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体育祭にて 7

 「あれって―――」

 「あれ、会長様と会計様と手繋いでる…?」

 「え、もしかして―――」

 そんな声が周りから響く。

 僕はちらっと、お兄ちゃんたちの方を見る。

 ……何故か、お兄ちゃんと手を繋いでる会長さんと会計さんの方を見る。

 右側に会長さん、左側に会計さん。

 何で手を繋いでるかは謎だが、会計さんも会長さんも嬉しそうだし、まぁ、いいか。

 ちなみに僕と飛鳥は、夜に暴れてた頃の恰好してる。一応フードとかサングラスとかで顔隠れてるんだけど、まぁ、ばれてもいいしね。

 ただ、昔は面白がって隠してただけだし。

 目立つのも仕方ないよね。僕と飛鳥は手を繋いでるし、後ろにフユが嬉しそうについてきてるし、お兄ちゃんたちはあんな感じだし…。

 「ねぇ、黒。私たちや、『wild』のお姫様が此処に居るって噂流したのよね」

 「ああ」

 「だったら、いっぱい来るだろうね。喧嘩売りに来る人とかぁ。本当、楽しみ」

 ちなみに偽物は『wild』って暴走族で大変甘やかされているお姫様らしいよ?

 てゆうか、何でわざわざお兄ちゃんの振りしたのか、謎だよね。

 これだけ目立つ面子で歩いてるんだ。

 ―――僕らが、集まってる事自体、餌なんだ。

 「―――『黒帝』!!」

 「『RED』の学までいやがる!!」

 「『金姫』俺のモノになれ」

 なんかしばらく歩いていたら、色々な人間がわいてきた。

 つか、お兄ちゃん……、俺のモノになれとか言われてるけど、本当色々な面で好かれるよね、お兄ちゃんって。

 「フユ、黒」

 「はい、なんですか、銀さんっ!」

 「何?」

 「とりあえず、ぶちのめそう」

 僕がそう言えば、フユも飛鳥も笑ってくれる。

 そうして、僕らは動き出す。

 拳を振るう。

 蹴りをぶち込む。

 飛鳥の喧嘩は、お兄ちゃんのと違ってどちらかというと、獰猛的だ。

 お兄ちゃんの喧嘩は見るものに綺麗と思わせるけど、飛鳥の喧嘩は何処までも力強さを感じさせる。

 ―――結構色々集まってるな、と思う。

 まぁ、僕も飛鳥もお兄ちゃんも結構暴れてたから、不良界じゃ名が知られてるらしい。

 あんまり自覚ないけど。

 『wild』の面々が来たら、偽物はどんな態度をとるんだろう?

 拳を振るい、向かってくる相手を潰していきながら、ふと、そんな事を考えた。

 そうしている中で――――、偽物達が姿を現す。

 「――『金姫』?」

 「「………」」

 「何でそいつを『金姫』なんて言うんだよ!! 俺が『金姫』だ!!」

 上から副会長、双子、偽物の台詞だ。

 双子はどうしたんだろうね、無言で。

 まぁ、どうでもいいや。

 それにしても、偽物は何なんだろうね、本物の目の前で自分が本物だ、本物だって口にして、何がしたいんだろうって正直思ってしまう。

 お兄ちゃんが、偽物を前に、会長さんの手をぎゅっと握ったのが見える。

 ―――偽物を前に、『金姫』として姿を現して、色々思う事があるんだと思う。

 「……お前は、『wild』のお姫様だろ。『姫』って通り名の」

 お兄ちゃんは、呆れと怒りを含んだようなそんな声でいった。

 そう、『ゼロ』に調べてもらった結果それがわかったんだけどね。

 『wild』の『姫』ってのが、偽物の本当の称号なわけ。

 「何いってるんだ! 違う、俺が『金姫』だ、俺が!!」

 「…はぁ、ウザイんだけど。あんた。じゃあ、あんたが『金姫』である証拠はあるの? 私は『金姫』についてよく知ってる。だからあんたと本物が違う事がよくわかるんだけど」

