もう少し音量下げれないのかな?
「お兄ちゃんはあんたを許してるけど僕は許してないからね、空也」
にっこりと笑いかけておく。
「そ、そのごめんってば!!」
「ふふ、お兄ちゃんが怒らない分僕が怒るんだもんねー」
本当お兄ちゃんってば赦しちゃうっていうか、甘いんだから。
お兄ちゃんが怒んないからかわりに怒るもん。
「う、海ってブラコンなのか?」
僕の言葉に偽物は一瞬怯んだかのように顔を歪めて言った。
「そうだよ? お兄ちゃんの事は大好きだよ!」
「海…、空の事でも大好きとか言うな」
「ふふ、愛してるのは飛鳥だけだよー?」
「ああ、俺も」
「ふふ、嬉しい。飛鳥大好き」
飛鳥の言葉に何だか嬉しくなって、ぎゅっと抱きつく。
飛鳥とくっつくのは好き。飛鳥の体温を感じれるのが好き。
抱きついた僕の頭を、飛鳥は撫でてくれる。
「…は、はずかしく、ないのか?」
「全然! ねー、飛鳥」
「ああ」
偽物の言葉に、笑って飛鳥を見れば、飛鳥も頷く。
はずかしいとか普通に思わないよね。
僕、何処でも飛鳥とイチャついていたいし!
「で、でもアイツに会いたいんだ!!」
「えー、僕はいやだなぁ。お兄ちゃんと空也を出会わせるの。大体お兄ちゃんの振りをするなんて本当愚かな事した自覚ある?」
「うっ、それは、ごめんって…」
「大体お兄ちゃんは空也よりも断然優しいんだから。お兄ちゃんの事僕大好きだもん。
そんなお兄ちゃんに空也がなり替わろうなんて、ねぇ?」
「海、苛めるのはそのへんにしろよ…。てか、どんだけブラコンなんだよ!」
空也に向かって言葉を放っていれば、隣にいる快人がそういって僕の方を見た。
だって、僕ってお兄ちゃんみたいに優しくないから、口でいうぐらいいいと思わない?
お兄ちゃんが許さなかったら思いっきり潰している所だっていうのにさ。
「まぁ、お兄ちゃんが許してるから、この辺にしといてあげる。とりあえず、僕と飛鳥はお兄ちゃんに会いにいくけれど、会いたいなら勝手にお兄ちゃんの所行けば?
お兄ちゃんは優しいからきっと空也に話しかけてくれるよ。とはいっても会長さんと会計さんは僕と同じで君を許してないかもしれないけど」
会長さんも会計さんもお兄ちゃんの事大好きだからね。
会計さんは失恋しちゃったけど。会計さんいい性格してるから、僕結構気に入ってるんだけどねー。
冬みたいにペットになってくれたらきっと可愛いよねーと思う一途さだと思う。
「うっ、も、もちろん、あいつらにも謝る!」
「うん、そうしたらいいと思うよ?」
きっちり反省してもらわなきゃね。
*新井空side
学達の通う学園に転入することになった俺は、校門の前で迎えを待っていた。
迎えには学が直々に来るっていってたんだよな。
それに加えて、海が俺の事『金姫』だのバラしたらしい。
”会長さんと思いっきりいちゃついてねー”なんてニコニコとしていわれて、凄くはずかしかった。
「あ、あの…」
校門の前で待っていれば、声が聞こえた。小さな声。
振り向いた先に居るのは、背の高い、前髪を伸ばして眼鏡をかけた男だった。
そういえば、もう一人転入生が来るっていってたっけ。
……飛鳥の親友が潰した人間のはずだ。
「俺と同じ転入生なんだよな?
名前は…?」
「え、あ…私は、三谷直哉です…」
「そっか。俺は新井空。よろしく」
「は、はい…」
恐る恐るこちらの顔色をうかがってくる姿に、飛鳥の親友本当何をしたんだろうと思考を巡らせる。
飛鳥の親友――あの龍宮家の三男らしいそいつには俺はあった事がない。
でも飛鳥から聞いた話じゃ、目の前に居る三谷直哉は、元の学園で志紀みたいな感じなキャラで、それでいてなんかナルシスト成分が強かったらしい。
が、目の前の三谷直哉と聞いていた話は結びつかない。
飛鳥の親友は、性格が変わるほどの衝撃的な何かをやったのだろうか…。
「同じ年なんだよな? 直哉って呼んでいいか」
「は、はい…」
「俺の事は好きに呼んでくれたらいいから」
そういって、俺がにっこりと笑ったら、直哉は固まって、そして小さく言葉を口にする。
「……操に、似てる」
その言葉は聞こえなかったけれど、直哉がその瞬間口元を上げて笑ったからきっと何かいい事でも思い出したんだろうと思った。
「直哉は――」
そうして、しばらく会話を交わしていれば、
「空!!」
学の声がその場に響き渡った。
目の前に居る直哉は、学の声にびくっと体を震わせて、学の方に視線を向ける。
「ごめん、待ったか?」
「いや、全然。直哉と話してたし」
「ああ、こいつがもう一人のあの転入生か…。俺様は東宮学だ」
「……三谷直哉です」
何だか少しびくっとなって、そういう直哉。
ちなみに言うと、海と飛鳥が風紀室で『飛鳥の親友が直哉を潰しての転入』という事を話してたからこの学園の生徒はほとんどがその事実を知っているらしい。
それから学に理事長室まで連れていってもらう事になった。
理事長は俺の偽物の叔父らしいけど、飛鳥は弱味を握ってるらしい…。
本当にアイツ何やってんだか…。
廊下を歩いていれば、何だか周りが俺を見てざわついていた。
「『金姫』様だ…」
「綺麗です…」
「お似合い…」
海と飛鳥がバラしたってのは聞いてたけどさ、はずかしいんだけど。
というか、俺男なのに…、綺麗ってなぁ?
