097.のんびりつかろう岩風呂に
さてさて。
「岩風呂ー」
「いわのおふろですー!」
「なるほど。岩でしたら、山の中ですからいくらでもありますものねえ」
「自然な感じがして、悪くはないな」
風呂である。温泉である。多分鉱石掘り抜いたあとの洞窟をそのまま風呂に仕立てた感じの、めっちゃ岩風呂である。
ある意味ドンガタの村に旅行客が多い理由の一つでもある温泉、そこに俺たちはやってきていた。あ、もちろんカーライルとアムレクは男湯だからな。
まあ、温泉とはいえ教会付属宿舎用の風呂なので、夕方前のこの時間帯だとお客人はあんまりいないとか。つか、どうやら貸し切り状態だぞこれは。
「源泉はもう少し上だそうですよ。熱いので冷まして、近くの川の水と混ぜているそうですわ」
「なるほど」
ファルンの説明に、かけ湯が少しぬるいかなと思った理由が分かってほっとしている。人を選ばない大風呂だから、ぬるめの方が入りやすいってことだな。
「教会以外にも露天風呂などあるそうですから、明日からは他の風呂にも行ってみましょう」
「そうしましょう、コータちゃま」
「露天風呂かあ。いいなあ」
「外で水浴びではなく湯浴みか。ふむ」
ナイス温泉地。シーラの剣ができるまで、しばらくのんびりさせてもらおう。
……しかし、邪神とその配下&下僕御一行様なのにまあ、のんきな旅である。バレてないからだけど。
バレるまでは、このままで行くつもりだけどな。
俺とシーラは、広々とした湯船の中でのんびりと手足伸ばしている。シーラは翼もだな。
ファルンは髪を洗っていて、桶でざばんと上からかぶって石鹸を流した。
わしわしと石鹸を泡立てて、ミンミカはそれこそ全身泡だらけになってご満悦である。顔だけは出てるけど。
「みみのうらまで、きれいにあらえますー」
「あー。垂れ耳だと、汚れ溜まるんですかね」
「うまれたときからたれてたので、たれてないみみのことはわからないです」
「そりゃそうだ」
そうか、耳の裏か。普通の猫とかでも耳の中拭いてやったりするっていうから、ロップイヤーは大変なんじゃないかな。
本人は生まれつきだから、さほど気にしてないらしいけれど。
……岩壁の向こうにいるアムレクも、そんな感じなのかね。
と。
「失礼します」
シーラが立ち上がって、いくつかある桶のひとつを手にとった。ちなみに日本に普通にあるような木の桶。底に焼印で『ドンガタ桶の会』とか入ってるから、これも村で作ってるらしい。
で、シーラはそれを振りかぶって、投げた。岩壁の向こうに……おい、古典的な銭湯みたく、上つながってたのかよ気づかなかったぞ。
「おごわっ!」
こんっ、という硬質の音に重なって誰か……じゃねえや、あれはアムレクの声だ。それがして、直後にざばーんと着水音が続く。
……大変古典的なアレをやったのか、アムレク。俺が男のままこっちに来てたら、確実にやっていたであろうアレを。
「……おにーちゃん、のぞきです……」
「何やってらっしゃるのかしら……」
ミンミカとファルンが呆れ声を上げる。つかアムレク、妹も一緒に覗くつもりだったのか、お前は。
そっちに一緒にいるはずのカーライルはどうしたんだ、と考える間もなく本人の声が壁越しに飛んできた。
「コータちゃん、皆さん、失礼いたしました! アムレクはこちらで叱っておきますので!」
「おねがいしまーす」
「お任せください!」
俺が答えると、カーライルの声が張り切った調子になる。そのまま「さあ上がるぞアムレク!」「うわあああごめんなさいいいいい」と大変古典的なやり取りが遠ざかっていくのまで丸聞こえだった。
しばらくすると、お湯が上から流れてくる音だけになった。結構うるさい水音なので、普通に会話するレベルならこれに紛れて、壁越しには聞こえないんじゃないんだろうか。
全く……いっぺんやってみたかったな、女湯覗き。今じゃロリっ子ボディだから、正面から入っても誰にも文句言われないし。
これはこれで良いんだけどね。
「……シーラお姉ちゃん、背中流しっこしませんか」
「は、はい、ぜひ!」
何しろこんなことまでできるんだから、さ。