 呆れて、僕がそう言えば、益々喚く、偽物。

 何だか、とても無様で、滑稽だと思う。

 「うわ、何あれ」

 「会長様が一緒に居るんだから、あっちが本物じゃないの?」

 「僕噂の『金姫』とあの毬藻が違うってうすうす思ってたしな」

 口々に周りの生徒達が口にする。

 「何でそんな――、俺が、俺が本物なのに。俺が――」

 「本物? 約束の事も覚えてない人間が、本物? 俺様にとって、大事な約束をした。

 そして、『金姫』は約束を忘れるような人間じゃない。

 それに、お前は――、『金姫』とは全然違うだろう?」

 「な、何でそんな――」

 「それにね、偽物君。ピアスも証拠の証なんだよ? 知らないでしょう? 『金姫』のピアスの意味」

 喚く偽物を冷たく見ながら、僕は口にする。

 偽物もピアスはつけてるけど、それは地味な奴だしね。

 お兄ちゃんは毎日つけるって笑ってたし。滅多なことじゃないと、仲間の証のピアスを外さない。

 「ピアスの意味がなんだって言うんだよ!!」

 「『金姫』の耳には、四つの色のピアスがあるの。

 金は、『金姫』自身。

 銀は、私。

 黒は、『黒帝』。

 赤は、『RED』」 

 ピアスの意味はきっとお兄ちゃんは『RED』の奴らにはいっていないだろうけどね。

 「―――それは、仲間だっていう、証。私と黒と金で決めた、仲間の証のピアス」

 お兄ちゃんが提案して、私たちの色のピアスを耳につけることになったのだ。

 お兄ちゃんは、そういうのが好きだから。

 「副会長も、書記のあなたたちも、『金姫』に仲間だっておもわれている癖に、何て愚かなの?」

 「ちょ、銀…!!」

 「金は、黙ってて。私は怒ってるの。この偽物にも、気付かない奴らにも」

 やっと、思いっきりこいつらにはっきりと怒りを示せるんだ、そうおもうだけでなんとなく気分が軽くなる。

 「何だよ、それ!! 俺が『金姫』なのに!! そんなデタラメばかり言うな!!

 なぁ。俺を信じてくれるよな、志紀、秋、幹!!」

 叫んで、そうして、期待したように副会長さん達を見る偽物。

 気付けばいいのに、副会長さん達の表情が笑っていない事に。

 「「「………」」」

 副会長さん達も書記さん達も何も答えなかった。

 「な、何で答えてくれないんだよ!!」

 そうやって、偽物が喚く中で、

 「『姫』!!」

 偽物の本当の通り名を呼ぶ声が響いた。

 それにしてもこんな毬藻を姫扱いって、『wild』って何なんだろうね?

 声のした方を見れば、不良さん達が居る。

 もちろん、そいつらは、『wild』のメンバー。

 偽物を愛してやまなかった、そんな集団。

 「なっ、お前ら何で此処に――」

 焦ったような、偽物の声が響く。

 「…何でって、お前が勝手に消えるからだろ!」

 「『ゼロ』から連絡が入ったんだ」

 「何で、『金姫』なんて――。お前は俺たちの…」

 「なっ、違う違う!! 俺は『金姫』なんだ。俺が『金姫』なの!!」

 …うわ、仲間だと思ってた人間の前で仲間である事を拒絶しちゃったよ。

 本当に何でそこまでしてお兄ちゃんになりたいんだろう?

 よく、わからない。

 『wild』のメンバーは『姫』を大切にしているというのに、その思いを偽物は今裏切った。

 『wild』の面々も信じられないと言った表情で偽物を見ている。

 ――そして、その表情に裏切りの傷つきと、ショックと、悲しみと、怒りがある。

 偽物はどうして、自分を大切にしてくれる人がこんなに居るのに、お兄ちゃんの振りなんてしたんだろう?