かっこいいって言われる方が男としては嬉しいけど、か、可愛いなんて学以外に言われたくないし…。
「てゆーか、あれがもう一人の転入生?」
「……ああ、例の?」
「小浜様の親友さんが潰したっていう?」
「うん、あんな外見だけど優しくしてあげなきゃね…」
直哉に向けられる目は割と温かい。
直哉は視線を向けられて、どこかびくびくしていた。
そんな直哉に安心させるように笑った。
「そんなにびくつかなくて大丈夫だぞ?」
「え、ええ…」
本当に、飛鳥の親友は何をしたんだか。
俺も海もあったことはないけれど、そもそも飛鳥の親友ってだけで数少ないし話は結構聞いている。
俺も飛鳥とは親友だけど、飛鳥にとって親友よりも家族よりも最優先させるのは海だ。
海以外どうでもいいと、飛鳥は思ってる。
そもそも他人とそこまで深い付き合いをしない人間であるし、友人と呼べる存在が飛鳥には少ない。
理事長室にたどり着いて、学がノックをして中へと入る。
理事長室の中にいたのは人のよさそうな男だった。
この人が理事長だろう。
何処か、俺を見てびくついてるのは何でだろうか…。
飛鳥関連な気がして仕方がない。
「ようこそ、黒隅学園へ。そして東宮君は案内御苦労」
そういって、理事長は俺と直哉を見る。
「では、さっそく学園の説明を始める。
とはいっても、新井君はあのこ、小浜君と知り合いのようだから知っているだろうし、そこの三谷君の学園もうちとそっくりだから説明はそんなにいらないだろう」
飛鳥の名前を呼ぶ時、滅茶苦茶びびってるし。
本当、アイツってこの学園で何してるんだか。
その後はまあ、軽く学園の説明を受けた。
びくびくしすぎな理事長の事は後で飛鳥か海に聞けばいいだろう。
「空っ」
理事長室をでれば、俺を待っていたらしい学が笑顔で出迎えた。
「学、待っててくれたのか?」
「ああ。
職員室に案内するからいこうぜ」
うなづく学になんだか笑みがこぼれた。
だって待っててくれたってそれだけで嬉しい。
「ああ。直哉と俺ってクラスどこ?」
「空もそいつもSクラスだ」
それにしてもSは勉強も運動も出来なければ入れないはずだ。
確か飛鳥の親友の手により、直哉は当主候補からは外されたはずだ。
それでもSクラスに入れるってことは直哉は優秀なのだろうと思った。
そのまま職員室に案内され、俺と直哉は教師と一緒に教室に向かった。
そういえば、志紀達も同じクラスのはずだから会えるのかな
そんな風にちょっと楽しみにいながらも学に聞いてみたら、
「あいつら今必死に仕事だから、しばらく教室には来ないと思うぞ」
と苦笑いでいわれた。
「あー…サボってたんだもんな」
「そう。あと新井がしばらく空に近づけさせないって言ってたし」
それを聞いて思わず苦笑してしまった。
海は俺よりもあいつらの事怒ってたし、有言実行するような人間だからなぁと思う。
でも海が俺のためにそういってくれてるのがわかるから少しは嬉しい。
会話をしながら教室にたどり着き、担任の入ってこいという声と共に俺と直哉は中に足を踏み入れた。
俺を見た瞬間騒ぎだしたクラスメイトにびっくりした。
「きゃああああ」
「可愛いー」
とか、マジやめてほしいよな。
可愛いとか言われても嬉しくない…。
俺男なのにっ。
背も低いし本当、飛鳥とかが羨ましい。
「えーと、知っていると思うけど新井空です。これからよろしく。
あと『金姫』だとかそういうの気にしないで普通に友達になってくれると嬉しい」
「み、三谷直哉です…。よ、よろしくお願いします」
俺が挨拶をすれば、直哉も挨拶をした。
びくびくとした様子の直哉に本当飛鳥の親友は直哉に何をしたんだか…と呆れてしまう。
その後はまぁ、俺も直哉も普通にクラスに受け入れられた。
直哉には飛鳥が潰した相手って事で皆優しくしていたし、俺に関して言えば『金姫』だという事で沢山話しかけてくれた。
やっぱり皆が仲良いっていうのは好きだ。
こういうわいわいとした雰囲気が好きなんだ、俺は。
…仲良くしすぎたように見えたのか、学が嫉妬したのには困ったけどな。
「他の奴とそんな仲良くするな」なんていって抱きしめられて恥ずかしかった。
何で海や飛鳥は恥ずかしがらずに人前でいちゃつけるんだろうか…。