 「本当、最低だな。お前」

 「な、何で学、最低何て言うんだ!!」

 学――、そう会長さんを呼ぶ声に理解する。

 ああ、この子、会長さんが好きなのかと。

 好きだからお兄ちゃんとして近づいたのかもしれない。

 会長さんが、お兄ちゃんを、『金姫』を探してるって知ってたから。

 「違う。お前は『金姫』じゃない」

 「な、そいつを信じるのかよ!」

 「……俺の知ってる『金姫』は、裏切るなんて行為しない」

 「何いってんだよ!! 俺は裏切ってなんかない! 俺は『金姫』だ。だから、学達と一緒に――」

 「俺の名前を呼ぶな」

 「な、何でそんな―――」

 泣きそうなほどに歪む、偽物の顔。

 それに対し、僕はいい気味だっておもう。

 だって、大事なお兄ちゃんのふりをして、お兄ちゃんを悲しませたのが偽物だから。

 それなのに――、

 「ねぇ、何でお前は、俺のふりをしたの?」

 お兄ちゃんは喚く偽物にさえも、優しい。

 泣きそうに喚く偽物に、怒りはきっと、お兄ちゃんの中にも存在してる。

 でも、お兄ちゃんは偽物を不幸にしようとかそう言う事、考えてはいない。

 「何だよ! お前じゃない。俺が『金姫』! 俺が――、何で」

 涙を流して、喚く偽物。

 その姿は何処までも、滑稽。

 周りの生徒達も、冷たい瞳で、偽物を見てる。

 『wild』の連中だって、冷めたように、偽物を見てる。

 「どうして、俺になりたかったの?

 君は俺が『金姫』だって信じないみたいだけど、俺は確かに『金姫』だよ。

 学達と一緒に過ごした日々だって、鮮明に思いだせる。過ごした期間は短いかもしれないけど、俺は、ちゃんとこいつらの中身も、好きなものも、嫌いなものも、そういう事もちゃんと覚えてる」

 そういって、真っすぐお兄ちゃんは偽物を見る。

 「……何で、何で!! お前なんて、こいつらの事捨てた癖に!! だったら、いいじゃんか! 俺が手に入れても!!」

 そうして、偽物の化けの皮ははがれてく。

 「い、今まであった奴らは俺の事皆愛してくれたのに! 『RED』の奴らは愛してくれなかった! 俺は、愛される存在だっていってたのに! 俺は、学の事好きなのに!! 全然見てくれないんだ!

 だから、捨てたならいいじゃん、俺にくれたって!!」

 手に入らないものを、欲しがった子供。

 それが、きっと偽物何だと思う。

 今まで手に入ったのに、全て手に入ったのに、どうして手に入らないんだろうって、そう嘆いて、そして、行動に出た子供――。

 「は? 俺様はてめぇなんて好きじゃねぇし」

 「…学、ちょっと黙ってて。俺がこの子と話すから」

 ばっさりと偽物の告白を断ろうとした会長さんをお兄ちゃんは止めて、そうして、偽物へと近づく。

 そして――、

 「何で何で! 俺の事皆優しいって、俺の言う事正しいっていってたのに、何で――」

 パンッ、と喚く偽物にビンタをくらわした。

 そして、驚いたように、固まる周りと偽物。

 「な、何だよ! 俺が悪いって言うのかよ!」

 「俺は、白や黒達に、君がどうやって学園で過ごしてたか、聞いたよ」

 そういって、真っすぐにお兄ちゃんは偽物を見る。

 「愛されるのが当たり前って、そうおもってるのは君だけの責任じゃないとは思う。

 周りが甘やかしたからこそ、きっと君の性格が出来た。

 でも、自分は愛されるのが当たり前、自分は正しいってそうやって押しつけるなら君は敵を作るだけだよ

 そんなに周りに愛されたいっていうなら、他人の気持ちを考えて行動しなきゃ、誰も好いてなんかくれないよ」

 聞きわけのない子供に言い聞かせるように、お兄ちゃんが言う。

 偽物でさえ、見捨てる気のないお兄ちゃんに相変わらずだなと息が漏れる。

 「君の我儘や自己主張は、君を愛してる人には通じるかもしれない。でも、はじめて会った人にそれは通じないよ。

 初対面でいきなり色々な事を強制してくるような人間を君は好きになる?

 君が他にしたい事があるのに、無理やり他の事をさせようとしたり、あったばかりの人に最低だって決めつけられたり、そんな事されて、誰が好きになるの?」

 お兄ちゃんは、本当にやさしすぎる。

 「この学園に居る親衛隊を最低だって言い張ってるんだよね?

 まぁ、それは志紀達がそういったからも理由らしいけど、一方的な意見を主張し続けちゃだめだよ」

 「だ、だって、志紀達が――」

 「一人の意見を一方的に信じて、他の人の意見を聞かない。そんな事やってちゃ駄目だよ?

 物事ってのは、一つの方面から見たら最低でも、他の方面からみたらそれは最低じゃないかもしれない」

 本当、お兄ちゃんは優しい。

 僕だったら偽物にこんな風に言わずに偽物をさっさと学園から追い出したと思う。

 本当、こんなお兄ちゃんだからきっと人が集まるんだ。

 「例えばだよ? ひとつのチームが、あるチームに潰されたとしよう。それで、潰された側は仲間を傷つけられたって事もあって、潰したチームから見たら悪だろう?」

 「そんなの当たり前だ、最低だ!!」

 「うん。でも、潰したチームの主張はこうだ。『向こうが先に自分のチームの人間に重症を負わせた』って。

 やられたからやり返したっていう、それだけの事。重傷者は未だに目が覚めないとか、そういう状況なら、君はどっちが悪いと思う?」

 「両方最低だ!!」

 「でしょ? だからさ、親衛隊の子達側にも主張があるわけだよ。

 君は、学が好きなんだよね? なら、ずっと何年も大好きで、そばに行きたいのにいけなくて、それなのにぱっとでの人間が学の特別になったら嫉妬するだろう?」

 優しい優しいお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんが僕は大好きだ。

 「親衛隊の子は嫉妬してただけだよ。ぱっとでの君が志紀達の特別だった事に。

 それに君は、親衛隊の言葉を一切聞かなかったんだろ?

 相手の意見を聞かなきゃ、仲良くできるものも仲良くできない。それはわかるよな?」

 「……」

 「沈黙は肯定ととるよ。君は親衛隊の子にも謝らなきゃだし、それにさ、学の事好きだっていうなら嫌がる学を追い回すなんて真似しちゃだめだよ」

 「……」

 「君は、『wild』の『姫』なんだろう? 学が好きだからとかそういう理由で俺を名乗って、仲間じゃないと否定したのかもしれないけど。

 『wild』の奴らは君を仲間だっておもってたはずだよ。

 それを見捨てるなんてしちゃいけない。大切にしてくれてる人にそんな態度してたんじゃ、好かれなんてしないよ?」

 お兄ちゃんも偽物も人に好きになってもらいたいとか思ってるのは一緒。

 だけど、やり方が全然違う。

 「自分のやった事やいった事、少しでも悪いと思うのなら、謝って。

 『wild』の連中にも、騙した志紀達にも、あとこの学園の親衛隊とか迷惑かけた子達にもね」

 黙り込んだままの偽物。

 俺は悪くない、とは思ってないみたいだけど、謝りたくないのだろうか。

 此処で素直に謝っちまえばまた違うのに。本当ウザイなんて思う。

 お兄ちゃんは悪いと思ったら結構素直に謝るんだけどなぁ。

 「…謝れもしない? 謝らなきゃ始まらないよ。

 学の事好きなら、謝るぐらいしなよ。そうしないと学に好きになってももらえないよ?」

 そういって、お兄ちゃんは偽物を真っすぐ見つめたまま告げる。

 「でも、学の事はやれないから、ごめんな」

 え、お兄ちゃん、それって…。

 何て思ってたらお兄ちゃんは一旦会長さん達の方を向いていった。

 「……次会ったら、全員に返事するっていっただろ?」

 生徒会のメンバーを一人一人見つめていう。

 「俺は、学が好きだ。だから、春哉、秋、幹、志紀ごめん」

 ああ、お兄ちゃん。間違った副会長さん達にまで頭下げなくていいのに!って僕思っちゃうよ。

 「…学、二年も待たせてごめん。

 二年も待たせたけど、まだ俺の事思ってくれてるなら、俺と付き合って」

 そういって、笑ったお兄ちゃん。

 ああ、それにしてもこんな大勢の前で告白って、お兄ちゃん絶対勢いでいってるから後からはずかしがるんだろうなぁ。

 ちらりと会長さんの方を見れば、……会長さんの顔は真っ赤だった。

 それはもう赤かった。

 そんな顔を片手で覆っている、会長さん。

 ……はずかしいんだろうね。あとついでに嬉しいんだろう。信じられないのかもしれない。

 お兄ちゃんを間違えた副会長さん達はともかく、会長さんと会計さんはずっとお兄ちゃんが好きだったわけだしね。

 会計さんの方を見れば、悲しそうだけど、それでも笑ってた。

 「……何だよ! 学達の事、2年も放っておいたのに! 何で」

 そして、偽物。黙ろうか、って気分になった。

 「確かに、逃げたのは俺が悪いよ? だけど…、俺と学達のの関係とか、そういうの知らないのに、そういう事言わないでほしいかな。

 それよりも、周りに謝る気ある? あるなら、謝って。それでチャラにしてもらってさ。俺のふりじゃなくて、本当の君自身として、此処で生きていけばいい。

 誰かのふりをするよりも、自分自身を好きになってもらった方が気持ちよいだろ? だから、きっぱり、謝って。それから、迷惑かけた人に償って、君自身を好きになってもらえる努力をすればいい」

 お兄ちゃんのふりをした偽物。

 お兄ちゃんが一番怒ってていいのに、お兄ちゃんは偽物を追い出す気さえないらしい。

 本当、お兄ちゃんらしいっていうか…。

 「………ごめん、なさい」

 そして、偽物を謝らせる事が出来るのもお兄ちゃんだからだよね、きっと。

 「うん、それでいい。

 周りの奴らも、これで、許してやれとは言わないけど、反省してるみたいだから、苛めとかんな事やるなよ?

 あ、『wild』の連中もこいつ甘やかしたのはお前ら何だからちゃんと、こいつに悪いと思った事は言ってやれよ?」

 お兄ちゃんが、そういって笑う。

 会長さんはまだ赤いまま固まってるし、会計さんは相変わらずだなって目でお兄ちゃんを見てる。

 副会長さんと双子達は、お兄ちゃんを見て、キラキラした目を浮かべてる。

 間違えた癖に、本当苛々する。

 お兄ちゃんの言葉に周りが頷いて、それにお兄ちゃんは満足そうに笑った。

 そんなお兄ちゃんに僕は近づいて言う。

 「ね、金。さらっと人前で告白した感想は?」

 「……あ」

 やっぱり、あんまり気にしてなかったらしい。

 みるみる一気にさっきの告白を思いだしてか、お兄ちゃんの顔が赤くなる。

 ――そしてお兄ちゃんは、はずかしそうに全速力で駆けだした。

 「あ、逃げた」

 「……あいつ、二人きりの時言えば良かったのにな」

 「だよね、黒。

 あ、生徒会長。金の事追いかけなよ。それで、二人で話してきなよ」

 僕がそういって笑えば、会長さんははっとなったように我に返って、お兄ちゃんを追いかけ始めた。

 ――会長さんが、お兄ちゃんを幸せにしてくれればいいなぁって僕はそんな事を思った。

 「あ、あの、『白銀』、『黒帝』」

 そういって、話しかけてきたのは、副会長さん達だ。

 偽物は『wild』の面々に囲まれているし、多分大丈夫だろう。

 そうおもった僕は彼らに言う。

 「ついてきて、お話をするから。あ、会計さんもきてね」

 ――ちゃんと、副会長さん達にはしばらく近づいちゃだめって言っておかなきゃ。

 自分たちが言った事ぐらい、守ってもらわなきゃね?

 そうおもって、僕は笑った。


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